後藤弘茂のWeekly海外ニュース

NV30はまだ設計完了していないとATIが指摘


●新戦略を次々明らかにするATI

ATI Technologies Kwok Yuen Ho会長兼CEO

 「NVIDIAはまだNV30のテープアウト(設計完了)すらしていない。これは製造筋から聞いた確かな情報だ。ファウンダリはマスクさえあればすぐに製造できると言っているが、テープアウトしていないのでは製造のしようがない。そのため、当社のRADEON 9700は、ライバルに少なくとも6カ月、長ければ9カ月先行できると考えている。(NV30は)年内に出荷することはできないだろう」

 ATI TechnologiesのKwok Yuen Ho(K. Y. ホー)会長兼CEOは、先週東京で開催された次世代グラフィックスチップ(VPU)「RADEON 9700(R300)」日本発表の前後のQ&Aで、NVIDIAの現状についてこう語った。

 また、ATIはRADEON 9700テクノロジでは256個までのパラレル接続が可能で、デュアルチップ搭載カードを検討しているパートナーもあることを示唆した。こうしたカードでは、シングルカードで最大4ディスプレイ出力まで対応できると見られる。

 ATIはモバイルでも攻勢をかける。モバイル向けのRADEON 9000世代チップを今後2カ月以内にリリースする。また、ATIは、今後RADEON 9700をメインストリームやモバイルへと展開するに当たって、仕様はDirectX 9に合わせたままアーキテクチャを最適化した派生品(derivative)を投入して行く。おそらく、メインストリーム向け派生品では、レンダリングパイプ数とメモリチャネル数が半分に削減されると見られる。また、ATIはTSMCをメインのファウンダリとして使っているが、UMCへの製造委託も行なってゆく(現在も一部製品は委託している)。


●NV30はテープアウトすらしていない?

 ATIはDirectX 9世代VPUでは、RADEON 9700によって確実にNVIDIAに先行した。NVIDIAのDirectX 9世代「NV30」がテープアウトしたかどうかは、まだ複数ソースからの確認は取れていないが、ATIとNVIDIAは同じファウンダリを使っているため信憑性は高い。少なくともNVIDIAの顧客は、まだNV30のサンプルチップを受け取っていない(RADEON 9700は発表2カ月前のCOMPUTEXでは、すでにサンプルが限定した形で展示されていた)。もし本当にNV30がテープアウトしていないとすると、RADEON 9700が6~9カ月間独走できるのは確実となる。

 というのは、グラフィックスチップのテープアウトから量産までには6~9カ月が必要となるからだ。まず、テープアウトからサンプルが実際に製造されるまで、マスクとサンプルシリコンの制作で約6週間かかる。次にサンプルを評価してクオリファイするのに1カ月半から2カ月かかる。しかも、これだけでは出荷できない。ファーストシリコンが完全動作したとしても、クリティカルパスつぶしなどで、通常は最低でも一回はシリコンを作り直す。そのため、テープアウトから製品までは最短で6カ月かかり、もし、さらに1サイクルのサンプルが入ったりすると9カ月かかってしまう。

 もっともNVIDIA自身は、NV30について、もうすぐ発表で、年内には製品投入と言っており、食い違っている。実際にどうなのかは、もう少し先にならないとわからない。ただし、NVIDIAは中継ぎ役にAGP 8Xサポートの「NV28」(GeForce 4 Tiの派生品)と「NV18」(GeForce 4 MXの派生品)も今秋投入で準備しており、そのあたりからも、NV30/31のスケジュールか出荷量に不安があることがうかがえる。


●ハードルが高かった0.13μmプロセス

 今回、NVIDIAとATIの明暗を分けたのはプロセス技術だ。「彼ら(NVIDIA)が今回手間取っているのは、0.13μmで製造しようとしているからだ。0.13μmだと設計のハードルも高くなる。当社の成功は、慎重な方法(RADEON 9700を0.15μmで製造する)を取ったことにある」とK. Y. Ho氏は強調する。

 これには0.13μmプロセスの特殊事情がある。今回の0.13μmプロセスでは、多くの半導体企業が、歩留まり向上で手間取った。ATIとNVIDIAのチップを製造するTSMCのEdward K. Chang(エドワード・K チャン)氏(Marketing Manager, Platform Technology Marketing Division)は次のように説明する。「0.13μmでは、これまでのプロセス世代と比べて(歩留まり向上の)ラーニングカーブが遅かった。もっともこれは、誰もが抱えた問題だ。その理由は、新しく加わった技術要素だった銅配線と、低誘電(Low-k)率(配線間膜)材料だったと見ている」

 もっとも、NVIDIAは0.13μmで製造するNV30では性能面で利点があると主張する。「R300は0.15μmプロセス技術で製造されているため、高速にするのは難しい(現在の発表では300MHz+)」「NV30は0.13μmプロセスなので、ずっと速いクロックに出来るだろう」(NVIDIA, David B. Kirk氏, Chief Scientist)

