●圧倒的に見えるHammerのパフォーマンス AMDは、10月15/16日に開催された「Microprocessor Forum(MPF) 2002」(米サンノゼ)で、サーバー&ワークステーション向けの「Opteron」バージョンのHammerのパフォーマンスを初めて公開した。また、IntelのXeon DPラインとの性能比較も公表した。次がそのプレゼンテーションだ。
2GHz時のOpteronで、整数演算性能のベンチマークSPECint 2000が「1,202」、浮動小数点演算性能のベンチマークSPECfp 2000が「1,170」というスペックは、既存のIntelのどのCPUよりも速い。AMDのプレゼンテーションで見ても、Intelを大きく引き離している(ただし、Intelが現在公開しているPentium 4パフォーマンスチャートでは、このプレゼンテーションより両ベンチの値は高い)。 しかし、AMDが示した図だけでは、Hammerの性能上のアドバンテージは今ひとつ明確ではない。そのため、AMDの図をちょっと補間、つまり、OpteronとXeonそれぞれの、今後2年程度の動きを予想して、性能を推定して比較してみた。それが下の図だ。 方法は極めて単純で、AMDがMPFのプレゼンテーションで示したパフォーマンスカーブを、その比率のままで先へ伸ばした。クロックは、Hammerは0.13μmで最高2.5GHz程度、90nmは3.8GHzと推定している。これは、Athlon XPの周波数からの推定なので、もうちょっと余裕があるかもしれない。一方のXeonは、0.13μmで3.2GHz程度、90nmは4.8GHzと推定。こちらももう少し余裕がありそうだ。また、製造プロセス技術の微細化では、キャッシュ増量などを加味して、5%のパフォーマンスを加えて計算してみた。それが下の図だ。
これは、極めて単純な計算での比較なので、もちろん決して正確な数字ではない。また、SPECベンチマークの値も、コンパイラの最適化やキャッシュサイズなどで大きく変化するため予測が難しい。そもそも、SPECint/SPECfpだと、CPU性能は測れても、実際のリアルアプリケーションの性能はわからない。ベンチによっては、OpteronとXeonが逆転することだってあるかもしれない。 しかし、大まかなトレンドはわかる。少なくとも、クロック当たりの演算性能でこれだけ上回っていれば、Opteronにはある程度の性能アドバンテージを維持できるだろう。特に重要なのは、同じプロセス世代の最高クロック帯での性能で、Hammerが上回るだろうこと。つまり、同じ0.13μmで比較すれば、Hammerの方が性能が高いと見られる。これは、CPUアーキテクチャによる性能向上が、効いていることを示している。ちなみに、OpteronとXeonの性能差は、このチャートだと開いて行くように見えるが、実際には比率は変わらない。 また、このチャートからは、AMDの戦略の根拠も見てくる。例えば、AMDは0.13μm版Hammerのモデルナンバーを最高で4000+にまで持って行くことを、昨年11月のAMD Analyst Conferenceで説明しているが、ここで見てもちょうど2.5GHzレンジのHammerの性能は、Xeon 4GHzに匹敵している。このあたりのシミュレーションから、4000+というモデルナンバー計画が出てきたと推定される。 ●プロセス技術でのリードがIntelの強み では、Hammerは性能面において対Intelでは圧倒的かというと、そういうわけでもない。というのは、製品のスケジュールが大きく異なるからだ。実際に、OpteronとXeonで、どの周波数の製品がいつ出荷されるかを推定して、時間軸に沿ったチャートに置き換えてみる。そうすると様相はかなり変わる。下の図がそうだ。 まず、Opteronは第1四半期の終わりに2GHz以上で登場すると推測される。そして、来年末頃までに0.13μmプロセスのまま2.5GHzレンジまで上がって行くと予想される。90nmプロセスへの切り替わりは、AMDの公式発表では来年後半。しかし、実際に製品が出てくるのは、過去の例からすると、早くても来年末だと思われる。 それに対して、IntelのXeonは来年後半には少なくとも90nm版の「Nocona(ノコーナ)」へと移行が始まる。つまり、少なく見積もっても2四半期程度はIntelの方が90nmプロセスへの移行が早いと推定される。そして、2004年前半には、90nmプロセスでの最高周波数に到達する。 こうしたことを考慮すると、下の図のように、両者の差はかなり縮まる。もし、AMDが90nmプロセスへの移行でもたつけば、さらに遅れることになる。もちろん、これは決して正確なチャートではない。しかし、概論としては、実際の出荷時期で比較した場合にはHammerアーキテクチャの性能上の利点は、薄まる傾向にある。
