大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

出足好調なeMachinesは、なぜ売れたのか?



 全米のパソコンショップ市場で第2位のシェアを誇るeMachinesが、日本に上陸してからちょうど1カ月を経過した。

 この間の出足を見ると、予想を上回る好調ぶりであることがわかる。独占販売を行なっている九十九電機(ツクモ)と石丸電気では、早くも販売計画を上方修正し、年間12万5千台を出荷する計画とした。eMachinesの本格上陸1カ月の動きを追った。

■低価格ながら、高いクオリティ

eMachines N2040
 eMachinesの最大の特徴は、最下位機種で49,800円から(モニター別売り)という低価格にある。そして、それでありながら、それなりのクオリティを達成している点が、これまでの低価格パソコンとは異なる。

 スペックの詳細や使用感などについては、元麻布春男氏のコラムを参照してほしい。「低価格といって、侮れないPCだ」という意見には、私も同感だ。私自身も、同じN2040を使ってみたが、59,800円で買えるパソコンとは思えないクオリティを持っている。とくにブラックとシルバーを基調とした筐体デザインや、米国ではオプションで用意されている上位モデルキーボードを日本では標準採用した点が、この価格帯では味わえない高級感を演出している。

 こうしたeMachinesの魅力は、多くのユーザーに認められ始めている。それは、この1カ月の動きを見てもわかるだろう。

 昨年12月20日の発売を前に、ネット予約、店頭予約をあわせて1,500台規模の予約が殺到、さらに、年末には発売した4モデルのうちの最下位モデルとなる49,800円のN1840、最上位のN4010が品切れを起こし、年明けまで入荷待ちという状況になった。

 九十九電機販売促進部 後藤大和部長は、「品切れを起こしたという点では大変ご迷惑をおかけした。現在、月3回ほどのペースで入荷する体制としており、2月10日以降は、全モデルとも、品切れを起こさずに対応できるようになるだろう」とうれしい悲鳴をあげている。

 事実、冒頭で触れたように、早くも販売計画の大幅な上方修正を決定したほどの人気ぶりなのだ。

■極めて少ない初期不良率

九十九電機販売促進部 後藤大和部長
 当初、ツクモと石丸電気では、きわめて慎重な販売計画を練った。

 その理由について、後藤部長は、「初めての日本上陸に当たって、販売体制、サポート体制の構築に時間がかかるという点を考慮したため」と話す。

 米国でもサポートに対しては高い評価を得ているeMachinesだが、それと同様の体制が日本ですぐに構築できるとは考えにくい。さらに、品質にうるさい日本のユーザーが、この商品をどれだけ評価するのか、未知数であったことも見逃せない。

 「米国での実績を見て、品質には自信があった。だが、初期不良が増えれば、当然それはコスト増に跳ね返るし、信頼もなくなる。当初は、少ない台数で様子を見て、その間に、販売台数にあわせてサポート体制を強化するべきだと考えた」

 当初の計画では、12月20日から3月31日までの約3カ月で1万台。年内には、約1カ月分となる3,000台程度の入荷が行われた。

 仮に、当初から多くの台数を仕入れて、初期不良に悩まされれば、eMachines自身もサポートに追いまくられるし、ツクモ、石丸も「安かろう、悪かろう」のパソコンを売ったとして信頼が落ちる。しかも、大量の在庫が残るということにもなりかねない。慎重にスタートを切ったのも当然だろう。

 しかし、その考えは杞憂に終わった。

 これまでの出荷を見る限り、初期不良らしいものはわずか1~2件程度。サポートセンターの運営は、米eMachinesが米国で委託している米Aloricaが日本の企業としてサポートしているが、そこへの問い合わせも1日に数件程度の状況だという。

 これは国産の大手パソコンメーカーの不良率と比べても遙かに低いものだ。この数値から、販売数量の上方修正に踏み切ったのだ。

■一部機種では品切れも

日本向けキーボード
 そして、人気も当初予測を上回るものだった。

 12月20日の発売時点では、メインストリームとなるN2040と、企業向けに日本独自の製品として用意されたWindows XP Professionalを搭載したN1845の2機種が店頭に展示された。