 ATIのK. Y. Ho氏は、これについてはあっさりと認める。「確かにそうだろう。彼らの方が速くなるのは不思議はない。しかし、その代償として彼らは出荷が遅れている。ラフロード(新アーキテクチャ)なら、それに合ったバイク(プロセス技術)で行くべきだ」

 0.13μmプロセスがこれだけハードルが高く、0.15μm世代がここまで続くことは、事前には予想しにくかった。0.13μmが順調に歩留まりが向上していれば、NV30はギャップを詰めて性能で凌駕することができたろう。NV30が年内に出せなければ、ATIは賭けに勝ち、NVIDIAは負けたということになる。ただし、本当の性能レースは、両社が0.13μmで並んだ時に始まる。そして、フィーチャと開発環境(+コンパイラ)の戦いはもっと激しくなる。

 ATIは現行のRADEON 9700をそのまま0.13μmプロセスに移行させる計画を持たない。「0.13μmは、次の世代、次のリビジョンとなるだろう。来年前半なら可能になると考えている」とK. Y. Ho氏は言う。ATIのDavid E. Orton(デビッド・E・オートン)社長兼COOも、0.13μmへの移行は「次世代、R350あたり(kind of)」だと言っている。これは論理的に納得できる。というのは、0.15μmから0.13μmへの移行で物理設計が完全に変わるなら、論理設計からやり直してフィーチャそのものも拡張した方が、開発リソースを節約できるからだ。つまり、R350は、来年前半に、0.13μmプロセスで、アーキテクチャも発展させて登場すると見られる。ATIは「全ての主要なスタンダードは、適切な時期にサポートする」(Ho氏)と言っているため、R350はベースはDirectX 9.1(来年前半リリース予定)世代になっているだろう。


●デュアルVPUカードの可能性も

 ATIはデュアルVPU搭載カードの市場も考えているとウワサされている。これについて、ATIのJewelle Schiedel-Webb(ジュエル・シドルウエッブ)氏(Desktop Marketing)は次のように説明する。「RADEON 9700は、機能的には256(チップ)までのパラレル接続が可能。すでに(パラレル接続)の研究はいくつか行なっている。しかし、製品の発表予定は今のところはない」

 ATIがマルチプロセッサに取り組む理由のひとつは容易に想像できる。将来GPU上にRenderManなどオフライン向けシェーディング言語がポートされれば、レンダーファームをマルチVPUで代行するという展望も開けているからだと思われる。もっとも、その場合は、デュアルでは済まないし、すぐというわけではないだろうし、用途はコンシューマ用ではありえない。

 それに対して、デュアルVPUはもう少し微妙だ。ATIのK. Y. Ho氏は次のように語っている。「アーキテクチャ的には(パラレルプロセッサ)は可能だ。しかし、当社はこれまで以上に新世代投入のペースを早めている。そのため、そうした最高性能ソリューションが必要かどうか、また、それを新世代ベースでやるかどうかは思案している」

 現在のように、ワンチップの性能がここまで高まり、しかも9~12カ月で次の世代が出てくるとなるとデュアルVPUでの最高性能カードの意味は薄い。しかし、デュアルVPUカードには、パフォーマンスオリエンテッド以外の展望もある。

「(デュアルVPUは)シミュレーション市場では面白いインプリメンテーションだと思う。フライトシミュレータのような市場では有効だと考えている。一部のパートナーは、こうした方向も積極的に考えているようだ」とSchiedel-Webb氏は言う。

 フライトシミュレータのようなアプリケーションで必要となるのは、マルチディスプレイだ。ATIのアーキテクチャではワンチップでは2ディスプレイ出力しかサポートできないが、MatroxはParhelia-512で3ディスプレイをサポートした。これについてATIは次のように答える。

 「シングルチップに2つ以上のディスプレイ出力が必要かどうかは、今のところ動向を見ている状況だ。しかし、2つ以上のディスプレイサポートにはもうひとつのやり方もある。つまり、チップは2ディスプレイサポートでも、4ディスレプイをシングルカードで可能にするやり方がある。シングルカードで2チップということだ」(Schiedel-Webb氏)

 ここまでの、ATIの答えを総合して推測すると、デュアルVPUカードは登場するとしたら、ATI自社ではなくパートナーからで、主にシミュレーション市場向け(でもパートナーが発売するならコンシューマにも流れる?)で、4ディスプレイ出力サポートで、新世代コアベースではなさそう(=RADEON 9000ベース?)というあたりになりそうだ。

バックナンバー

(2002年8月6日)

[Reported by 後藤 弘茂]

【PC Watchホームページ】


PC Watch編集部 pc-watch-info@impress.co.jp
個別にご回答することはいたしかねます。

Copyright (c) 2002 Impress Corporation All rights reserved.