ここで明確なのは、アーキテクチャで優れても、プロセス技術で遅れを取るとアドバンテージが薄まるという単純な原理だ。AMDは0.18μmプロセスでは、Intelと十分に戦えるだけのスムーズな立ち上がりをみせた。ところが、0.13μmプロセスの立ち上がりは、明らかにIntelに大幅に遅れを取った。90nmプロセスがどうなるのかが分かれ道となる。 ●時間が経てば経つほど薄まるHammerの利点 もっとも、プロセス技術を加味しても、まだHammerのアドバンテージは十分に残ると思われる。しかし、ここに今後のCPUアーキテクチャの拡張や刷新を加味すると、話はもっと複雑になる。Intelは、IA-32系CPUコアを2004年前半は「Tejas(テージャス)」系へ、そして2004年終わりか2005年には「Nehalem(ネハレム)」系へと移行させると予想される。Tejasではアーキテクチャが拡張され、Nehalemでは完全に新しいアーキテクチャになる。そのため、性能は今後2段階でブーストされると思われる。つまり、Intelのパフォーマンスカーブは、上の図よりさらに上に来る可能性が高い。これを加味して、トレンドを示したのが下の図だ。
ちなみに、Tejas系とNehalem系の性能には、まったく根拠がない。“雰囲気”を示すために置いているだけだ。もしかすると、HammerアーキテクチャはNehalemアーキテクチャより、多くのベンチマークで優れるかもしれない。そもそも、Intelは「スレッドレベルパラレリズム(TLP:Thread-Level Parallelism)」を高める方向へと向かっているため、CPU性能の単純な比較はますます難しくなっている。高性能化のアプローチも大きく異なる。例えば、Hammerはメモリインターフェイスを統合してメモリレイテンシを短縮するが、Intelはスレッドを同時並列処理することでメモリ待ちによるCPUのストールを防ごうとしている。だが、原理的に言えば、より多くのトランジスタ数を費やし、より新しい技術を取り入れた新アーキテクチャの方が、性能は高くなる。 もちろん、AMDもアーキテクチャを拡張したり、全く新しいアーキテクチャを導入する可能性はある。しかし、アーキテクチャの拡張や開発には膨大な時間と労力がかかる。Intelでさえ、メジャーなCPUアーキテクチャの開発は4年に1回のペースだ。おそらく、AMDが速いペースで次のアーキテクチャを投入することは難しいだろう。 ●うまく行けば2003年後半からはAMDの季節 そのため、性能という点では、時間が後ろへずれればずれるほどIntelにとって有利になる。もっとも、これは当然の話だ。というのは、両者の戦いはシーソーゲームだからだ。新しいアーキテクチャを出した当初はアドバンテージがあるが、やがてライバルの新アーキテクチャに抜かれる。 ちなみに、CPU世代で見ると、ちょうどAMDとIntelのCPUアーキテクチャの世代交代は、Athlon以降、半世代ずれている。そのため、下の図のように、原理的には、交互にAMDとIntelのアーキテクチャ的に強い時期が来る。両社のCPUアーキテクチャの開発サイクルは4年なので、原理的には2年毎に攻守が入れ替わることになる。 例えば、Athlonの時は、2000年から2001年前半にかけて、AthlonがPentium IIIを追いまくった。これは、AthlonがPentium IIIより、アーキテクチャ世代が新しく優れていた要素が大きい。ところが、2001年中盤になってIntelがよりアーキテクチャ世代の新しいPentium 4で攻勢に出ると、Intelが強くなり、その状況が続いている。原理的には、これを覆すことができるのは新アーキテクチャHammerだけということになる。 こうしたことから明らかなのは、Hammerにとって重要なのは先手必勝ということだ。最初にHammerを高パフォーマンスでガンガン売らないと、勢いを続かせることができない。具体的には、2003年中にHammerにハイパフォーマンスをがっしり印象づけ、2004年に市場を席巻すれば、2004年末頃にNehalemが登場しても、しばらくは持ちこたえられるだろう。逆に、Hammerアーキテクチャが何らかの理由でつまづいたり遅れたりすると、AMDにとってはもっとも有利な時期を失ってしまうことになる。
(2002年10月28日) [Reported by 後藤 弘茂]
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