元麻布春男の週刊PCホットライン

反RDRAMのMicron台頭に見るIntelのメモリサポート事情
~DDR400回避でかつての敵と利害が一致?


●メモリロードマップセッションの異変

 ほぼ毎回のIDFで、必ずといってよいほどフィーチャーされているのが、メモリロードマップのセッションだ(ここ数年のIDFで1回だけなかったように思うが)。過去においてメモリロードマップのセッションでは、PC133 SDRAMサポートの有無、RDRAMのサポート、RDRAMからDDR SDRAMへの事実上の路線変更など、多くのエポックメーキングなトピックが飛び出している。

 さすがにDDR SDRAMをメインストリームのメモリと定めてからは、物議をかもしだすような話題が飛び出すことはないわけだが、今回も驚くことが1つあった。それはDRAMベンダのセッションを受け持ったのがMicron Technologyであったことだ。


●Micronの台頭から透けて見えるIntel内の対立

 メモリロードマップセッションの典型的なパターンは、まず最初にIntelが自らの考えるメモリロードマップを明らかにするセッションがあり、引き続いてDRAMベンダのセッションがある、というものだ。要は、Intelがメモリロードマップを発表し、それをDRAMベンダが支持するという形式である。したがって、後半に登場するDRAMベンダがどの会社か、ということには、たぶんに政治的な思惑が込められており、少なくとも今まで、Intelのメモリロードマップに反対するDRAMベンダが登場することはなかった。

 具体的に言えば、ここしばらく、DRAMベンダとして登場してきたのは、Samsung、NEC(エルピーダ)、東芝といったベンダで、つまりはRDRAMの量産を行なっていたベンダばかりだった。逆に、RDRAMの量産に最も頑なに反対し続けてきたMicron TechnologyがDRAMベンダのセッションに登場することなどあり得なかったわけだ。また、メインストリームのメモリとしてDDR SDRAMを採用すると決定した後の前回(2002年春のIDF)でも、DRAMベンダのセッションを受け持ったのは、最大手にしてRDRAMとDDR SDRAMを含む全種類のDRAMを手がけるSamsungだったのである。

 RDRAMとDDR SDRAM間の対立は、言い換えればRambusとMicronの対立であり、それはIntelとMicronの対立という側面もあった。と同時に、Intel内部にもRambusを支持する勢力と、それに否定的な勢力があったように思われる。それを象徴するかのように、一時期IntelのIntel Architecture Groupには2人のトップが存在した。1人は開発部隊を統括するAlbert Yu副社長であり、もう1人がマーケティング部門を率いるPaul Ottelini副社長だ(肩書きはいずれも当時)。Yu副社長に代表される技術部門がRambusを支持したのは、RDRAMの純粋に技術的な優位性を考えれば納得がいくし、Ottelini副社長に代表されるマーケティング部門がIntelだけがRambus支持で突出することを懸念したことも理解できる。

 この路線対立は、最初のRDRAM対応チップセットであるIntel 820のリリース遅延、820ベースのマザーボードであるVC820の発売直前のゴタゴタ(RIMMスロットを3本から2本に減らす)、820にSDRAMを接続するためのMTH(Memory Transfer Hub)の回収問題など、RDRAMサポートの一方的な自滅? もあって、IntelはDDR SDRAM支持へと急速に傾いていく。結局、Yu副社長は、IAグループのトップから、新設されたばかりのオプトエレクトロニクス部門のトップへと異動になり、先ごろ引退が発表された。その一方で、Ottelini副社長が社長兼COOに任命されたことは、みなさんもよくご存知だろう。


●「Samsung」ではなく「Micron」の理由

 今回のIDFにおけるメモリロードマップのセッションで、RDRAMについてはPC1066がバリデーションされることが表明されたものの、次世代メモリとしてIntelがDDR IIをサポートすることが正式に明らかにされた。Rambusのロードマップにも現行のDirect RDRAMをベースにしながら、DDR IIと帯域的に競争力のあるチップ/モジュールが存在することを考えれば、これはDDR/DDR II路線の明らかな勝利といってよい。今度はRDRAMが相手の自滅を待つ立場になったわけだ。

 このような経緯を考えれば、Micron TechnologyをDRAMベンダのセッションに招くことには、かなりの「勇気」がいることが推察できる。おそらくIntel内部にはMicronとしっくりいかない勢力があるに違いないし、DRAM業界には、最大手にしてすべてのメモリを手がけるSamsungがいる(もちろんDDR IIの開発も積極的に行なっている)。Samsungは、Intelと長い間良好な関係を続けており、無難な選択であることは間違いない。

 にもかかわらずMicronがDRAMベンダのセッションを担当したのはどういうことなのか。1つにはSamsungに次ぐ大手であるMicronとの関係修復を周囲に印象付ける狙いが考えられる。Micronとの良好な関係をアピールすることで、システムベンダに安心感を与えようというわけだ。


●様々な意味で微妙なDDR400のサポート

 もう1つ考えられるのは、現在微妙な位置付けになっているDDR400のサポートである。図1は、メモリロードマップのセッション冒頭に示されたものだが、DDR400が実現可能性を調査している段階であるのに対し、次世代のDDR IIは2004年の実用化に向けて準備が進んでいることが述べられている。図2と図3はそれぞれについてより詳細に述べたもので、DDR400のサポートに障害が多いのに対し、DDR IIの開発が順調であることを訴えている。Intelがどちらを推進したいのかは、言わずもがなであろう。

【図1】 【図2】 【図3】

 さて図4はMicron TechnologyからのスピーカーであるMichael Seibert氏による同社のメモリロードマップ(PCメインメモリ)だ。この図でDDR333の次は、DDR400ではなくDDR II 400になっている。図5は同じくSeibert氏がDDR400について述べたもので、JEDEC標準の欠如、歩留まりの悪さ、タイミングのタイトさ、消費電力の高さ、といった点から、DDR400の実用化が困難なこと、実用化する際のコストの高さを訴える内容である。つまり、DDR333の次はDDR II 400に移行したい、という点において、IntelとMicronは思惑が一致しており、昨日の敵は今日の友、という関係にある。うがった見方をすれば、必ずしもIntelベッタリではないMicronがDDR400はダメだというのだから、という説得効果も狙っているのかもしれない。

【図4】 【図5】

 とはいえ過去にIntelは、PC133 SDRAMについて、今のDDR400と同じようないい方をした「前科」がある。今回のセッション内容から、DDR400のサポートが絶対にない、と言い切るのは尚早に過ぎるだろう。だが、Micronまで担ぎ出したことからして、DDR400を見送りたい、というのが本音ではないだろうか。なお、「DDR400はやらない」という言い方を一貫して避けているように見えるのは、Intelがやらないというと、意地になってもそれをやろうとする勢力があることを意識してのものとも考えられる。

□IDFのホームページ(英文)
http://www.intel.com/idf/us/fall2002/
□関連記事
【9月13日】【海外】Intelのメモリ戦略
~DDR IIは2004年で進行、DDR400は可能性を検討中
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2002/0913/kaigai01.htm

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(2002年9月13日)

[Text by 元麻布春男]


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