元麻布春男の週刊PCホットライン

新製品の投入を続けるIntelの通信機器向け半導体部門


●不況の影が濃いサンノゼ

 先週IDFが開催されたSan Joseは、シリコンバレーの中心地。こういうと、さぞかし活気がある街のように思われるかもしれないが、コンベンションセンターのある中心部(ダウンタウン)は、意外にひっそりとした静かな街だ。普段でさえそうなのに、ITバブル崩壊後の不景気のさなかにある今、IT産業の中心地であるSan Joseダウンタウンはいつもにも増してひっそりした印象を受ける。

 今回のIDFでは、メイン会場のコンベンションセンターに加え、プレス向けセッションやプレスルームなど、主にプレス向けの施設がほど近いホテルに開設された。このホテル、San Joseでもきっての格式のホテルで、最近タワー館を新設したばかり。だというのに、タワー館1階のアーケードのテナントは一軒も埋まっていない(本館アーケードにも空きがある)。米国は日本ほどメンツを重視しないから、無理矢理にでもアーケードをテナントで埋めようとしていない事情もあるのだろうが、なんとも不景気が身にしみる光景だ。また、筆者がこの6~7年、San Joseに滞在するたびに通っていた、なじみの中華料理屋もいつのまにか店じまいしており、なおさら不景気が身につまされた。


●逆境でも投資を続けるICG

 もちろん、IT不況の影響を最も強く受けているのは、ホテルや商業施設ではない。当然のことながら本家のIT産業が最も強い打撃を受けている(ただし、ホテル等は9.11テロの影響を受けており、不況の深刻さという点ではIT産業に勝るとも劣らないのだが)。IT産業の中でも、特に不況色が濃いのが米国の通信業界だ。ITバブルの最中に、数年先までの需要を先食いしたと言われる通信業界は、過大な設備とその設備投資に伴う金利負担で、青息吐息の状況にある。

 いみじくもIntel自身が述べているように、Intelは通信機器向け半導体の分野でもトップクラスの地位にある。つまり、通信業界の不況はIntel、中でも担当事業部署であるIntel Communications Group(ICG)を直撃する形だ。現在ICGを率いるのはSean Maloney副社長だが、どうすればICGの売り上げを拡大し、利益を上げることが可能になるのか、頭を痛めているに違いない。

 下図に現時点でのIntelの主要な事業部と、ICG内の事業グループを書き出してみた。Wireless Communicatin and Computing GroupとICGの境界線はどうもハッキリとしないが、基本的には通信関係の半導体をコンピュータ業界向けに売るのが前者の、通信業界向けに売るのがICGの役割なのだろう。

主要な事業部とジェネラルマネージャー

 前回取り上げたように、ブレードサーバに関するプロセッサ(LV Xeonならびに将来のBaniasベースのサーバ向けプロセッサ)が、Enterprise Platforms GroupからICGのNetwork Processing Groupに移管されたのも、半導体の技術的な要件からというよりは、顧客ベースを考えてのものだった(この動き、不況を単に嘆くのではなく、それをテコにIntelの大主流であるx86マイクロプロセッサ事業にもとっかかりをつけるあたり、Maloney副社長のやり手ぶりがうかがえる)。

 それでも、モバイルPCに利用可能な(Intelによると世界初のモバイル機器に最適化された)1チップギガビットイーサネットコントローラ82540EPを発表したのがICGであることを思えば、この顧客境界説もなんだか怪しくなってくる。RAIDコントローラカードの新製品を4種類も一挙に投入するなど、数少ない成長分野であるストレージ市場への対応を強化するなど、境界線にこだわらず、なりふり構わず事業部のビジネス拡大をはかろうとしているのかもしれない。

 それはともかく82540EPは、10Base-T、100Base-TXに加え1000Base-Tに対応したシングルチップのギガビットイーサネットコントローラ。非使用時(Wake Up On LAN無効時のD3ステータス)の消費電力が20mWと非常に小さく、バッテリ駆動時にデータ転送速度を抑える「Power Save」スイッチを搭載するなど、ノートPCへの搭載を意識していることは間違いない。接続インターフェイスは32bit幅のPCIバスだが、33MHzだけでなく66MHzに対応していることを考えれば、ノートPC専用というわけではなさそうだ。



●90nmプロセスで見える新展開

シリコンゲルマニウムをP極に配した90nmプロセスによるトランジスタ

 ICGにとって強い味方になってくれそうなのは、通信用半導体にも90nmプロセスが早期に利用可能になることだ。正式にはIDF明けの9月16日に発表になったものだが、IDFにおいても通信用半導体向け90nmプロセスに関する話はあった。

 すでにマイクロプロセッサの製造に必要なSRAMやロジックについては、90nmプロセスでの量産が2003年にスタートする(その最初がPrescott)ことが明らかにされている。今回発表された通信用半導体向けの90nmプロセスは、ゲート酸化膜1.2nm、ゲート長50nm、歪みシリコン、7層のカッパーレイヤー、新しい低誘電率(low-k)絶縁材料の採用といったロジック向けプロセスの特徴はそのままに、通信用半導体向けの改良を施したもの。

 同じダイ上に高電圧のアナログCMOSトランジスタの集積や高精度のCRの集積を可能にしたほか、シリコンゲルマニウムを用いたバイポーラトランジスタの集積等を実現したことで、40~50GHzの信号処理が実現するという。将来的には、このプロセスにより、オプトエレクトロニクス関連のチップや、ワイヤレスインフラストラクチャを実現するチップが製造される予定だ。

□IDFのホームページ(英文)
http://www.intel.com/idf/us/fall2002/
□関連記事
【9月13日】【元麻布】ようやく本格化するSerial ATA
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2002/0913/hot219.htm

バックナンバー

(2002年9月18日)

[Text by 元麻布春男]


【PC Watchホームページ】


PC Watch編集部 pc-watch-info@impress.co.jp
個別にご回答することはいたしかねます。

Copyright (c) 2002 Impress Corporation All rights reserved.