■購入したのはバイオU 10月26日、最軽量級のWindows XPマシン「バイオU」の新機種が登場した。 筆者はこれまで、モバイルマシンとしてWindows CE搭載のキーボード付きPDA「sigmarionII」と「ThinkPad i1620」の2機種を使っていた。正直に言えば、筆者はそれら両機種に対して不満はなかった。簡単な作業しかしない場合は、電池の持ちが良く、小さいsigmarionII、複雑な作業が必要な場合はThinkPadと、使い分けていたのだ。 しかしバイオUを見て、ふと1つの考えが生まれた。バイオUの小ささはsigmarionIIと大差はない。Windows XPが動作するので、ThinkPadで行なっていたことは可能だ。つまり、これまで使い分けていた2つのモバイル環境を統合できるのではないか、と。そこでモバイル求道者として有名な(ウソ)筆者としては、新しいバイオUを購入し、新たなモバイル世界を構築することを決断した。 使用期間はまだ2週間程度と短いが、バイオUによって筆者のモバイル環境がどうなったかをレポートしよう。 ■小粒でも、ピリリと辛いバイオU 筆者がバイオUを選んだ最大の理由は、その小ささだ。それまで取材メモとして使っていたsigmarionIIとの置き換えなので、sigmarionIIと同じく、カバンのサイドポケットにも入れられるコンパクトボディーが必須なのだ。たとえば、筆者はしばしば僚誌ケータイWatchの作業のために、撮影セットを持ってインプレスに行くことがある。デジタルカメラから撮影テントまで持参するため、カバンは満杯だ。この状態でさらにノートPCを運ぶ、となると大変だが、sigmarionIIやバイオUならば、カバンのサイドポケットに入れることが可能だ。sigmarionIIとバイオUの横幅はほぼ同じ(実は幅はバイオUの方が小さい)なので、ほぼ同じカバンの隙間に詰め込める。ビクターのInterLinkや富士通のLOOXだと横幅が4cmばかり大きいので、このような持ち運び方は不可能だろう。
このように、sigmarionIIとほぼ同じ感覚で持ち歩けつつ、Windows XPを搭載している「パソコン」であることもバイオUの重要なポイントの1つだ。sigmarionIIはキーボードやIMEが優れていて、文章入力端末としての性能は一級品だが、所詮はWindows CE搭載の「PDA」なので、機能や用途が限定されてしまう。それに対してバイオUならば、デスクトップPCと同じソフトウェアが動作する。エディタからブラウザ、メーラーなど、デスクトップPCで使い慣れたものをそのまま、モバイル環境で利用できるのだ。 バイオUを使っていると、確かにタスク切り替え動作などに「もたつき」を覚えることが多い。使い慣れたデスクトップPCに比べると、さまざまな状況でバイオUが搭載するCPU「Crusoe」の非力さを体感できる。しかし筆者はフォトレタッチなど、とくに処理能力が必要とされる作業は、デュアルLCDのPentium 4搭載デスクトップPCでエレガントに行なうことにしている。主にエディタやブラウザ、メーラーなどしか使わない筆者の利用状況では、バイオUの処理性能に不満を覚えることはあまりない。 ■左右から、ガシっと掴んでバイオU バイオUの特徴的なポイントとして「モバイルグリップ・スタイル」というものがある。マウス操作の「ワイドスティック」を右上、マウスボタンを左上に配置することで、両手で本体を掴みつつ、マウス操作が行なえるというものだ。 家で使っているキーボードの半分以上がIBM製のTrackPoint付きキーボードという、自称IBM右翼の筆者は「ホームポジションのままマウス操作ができないのは断じて不便だ!」……と最初は考えていた。しかし2週間の使用でモバイルグリップ・スタイルに慣れ、考え方がすっかり変わってしまった。 バイオUの場合、ホームポジションはキーボードにあるのではなく、モバイルグリップ・スタイルにあるのだ。モバイルグリップ・スタイルだと、マウス操作はもちろん、ジョグダイヤルによるスクロール操作も行なえる。また、バックスペースキーやファンクションキーが近いので、ブラウザのショートカットも使いやすい。このあたりは、当然ではあるのだが、よく考えられていると感心してしまった。
モバイルグリップ・スタイルでの文字入力に関しては、左手の親指だけで入力する、携帯電話ライクな「Thumb Phrase」という機能も用意されている。予測変換まで用意され、非常に手の込んだ機能なのだが、正直、筆者は使っていない。通常のキーボードのタッチタイピングに慣れた筆者とすると、モバイルグリップ・スタイルで文字入力する際も、両手の親指でキーボード全体を使ういわゆる「HP打ち」の方が入力が速いのだ。 ちなみにキーボード自体は、タッチタイピングがギリギリ可能、というレベル。小さなボディに詰め込んでいるため、キーピッチも狭く、配置も一部わかりにくいが、sigmarionIIで慣れていた筆者には許容範囲内だった。 店頭でバイオUを見たことがある人ならば、その細かすぎるXGA液晶を「見にくい」と感じたかもしれない。細かい文字が辛いと感じる年頃のど近眼な筆者もその1人だ。よほどSVGA液晶で値段を下げた方が売れたのでは……とも思ったものだが、実際に使ってみると、この細かすぎる液晶の搭載に意味があることがわかる。 バイオUはモバイルグリップ・スタイルで使うことを想定している。普通のノートPCなどは机の上に置いて使うので、目と画面の距離が離れているが、バイオUのモバイルグリップ・スタイルだと目と画面が近づくため、細かすぎる液晶でもそこそこの視認性が確保されるのだ。 