第174回
メモリストレージデバイスとしてのCFを諦めた理由



 (メモリストレージとしての)コンパクトフラッシュの速度に見切りをつけて、SDカードへとシフトしていこうと思う。そんな話を先週お伝えしたが、メーカー系技術者という読者から「コンパクトフラッシュのTrueIDEモードなら、速度の壁は無いも同然では?」という指摘を受けた。CardBus対応のCFアダプタ「CF-32( http://www.lecs.co.jp/oem-w/z_cf32.html)」の話を出しておきながら、TrueIDEに関して何ら触れなかったのは、僕自身の完全なミスだ。

 そこで今回はCFのTrueIDEモードとモバイルPCの関係について話を進める。

●TrueIDEモードとは?

 コンパクトフラッシュは、もともとSanDiskが開発したフォームファクタだが、現在は業界団体のCompactFlash Association( http://www.compactflash.org/ )が仕様策定などを行っている。元々はフラッシュメモリのみをサポートしていたが、その後I/Oデバイスやハードディスク、フォームファクタの拡張(Type 2)などが次々に行なわれ、その後、'99年にCF+V1.4となって仕様統一されている。

 TrueIDEモードとはCF+V1.4の時に追加された仕様で、CFの50ピンコネクタにIDEインターフェイスの40本の信号ラインを割り当てたものだ。元々はPCカードの追加仕様として定義されたもので、それをCFにも持ち込んだものである。従ってTrueIDEモードで動作するCFはIDEで接続した場合と同じ機能、性能を得られる。

 つまり、ホスト側のコントローラが高速なATA転送モードをサポートし、かつCF側がその転送モードをサポートしていたならば、PC内蔵のハードディスクと同様の高速転送が可能になるわけだ。コネクタの特性などの関係もあるためATA/DMA 133までサポートできるかどうかは定かではないが、少なくとも数MB/secの世界から数10MB/secのレベルにまで、現在の仕様のまま高速化を図れることになる。

 たとえば僕が使っている1GBのmicrodriveの場合、ATA-4準拠で最高毎秒13.3MBまでの速度が出るとスペックには書かれている。またメディア転送速度は最大で59.9Mbit/secとのことなので、最高速で動作すれば先週お話したような「1GB分の写真を取り込むのに20分」なんて時間はかからないわけだ。各種オーバーヘッドや記録位置による転送速度の落ち込みなどを考慮しても、少なくとも2倍以上の速度でコピーできてもいい。

 ところが、実際にはどのノートPCのPCカードスロットで読み込んでも、そんなに高速では転送できない。なぜなら、TrueIDEモードはPCカード互換の他のモードとは同時にサポートできないためだ。

●CFスロットのサポート事情

 CF+ Specification V1.4によると、TrueIDEで利用する際には「CFカードはPCカードモードに加えてTrueIDEモードもサポートできる。ホスト側のOutput Enableラインがアースに落とされている時のみ、TrueIDEモードで動作が可能になる。ただしPCカード互換モードとTrueIDEモードは同時に使用できない」と書かれている。

 つまりCFカード側はPCカード互換モードとTrueIDEモードの両方を実装できるが、どちらで動作するかはカードが挿入された時にホスト側の信号ラインを見て決めている。すなわち、ホスト側はあらかじめPCカード互換かTrueIDEなのか、仕様を決めて待ちかまえていなければならない。

 ネゴシエーションの方向が逆ならば、つまりホスト側がカードの種類を判別して動作モードを決める仕様であれば、ひとつのカードスロットでPCカード互換とTrueIDEの両方をサポートできただろうが、この仕様では両サポートを行なうのは(不可能ではないが)難しくなる。あらかじめ手動で切り替える方法ならば、サポートできなくもないが、少なくとも自動的に切り替えることはできない。