 生産している中国からの船便の関係で、翌週に出荷がずれ込んだN1840および最上位のN4010は、12月28日の段階で、早くも品切れとなった。

 仕入れ台数の約半数を占めたN2040も、「先に追加を入れていたので、なんとか綱渡りで品切れを起こさずに続いている状態」だという。

 この人気ぶりに、両社が販売目標の上方修正を決定したのは当然のことだろう。

 実は、米eMachinesでは、12月2日の記者発表の際に、日本国内における年間の販売目標を10万台として発表していた。

 だが、ツクモ、石丸電気では、今年中盤以降には年間10万台の販売ペースになるものの、当初3カ月間における慎重な出足分をマイナスと考えて、実際には年間6~7万台の販売になると読んでいたようだ。

 ところが蓋を開けてみると出足は好調で、結果として、eMachinesが掲げた販売計画をも上回る年間12万5千台へと上方修正することになったのだ。

 修正計画によると、2月からは月1万台のペースで出荷する計画。これは、2月、3月の当初の計画値から見れば3倍規模。3カ月分を1カ月で売ってしまうという計算。年間出荷計画では、eMachinesの計画値に対して25%増になるのだ。付け加えておけば、ツクモ、石丸が内々に計画していた実数値に対しては、2倍という計画値へと上方修正したことになる。

 国内のパソコン出荷実績は、依然としてマイナス成長からは抜け出せていない。先頃発表されたJEITAの1~12月のパソコン出荷実績は、前年比11%減と過去最悪の落ち込み率という不名誉な記録を達成したばかり。今年1~3月も前年同期比1%減の見通しである。

 こうしたなかで、当初計画を大幅に上回る計画値を打ち出すというのは、まさに異例中の異例という状況なのだ。

■ツクモと石丸で異なる購入者層

 eMachinesの具体的な購入者の具体的なプロフィールは明らかではないが、ほとんどが買い換え、買い増しのようだ。なかには、個人用のパソコンとして購入したところ、コストパフォーマンスの高さを評価して、その後会社用に5台まとめて購入したという例も出ているという。

 「自宅での用途が多いようだが、これから年度末に向けては企業需要も増加すると期待している。個人ユーザーの場合、セカンドマシンとしての買い足し購入と、メインマシンとしての買い換え購入が半々ではないか」と、後藤部長は購入層を分析している。

 興味深いのは、ツクモと石丸では、もともとの客層の差異もあって、購入者層や売れ方にも若干の差が出ている点だ。

 ツクモの場合、買い換えマシンとして、自らの仕様に作り上げたいというユーザーが、ベースマシンとして購入していく例などが目立つという。その結果、モニター無しのままで購入していくユーザーが半数に達しているほか、メモリ、HDDなどを同時に購入する例が多いという。

 一方、石丸電気の場合は、自作に一歩踏み出してみたいといった買い換えユーザーや、まずは低価格でパソコンを導入してみたいというファーストバイヤーが多いようだ。そのため、モニターとの同時購入の比率が高いようである。

 もともと、eMachinesは、ユーザーが製品購入後に、自らが望む方向に改良できるように、できるだけプレーンな形の製品仕様をとっている。そのため、アプリケーションパッケージなどは同梱していない。だが、アプリケーションを同梱してほしいというユーザーの要望が高まってきたことから、Microsoft Office XP Personalを同梱したモデルを、1月17日から追加投入している。価格はN1840をベースにしたモデルが72,800円、N2040をベースにしたモデルが82,800円。

 現在、32店舗(ツクモ15店舗、石丸17店舗)のうち、ツクモ本店に限定して取り扱っている製品だが、むしろ、石丸電気で取り扱った方がメリットがある商品といえるのかもしれない。

■サポート体制の構築にも力を注ぐ

 ツクモと石丸電気が、eMachinesの取り扱いで最も気を使った点は、「安かろう、悪かろうのイメージを与えない」という点だ。

 そのため2社は、製品仕様、品質、サポート体制について、発売前に、米eMachinesと、とことん話し合いを繰り返した。

 そこで米eMachinesが日本で用意したサポートは、電話、メール、チャット、リモートアクセスという4つの選択肢を与えること、そして、EURPP(アープ)という、米国で修理を必要とするユーザーの6割が利用している手法を初めて日本で導入したことだ。

