●「ストレージ」がIDFの影の主役?
4日間にわたって開催されるIDFは、キーノートやテクニカルセッションだけでも膨大な数にのぼり、とても一人ですべてをカバーできるものではない。しかも、これらに加えてプレス向けのブリーフィングなども用意されるから、なおさらIDFの全貌を把握するのは困難である。おのずと取材する人間により、IDFで受け止めるメッセージ、あるいはキーワードは異なってくることが避けられない。もちろん、誰もが明らかに感じるキーワードというものもあり、今回のIDFの場合、それはBaniasでありHyper-Threadingであり、PCI Expressであるわけだが、筆者にとっては「ストレージ」もキーワードとして強く意識させられた言葉だった。
半導体メーカーでありディスクメーカーでないIntelがストレージというと奇異に感じられるが、実際にはIntelは有数のディスクインターフェイスチップメーカーでもある。大半はチップセット内蔵という形をとるため、普段あまり意識しないが、これは紛れもない事実だ。サーバー用のディスクI/Oに関しても、サーバーボード(サーバー用マザーボード)あるいはRAIDコントローラなど、チップレベル、カードレベルを問わず大きな影響力をもっている。今回のIDFでストレージが目立つ結果となったのは、クライアント分野でいよいよSerial ATAが製品としての姿を見せ始めたことに加え、Intelがサーバー分野のストレージソリューションに力を入れ始めたことが理由として挙げられる。現在サーバー向けのストレージ、特にネットワークストレージは、サーバー本体をしのぐ成長を見せている有望分野でもある。
●クライアント向けではSerial ATA対応がいよいよ本格化
まずクライアント向けのSerial ATAだが、今回初めてSerial ATAホストコントローラ機能を備えた製品レベルのIntel製マザーボードが展示された(写真1)。会場の展示パネルでは「Intel's Next Enthusiast Desktop Board」と紹介されていた(写真2)が、どうやらD845PEBT2というマザーボードのようだ。以前、筆者のコラムで紹介したことのあるD845EBTの後継で、チップセットが現行の845Eから、DDR333対応の845PE(10月発表予定)に変更される(North Bridgeチップは取り外しのきかないヒートシンクで、South Bridgeチップはテープで、それぞれ型番がガードされていた)。
【写真1】Serial ATA対応のIntel製マザーボード「D845PEBT2」 | 【写真2】Intel's Next Enthusiast Desktop Boardの文字が |
【写真3】Silicon Image製のSerial ATAコントローラ(Sil3112AC) |
D845EBTは、オンボードにパラレルATAによるRAID機能(コントローラはPromise製)、S/PDIF出力をサポートした6チャンネルオーディオ、ステレオマイクをサポートしたSoundMAX Cadenza、IEEE 1394のサポートといった機能満載の、おおよそIntelらしくないマザーボード。いわゆるBOX売りはされず、Micron PCなど限られたOEMにのみ出荷されている。
D845PEBT2は、D845EBTのPromise製パラレルATAコントローラを、Silicon Image製のSerial ATAコントローラ(Sil3112AC、写真3)に変更したもので、2ポートに2台のSerial ATA対応ハードディスクを接続しRAID 0/1をサポート可能になっている。Serial ATAコントローラのSil3112ACは、PCIバスに接続されるスタンドアロンのコントローラであり、845PEチップセットにSerial ATAホストコントローラ機能が内蔵されているわけではない。
なお、残念ながらD845EBT同様、D845PEBT2も現時点では「Selected Cutomer」向けの出荷が決まっているだけで、Box版のチャネル販売は未定のようだ。このD845PEBT2は、展示会場のあちこちで目についた。
●サーバー向けではIntel純正Serial ATA RAIDカードも
このSerial ATAは、サーバー向けのストレージでも大きな役割を果たすことになりそうだ。これまでのIDFでもSerial ATA対応のRAIDコントローラが展示されていたが、サーバー向けの仕様拡張を定めたSerial ATA IIフェーズ1(コマンドキューイングのサポート、ホットプラグの強化、フェイルオーバーサポートなど)のリリースにともない、この動きが加速しつつある。最も顕著な動きとしては、Intel自身がSerial ATA対応のRAIDコントローラカード(SRCS14L)を発表したことが挙げられる。
SRCS14Lは、4台のハードディスクとRAID 0/1/10/4/5をサポートした64bit/66MHz PCIバス対応の製品。オンボードにI/Oプロセッサ(IOP303)と64MBのECC付きPC133メモリを搭載する。この製品の用途としてNASなどを意識しており、Low Profile仕様となっている。なお、このSRCS14Lと同時にUltra 320 SCSI対応のSRCU42L、マザーボード上のSCSIホストアダプタにRAID機能を付与するゼロチャンネルのRAIDコントローラSRCZCR、Fibre Channel(FC2 AL)対応のSRCFC22シリーズも発表されたが、FC2 AL対応製品を除き、みなLow Profile仕様である。1Uや2Uといった高密度実装サーバーを強く意識していることは間違いない。
●低電圧版Xeonのユニークな位置づけ
低電圧版Xeon |
1Uや2Uのサーバーで常に問題になるのが発熱である。この問題に答えるようにIDFの直前にIntelは低電圧版のXeonプロセッサを発表している。1.6GHz動作で、TDPが30W以下のこのプロセッサが真にユニーク? なのは、これがこれまでXeonプロセッサを扱ってきたEnterprise Platform Group(EPG)の製品ではなく、通信関連のチップを扱ってきたIntel Communications Group(ICG)の製品である、ということだ。ブレードサーバーなど高密度実装が求められるサーバーを望んでいるのが通信関連業界であるため、通信関連業界を顧客に持つICGが低電圧版Xeonプロセッサを売った方が良い、という判断が下されたことになる。
これに伴い、前回のIDFではEPGのロードマップにあったサーバー向けのBaniasは、ロードマップから消えてしまった。これはサーバー向けのBanias自体が消えたのではなく、ICGのロードマップにサーバー向けのBaniasが加わるわけで、Intel全社として考えれば、サーバー向けのBaniasや低電圧版のXeonを売っていくことに変わりはない。
ただし、EPGの顧客であるコンピュータ業界と、ICGの顧客である通信業界では求められるサポートが異なる。前者で期待されるサポート期間が5年程度である代わりにアグレッシブな価格戦略が求められるのに対し、後者ではアグレッシブな価格より15年といった長期に渡る安定供給が求められる。こうした顧客の違いにより、長期的には供給するプロセッサに今までとは違う傾向が生じる可能性はあるだろう。
□IDFのホームページ(英文)
http://www.intel.com/idf/us/fall2002/
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~意欲的なIntel製マザーと次世代Windows
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2002/0613/hot205.htm
(2002年9月13日)
[Text by 元麻布春男]