●3製品を一気に発表したATI
「ATIが明確な勝者だ!」 ATI Technologiesは次世代ハイエンドGPU「RADEON 9800(R350)」シリーズの発表は、自信満々の勝利宣言とともに始まった。今回、ATIは、米サンノゼで3月4日から開催されている「GDC(Game Developers Conference)」に合わせ、サンノゼ市内でイベント「TKO Party」を開催。RADEON 9800とメインストリーム向けの「RADEON 9600(RV350)シリーズ」「RADEON 9200(RV280)シリーズ」の3製品系列を一気に発表した。 「RADEON 9800系がRADEON 9700系の後継でGeForce FX 5800系の対抗馬となりベリーハイエンド向け。RADEON 9600はメインストリーム向け、RADEON 9200は高い性能をクレージーな価格で提供する」と、発表を行なったATI TechnologiesのRick Bergman氏(リック・バーグマン氏、Senior Vice President of Marketing & General Manager, Desktop)は説明する。アーキテクチャ世代としては、RADEON 9800/9600系がDirectX 9サポートで、RADEON 9200がDirectX 8.1サポートとなっている。RADEON 9200はすぐに出荷開始で、RADEON 9800が今月後半、RADEON 9600が来月出荷の予定だ。 倉庫を改造した金網デスマッチ風の会場で行なわれた今回のイベントは、赤(ATIのコーポレートカラー)い胴着を着た武闘家(RADEONくん)が、緑のスモークをバックにした4人の暴漢をノックアウトするという派手な演出でスタート。パーティ名の通り、NVIDIAを“テクニカルノックアウト(TKO)”する意気込みを見せつけた。もちろん、この自信には裏付けがある。それは、RADEON 9800 Proが、RADEON 9700 Pro(R300)を上回る性能と、拡張されたプログラム性を持つからだ。
●物理設計の最適化で性能を向上
RADEON 9800ファミリは、RADEON 9700の改良&高速化版。8ピクセルパイプ、256bit DDRメモリインターフェイス、フルDirectX 9サポート、AGP 8X対応とベーシックアーキテクチャはRADEON 9700と変わらないが、パフォーマンスは高クロック化により向上している。ATIの公開したパフォーマンス比較(3DMark03、UT2003 Antalus、Serious Sam 2)は下の図の通り。3DMark03(1,024x768)でもGeForce FX 5800 Ultra(NV30)にRADEON 9800 Proが50%近い差をつけると主張した。RADEON 9700との比較でも、RADEON 9800が10~20%程度上回る数字をATIは示している。 ATIは正式な製品のリリース前であることを理由に、RADEON 9800シリーズのコアやメモリの周波数などは公にしていない。詳細スペックは、製品リリースまでに明らかにされる見込みだ。 しかし、OEMベンダーが発表会場で配布していたカタログには、すでにRADEON 9800 Proのスペックとしてコア380MHz、メモリ340(680)MHzと記載されている。周波数はATIのスペック表からも逆算できる。スペック表では3+ GigaPixel/secのフィルレートとなっているため、最低でも380MHz(8パイプで3.04GigaPixel/sec)であることがわかる。 GeForce FX 5800 Ultraの500MHzに及ばないのは、新しい0.13μmプロセス技術で製造されるGeForce FX 5800 Ultraと異なり、RADEON 9800が従来の0.15μmプロセス技術で製造されているためだ。同じ0.15μmプロセスでありながら周波数が上がったのは、チップの物理設計の改良による。「RADEON 9700は第1世代だったので物理設計は余裕があり最適化されていなかった。そこで、第2世代のRADEON 9800では物理設計を最適化し、性能の向上を図った」とATIのDavid E. Orton(デビッド・E・オートン)社長兼COOは語る。
●内部アーキテクチャもマイナーチェンジ
