第183回
3G携帯電話による革命はまだ始まっていない



 すでに掲載当日に修正されているが、先週の記事での誤りについて訂正しておきたい。ソニーのIEEE 802.11a対応ワイヤレスLANコンバータPCWA-DE50でLAN間接続できると書いたが、実際にはEthernetHUBの接続をサポートしていない。実際にHUBを接続して動作させると、一見動いているように見えるが実際には異なる。お詫びして訂正したい。

 理由はPCWA-DE50がEthernetに接続された機器のMACアドレスを使って、無線LANのアクセスポイントに接続するためだ。PCWA-DE50はデバイスが1台しかないことを想定しているため、複数のMACアドレスからのアクセスには対処できない。

 たとえばHUBに接続されたAというPCがPCWA-DE50を通じてアクセスし、その後BというPCがPCWA-DE50を通じて通信することは可能。しかしAとBが同時にPCWA-DE50の先にあるネットワークに接続することはできない(これがワイヤレスLANコンバータたる所以だろう。物理メディアをコンバートするだけで、ネットワークブリッジとしては動作しない)。実際にPCWA-DE50でLAN間接続するためには、PCWA-DE50のEthernet側にルータやブリッジを接続しなければならない。

 さて、今週は久々に携帯電話をテーマにしてみた。読者から次世代携帯電話に関するテーマをリクエストされたからだ。これまで僕はFOMAにたいして否定的だったが、3G携帯電話ネットワークが今後もずっと不成功になるとは思っていない。たとえばauはスムースなネットワークの移行をCDMA2000 1xで達成しようとしている。先月11月、CDMA2000 1xの純増数は60万契約、累計で約390万契約を達成した。

 2Gから3Gへの移行を、欲張らず現実解として既存携帯電話の延長線上で安価に実現したauが、3Gへの入り口では勝利を収めた格好だ。しかし、3G携帯電話ネットワークを巡っての製品やサービス、市場環境の変化は、まだ始まってもいない段階だと個人的には感じている。

●革命はまだ始まっていない

 本来なら携帯電話の話はPC Watchの守備範囲外なのかもしれない。しかしPCという枠を超えて、さまざまなデジタルデバイスがネットワークで接続された社会を考えると、やはり次世代の携帯電話インフラは避けて通れない話題だ。

 いくらIEEE 802.11無線LANによるアクセススポットが増加しても、それは、あくまでもワイヤレスLANでしかない。WANである携帯電話のネットワークを代替することはできないからだ。僕自身は公衆無線LANアクセスの熱心なサポーターを自認しているが、それでもまだ利用頻度はワイヤレスWANの方がずっと多い(もっとも携帯電話網ではなくPHS網だが)。

 しかし高速なワイヤレスWANは、本当に普及するのだろうか? と疑問に思っている人も少なくないと思う。PHS網は現状でこそ良い解決策になってはいるものの、そのスケーラビリティには大きな疑問符が付く。3G携帯電話にしても、パケットあたりのコストは速度の増加ほどには進んでいない。帯域は広くなったものの、広くなった帯域をフルに活用できるような料金体系にはなっていないのだ。

 実際にFOMAをデータ通信中心で使っているユーザーに話を聞くと、パケットパック80を選択していれば、(PCからの通信で)日常的に料金を意識せずに使っていても、8,000円分を超える超過料金を取られることはないという。ちなみにパケットパック80で通信可能なデータ量は、100%の効率でパケットのデータ領域を使ったと計算して48MBちょっと。外出時のメールチェック+いくつかのWebコンテンツ/アプリケーションへのアクセス程度ならば、確かにカバーできる範囲内とは言えるかもしれない。

 一方、端末の数ではFOMAを圧倒しているauのCDMA2000 1xは、月額8,500円のPacketOneスーパーパックが上と同じ計算で54.9MB。このときのパケット単価はFOMAのパケットパック80と同じ0.02円である。しかしauの場合はPacketOneミドルパックが充実しており月額2,400円でパケット単価を0.03円まで下げることが可能だ(実際には料金体系は複雑であるため、一概には言えない場合もある)。

 これまでにも何度か3G携帯電話の料金に関して取り上げているが、この金額ではたとえこの先、さらに通信速度が高速化されたとしても、携帯電話のネットワークを用いたアプリケーションが大きく世界を変えことはないだろう。もちろん、前世代よりも通信コストは安価になっているため、その価格に見合うアプリケーションの変化はあるが、あくまでも第1段階にしか過ぎないからだ。

 長期的な視野で見るならば、3G携帯電話がモバイル環境を大きく変える可能性は残っている。現状ではパラダイムを変化させるに至っていないこと、そしてどのような変化を求められ、何を変えていかねばならないかは携帯電話会社自身がもっとも良く理解している。その未来はそれほど悲観的ではない。

