大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

T1シリーズは、レッツノート「復活3部作」の第2幕!
~松下電器・山田喜彦事業部長に聞く



 松下電器がLet'snoteの新製品「Let'snote Light T1」を発売して約2週間が経過しようとしている。世界最軽量のB5ファイルサイズノートとして投入された同製品は、今年3月に発売された同R1の発売時を遙かに上回る出足の良さを見せているという。

 そして、この製品は「Let'snote復活3部作の第2幕」だともいう。Let'snote事業を指揮する松下電器産業・AVC社システム事業グループ次長兼ITプロダクツ事業部長の山田喜彦氏に、Let'snoteを中心とした同社のパソコン事業戦略を聞いた。


●R1で復活の狼煙をあげたLet'snote

松下電器産業・AVC社システム事業グループ次長兼ITプロダクツ事業部長の山田喜彦氏

 松下電器が、Let'snoteの復活3部作を策定したのは、昨年の夏のことだ。そこには、いくつかの理由があった。第1点目は、松下電器が全社をあげて取り組んでいる「破壊と創造」において、V字回復があらゆる事業部門において必須課題となっていた点が挙げられる。

 松下電器のパソコン事業は、今や同社の基幹となるAVC社に含まれるが、決して主力事業とはいえない存在。だが、海外のパソコン事業において、大きな成果を上げていることはあまり知られていない。

 AVC社の大坪文雄社長も、「当社のパソコン事業は、確実に収益をあげている部門。話題のDVDレコーダー並の合格点を与えられる」と評価するほど。それは、先頃、日本に2台しかないといわれる落下テストのためのシミュレーション機器をパソコン部門が独自に導入したということからも分かる。

 この落下テストシミュレータは、30メートルの高さから落とした時の衝撃を再現するというもの。他の国産パソコンメーカーが導入していないこんな機器を、このご時勢に事業部門独自で導入するだけの余力がある部門であるともいえる。

 欧米向けのパソコンは、「TOUGHBOOK」の名称で、堅牢性の高いノートパソコンとして評価を得ている。軽量化を追求するLet'snoteとは異なった戦略だ。もちろん、日本でも発売されているが、米国のように警察で6割のシェアを獲得、6万台のパトカーに搭載されるといった派手な実績はない。

TOUGHBOOK

 山田事業部長は次のように話す。「堅牢性の高いパソコンという分野においては、全世界の市場シェアの50%を獲得している。だが、V字回復という視点で捉えた場合、日本での事業を立て直す必要性があった。第1ステップを米国での成功とした上で、日本でのパソコン事業を成功させるという第2ステップが、パソコン事業のV字回復につながると考えた」

 山田事業部長は、あえて、Let'snoteに対して「復活」という言葉を使う。「Let'snoteを復活させるためにはどうするか。そのためには、まずターゲットを明確化することが必要だと考えた」

 これまでLet'snoteが低迷を続けた要因を、山田事業部長は、「コンセプトにブレがあったため」と反省する。一部ユーザーには高い評価を得ているものの、「一貫したコンセプトがないこと、継続的にユーザーに満足してもらえる製品を提供できなかったこと」が、国内においては、第3グループに位置づけられるシェアに留まっている要因と見ているのだ。

 それに対して、欧米でのTOUGHBOOKの成功は、堅牢性の高いパソコンという分野に特化し、ユーザーターゲットを「作業服や制服を着ている人、仕事でスニーカーをはいている人」に絞り込んだということが功を奏したと自己分析している。そして、このようなターゲットや利用シーンの明確化が、製品の開発、設計、販売、マーケティングのコンセプトの明確化へとつながっているというわけだ。

 だからこそ、山田事業部長は、Let'snoteの復活に向けた最初の仕事を、「ターゲットの明確化」としたのである。同社が掲げたターゲットは、モバイルノートパソコン分野でナンバーワンシェアを獲得すること。そして、購入者層のターゲットも、ビジネススーツを身にまとう男女とした。

 「もともとLet'snoteは、モバイルパソコンとして高い評価を得ていた製品。だからこそ、その分野で成功しなければならない」今年3月に発売したR1シリーズは、モバイルパソコンとして必要とされる仕様を狙った。山田事業部長が技術部門に提示した目標は、重量で1kgを切ることと、6時間の連続バッテリ駆動時間。

 モバイルで利用する人は様々な道具を一緒に携帯する。だからこそ、パソコンは1kgを切るのが最低条件。そして、カタログスペック上、2時間半や3時間のバッテリ駆動時間では、体験上、使い物にならないことを知っていた。だから6時間を目指した。

 これに対して技術陣は、960g/バッテリ駆動時間6時間のスペックを見事に達成した。重量の面では目標以上の成果だ。

Let'snote Light R1 Let'snote Light T1


●復活劇は、なぜ3部作なのか?

