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第133回:電話屋の都合とパソコン屋の理屈 |
もうひとつ、b-mobile購入検討者の多さも驚いた。ひとつひとつの例について購入相談に乗るわけにもいかず、という状況で対応し切れてはいないが、プリペイドという支払い形態でコンシューマユーザーがこれほど敏感に反応するとは、思いもよらなかった。
●どうなるワイヤレス環境
b-mobile購入者の多くは、128kbpsのPHSパケット通信を見越して、32kbpsサービス相当の料金で128kbpsへと移行できる点に魅力を感じているようだ。また、外出先での利用よりも、自宅で自分だけのネットアクセス回線を用意したいという(特に中高校生ぐらいの)ニーズが大きいようにも思える。
いずれにしろ、PHSによる定額接続サービスは予想以上の成果を収めているようだ。アステルのネットワークを利用した定額接続サービスが行なわれている地域を除けば、DDIポケットは契約数を確実に伸ばしている。11月は東京地区で7,700契約、東海地区で5,000契約の純増となった。北海道、東北、中国、九州、沖縄などの純減傾向は相変わらずだが、トータルでは1,200契約の純増。PHSの音声サービス離れが続けば、このままのペースで純増するわけではないだろうが、データ通信に特化するという同社の方針は、一応の成功を収めていることになる。
AirH"の予想以上の好調さは、NTTドコモも気になるところだろう。NTTドコモがIPトラフィックを別回線に流すことでデータ通信のコストダウンをはかった「P-p@c」を用意したのは、読者の多くがすでにご存知の事だろうが、このサービスがAirH"を強く意識したものであることは容易に想像できる。定額制ではないものの、10時間2,500円、あるいは20時間3,200円という“準”定額サービスとなっている(もっとも、準定額サービスという言葉が、果たして適切かどうかは意見の分かれるところ。時間を気にしなければならないのに、定額に準ずるとは一体どういう事か? という意見もある。これはAirH"の「ネット25」にも当てはまることだが)。
いずれの例も、損をしてまでシェアを取るという退廃的な方向性ではない。利益を確保しながら、運用方法や通信のバックボーンなどを変更することでローコスト化をはかり、データ通信に特化した料金体系を実現しているのだ。
しかし、振り返ってみれば、同じ事がこれまでも繰り返されていることがよくわかる。誰もが知っているそのサービスはISDNだ。そして、それはFOMAの行く末を暗示しているように思えてならない。
●電話ネットワークをデータ通信に利用するのが間違い
これまで僕は、FOMAに対して総じて否定的な意見を出してきた。第3世代携帯電話は第2世代と比較すると帯域が広がり、また電波の利用効率が上がることで2~2.5倍程度のボイスコネクションをサポートできる。これが“携帯電話キャリアにとっての”最大のメリットである。ひとつのセルで従来の2倍以上の音声通話をサポートできるのだから、稼働率が同じになればコストは半額となり、高い収益性と価格競争力に繋がるからだ。
だからこそ、広帯域になるデータ通信を利用した動画などの用途提案は飛び道具でしかないと述べてきた。コストが2.x分の1にしかなっていないのに、データ量が数十倍になれば、料金的な歪みが生じるのは火を見るよりも明らかだと思ったからだ。そして、実際にFOMAの料金は(かなり戦略的な値付けをしているにもかかわらず)、決してリーズナブルなものとは言えない。
cdmaOneを拡張することで、高速データ通信を実現しようとしているKDDIのHDRも、事情は同じ事だ。設備投資が軽い分だけ、FOMAよりは楽とも言えるが、それでも定額サービスにはできないと、あらかじめアナウンスされている。
これら第3世代携帯電話サービスで、その速度を活かしたアプリケーションというのは、望めるのだろうか? その答えが、かつての事例の中に埋まっている。そして、それはもちろん、NTTドコモもKDDIも十分に承知しているハズだ。
ISDNはインターネット黎明期にモデムよりも高速な通信インフラとして活躍したが、その特性はネットワーク向きとはお世辞にも言えなかった。なにしろ、誰もが単に話をするだけにしか使おうと思っていない電話をデジタル回線にしようというのだ。ニーズを飛び越して「デジタルで高品質になれば、エンドユーザーの利益になる」という思いこみで莫大な投資が行なわれ、日本全国の交換機はデジタル対応に置き換えられていった。
