6月10日Analog Devicesは、Intel製マザーボードの音声入力機能を改善した、という不思議なニュースリリースを発表した。実際には、Intel製マザーボードにCODECチップとソフトウェアを供給する立場であるAnalog Devicesのこと、同社の製品がIntel製マザーボードの音声認識機能の改善に貢献した、という意味に違いない。マザーボードベンダであるIntelを差し置いてまで、このようなプレスリリースを出すのだから、Analog Devicesとしては、相当アピールしたいことがあるのだろう。そう思ってプレスリリースを読んでいくうちに、このリリースが結構おもしろい内容を含んでいることに気づいた。
プレスリリースの概要をかいつまんで紹介すると次のようになる。IntelのD845EBTと呼ばれるマザーボードに採用された、Analog DevicesのSoundMAX Cadenzaデジタルオーディオシステムは、Andrea Electronics製のSuperbeamアレイマイクロフォン(別売24.95ドル)と組み合わせることで、音声認識の精度を飛躍的に向上させる。D845EBTは、MicronPCのMillenia TS2 ProfessionalおよびXtremeに採用されており、6月中にも出荷が始まる予定となっている。
ここでまず筆者の注目をひいたのは、D845EBTという、耳慣れないIntel製マザーボードだ。型番からいって、845Eチップセットを採用したデスクトップPC向けのマザーボードであることは明らかだが、今のところIntelのWebサイトにこのような型番のマザーボードは掲載されていない。最初は誤植かとも思ったが、どうやら誤植ではなく、本当にD845EBTという型番のマザーボードが存在するらしい。ただ、OEM専用のためIntelのWebサイトに情報がないようだ。Millennia TS2の仕様を見る限り、IEEE 1394aやIDE RAIDコントローラまで搭載した、かなり意欲的なATXマザーボードだと思われる。MicronPCの要求にしたがって作ったのかもしれないが、台湾製マザーボードのような仕様だ。
Analog Deviceのプレスリリースにあった肝心のオーディオ機能だが、中核になっているのは同社のAD1980 AC'97 CODECである。筆者の手元にあるD845GBVには、同じシリーズに属するAC'97 CODECチップのAD1981Aが使われているが、AD1981A、AD1981B、AD1980の順に機能が上がっており、AD1980は最上位モデルということになる。AD1980は、AD1981Aの機能に加え、ステレオマイクロフォンのサポート、6チャンネルのアナログオーディオ出力の2つが加えられている(S/PDIFはAD1981Aでサポート)。D845EBTでは、こうしたオーディオ機能をフルサポートしているようだ。
Superbeamアレイマイクロフォン |
このうち、音声認識機能の向上という点で重要なのは、マイクロフォン入力がステレオ対応になっている、ということ。大半のマザーボードやサウンドカードのマイク入力はモノラルだが、Superbeamアレイマイクロフォンはステレオマイク入力が必要なのである。なぜマイク入力がステレオでなければならないのかは、製品を見れば納得する。Superbeamアレイマイクロフォンは、一定距離をおいて、2つのマイクユニットを接続したような特殊な形をしている。どうやらモノラル音源(ユーザーの口)をステレオマイクで捉えることを前提に演算処理を行ない、鋭い指向性とノイズの除去を行なっているらしい。それにより、周囲が特に静寂ではない普通の環境でも、周囲の騒音に邪魔されず、高い音声認識効率が実現できるというわけだ。
ここまで分かってくると、実際に試したくなってくる。だが、残念ながら上述のようにD845EBTはOEM専用のマザーボードで、一般には市販されない(IEEE 1394a、SoundMAX Cadenza、IDE RAIDコントローラなど提供すべきソフトウェアサポートが多いのもOEM専用になっている理由だろうか)。MicronPCもすでに日本から撤退しており、PCシステムとして入手する方法もない(その後、MicronPCはMicron Electronicsから投資会社にブランドごと売却されたと記憶している)。Superbeamアレイマイクロフォンの発売元であるAndrea Electronicsは、海外への販売にも対応してくれるようだが、マイクだけあっても使い道がない。利用するにはステレオマイク入力と、SoundMAX Cadenzaソフトウェアが必須なのである。
Audio UIに関するWinHECのプレゼンテーション資料 |
音声がらみということで、ちょっと思い出したのだが、最近、4月に開かれたWinHECのプレゼンテーション資料がMicrosoftのWeb上で公開された。パラパラとパワーポイントのファイルを見ていて、2つの点に目がとまった。
1つは、2004年にリリース予定の次期Windows“Longhorn”が採用するという、オーディオコントロールのユーザーインターフェイス。ここでは、音量の調節がWAVE、MIDI、AUXといった出力ごとではなく、アプリケーション単位で調節可能になっている。これまでのWindowsでは、ソフトウェアDVDプレーヤーで映画を再生している時に、メールが着信してそれを知らせるサウンドで、映画が台無し、ということが起こりえた。これは、ソフトウェアDVDプレーヤーも、メール着信で音を鳴らすWindows Soundsも、同じWAVEデバイスを使って音を鳴らしており、それぞれボリュームを調整したり、ミュートすることができなかったから。Longhornのミキサーが右図のような仕様なら、こうした問題が解決することになる。
もう1つは、Microsoft TV Technologiesと称されたセッションのプレゼンテーション。ここでは長期的な目標として、1台のPCで複数のTVチューナーをサポートすることが挙げられている。長期的、ということはLonghornには間に合わないわけだが、Microsoftも問題を認識しており、解決したいと考えていることは明らかだ。
実は、この2つは筆者がWinHECへの参加を取りやめた言い訳? を述べた回で、個人的に改善して欲しいことの例として挙げたものである。今回、WinHECのプレゼンテーションを見て、プラットフォームに関する問題をMicrosoftも認識していることが確認できてホッとした気分だ。願わくば、こうした問題に対する解決策が、タイムリーに提供されることを望むばかりである。
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【4月25日】【元麻布】WinHECの存在意義が薄くなっている理由
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2002/0425/hot198.htm
(2002年6月13日)
[Text by 元麻布春男]