●ネットワークのIP化が鍵

 何度か同じ話を書いているが、3G携帯電話は音声通信だけを考えれば、電波の利用効率が増し、基地局あたりがサポートできるリンク数が増えることでコストは安くなっている。問題はデータ通信時の帯域拡大に見合うほど、通信量あたりの料金が安くならないことだった。

 料金が安くならない理由は、3G携帯電話のネットワーク構成にある。1対1の通信を前提とした電話向けのATMネットワークを基幹に据え、インターネットやISPへはゲートウェイを通じてトラフィック交換を行なう仕組みでは、どうしても基幹ネットワーク部分のコストがかさんでしまう。電話に求められるネットワークと、データ通信に求められるネットワークでは性質が異なるためだ。

 少し言い方を変えてみよう。現在の3G携帯電話はあくまでも携帯電話の発展系だ。帯域が広がったことで、従来の音声通信+簡易な通信端末の枠を超えた使い方ができるようになった。しかし、音声通信以外のアプリケーションは、必ずしも電話向けネットワークに適していなかった。以前にも指摘したが、これはNTTがかつてISDNで犯した間違いと同じ轍である。

 これに対して2010年以降の実用化を目指している4G携帯電話では、数十Mbpsから最大100Mbpsの速度や他の通信方式とのシームレスな接続性(相互方向への動的なローミング、つまり4G携帯電話は無線LANアクセスサービスなどとも連携したものになる)などが実現予定とされている。その際の鍵となるのが、携帯電話ネットワークのシステム全体がIPネットワーク化することだ。

 IP化が進むことで、携帯電話ネットワークのオペレーションにかかる費用は劇的に下がると言われている。各社によって多少のブレはあるが、パケット通信の単価だけに絞ると数十分の1~百数十分の1程度にすることが可能という。

 携帯電話が、広範なエリアで有限資源である電波を用いたサービスを行なうものである以上、有線アクセスのコストを下回ることも有線アクセスよりも広帯域になることもない。しかし交換機とATMによる、現在そしてこれからの通信事情に合わないインフラを捨てることで、帯域とコストのアンバランスから来る応用範囲の限界は克服できる。簡単に言えば、サービス開始前の3G携帯電話に期待されていた、常時接続、広帯域を活用したアプリケーションが可能になる。

10日に発表になったFOMA新機種
 もっとも、3G携帯電話の立ち上げ期にある現在、4G携帯電話について僕らのレベルで議論するのは時期尚早だろう。ユーザーが求めているのは10年後の可能性ではなく、近未来にある“より良い”3G携帯電話ネットワークだ。音声通信やメール、写真・ショートムービーの送受信などに関しては、今後登場してくる端末によって一般にも徐々に普及するだろう。すでにauのCDMA2000 1xに関しては、予想よりも早いペースで3Gへの道を進んでいる。FOMAに関しても端末レベルの性能では(サイズや重量はともかく)なんとかPDC端末レベルのバッテリ寿命や機能を確保したことで、多少契約数は上向くだろう。

 しかし、本当のパラダイムシフトは、広帯域のワイヤレスWANが単なる効率の良い携帯電話ネットワークではなく、PCやPDA、携帯電話などすべてのデバイスにとって、最良の(速度だけでなくプライス/パフォーマンスも)ネットワークになったときだ。幸い3G携帯電話のオールIP化に向けての動きは今後活発化しそうだ。

 オールIP化(端末のエンドまでをIPネットワーク化すること。端末にはIPv6のアドレスが割り振られる)は4G携帯電話ネットワーク(実際には携帯電話以外も統合したものになるため、携帯電話と表現するのが正しいかどうかはわからないが)で実現する方向で研究開発が進んでいるが、3G携帯電話ネットワークをデータ通信に適したものに変えていくことも検討されている。昨今、携帯電話関連のカンファレンスでは、3G携帯電話ネットワークをオールIP化するため、どのような移行シナリオが良いかを検討する講演が増えてきた。

 2002年は終わりにさしかかっているが、3G携帯電話ネットワークのIP化は国際標準化の検討が進みつつあり、来年2003年にもインフラ側の準備が開始されるという。2004年以降を見通せば、オールIPの携帯電話ネットワークに我々の手元からアクセスできるだろう。そうなれば、ユビキタスなネットワーク接続環境を実現する、携帯電話ネットワークを用いた定額のデータ通信サービスが可能になるだろう。

 3G携帯電話による革命は長らく語られてきたが、まだ本当の革命は始まってもいない。モバイル環境の本当の変化が始まるのは、3G携帯電話ネットワークがIP化されたそのときになるだろう。

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【2001年12月25日】電話屋の都合とパソコン屋の理屈
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/20011225/mobile133.htm
【2001年8月21日】FOMAには夢ではなく実用的なサービスを期待
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/20010821/mobile113.htm

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(2002年12月11日)

[Text by 本田雅一]


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