 さて話をV1.4仕様に戻すと、TrueIDE以外の動作モードとして、メモリカードとして動作する場合のPC Card Memoryモード、PC Card I/Oモードの2つが定義されている。先週お話した16bit PCカードの帯域限界はこの2モードに相当するわけだ。この2つのモードはPCカードと互換性があり(先ほどからPCカード互換モードと書いているのは、この2つを同時に指している)、PCカードの信号ラインをCFコネクタに正しく接続するだけで動作させることができる。PCカード用のCFアダプタはこのタイプと思って間違いない。

 両方を同時にサポートするのが難しいとなれば、どちらかを選択しなければならない。ノートPCにはIDEコントローラもPCカードコントローラも内蔵されているため、どちらをサポートしてもさほどコストに違いはないはずだ。しかし古いフラッシュメモリはもちろん、現在数多く使われている通信カードやLANカードなどのI/Oデバイスとの互換性を取るのか、一部で不足し始めている転送速度性能を取るのかは自明だろう。また、IBM ThinkPad X20シリーズをはじめ、CFスロットをサポートするノートPCのほとんどはTrueIDEとの互換性を持っていない。

●用途の違い

IBM PalmTop PC110

 “ほとんど”と書いたのは、ごく一部の機種はTrueIDEをサポートしているからだ。よく知られているところでは、IBMのPalmTop PC110がある。ただし、TrueIDEサポートを明言しているわけではない。PC110は起動に内蔵フラッシュメモリ(実は中身はCF TYPE I)を利用するが、実はこれがTrueIDEと同様のモードで動作している(ただし、当時のCFにはTrueIDEは定義されていなかった)。

 これはTrueIDEにすることで、カードデバイスからPCの起動が可能になるから。TrueIDEは高速化のためではなく、元々、メモリカードやカード型ハードディスクを内蔵ハードディスクと同等に扱うために考えられた。

 入手製の良いPCカードあるいはCFのハードディスクやフラッシュメモリなどを用いて起動させたい組み込み機器や、PC110のような小型PCではTrueIDEは便利なのだが、モバイル向けPCの限られた筐体内空間を使ってTrueIDE専用スロットを設けるというのは、あまり現実的な話ではない。

飛鳥 Tripper

 ただし、ノートPC内蔵のメモリカードスロット以外ならば、様々なところでTrueIDEモードは活用されている。冒頭でも述べた(製品化はされなかったが)CF-32もその一つだし、よくあるUSBコンパクトフラッシュリーダの多くも、USB-ATA変換チップからの信号をそのまま接続してTrueIDEモードで動作するものが多いようだ。また空いているIDEチャネルを接続するタイプのデスクトップPC用CFカードリーダが数千円で販売されていることがあるが、これもTrueIDEモードで動作する。このほか、CFから画像を読み出してハードディスクに記録してくれる飛鳥のTripperも、どうやらTrueIDEモードをサポートしているようだ(Tripperの情報は読者からいただいた。microdriveの内容1GB分を約10分ほどでコピーできるという。情報提供に感謝)。

 さらに将来に目を向けると、現在ポータブルUSB 2.0対応ハードディスクで使われてるUSB 2.0-ATA変換チップのコストが下がり、フットプリントも小さくなればUSB 2.0とTrueIDEに対応したポータブルタイプのカードリーダが登場するだろう。

 ただ、カメラの画像はほとんど外出先で読み出すという僕自身の使い方を考えると、ノートPCに内蔵されるかどうかが、個人的には非常に大きな問題なのだ。512MBのSDカードを購入し、片足をSDに突っ込んでしまったこともあるが、やはりCF型のストレージからは徐々に距離を置くことになると思う。


□関連記事
【9月24日】【本田】ポストCFを求めて選んだメモリストレージ
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2002/0924/mobile173.htm
【6月6日】飛鳥、CFスロットを装備した20GBポータブルストレージ
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2002/0606/aska.htm

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(2002年10月1日)

[Text by 本田雅一]



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