●PCI Express x16がAGP 8Xの後継に
Intelは2004年のチップセットから、チップセットに新しいシリアルバス「PCI Express」を導入する。PCI-SIGのTony Pierce氏(Chairman of the Board)によると、最初にPCI Expressを引っ張るのはグラフィックスになるだろうという。実際Intelは、まずGPUの接続にPCI Expressを導入する見込みだ。そのため、GPUとビデオカードは、あと1年ほどしたら一気にPCI Expressへ向けて移行を始めることになりそうだ。すでに、そのための秒読みが始まっている。
PCI Expressは、上り下り1対の通信チャネル(レーン)を基本に構成される。1対のx1から、レーン数を増やすことでスケーラブルに帯域を増やせるのが特徴だ。
【PCI ExpressとAGPの帯域】
●FSBとのバランスが取れるPCI Express x16
もっとも、片方向でもAGP 8Xの2倍に達するPCI Express x16の帯域は、今のところ“オーバーキル”(過剰)だ。昨年までのAGP 4Xと比べると4倍になるわけで、当面は、アプリケーションの多くはこの帯域を使い切ることはないだろう。 とはいえ、PCシステム全体で見ると、PCI Express x16は別にオーバーキルではない。むしろ、ようやくほかのバスに追いついたと言える。例えば、PCI Express導入時には、FSB(フロントサイドバス)は1,066MHzで帯域は8.5GB/secに、メモリはデュアルチャネルDDR2-533で同様に8.5GB/secに達すると見られる。そうすると、双方向で8GB/secのPCI Express x16は、帯域的にはちょうど釣り合う格好となる。片方向の4GB/secで比較すると、3つのバス帯域が釣り合うのは、AGP 4Xと133MHz FSB、PC133 SDRAMでバランスしていたとき以来となる。つまり、FSBとメモリの帯域向上と比べるとペースが遅かったグラフィックスの帯域が、これでようやく追いついたという見方もできる。
しかも、Intelは最初のPCI Express x16は、まだ始まりに過ぎないという。PCI Expressのリンクの転送を現行の2.5Gb/secから、2倍の5Gb/secや4倍の10Gb/secへと将来高速化することで、AGPのように広帯域化できると説明する。まだまだ、ヘッドルームがあるというわけだ。ただし、その時点ではFSBも高速化している必要がある。
●GPUベンダーも対応へ GPUベンダーも、すでにPCI Express対応を発表し始めている。 ATI TechnologiesがIDFで行なったプレゼンテーションでは、PCI Express対応カードのメカニカルサンプル写真を示し「全製品ラインに、トップツーボトムでPCI Expressを導入するだろう」(ATI Technologies, Gord Caruk, Architect, ASIC Design)と説明した。 S3 GraphicsもPCI Express対応を急ぐ。S3 GraphicsはDirectX 9世代GPUコア「Columbia(コロンビア)」のモバイル版として「DeltaChrome」を発表しているが、PCI Express版「DeltaChrome2」も今年第4四半期サンプル出荷の予定で進めている。Trident Microsystemsも2004年夏にPCI ExpressをサポートしたDirectX 10世代GPUをリリースすると言う。
チップセット側は、動作検証のためにチップセット出荷のかなり前に、新インターフェイスに対応したGPUが必要となる。来年中盤のPCI Expressチップセット向けに、おそらく、年内にはPCI Express対応GPUのサンプルが出始めるだろう。ちなみに、AGP 8Xの際はATIが検証に使われていた。
