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Intelのロードマップ変更は対Hammer戦略




●予告無しの大幅変更で混乱

 Intelが2003年のCPUロードマップを劇的に変更した。すでに「Intelが来年第2四半期にFSB 800MHzのHyper-Threading版Pentium 4を投入」で、レポートした通り、Intelのロードマップ変更のポイントは次の3つだ。

◎Hyper-Threading普及の加速
◎FSB(フロントサイドバス) 800MHzの導入
◎デュアルチャネルDDR400メモリサポート

 もともとの計画では、Hyper-Threadingは2004年にかけてゆっくり普及するはずだったし、FSBは次世代CPU「Prescott(プレスコット)」で667MHzに上がる予定だった。また、メモリサポートも正式にはデュアルチャネルDDR333までで、DDR400はサポートするにしても来年後半と見られていた。

 Intelの場合、来年第2四半期の立ち上げで、いきなりFSBとメモリを変更するのは、かなり異例だ。通常は、今頃には来年のFSBとメモリの仕様はほぼ完了しており、マザーボードのデザインガイド(設計のためのガイドライン)も、実際にマザーボードを起こせるものがIntelから提供されている。その上で、OEMメーカーがチップセットのサンプルを試験している時期だ。今の時点でIntelがこれだけの変更を行なうと、OEMメーカーへの影響は大きい。

 また、Intelは従来、新技術はハイエンドから徐々に導入するアプローチを取っていた。ところが、今回はいきなりHyper-ThreadingもFSB 800MHzもデュアルチャネルDDRメモリも、一気にPentium 4のローエンドまで持ってくると言っている。段階的な普及ではなく、Pentium 4とそのプラットフォームを、来年第2四半期に一新してしまおうとしている。実際、来年第2四半期には、2.4GHzのHTテクノロジPentium 4 FSB 800MHzが170ドル台で投入される。Hyper-ThreadingとFSB 800MHzのコストはたった15ドルだ。

 また、これらの変更のほとんどは、OEMメーカーやDRAMベンダー、チップセットベンダーなどに事前の予告がなかったという。メモリのバリデーション(検証)は、最低でも半年は必要なので、ぎりぎりのタイミングだ。それだけ急激で、意外な変更だったわけだ。

 Intelは、なぜこんな劇的な変更をいきなり行なったのだろう。

●AMDの出方を待ったロードマップ変更

 そもそも、Intelは、11月頭にCPUロードマップの変更について、OEMとミーティングを行なう予定だった。だが、同社はこれをキャンセル、2週間後の11月中旬にミーティングを延期した。そして、その場で、OEMメーカーに、今回のロードマップの変更を伝えたのだ。

 では、その間に何があったか。じつは、11月8日にAMDが「analyst meeting」を行ない、次世代CPU「Hammer(ハマー)」ファミリのロードマップや生産計画を発表している。つまり、Intelのロードマップ変更は、AMDの計画概要が公になった直後にOEMに伝えられたのだ。こうした前後関係を見ると、IntelがAMDの出方を見てからロードマップ変更を発表したことが伺える。

 Hyper-ThreadingとFSB 800MHzとデュアルDDR400の時期が来年第2四半期というのも、対AMD色が強く感じられる。というのは、AMDがHammerファミリのデスクトップ版「Athlon 64」を投入するのは、来年第1四半期の終わりから第2四半期にかけてだからだ。時期的には完全に一致する。

 また、Intelは、今回の変更でPentium 4のフルラインナップをHyper-Threading+FSB 800MHzに持っていく。ハイエンドだけに留まらず、オールラインナップの変更を行なう。この戦略にも、対AMD的なにおいが感じられる。というのは、来年後半までは、AMDのAthlon 64はまだ高価格で比較的ハイエンドに留まる予定だからだ。Intelが、Hyper-Threading+FSB 800MHzを低価格帯のPentium 4まで一気に降ろせば、AMDはAthlon 64ではなくAthlon XP(ThoroughbredまたはBarton)で対抗しなければならない。それは、難しい。

 こうして見ると、今回のロードマップ変更の背後には、対AMDという意図がかなり感じられる。もっと端的に言えば『Hammerつぶし戦略』だ。

 「そこまでIntelがHammerを恐れているのか?」と疑問が浮かぶかもしれない。しかし、AMDが提示するHammerのパフォーマンスはかなり高い。以前のコラム「パフォーマンスではIntel CPUを圧倒できるHammer」で説明した通り、性能だけならIntelのハイエンドCPUに再び迫り、凌駕することができる可能性がある。

