第173回:ポストCFを求めて選んだメモリストレージ


 もう2年以上前の話になるが、読者からCFの速度に関する悩みをメールで受け取ったことがあった。当時はまだ大容量のCFは高価で、デジタルカメラへの添付メモリカードは8MB、店頭での売れ筋も32MB程度だった。速度面で、それほど問題となるほどの容量ではない。しかし、ATAハードディスクのエミュレーションを行なうコントローラ部のスループットやフラッシュメモリ自身の速度が遅く、製品によりその差が大きかったため、より大きな容量を求めるユーザーにはCFの速度は大きな関心事だった。

 時代は変わって1GBのmicrodriveが2万円台前半で入手可能になり、512MB以下ならばCFも手頃な価格に落ち着いている。1GBクラスが当たり前になる日もそう遠くはないだろう。そして容量の増加と共に、速度の問題も本格的に考えなければならなくなってきた。


●ISA時代を引きずるCFの限界

 CFの転送速度問題は、冒頭でも述べたように、どちらかといえばATAエミュレーションを行なうコントローラや、フラッシュメモリ自身の速度に左右される部分が大きかったように思う。しかし、それも十分に速度アップが図られ、CFの規格いっぱいにまで近づいている。

 ご存じの方が多いと思うが、CFは基本的にミニアチュア版のPCカードとして設計されている。CFのPCカードアダプタが安価なのは、PCカードの配線をほとんどそのままコネクタ変換しているだけだからだ。データスループットに関しては、PCカード=CFと考えてかまわない。

 「いや、PCカードにだってIEEE 1394やUSB 2.0などの高速カードがあって、十分に高速に動作しているじゃないか」と思う人もいるかもしれない。確かにその通りだが、それら高速性を要求されるPCカードは、CardBusという規格で設計されている。CardBusは元々のPCカードを拡張し、ひとつの端子に2つの信号をマルチプレックス(重畳)することで、PCIをベースにしたプロトコルでの通信を可能にした規格。このため、32bit 33MHzのPCIと同じデータスループット(133MB/sec)が実現されている。

 これに対してCFは、オリジナルのPCカードに忠実なプロトコルとなっており、CardBusと同等の高速規格は策定されていない。CardBusは信号のマルチプレックス化と高クロック化を行なうため、オリジナルに比べてアース強化が行なわれている(CardBus対応カードの端子近くにある端子板がアース)ものの、ピン数などは同一であるためCardBus互換の高速CFも規格として作れないことはないと思うが、そうすると新しい規格として新たにデバイスを普及させねばらならず、CFに内蔵するATAエミュレーションコントローラの速度も高速化しなければ高速性を活かせない。小型デバイスでのニーズなども考えれば、コスト面を考えても、新しいCFを立ち上げるメリットはビジネス的にあまり無いとの判断があるのかもしれない。

 ではオリジナルのPCカードは、どの程度の帯域があるのだろうか? 実はPCカードのバスプロトコルは、当時業界標準だったISAバスをベースとしている。ISAバスの転送速度は規格上の値で5.3~8MB/sec。実効速度では毎秒2~4MB/sec程度しか出ない。これをbit単位に換算すると16~32Mbpsということになる。実際の転送ではATAエミュレーションやフラッシュメモリの遅延なども積み重なる。現在の高速と言われるCFメモリカードは、規格上の限界に来ていると言っていいだろう。

 速度面では決して最速ではないが、筆者が使っている1GBのmicrodriveいっぱいに書き込んだ写真をPCに転送しようとすると、PCカード経由でおよそ20分ほどの時間がかかってしまう。たとえこれが将来的に1.5倍になったとしても、たかが知れたものだ。(製品化は結局行なわれていないが)CardBusのコントローラでCFから限界ギリギリの速度でデータ転送を中継するアダプタ( http://www.lecs.co.jp/oem-w/z_cf32.html )もあったが、CFそのものの限界を超えた速度を出すことはできない。開発元によると、それなりに高速化は可能だが、得られる効果とコストのバランスが伴わないため、製品化が進まなかったという。

 CFはフォームファクタが大きい上に汎用性が高く、さらにPCにも馴染みやすい仕様であるため、数多くの便利なデバイスも生み出してきた。CFカード型のPHS通信端末や無線LANインターフェイスなどは、その最たるものだろう。もちろん、フォームファクタの大きさは、メモリカードとして利用する場合の容量面でのメリットももたらす。だから、コネクタ仕様などの古くさい部分には目をつぶって、CF型のデバイスを使い続けてきた。

 しかし、これだけ利用実態とインターフェイスとしての性能が遊離してくると、別の仕様への移行を考えざるを得ない。小型の汎用モジュール向けとしてCFは今後も使われ続けるだろうが、メモリストレージとしてのCFはそろそろ限界だと思う。


●ポストCFとして期待するSDメモリーカード

SD-CF変換アダプタ 松下電器「BN-CSDABP3」
 ではポストCFとして、どれを使えばいいものか。CFの速度的な限界は、すでに2000年にEOS D30を購入した頃から感じていたのだが、それに代わるものをこれまでは見つけられずにいた。ポストCFとして有力だったのは、メモリースティックとSDメモリーカードだったが、いずれも今すぐに乗り換えるほどの魅力を感じなかったためである。