 山田事業部長は、R1の製品化を企画した際に、「復活3部作」のシナリオを描いた。いや、正確にいえば、描こうという姿勢を見せたといった方がいい。というのも、「3部作のコンセプトを打ち出した時には、1作目しか明確な形が描けていなかった」(山田事業部長)からだ。だから、2作目のT1シリーズが投入された現時点でも、実は3部作目の最終章に関して、まだ明確なものが描けていないのが実状だ。

 だが、それでも3部作にこだわった。「松下電器が、本気になってモバイルノートPC分野に取り組んでいくということをユーザーに分かっていただくためには、最低でも魅力的な製品を、立て続けに3製品投入することが必要だと考えたから」だ。

 第2作目のコンセプトには、R1の声を反映することにした。R1を出せば、多くのユーザーの声が集まることを知っていたし、そのための仕組みもウェブ販売サイトのパナセンスなどを通じて構築した。そして、なによりも米国の成功のベースには、ユーザーの声を聞いて、これを製品化に反映するというサイクルがあったという体験が生きている。

 R1を出荷すると、やはり多くの意見があがってきた。そのなかでも多かったのが、キーピッチに対する不満であった。R1ではB5サイズという小型化を優先したために、キーピッチが通常のノートパソコンよりも狭い17.5mmだったからだ。

 Let'snoteの購入者は、複数台のパソコンを所有しているパワーユーザーが多い。こうしたユーザーにとって、タッチタイピングがしにくいキーピッチの狭さが不評だったわけだ。さらに、液晶画面サイズの拡大化などの要望も同時にあがってきた。

 そこで、山田事業部長は技術陣に第2幕の要求を出した。キーピッチは19mm、画面サイズは12.1インチ。5時間以上のバッテリ駆動時間に、999g以内の重量。「単純に計算すれば、R1に比べて百数十gの重量増加となるはず。だが、これをわずか39g増のなかで実現してほしいと要求した」

 その一方で、技術陣に対しては同時にひとつの逃げ道をつくった。それは薄さを追求しないという点だ。もちろん、一定の薄さは必要である。だが、極端な薄さは必要ない。軽量化、省スペース化を実現する一方で、薄さを捨てることで基板上に何層にもパーツを載せることが可能になったのだ。この結果が、T1という製品になって市場に投入されることになった。


●Tablet PCは海外向けだけの出荷に

 話はずれるが、11月7日、Microsoftによって、松下電器産業がTablet PC市場に参入することが明らかにされた。このあたりを山田事業部長に確認してみた。それによると、同社のTablet PC戦略は海外市場に特化したものになるという。

 「作業着を着たり、制服を着て作業する人にとってはTablet PCは極めて有効なデバイスといえる。来年春には、米国市場向けに投入することができるだろう」と説明する。スタイルは、TOUGHBOOKの考え方を継承した堅牢性重視型の製品になる見込みだ。

 ただ、腕力のある米国人といっても、片手で持つことが要求されるTablet PCには、それなりの軽量化も要求される。ここにはLet'snoteの軽量化技術が生かされることになる。

 一方、日本に関しての出荷は、「今のところ計画がない」という。つまり、Let'snoteの延長線上でのTablet PCの製品提供は考えていないことになる。


●3部作の次はどうなるのか?

 さて、話を戻そう。では、3部作の最終章はどうなるのか。先にも触れたように、まだ3作目のコンセプトは決まっていない。山田事業部長は、「T1の購入者の声が少しずつ集まってきている。これをもとに検討を行ない、12月中旬には3作目のコンセプトを決め、技術陣に要求を出すことになる」と話す。

 軽量化の路線、バッテリ駆動時間の追求は捨てないという点だけは明らかで、製品出荷時期は、来年5~6月頃に発売される2003年夏モデルということになりそうだ。

 これまで触れてきたように、3部作では、モバイルノートパソコンとしての松下電器のブランド力を高めるのが大きな狙いとなる。具体的には、年間100万台といわれる市場においてトップシェアをとることが目標だ。「モバイル=パナソニック(松下)=Let'snote」という図式を定着させたいという。

 もちろん、同じAVC社のAV技術を利用したパソコンも投入することは可能だろうが、山田事業部長は、「ターゲットがブレるようなことは一切しない」として、AV機能を搭載したパソコンの投入は視野に入っていないことを示した。つまり、3作目でもAV機能の投入はないといえる。

 それでは、さらに話をすすめて、3部作以降の戦略は果たしてどうなるのか。山田事業部長は冗談を交えてこう話す。「スターウォーズも、3部作のあとにエピソード1が登場したでしょう。きっとLet'snoteも同じことになる」

 なるほど、そうした意味では、Let'snoteの挑戦はまだまだ続くことになるというわけだ。

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(2002年11月21日)

[Text by 大河原克行]


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