ヤフー 井上雅博社長 |
同社では、昨年5月の段階で月額280円の有料化に踏み切っていたが、今年4月15日からは出品者に対して1商品につき出品システム利用料10円を課金、さらに出品した品物を取り消した場合に一律500円を課金する出品取り消しシステム利用料を導入、そして、5月15日からは落札金額の3%を出品者に対して課金する落札システム利用料を導入しており、出品者に対しての完全有料化ともいえる仕組みを開始していた。
同社が、これらの有料化を発表したタイミングが、eBayの日本市場撤退を発表した時期と重なったため、当初は、独占的な強みを発揮した有料化といった捉え方がされたり、その後、対抗するビッダーズが、成約手数料を5%から2.5%の引き下げ、さらに9月30日までは期間限定ながら無料にしたことで出品数が増加、今度は逆に、ヤフーオークションの停滞が伝えられたりというように目まぐるしい四半期となった。
果たして、ヤフーオークションのこの施策は、成功したのか。それとも、失敗したのか。ヤフーの井上雅博社長は、「最新四半期(=4~6月)は、オークションがうまく有料化に移行できるかどうかが最大のポイントだった」と切り出し、「四半期を振り返ってみれば、まぁ、うまくいったうちに入るだろう」と合格点の自己評価を下してみせた。
ヤフーは、2002年度第1四半期(4~6月)の決算から、事業部ごとの損益計算書も発表するようになった。事業部制度は今年1月から開始していたが、すべての事業部に具体的な予算をつけたのは、この四半期からであり、それにあわせて、発表の形態も事業部ごとに切り分けた形に変更したのである。
これによると、オークション事業部の売上高は12億6,600万円。内訳は、広告収入が1億9,100万円、法人店舗などからのオークションマーチャント売り上げをはじとめするビジネスサービスが5,500万円、そして、出品料などのオークションシステム利用料などで構成されるパーソナルサービスが10億1,900万円。全社売上高の12.5%を占める事業規模にまで成長してきたのである。
しかも、本人確認のためとして昨年5月に開始していた月額280円による収入は、オークション事業とは別の全社共通事業のなかにカウントされ、この数値のなかには含まれていない。
本人確認が必要なサービスとしては、ヤフーオークションとヤフーパーソナルズがあるが、これを合わせて発行した6月末時点のID数が178万1,000件。第1四半期決算では、これらを含めた全社共通事業におけるパーソナルサービスだけで12億6,300万円を計上、オークション事業の売上高とあわせると、全社売上高あたりの約25%を占めることになるのだ。
そうした意味では、井上社長が、オークション事業に対して合格点をつけたのもうなづけるだろう。わずか1年で、事業の柱に成長させることに成功したからだ。
だが、その一方で、有料化によって起こった出品数の減少は数値にも大きく表れている。今年3月時点での総出品数は約420万件。それに対して、今年6月時点での出品数は約230万件。ざっくりといって、半分に減っているのだ。猛追するビッダーズは、成約手数料の無料キャンペーンで100万点の出品を目指しており、現在60万点の出品数まで拡大中だ。
同様に、ヤフーオークションに対する一日あたりの新規出品数も減少している。これも3月の50~60万件に対して、6月には20~24万件と、半分以下へと大幅に減少している状況だ。これらの数値だけを見れば、手放しでは喜べない側面もあるように見える。だが、井上社長は、「出品数を、あえて減らしたと受け取ってもらった方がいい」と、出品数の減少は既定路線であったことを明かす。そして、落札率に関する資料を提示しながら、次のように話しだした。
「ヤフーオークションの落札率は、今年3月の段階では24~30%程度だった。これでは、出品した4品に1品しか落札されない。その落札率では出品者にとっても、魅力が薄くなるのではないだろうか。しかし、これを見てほしい。今年6月時点での落札率は47~59%に拡大してきた。つまり、2つにひとつが落札されるという比率にまで高まってきた。出品者にとっても魅力あるオークションサイトになったといえるし、落札者にとっても欲しいものが探せるサイトになってきたはず」。
出品数が半減したものの、落札率が上昇したことで一日あたりの落札総額は6~11億円となり、今年3月の8~14億円と比較しても、それほど落ち込んではいない。それに有料化という施策を加えたことで、事業としても拡大しているというわけだ。
井上社長は、こうした一連の施策について、「ゴミを減らした」という言葉で表現する。例えば、今年4月以前は、同じ製品が数百回も数千回も出品されるということが実際には起こっていた。そのためのフリーソフトウェアも出回っていたほどだ。
これは、仮に落札されなくても、露出を多くすることで商品の名前が認知されるという狙いから、個人名を使って、特定の企業などが出品していたというものも含まれる。「このように、無料の広告場所と勘違いしている出品は、決して利用者にはメリットにはならない」(井上社長)。
つまり、ヤフーオークション側や、利用者にして見ればまさに「ゴミ」と同じである。さらに、「落札価格1億円」としながら、「特別値引き1億円」などという出品もあった。「おちゃめな出品」と井上社長は笑うが、事業を推進する立場としては、これも排除する必要がある。
そして、昨年来、ヤフーオークションで問題となっていた盗品の出品問題の是正や、落札した製品が届かない、入金されないといった問題を解決する上でも、有料化による縛りと、エスクローサービスの開始や補償制度などを導入することでの環境整備が必要であり、それらがこの四半期で整備されたといえる。
「出品数は増えても、本当に売りたいもの、本当に買いたいものが見えにくくなっていた。そのためにはゴミを減らす必要があった」と井上社長は繰り返す。一連の有料化施策は、こうした「ゴミ」を排除するための取り組みだったというわけだ。
井上社長は、オークション事業において、最も重要なのは、総出品数ではなく、総取り扱い高だという。出品数が半減しても、取り扱い高が維持できれば、利用者に受け入れられているということになるからだ。そして、そのための指針のひとつになるのが落札率だという。
「もし、出品数を増やすのであれば、いくらでも増やすことができる。しかし、それではオークションサイトとしての魅力がなくなり、長続きしない」と井上社長は断言する。
有料化によって、出品者はこれまで不要だった余計な費用を支払わなくてはいけなくなった、という側面もあるが、売りたい物を売ることができる環境が実現するのであれば、許容できる範囲の出費といえるのではないだろうか。この最新四半期は、ゴミを減らすための努力が、ひとつの成果になったといえそうだ。
昨年5月の有料化では、一時的に利用者数が減少したが、わずか数カ月で元の利用者数にまで戻り、現在ではそれを遙かに上回る会員数となっている。今回の有料化についても、一時的には出品数の減少、取り扱い高の減少という事態に見舞われているが、ある程度の期間で、それは戻ると予測しているようだ。
いずれにしろ、ヤフーの有料化の施策は、ゴミが減ったことと、落札率が上昇したこと、そして、事業の柱として成長してきたことを考えると、井上社長がいうように、まずは成功と判断してよさそうだ。
□ヤフーのホームページ
http://www.yahoo.co.jp/
□ヤフーオークションのホームページ
http://auctions.yahoo.co.jp/
(2002年8月12日)
[Reported by 大河原克行]