●60Wまでの電力供給までOK IDFでの説明におけるAGP 8XとPCI Express x16のスペック比較は図1の通り。 ここで目立つのは、ビデオカードへの供給電力が従来のAGPの25Wから60Wに上がっていること。これは、電力供給がAGPとは大きく異なるためだ。PCI Express x16では、+5Vの供給はなくなった。+3.3Vと+12Vで供給する。ただし、アナログ出力では相変わらず5Vが必要となるので、デジタル出力オンリーでない限り、カード側で5Vを生成しないとならない。3.3Vで3A、12Vで4.4Aを供給することで、カードへの電力供給は約60Wになる。12Vと高電圧の電力供給をクリーンに行なうのはハードルが高くなりそうだ。 だがそれ以上に問題になるのは、60Wの電力を消費するGPUの廃熱。許容量ぎりぎりの60WクラスのGPUになると、CPU並みに熱を出すわけで、原理的にはCPUと同様の廃熱が必要となる。実際に、すでにNVIDIAの「GeForce FX 5800 Ultra(NV30)」では、高消費電力であるため、ボードに強力なファンを使って筺体外へと廃熱する機構を取りつけた形を取っている。
それに対して、IDFでは筺体にGPU用のファンダクトをつける方式を提案する。つまり、現在のIntelの推奨でCPUファンダクトをつけている、その下にGPU用のファンダクトをつけるというわけだ。図2がそれだ。CPU並みに熱いGPUには、同じソリューションをということだ。
●将来のビデオカードの消費電力は150W? だが、問題はこれでは解決しないかもしれない。というのは、今後のハイエンドのビデオカードの消費電力と熱は、PCI Express x16でカバーできる範囲を超えてしまう可能性があるからだ。
Intelに続いてプレゼンテーションを行なったATIが、IDFの出席者向けWebサイトにアップロードしていたプレゼンテーションでは、ハイエンドGPUの消費電力は今後も鰻登りとなり、2~3年のうちに100Wを超えてしまうと予想されているからだ。また、廃熱機構のために重量が増えるカードを支えるために、リテンションメカニズムもATIは提案していた。下のプレゼンテーションがそれだ。
その理由は明白だ。ATIの最初のプレゼンテーションファイルの通りなら、PCI Express x16も、電力供給の面では短期的な解でしかなく、すぐにプラスアルファの電力供給を確保する改善策が必要になるからだ。Intelとしては、それはOEMに対して望ましい説明ではないだろう。 しかしここで興味深いのは、ATIが、GPUのビデオカードの消費電力がこれだけ伸びるという予測を持っていることだ。まず、2002年の後半の60Wにまで達している山がRADEON 9700 Pro(R300)だと思われる。そうすると、2003年前半の70Wの山がR350となる。次の山でやや下がるのは、0.13μmに微細化するR400に移行するからだろう。しかし、その後はR500に当たる世代で80W、R600に当たる世代で110W、R700に当たる世代で150Wに伸びるという予測となる。
この予測は、ATIのチップ物理設計の専門家が言うのだから、説得力がある。ようは、ATIが開発中あるいは今後開発する予定のGPUのゲート規模が、こんな風に増大して行くという予測があるのだと思う。実際には、TDP(Thermal Design Power:熱設計消費電力)はこれよりは低いとしても、消費電力は激烈だ。
●設計上の注意が必要なPCI Express x16
ポイントのひとつは、広帯域化をミニマムなコスト増で実現すること。Intelの説明では、PCI Express x16のコネクタは164ピンで長さ89mmと、現状のAGPコネクタとそれほど変わらないという。チップに内蔵するインターフェイスのシリコンコストも、AGPと同レベルだと言う。 さらにIntelは、ボード上の配線も容易になることを強調する。現在のAGPは、パラレルバスであるため配線長を合わせる等長配線が必要だ。そのため、大きな配線面積を占めている。また、タイミングバジェットも狭いために設計が難しい。 それに対して、PCI Expressではエンベデッドクロック方式のシリアル接続であるため、各信号線ペアの間でのスキューを気にする必要がない。ごちゃごちゃした等長配線で、ボード上の面積を食ってしまう問題もないし、ずっと設計が容易だとIntelは言う。
ただし、実際にはそう簡単でもない。PCI Expressでは2本の信号線がペアになり、ディファレンシャル信号で伝送する。そのため、信号線ペアの間では、長さは極めて厳密に合わせる必要があるのだ。
□関連記事 (2003年2月21日) [Reported by 後藤 弘茂]
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