10月1日、AMDはAthlon XPの最新パフォーマンスグレードとなるAthlon XP 2800+(2.25GHz)および2700+(2.16GHz)の2製品を発表することを明らかにした。 AMDは8月にAthlon XP 2600+(2.13GHz)と2400+(2GHz)を発表しているが、今回の製品はそれをしのぐ高性能製品となる。特に、今回はシステムバスのクロックが266MHz(133MHzのDDR)から333MHz(166.6MHzのDDR)へと引き上げられた。実クロックはAthlon XP 2600+から大幅にあがっているわけではないが、実際のパフォーマンスは大幅に向上しているのが大きな特徴だ。 今回は、このAthlon XP 2800+とNVIDIAのnForce2をセットにしたキットなどを発表に先立ち入手したので、そのパフォーマンスなどに迫っていきたい。
今回取り上げるAthlon XP 2800+と2700+のもっとも大きな特徴は、システムバスのクロックが333MHz(166.6MHzのDDR)へと引き上げられていることだ。2800+は2.25GHzだが166.6MHz×13.5=2,249MHz、2700+は2.16GHzだが166.6MHz×13=2,166MHzとなっており、実際のクロックではAthlon XP 2600+(2.13GHz)とさほど変わっていない。だが、システムバスが引き上げられたことで、その分の性能向上が期待できる。 というのも、Athlon XPのプラットフォームでは、メインメモリの方の帯域幅は上がっていたが、システムバスの帯域幅があがらないため、メインメモリの帯域幅が上がった分が有効活用されていなかったからだ。 具体的には、メインメモリの方はVIAのApollo KT333やApollo KT400などでDDR333がサポートされたことで、2.7GB/secの帯域幅を実現していたのだが、システムバスの方は266MHzにとどまっていたため、帯域幅は2.1GB/secにすぎず、メモリに比べて帯域幅が狭いシステムバスがボトルネックになってしまっていた。だが、今回システムバスが333MHzに引き上げられたことでボトルネックが解消され、大きなパフォーマンスアップが期待できると思われる。 なお、今回両製品ともに、Athlon XP 2600+および2400+と同じ、改良版Thoroughbred(リビジョンB)コアを採用している。Thoroughbred Rev.Bコアは、より高クロックでの歩留まりを改善するように手を入れられた改良版コアだ。 CPUIDはAthlon XP 2600+と同じ681で、このことからも同じコアであることがわかる。コア電圧は、両製品ともAthlon XP 2600+と同じ1.65Vで、TDPは2800+が74.3W、2700+が68.3Wとなり、2600+の68.3Wに比べてあがっている2800+はより強力なCPUクーラーが必要になるだろう。 【Athlon XP(CPUID681)のスペック】
さて、システムバスが333MHzになったのはよいが、CPUだけが333MHzに対応しても意味がない。言うまでもなくチップセット側も333MHzに対応している必要がある。これまでAthlon XPのチップセットで、システムバス333MHzを公式にサポートすることを表明してきたのはNVIDIAのnForce2のみだったが、今回の発表にあわせて他のチップセットベンダも333MHzへの対応を明らかにする。 例えば、VIA Technologiesは、すでにKT333の段階で、システムバス333MHzへの対応はすんでいたという。チップセットの製品企画を担当しているVIA Technologies プロダクトマーケティングシニアディレクターのシー・ウェイ・リン氏は、Computex Taipeiの段階で「すでにシステムバス333MHzの設計は終わっている。あとはAMDを待っている状態」と述べるなど、すでにシステムバス333MHzへの対応はチップセットレベルではすんでいることを明らかにしている。 つまり、いつでも333MHzのサポートができる体制にあったと言ってよい(SiSもSiS746FXというシステムバス333MHz対応チップセットを計画している)。ただ、今後登場するnForce2マザーボードはともかく、すでにユーザーの手元にあるKT333マザーボードやKT400を搭載したマザーボードで、システムバス333MHzが利用できるかどうかは必ずしも明確ではない。このあたりは、今後各マザーボードベンダがどのようなアナウンスを行なうかを待つ必要があるだろう。 なお、今回テスト用に調達したAthlon XP 2800+は、ASUSTeKのnForce2搭載マザーボードであるA7N8Xとセットになっていた。nForce2に関しては、すでに7月に行なわれた発表会のレポートでお伝えした通り、単体版のnForce2-STと、GeForce4 MX相当のグラフィックスコアを統合したnForce2-GTの2ラインナップが用意されているが、A7N8XにはnForce2-STつまりグラフィックス機能のないタイプが搭載されている。 A7N8Xは3つのメモリスロットを搭載しており、2枚1組で挿した時にはデュアルチャネルで利用可能になっており、DDR333利用時には帯域幅が5.4GB/secに達することになる。なお、nForce2の発表時には、DDR400の利用も可能と説明されていたが、筆者が試した限りではDDR400では起動しなかった。 AGPスロットはAGP 3.0で規定されたAGP 8X(2.1GB/sec)をサポートしている。サウスブリッジも新しいMCP-Tが採用されており、内蔵されているLANコントローラは従来のNVIDIA製のMACに加えて、3ComのMACも内蔵されている。 実際にA7N8Xでは、2つのLANポートが標準で搭載されており、例えば標準でPCをルーターやゲートウェイとして使うなどの使い方が考えられる。さらに、新たにIEEE 1394、USB 2.0などの機能もサポートされている。 また、従来のMCPと同じように、ドルビーデジタルのエンコーダが標準で搭載されており、3Dゲームなどで3Dサラウンドをデジタルで楽しむなどの使い方も可能であり、A7N8XにはI/Oパネル部にデジタル端子も用意されている。 なお、今回提供されたシステムからCPUをはずすことはできなかったため(はずさないという約束で機材を入手したため)、nForce2自体の評価は特に行なっていない(他のチップセットにおいて、同じCPUで計測することができなかったため)。今後nForce2を搭載したマザーボードを単体で手に入れることができ次第、nForce2の評価は別途行なっていきたい。