 HammerがPentium 4に匹敵できるのは、IntelとCPU開発サイクルがずれており、Hammerの方がPentium 4より2年分新しい設計だからだ。つまり、AthlonがPentium IIIより新しい設計で、優れていたのと同じ理由からだ。だから、Intelとしては、軽く見ていたAthlonにPentium IIIが追いまくられた2000年から2001年を、もう一度繰り返したくはないのだろう。

 実際、今回のIntelの先手はかなり有効だ。COMDEXで会ったあるマザーボード関係者は、「これでAMDは来年前半のチャンスを失ったと思う。どう考えても、チャネル(自作やホワイトボックスなど)市場はIntelへ流れてしまう」と言う。もちろん、AMDも何らかの対抗策を打ち出してくるはずで、次はAMDのターンとなる。しかし、AMDにとってハードルが高くなったのは確かだ。

●長期的にはHyper-Threadingのための戦略

IntelデスクトップCPUロードマップ
 もっとも、Intelの戦略変更はAMD対策だけというわけではない。他にも意図があると思われる。まず想定できるのは、Prescottのスケジュールがずれた影響を抑えること。

 Prescottは来年中盤から来年第4四半期へとずれ込んだ。今の時点で後ろへとずれたのは、Prescottを製造する90nmプロセス自体の立ち上げがやや後ろへ後退したことを意味する可能性が高い。Intelの以前のロードマップでは、来年の目玉はPrescottで、それが後ろへスライドすると、Intelは夏モデル時期にフィーチャする技術がなくなってしまう。そこで、Hyper-ThreadingとFSB引き上げを持ってきたとも考えられる。

 Hyper-Threadingの普及は、Intelの長期的な戦略ともマッチしている。というのは、IntelはHyper-ThreadingをベースにCPUを進化させてゆくつもりだからだ。Intelの長期戦略からすると、Hyper-Threadingを速く浸透させ、ソフトウェア側のマルチスレッド化を促進することは重要になる。

 実際、今回の路線により、Pentium系デスクトップCPUは、一気にHyper-Threading導入が進む。さらに、来年第3四半期に登場する、トランスポータブル(デスクトップ代替の大型極厚)ノートPC向けのモバイルPentium 4にもHyper-Threadingが導入される可能性がある。そうすると、Intel CPUの半分以上がHyper-Threading化することになる。

●平行して提供される新旧のPentium 4

 「Intel CPUコアの移行予想図」を見ると、それがよくわかる。第2四半期には、Pentium系はストンとHyper-Threading対応へと切り替わる。もっとも、Intelは緩和措置として、533MHz FSBの非Hyper-Threading対応Pentium 4も、新しい周波数は登場しないものの、既存の製品は提供され続ける。少なくとも2003年中は提供される見込みだ。

IntelCPUコアの以降予想図

 「Pentium 4の推移」の図は、各CPUがいつまで提供される予定であるかを示している。矢印が終わる時点で、製品が供給されなくなる。まず、年内にFSB 400MHzが終えんへと向かう。しかし、FSB 533MHzは各周波数帯(2.26/2.4/2.66/2.8GHz)で、完全に平行して供給され続ける。もちろん、HT版のPentium 4 3.06GHzも平行して提供される。

 これにはいくつか理由が考えられる。まず、ひとつはもちろん既存のマザーボード/チップセットのサポートが求められるためだ。特に、大手OEMは、全ラインナップをIntelに同期して一気にインフラ(マザーボードなど)ごと変更ができない。そのため、ある程度は平行して残さざるをえない。もっとも、チャネル市場は一気に新HT Pentium 4+新チップセットへと流れてしまうと思われる。チャネルでは、CPU自体に価格差がほとんどないため、新HT Pentium 4へと流れない理由はない。

Pentium 4の推移

 それからもうひとつは、Springdaleでのシングルチャネルメモリのサポートの問題。ミッドレンジから下のデスクトップPCやスモールフォームファクタデスクトップでは、どうしてもシングルチャネルメモリが求められる。デュアルチャネルメモリだと、マザーボード面積が広くなってしまうのと、ボードコストがアップするためだ。

 Springdale自体は、じつはシングルとデュアルの両対応チップセットで、そうしたデザインも対応できる。しかし、もともとの計画ではSpringdaleもハイエンドから浸透されるつもりだったため、シングルチャネルのデザインガイドが出遅れていると言われる。このあたりの状況は、じつは、各ソースからの情報が相反しており、まだ混沌としている。

□関連記事
【11月19日】【海外】Intel、来年第2四半期にFSB 800MHzのHT対応版Pentium 4を投入
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2002/1119/kaigai01.htm
【10月28日】【海外】「パフォーマンスではIntel CPUを圧倒できるHammer」
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2002/1028/kaigai01.htm

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(2002年11月27日)

[Reported by 後藤 弘茂]


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