ちなみに、細かすぎる液晶に配慮し、バイオUにはボタン1つで画面解像度をSVGAに切り替える機能が用意されているが、筆者はそれを使っていない。最近のウェブページなどはXGA表示を前提に設計されていたりするので、SVGAだとたとえ見やすくても、情報量が制限されたりデザインが崩れたり横スクロールが必要だったりと、非常に面倒くさいのだ。XGAの解像度のままならば、デスクトップPCと同じ感覚でウィンドウを配置できるので、わざわざSVGAにする機会はほとんどないといえる。 ■家中どこでもバイオU 筆者はこれまで、家の中でのモバイル端末としてThinkPadを愛用してきた。メインのデスクトップを起動するほどではない用事、たとえばメールのチェックや家庭内サーバー上に撮り貯めたビデオの閲覧などは、コタツの上や枕元にThinkPadを置いて行なっていたのだ。何を隠そう、この「家庭内モバイル」という用途が筆者にとっていちばん重要だったりする。外に持ち歩く機会は週に2回もあれば多い方だが、家の中では毎日必ず使うからだ。筆者は家の中ではバイオUを無線LANでネットワークに接続して使っている。普通の無線LANカードを挿すと、アンテナ部がモバイルグリップ・スタイル時に非常に邪魔になるので、筆者はソニー純正の無線LANカードを購入した。バイオUは有線LANポートを内蔵しているが、個人的には有線LANよりも無線LANを内蔵して欲しかったところだ。 しかし、無線LANカードを挿したところで、バイオUが従来のThinkPadとは比べ物にならないほど、高い家庭内モバイルのポテンシャルを秘めていることに気が付いた。コンパクトなボディとモバイルグリップ・スタイルだ。
たとえば机の上に置くとき。ThinkPadを置くときは、それなりのスペースが必要になる。しかしバイオUならば散らかったままの机の上でも、ちょっとスペースを開けるだけでいいし、あるいはスペースを作らないでも、モバイルグリップ・スタイルのまま使うことも可能だ。もちろん配線は電源のみ(長時間でなければ不要だ)なので、家中どこにでも持っていくことができる。 家の中での持ち運びも、この小さなボディーが役に立つ。他のノートPCだと、片手で運ぶのは少々辛いが、小さく軽いボディのバイオUならば、片手で持ち運ぶことが可能だ。妙に出っ張ったバッテリも、掴みやすさを向上させていてありがたい。 バイオUには「スタンバイボタン」があり、ワンタッチでスタンバイ状態への移行と復帰が行なえる。地味だが、このボタンも家庭内モバイルの使い勝手を向上させている。使いたいと思った瞬間に片手で取り出し、両手でガシっと掴んで使用状態になるという手軽さがバイオUにはある。筆者の場合、家の中では46時中スタンバイ状態のバイオUが待機していて、いつでもどこでも利用できるようになっている。 寝ながら使うのにも、バイオUは有利だ。ThinkPadの場合、枕元に設置してアゴを枕に載せて使うしかなかった。しかし、モバイルグリップ・スタイルの場合は、文庫本を読むように、仰向け状態でも使用が可能だ。この状態ではメール作成は難しいが、URL入力程度なら両親指によるHP打ちで十分だ。つまり、寝ながら雑誌や文庫本を読む感覚でインターネットができるわけだ。 筆者独特な使い方としては、横置きスタイルというものもある。バイオUが横方向に直立するように置き、横寝をしながらその画面を見る、というものだ。この状態でのマウス操作は不可能だが、筆者はこの態勢でサーバーに撮り貯めたビデオを閲覧している。ビデオ閲覧ならば操作は一切不要だし、WMPをフルスクリーン表示させておけば十分だ。 ちなみに筆者はバイオU以前にも、ThinkPadでこの横置きスタイルを試みていた。しかし筆者のThinkPadの場合、右側面には廃熱スリット、左側面にはPCカードスロットがあり、どちらの方向にも横置きができないデザインだったのだ。バイオUの場合、廃熱スリットはヒンジ面と手前にあるため、横置きしても問題はない。非常に細かいが、筆者のように怠惰なPC生活を送るためには重要なポイントだ。Pentium IIIマシンを布団の上で使う勇気はない。 このほかにも、ヒザの上に載せないで済むという点から、モバイルグリップ・スタイルはトイレでの利用も便利なのだが……詳細は割愛する。いや、ホントに便利なんだって。読者諸氏も引かないで試して欲しい。
■買ってよかった、バイオU バイオU。正直言えば、店頭で触ったときは不満だらけだった。思い通りに動かせないポインタ、小型過ぎるキーボード、貧弱なマシンパワー、細かすぎる液晶などなどなど。しかしいったんモバイルグリップ・スタイルに慣れてしまうと、バイオUで重要なのが性能ではなく、使うスタイルだと理解できた。そして筆者は、そのバイオUのスタイルが気に入った。 マシンパワーよりも小ささを優先したボディは、sigmarionIIに慣れている筆者には最適なデザインだ。モバイルグリップ・スタイルはどんな態勢でも使えるので、無線LANのある屋内ならばどこでもインターネットにつなげられる手軽さがある。 万人がバイオUのスタイルを受け入れられるとは思わない。むしろ受け入れられる人はマレだろう。バイオUは他のノートPCなどと比べると、その利用スタイルはあまりに独創的過ぎる。しかし、バイオUのスタイルを受け入れられるならば、独創的なだけにバイオUは唯一のマシンとして「買ってよかった」と思えることだろう。そして筆者は、買ってよかったと思っている。
□製品情報 (2002年11月18日) [Reported by 白根 雅彦]
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