それでは、実際にベンチマークプログラムを利用して、Athlon XP 2800+およびAthlon XP 2700+のパフォーマンスを調べていこう。 今回テスト用の機材として用意したのは、前述の通りAthlon XP 2800++nForce2(A7N8X)と、Athlon XP 2700++KT333(EP-8KHA3+)の2つで、いずれも両CPUに対応した最新BIOSが採用されていた。メモリモジュールはDDR333を搭載したPC2700(2-3-3)を利用している。 比較対象として用意したのは、Pentium 4+Intel 850E+PC1066、Pentium 4+Intel 850E+PC800、Pentium 4+Intel 845G+DDR266という組み合わせと、Athlon XP+KT333+DDR333という組み合わせで、CPUとしてはPentium 4がNorthwoodコアで2GHz以上、Athlon XPは2000+以上のグレードを用意した。 ベンチマークプログラムは、筆者が本連載で通常利用しているもので、オフィス文章作成の生産性(SYSmark2002/Office Productivity)、コンテンツ作成(SYSmark2002/Internet Contents Creation、TMPGEnc Plus V2.5)、3D(3DMark2001 Second Edition、Quake III Arena、Viewperf V7、Comanche 4)、Web(WebMark2001/B2C)という4つのジャンルのそれぞれのテストだ。 なお、今回は掲載しているCPUの数が膨大になっているので、すべての結果を載せるのが難しく、一部グラフにしていないデータもあることをお断りしておく。興味があるユーザーは別途結果を掲載しておくので参照して欲しい。環境は以下の通りで、結果はグラフ1~7の通りだ。 ■ベンチマークテスト環境
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【グラフ1】SYSmark2002/Office Productivity |
【グラフ2】SYSmark2002/Internet Content Creation |
【グラフ3】TMPGEncフレームレート |
【グラフ4】3DMark2001 SE/640×480ドット/32bitカラー(DXTC有効) |
【グラフ5】Quake III Arena/640x480ドット/32bitカラー |
【グラフ6】Comanche 4/640×480ドット/32bitカラー |
【グラフ7】WebMark2001/B2C |
こうした結果から、Athlon XP 2800+は、概ねPentium 4 2.80GHz+DDR266は上回るパフォーマンスを持っているということができるだろう。ただし、Pentium 4のチップセットとしてIntel 850Eを利用し、メモリにPC800ないしはPC1066というDirect RDRAMを利用した場合には、Pentium 4の方が高いパフォーマンスを発揮したということを付け加えておこう。
●課題は“発表”ではなく“出荷”すること、実際の出荷は11月、大量出荷は来年
さて、以上のようにAthlon XP 2800+のパフォーマンスは、Pentium 4 2.80GHz+DDR266を概ね上回っており、AMDのハイエンドCPUとして十分なパフォーマンスを持っていると言える。
ただ、指摘しておきたいのは、これが“発表”であり、“出荷”ではないということだ。AMDではAthlon XP 2800+、2700+の製品出荷は11月であると説明しており、エンドユーザーの手元に届くのは“選択された(Selected)”OEMメーカーから11月に出荷され、大量出荷は2700+が今年の末、2800+は来年になってからとしている。8月に発表されたAthlon XP 2600+や2400+が、未だに搭載されたPCも、CPU単体でも販売された実績が日本ではないこと(原稿執筆時点、9月30日)を考えると、それらの後継製品となる2製品がそのようなスケジュールになるのも致し方ないところだろう。
だが、確かにAthlon XP 2800+はPentium 4 2.80GHz(+DDR266)に匹敵するパフォーマンスを発揮するかもしれないが、現時点では実際にユーザーの手元に届く物がないのだから、製品として存在していないのと同じである。発表日(場合によっては発表より前)に秋葉原をはじめとするPCショップの店頭に大量の製品が並んでしまうPentium 4とはかなり大きな差がついていると言わざるを得ない状況だ。
実際に、Intelは第4四半期中にPentium 4 3.06GHzをリリースするとすでに明らかにしており、実際両製品が出回る頃(それも予定通りに行っての話だが)にはPentium 4は3GHzを超えており、再びモデルナンバーにおいても差がつけられる状況となる可能性が高い。
今、AMDに求められていることは、こうした新グレードの発表ではなく、すでに発表した製品をまず潤沢に出荷することだ。一部のOEMメーカーには出荷されているのかもしれないが、リテール市場に製品が回ってこないということは、やはり製品が潤沢であるとは考えにくい状況だ。まず、AMDはこの状況を何とかすべきであり、その後で次の製品に取りかかった方が、結果的にAMDにとってもよい方向にいくと思うのだが、いかがなものだろうか。
エンドユーザーとしては、競争が激化し、より高い処理能力のCPUをより早く手に入れられることは、素晴らしいことだし素直に歓迎したい。だが、それも実際にエンドユーザーの手元に届かなければ“絵に描いた餅”なわけで、ぜひともAMDにはがんばって頂きたいものだ。
□バックナンバー(2002年10月1日)
[Reported by 笠原一輝@ユービック・コンピューティング]