 そこへ発売されたのが、今年2月の256MB、512MB版SDメモリーカードと、今年7月のSD-CF変換アダプタである。SD-CF変換アダプタに関しては、本サイトの買い物山脈でも購入の報告があったアイテムだ。

 基本的に僕自身は、メモリースティックとSDメモリーカードに対して中立の立場で動向を見守って来たが、現在のSDメモリーカードはメモリースティックに対していくつかの大きなアドバンテージがある(もちろん、そのアドバンテージが今後覆される可能性もあるが)。

 ひとつは容量。メモリースティックもSDメモリカードと同等の容量を実現できる仕様ではあるものの、現実として発売されている最大容量のカードは、メモリースティックの128MBに対してSDメモリーカードは512MBもある。またメモリースティックは小型デバイスへの実装を考慮してDuoを発表したが、その容量はさらに小さくなる。SDメモリーカードならば、ひとつのフォームファクタでほぼ全ての製品レンジをカバーできるだろう。

 もうひとつはPCでデータを読み書きする際のインターフェイス。SDメモリーカードはPCI接続のインターフェイスチップがSDメモリーカード賛同ベンダーに広く採用されているが、メモリースティックは今のところUSB 1.1接続のインターフェイスしか出回っていない。今後、PCI接続やUSB 2.0対応に対応したチップが使われるようになれば、VAIOシリーズのメモリースティックスロットも高速化されるだろうが、少なくとも今年年末商戦向けのVAIOシリーズにはUSB 1.1接続のスロットしか装備されていない。

 そしてメモリカードとして利用した場合の転送速度である。128MBまでの世代では、メモリースティックの2.4MB/secに対してSDメモリーカードの2MB/secと、若干、メモリースティックの方が上回っていた。しかし、SDメモリーカードはすでに第2世代となる256MB以上のカードで、10MB/secの転送モードをサポートしている(次の世代ではさらに高速化される予定)。実際の読み書き速度は、フラッシュメモリ自身の速度に依存するがこの差は非常に大きい。

 最後にSD-CF変換アダプタの存在。これによって、我が家にあるCF対応のデジタルカメラはすべてSDメモリーカードを利用可能になる。Windowsで利用した場合の問題からドライバの配布という事態にはなったが、それを差し引いてもメリットの方が大きい。プロトコル変換チップのスループットは最大で3.3MB/secというから、速度を損なう心配もほとんどない。

 実はこの変換アダプタが発売されたら、すぐに買ってしまおうと思っていたのだが、CFと比べ2倍近い容量単価から、ズルズルと9月まで買わずに過ごしてきた。しかし、実際にSDメモリーカードの高速転送の恩恵を受けているところを見て、いよいよ買ってしまったというわけだ。

 筆者の使っているDynabook SS SシリーズにはPCI接続のSDメモリーカードスロットがあるため、1GBのmicrodriveと比較すると約2.3倍でデジタルカメラのデータを取り込むことができている。海外取材で数100枚単位の写真を扱わなければならないことも頻繁にあることを考えると、2倍以上の速度アップは非常に有り難い。ついでにEOS D60での書き込み速度も、microdrive時よりも多少高速化された。


●まだまだ決着を決めるには早いが

 メモリースティックとSDメモリーカード、それにそのほかの規格や、今後登場の可能性がある新しい規格も含め、メモリストレージとそこから派生するI/Oデバイスのデファクトスタンダードは、まだまだ決着が付く段階ではない。いや(ユーザーとして望むものではないが)デファクトスタンダードなど決まらずに、ずっと併存していくのかも知れない。

 ただ、現時点でSDメモリーカードへと風向きが向いているようには感じざるを得ない。ただソニーにはデジタル家電でメモリースティックを推進するベンダーとしての責任もあるだろう。新タイプのメモリストレージを提案し、その後も牽引してきたのは、ソニーであるという自負もあるかもしれない。

 エンドユーザーは、その決着を見極めるまで待つことはできない。デジタル家電中心で選択するとき、メモリカードの種類ではなく製品そのものの魅力で選ぶ人がほとんどのハズだが、PCでの使い勝手を中心に大容量ストレージとして捉えた僕は、現時点でSDメモリーカードを選ばざるを得なかった(そもそも、メモリースティックはCFよりも長辺が長いため、CFアダプタという決め手となるデバイスも存在し得ない)。今後のことはわからないが、当面はSDメモリーカードを重視したモノ選びを個人的にはしてみたいと思う。


□関連記事
【8月26日】【買い物】CFサイズのSDメモリーカードアダプタ
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2002/0826/kai06.htm
【9月5日】松下、CFサイズのSDカードアダプタに不具合
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2002/0905/panasonic.htm
【6月3日】ソニー、メモリースティックDuoを7月に発売
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2002/0603/sony.htm

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(2002年9月24日)

[Text by 本田雅一]


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