価格.com |
退くといっても、槙野氏の年齢は28歳。正確には7月下旬に29歳になる。その若さで、なぜ、そんな決断をしたのだろうか。槙野氏へのインタビューを通じて、価格.comの経営の第一線から退く理由、そして、今後の価格.com、槙野氏の取り組みを追ってみた。
「学生の頃からの夢を実現したかったから」。価格.comの創業者である槙野光昭氏は、価格.comの経営の第一線から退く理由について、こう切り出した。
価格.comは、月間ページビューが1億ページに達する人気サイトだ。パソコン、周辺機器、ソフトなどのパソコン関連製品のほか、ゴルフ、スキー/スノボー、携帯電話、ブランド品などの価格比較がひと目でできる。現在1,227店舗が参加しており、この分野では他社の追随を許さない。
事業を開始したのは、'97年5月。それまで勤務していたメルコを退職後、1人で価格比較サイトを立ち上げた。事業を開始した背景はメルコの営業担当時代に遡る。
秋葉原のパソコンショップを担当していた槙野氏の仕事のひとつに、自社の商品が、秋葉原の店舗ではいくらで販売されているのかをチェックする、という作業があった。メルコの主力製品であるメモリを各製品ごとに価格をチェック、それを複数の店で繰り返す。当然のことながら、競合他社の製品の価格チェックも行なうことになる。
そんな仕事に追われる毎日を過ごしていた槙野氏は、ある日、ふと気がついた。
「これはみんなが欲しい情報なのでは」。
販売店も、商戦期となれば、1日に3度、4度と競合店の価格を調べにいく。そして、秋葉原を訪れるお客も、最も価格が安い店はどこか、と複数の店を歩き回る。「秋葉原の駅前に立って、私が一番安いお店につれていってあげますよ、といえば、どれだけの人が喜ぶか。そこに価格.comの可能性を見つけた」。槙野氏が創業に踏み切ったのは、ビジネスの「種」を見つけたという点だけではない。さらに、強い原動力があった。それは、学生時代から描いていた「社長になりたい」ということだった。
では、なぜ社長になりたかったのか。槙野氏は、素直な気持ちを語りだした。
槙野光昭氏 |
冒頭、槙野氏は、「学生の頃からの夢を実現したかったから」と語った。それは、紛れもなく、束縛されない自由な時間を得られるだけの準備が整った、ということでもある。
価格.comは6月10日、デジタルガレージが同社株式の45%を取得したと発表した。昨年の段階でベンチャーキャピタルのICPが出資し、ICPの穐田誉輝取締役が、価格.comの代表取締役社長に就任。その段階で、槙野氏は取締役会長に就任していた。現在、デジタルガレージとICPが筆頭株主となっており、今後、デジタルガレージからも役員を送り込まれる予定だ。つまり、今後の価格.comの経営は、ICPとデジタルガレージによって運営されることになる。
「これまでの5年間を、集客というベースを培った時期とすれば、今後は、この集客をベースにしていかに高い収益性をあげるかという点を目指す時期に入ってくる」と槙野氏は語る。
ベンチャーキャピタルが出資をしたということは、当然のことながら、上場を目指すということである。現在は、そのための体質づくりがすすめられているといってもいいだろう。一方、デジタルガレージは、インターネット事業には早くから取り組んでいる草分け的存在。そこで培ったノウハウが今後の価格.comの事業に生かされることになる。
具体的な事業計画などについては、今後明らかになるが、インターネット広告に関する事業や、すでにデジタルガレージで展開している「CyberAuction」のノウハウを活用したオークション事業などへの展開も視野に入れている。これにより、今年度の売上計画は前年比2倍となる5億7,000万円を見込んでいる。
「これまでも毎年2倍の売り上げ成長を遂げてきた。そろそろ分母が大きくなり、辛くなってきたが(笑)、この成長率をできる限り維持したい」。
槙野氏は、経営の第一線からは退く予定だが、非常勤の取締役会長として籍を残し、引き続き、価格.comに携わることになる。これまでの価格.comは、槙野氏のアイデアと行動力、機動力に支えられ発展してきた経緯がある。
「その点は、これからも変わらない。私自身がやりたいアイデアが頭のなかにたくさん列を作っている。すでに1人でやっていた当時のように、すぐに自分のアイデアを現実のものにするという体制ではなくなってきているが、それでも、どんどんアイデアは出し続ける」と話す。
これまでの価格.comの良さを維持しながら、新規事業を開始できるかが注目すべきポイントだろう。
では、槙野氏は、今後、どんな生活を送るのだろうか。年内は、価格.comの仕事に追われることになりそうだというが、その後は、「まずは、夢に描いていた生活をしてみたい」と、しばらく「束縛されない自由な時間」を満喫するつもりのようだ。
具体的には、「起きたら、すでに“笑っていいとも”の半分が終わっているような生活」からスタートするらしい。だが、筆者は、それは永く続かないと思っている。槙野氏は、自らのことを「怠け者」というが、それは違う。筆者が、最初に槙野氏に会ったときは、まだ、マンションの一室でようやく複数の人数で仕事を始めたときだった。
だが、価格を調査し、掲載するための作業に追われ、連日のように夜遅くまで仕事をしていた。そして、機動力をもって、様々な人に会いに行った。年間で休んだのは5日間だけ、という年もあった。とても、怠け者の生活ではない。
それに、こんな言葉の端々からも、永くは続かないということが感じとれる。
「とにかく、夢に描いた物が本当に楽しいのかどうかをやってみる。やってみて、楽しくないと思うかもしれないし、本当に楽しいと思うかもしれないし。それはわからない」。
「次の事業のアイデアというものもあるにはある。でも、これをすぐにやるという気持ちはないですよ」。
槙野氏の頭の片隅には、もしかしたら、夢に描いていたことが楽しいことではなかったのかもしれないという気持ちとともに、次の事業をやってみたいという気持ちが少なからずあるのは間違いない。頭のなかにアイデアがあるのだから、自称“怠け者”は、現実のものにしたいと思うはずだ。
それを見込んで、すでに槙野氏に対しては、1年後の取材アポイントを申し込んでいる。テーマは、「新規事業への取り組み」か、それとも、「自由な時間の過ごし方」になるのか……。1年後を楽しみにしたいと思っている。
□価格.comのホームページ
http://kakaku.com/
□デジタルガレージのホームページ
http://www.garage.co.jp/
□資本業務提携のニュースリリース
http://www.garage.co.jp/ir/ir_comment_ceo.html
(2002年7月1日)
[Reported by 大河原克行]