しかし、地点間の通話を行なうために設計されたISDNは、コンピュータネットワークの足回りとしては適切ではない。コンピュータネットワークを構築するのに、電話番号を入力して相手に接続し、一定の品質を確保するような仕組みは不要だからだ。
すでにお馴染みのフレッツISDNは、交換機を通さず、データトラフィックだけを専用のIPネットワークに流すことで定額サービスを実現できた。ISDNはこの時点で、やっとIP通信に適した機能を持つようになったわけだ。
これはAirH"やP-p@cにもそのまま当てはまる。それまでのPHSは、通話をISDNの音声チャネルに依存していたが、これがコスト的な負担を大きくすることとなり、定額サービスを行なう上での障害となっていた。そこでデータトラフィックにISDNではなくIP網を利用することで、現在のような定額(あるいは“準”定額)サービスを実現できたわけだ。
●FOMAでも繰り返される電話ネットワークの呪縛
否定的な意見を出しながらも、FOMAを含む第3世代携帯電話にもわずかながらの期待は抱いている。現在、FOMAは基地局間をATMで接続し、地点間の通話を前提にしたプロトコルで電話としての機能を実現している。データ通信を行なう場合も、NTTドコモのFOMAネットワークに作られたインターネットへのゲートウェイにISPのアクセスポイントを設けることでインターネットへと接続されるが、そこまでのネットワークはあくまで音声と同じものである。
しかし、携帯“電話”向けに作られたハイコストなインフラを、なぜデータ通信ユーザーが利用しなければならないのだろうか。基地局と端末の間は、ワイヤレス通信に適したFOMAのネットワークを利用すればいいが、その先は汎用の安価なIPネットワークがあればいい。電話サービスには電話サービス向けの品質を持ったネットワークが必要というならば、そちらのコストは電話サービスユーザーが支払う料金から捻出すればいいことである。データ通信のトラフィックは、基地局で即刻IPネットワークへとメディア変換すればいい。
そうすれば、CDMAの帯域のうち音声通話が利用中、あるいは利用しようとする分を差し引いた分は、定額(あるいは望ましい形ではないが、NTTドコモの言う“準”定額)でユーザーにシェアさせててもいいのではないだろうか? 帯域を保証して欲しいユーザー向けには、別途回線交換などの接続手法を別料金で提供すればいい。こうしたIP化が行なわれるのは、第4世代携帯電話からというが、やろうと思えば第3世代からも対応できるだろう。
僕は別にべらぼうに安くしろと言っているのではない。単にデータ通信サービスを買いたいユーザーには、データ通信に適したネットワークを提供すべきと言っているだけだ。ラスト1マイルの足回り回線として、FOMAは悪くないソリューションである。問題はその先にある。それを取り除くことができれば、データ通信のインフラとして第3世代携帯電話は離陸し、自ずと音声サービスの移行も進めやすくなると思うのだが。
関係者への取材を重ねてみても、NTT外からは似たような意見が出てくるものの、NTTドコモの方は毛頭そんなつもりはなさそうである。欧州などは第3世代携帯電話をスキップしてIP化する第4世代携帯電話へと一足飛びに行こうという動きもある。もしそれに成功すれば、ワイヤレスWANネットワークの環境において「先進国」の看板を下ろさなければならないかもしれない。IP化の波は確実に通信業界全体を覆って来ているのだから。
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【12月18日】【本田】128Kbpsレディの定額PHSサービス「b-mobile」
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/20011218/mobile132.htm
【11月30日】ドコモ、PHSの料金体系にデータ通信用オプションプランを追加
http://k-tai.impress.co.jp/cda/article/news_toppage/0,1608,6839,00.html
(2001年12月25日)
[Text by 本田雅一]