また、性能が向上しただけでなく、RADEON 9800はアーキテクチャもRADEON 9700から拡張されている。特に、GPU内部のプログラマブルな演算ユニットであるProgramable Shaderのプログラム性が高められており、プログラム性の拡張に力を入れたNVIDIAのGeForce FXとの差を縮めた格好だ。もっとも、RADEON 9700より大幅にShaderユニットを拡張して機能を強化したわけではなく、どちらかというとマイナーチェンジに近い改良のようだ。 「RADEON 9800のトランジスタ規模はRADEON 9700とほぼ変わらない。ちょっと多いだけだ。基本的にはほぼ同じで、RADEON 9800は新たにサポートする命令を増やすなどアーキテクチャに多少の拡張を加え、メモリ回りの効率を高めるといった改良を行なった製品だ。イメージとしてはRADEON 9700で100%のものを作ったが、それにさらに10%を載せて110%のものを作ったようなものだ」とOrton氏は説明する。 ATIでは、Programable Shaderを「SMARTSHADER」と呼んでいるが、これがRADEON 9700の2.0から、RADEON 9800では2.1に拡張された。 まず、ジオメトリ処理を担当するVertex Shaderでは、サポートする最大命令数がRADEON 9700の1,024命令から、65,280命令に拡張されている。これは、実際には分岐やサブルーチンで実現している。ほぼ、GeForce FXと同等だが、インプリメントの手法は異なると思われる。この改良で、より複雑なシェーダプログラムをジオメトリ処理で実行できるようになる。 ●Programable Shaderの機能を拡張
ピクセル処理を担当するPixel Shaderも同様だ。RADEON 9700ではテクスチャ命令が最大32命令、カラー命令が最大64命令だったが、RADEON 9800では「業界で初めて無制限の命令数をサポートする」(Bergman氏)という。テクスチャとカラーそれぞれの命令が最大1,024命令に拡張されているGeForce FXに対抗する。 この最大命令数の拡張はPixel Shaderのための新しい専用バッファ「F Buffer」を使うことで実現する。F Bufferは正式にはfragment-stream bufferと呼ばれる手法で、Pixel Shaderの処理途中のデータやステイタスなどをバッファに保持する。この手法により、Shaderをマルチパスで複数回すことで、サポートできるシェーダプログラムの命令数を増やすものと想像される。つまり、RADEON 9700アーキテクチャから最小限の変更で、Pixel Shaderのサポート最大命令数を拡張したわけだ。発表会では、ハイエンドのオフラインCG製作用のCGツールの定番「MAYA」から長大なシェーダプログラムをRADEON 9800にポート。実行できるところをデモした。
また、ATIはRADEON 9800が128bit浮動小数点カラー精度をサポートすると発表している。ただし、これが実際に内部精度を従来の96bitからGeForce FX並みの128bitに高めたのか、従来通り128bitサポートだが内部精度は96bitのままなのかは、まだわからない。ただし、RADEON 9800の総トランジスタ数がRADEON 9700とそれほど変わらないことからすると、トランジスタを食う浮動小数点演算ユニットのデータ精度の拡張を行なったとは考えにくい。内部128bitに拡張したとすると、実際に演算ユニットを拡張したのではなく、別なアプローチを取った可能性が高い。 この他、アンチエイリアシング機能の「SMOOTHVISION」もSMOOTHVISION 2.1に、Zバッファリングの「HyperZ III」もHyperZ III+へと拡張された。 ATIは、3月中にRADEON 9800 Pro 128MB(128MBのDDRメモリ搭載版)を投入する。さらにメモリを256MBに増やしたRADEON 9800 Pro 256MBも投入する。Bergman氏は出荷準備が整っていることを説明するために、ATIの工場内でRADEON 9800が出荷体制に入っていくところをビデオで紹介した。 ちなみに、ATIは2スロットを消費するGeForce FX 5800 Ultraのような排熱システムは採用しなかった。「静かで1スロットしか消費しないソリューション」(Bergman氏)を提供するという。このほか、Bergman氏はRADEON 9700/9500ファミリが、すでに100万個の出荷を達成したことを報告。DirectX 9世代GPUレースでは、実績でもNVIDIAに差をつけたことを強調した。
(2003年3月6日) [Reported by 後藤 弘茂]
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