 「米eMachinesでは、電話サポートの際にも、1分以内での問題解決の実現を掲げているが、これを日本でも達成することを目指している。サポートセンターの電話番号や型番、シリアルナンバーが筐体の前面にわかりやすく書かれていることも、短時間でのサポートを実現する工夫のひとつ」だという。

 シリアルナンバーは筐体の裏に書かれていることがほとんど。それを確認するのに、時間がかかったり、電話を切って番号を確認してから、さらに電話をかけるといった手間が発生しないため、短時間の対応が可能というメリットにつながっている。

 また、EURPPは、壊れたパーツだけをメーカーに送り、その部分を、代替品に変えたり、修理するというものだが、これにより、自宅にパソコンがなくなるという状況を回避でき、短期間に最低限のコストでの修理が可能になる。

■eMachinesは時流にあった製品なのか?

 米eMachinesの魅力は価格にある。

 「購入者の8割が、まず価格にメリットを感じている」と後藤部長は分析していることからもそれは明らかだ。

 この価格を実現できるのが、120人の社員、6.5%という販管費比率による米eMachinesの低コスト体質だ。

 この6.5%という数値は、販管費比率が低いといわれるDell Computerを遙かにしのぎ、ある種、異常ともいえる数値だ。

 米eMachines自身が日本法人を置かないというのも、低コストにつながっているという。

 だが、日本法人がないことに対する不安も同時に発生する。日本法人を設置していたGatewayの撤退によって、多くのユーザーが不安を抱えたのは、まだ記憶に新しいところだ。

 それに対して後藤部長は次のように話す。

 「ツクモ、石丸という2つの会社が、責任をもってeMachinesの製品を保証する体制をとっている。日本におけるeMachinesのブランドを維持する役割は、われわれにかかっている」

 パソコン販売で長年培ってきた販売店2社の実績が、日本におけるeMachinesブランドを維持することにつながるというのだ。

 もう1つ、後藤部長が強調するのが店頭BTOという考え方。

 「Dell Computerは、ネットで自分の好きな仕様に製品を組み上げていく。だが、eMachinesは、ツクモ、あるいは石丸電気の店頭にきていただけば、店員が適切なアドバイスをして、豊富な店頭展示品や取り扱い製品との組み合わせで、ユーザーが欲しい仕様のパソコンに組み上げていく。パソコンに詳しくないユーザーでも、安心してBTOが可能となる。この点ではDell Computerにはできない店頭BTOというメリットを享受できる」。

 パソコン初級者層でも、自作パソコンやBTOに対する要求は高まっている。こうした層には、eMachinesとツクモ、石丸電気の組み合わせで実現される店頭BTOの役割は大きいだろう。

 先日、JEITAは、デスクトップパソコンとノートパソコンの平均単価の差がわずか2,000円になったと発表した。これはデスクトップパソコンが大幅な単価上昇傾向を見せたことが要因となっている。

 だが、eMachinesのような低価格パソコンの動きは相変わらず健在だ。

 この2つの事実から導き出されるのは、ナショナルブランドのメーカー製デスクトップパソコンは、付加価値を持った高価格帯へとシフトする一方、自作パソコンやノーブランドパソコンなどではますます低価格パソコンへの需要が高まるという傾向だ。これは今後の大きなトレンドとなりそうだ。

 そこに、全米2位というブランドパソコンが49,800円で上陸したのだから、低価格パソコン市場で旋風を巻き起こすのは当然といえば当然だ。これは、先にも触れたように、国産メーカーには実現できない低コスト体質だから可能なのである。

 そうした意味で、eMachinesは、いまの2極化という市場の傾向、そしてブランドパソコンとノーブランドパソコンの位置づけの変化を捉えた、スマッシュヒット的な製品であると言い切れるだろう。

□関連記事
【1月24日】【元麻布】eMachinesの低価格PCの実態
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2003/0124/hot240.htm
【2002年12月20日】九十九電機と石丸電気、米eMachinesの低価格PCを販売
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2002/1202/tsukumo.htm

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(2003年1月27日)

[Text by 大河原克行]


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