IntelのPentium III/Pentium 4やCeleron、AMDのAthlon/Duronも、現在購入できるのは1GHzオーバーの製品がほとんどで、ファンレスどころか巨大なファンを必要とするものばかりだ。
ところが先日、ファンレスPCを実現できる可能性を秘めた新規格が登場した。VIA Technologies(以下、VIA)のEdenがそれである。この規格に則った新製品が、今回紹介する「EPIA-E533」である。
●組み込み機器向け規格のEden
【写真1】Mini-ITXサイズのEPIA-E533。CPUをオンボードで搭載するがファンはない。4辺に空けられたネジ穴はATXと互換性があるので、ケースへの取り付けは大丈夫。なおFDDコネクタは搭載されていない |
現時点でEden ESPには
・VIA Eden ESP 4000(4.0×100MHz bus、1.05V)
・VIA Eden ESP 5000(3.5×133MHz bus、1.20V)
・VIA Eden ESP 6000(5.0×133MHz bus、1.10V)
の3種類が用意されており、またチップセットには
・ノースブリッジ:Apollo PLE133 または Apollo PN133T
・サウスブリッジ:VT8231 または VT82C686B
で合計4種類の組み合わせがある。今回試すEPIA-E533は、プロセッサにEden ESP 5000を、チップセットにはApollo PLE133+VT8231を組み合わせたものである。フォームファクタは17×17cmというMini-ITXサイズ。このMini-ITXというのは、VIAがEdenと同時に発表した新しいマザーボードのフォームファクタだが、既存のATXやmicroATXと互換性があるため、FlexATXなどと異なり、専用のケースを必要としないあたりが自作派にはちょっと嬉しいところだ。
EPIA-E533自体は、オンボードでVGA、サウンド、Ethernet、USB、シリアル、パラレル、TV-Outを搭載し、更に1スロットのPCIバスまで用意されている。
ちなみにEden ESP 5000は133×3.5=466MHz駆動ということになる筈だが、製品の型番から考えるとどうみても133×4.0=533MHz駆動っぽい。このあたりはあとで確認してみることにしたい。
●EPIA-E533を使ってみる
さて、それではEPIA-E533のスペックを再確認しておこう。既にAKIBA PC Hotline!でも報じられており、内容を確認された読者も多いのではないかと思うが、なかなか面白いスペックである。
前述のとおり、CPUにESP 5000、チップセットにApollo PLE133+VT8231が使われており、まさにVIAづくしのマザーボードである。
Apollo PLE133のスペックを簡単に言ってしまえば、Apollo Pro 133AにTridentのBlade 3Dグラフィックコアを内蔵した統合チップセット。その分AGPバスは省かれている。一方サウスブリッジのVT8231は、VT82C686Bの発展型であり、ノースブリッジとはPCIバス接続(V-Linkは使わない)だが、UltraATA/100のサポートやAC-Link、EthernetのMAC、4ポートUSBコントローラとSuperI/Oを内蔵している。その代わりISAバスのサポートが省かれているといったところが主な違いだ。
オンボードで搭載している機能は前述の通り、VGA、サウンド、Ethernet、USB、シリアル、パラレル、TV-Outとなっている(写真2)。
TV-Outは、S端子とコンポジット端子の両方を搭載するが、コンポジット端子はマザーボード上のジャンパにより、S/PDIF端子としても機能する(写真3)。この機能を利用すれば、S端子から大型テレビに映像を出しつつ、S/PDIF端子からドルビーデジタルの音声を出力する、といったDVD-Video再生機としての利用も考えられる。ただし、背面コネクタ類の配置はATXと互換性がなく、そのため交換用の背面パネルが同梱されている(写真4)。
【写真2】背面コネクタ。これだけの機能がオンボードで搭載されていれば、一般的な利用に不自由はないだろう。強いていえばIEEE 1394が欲しいところか | 【写真3】コンポジット端子の裏側にあるジャンパで、ビデオ出力とS/PDIFを切り替え可能。写真の位置だとビデオ出力で、お隣のピンをショートするとS/PDIF出力になる | 【写真4】同梱物。付属のマニュアルは英語版だが、こちらから同じものがダウンロードできるので、購入を検討している人は事前にチェックしてみるといいだろう |
同種の規格としてFlexATXがあるが、本来のFlexATXのサイズは22.9×19.1cmとかなり大ぶりである。ただ、これより小さいものも(ほかに適当な規格がなかったこともあり)FlexATXと呼ばれてきたわけだが、これからはMini-ITXサイズと呼ばなければいけないかもしれない。
ちなみにメモリは通常のSDRAMで、2スロットで合計1GBまで搭載可能である。また電源は通常のATXタイプの20ピンを利用しており、ATXあるいはSFX電源をそのまま利用できる。また、ボード上にはケースファンなどに利用できる、ファン用の電源端子も2個搭載されている。
●microATX用ケースにEPIA-E533を組み込む
【写真5】今回利用したケース外観。頂上の3.5インチベイが全く無駄ではあるのだが、まぁシャドウベイだと思えば…… |
知人がこれを買い求めたものの、使っているうちに拡張性が足りなくなり、ケースを入れ替えた残りが筆者の手元にあったので、これを利用することにした。サイズは14×30×36cmと、Slimと呼ぶにはやや太めな気がするが、5インチベイ×1、3.5インチベイ×2、3.5インチシャドウベイ×1の収納が可能(写真5)。電源はChannel Well Technologyの200W電源「SFX-200PS3C-TL」が搭載されているため、今回の目的には十分である。
ところが取り付けようとして問題発覚。背面パネルのコネクタの穴がEPIA-E533と全然合わない(写真6)。しかも写真からもわかるとおり、パネルとシャーシが一体化しているので、交換用背面パネルも利用できない。仕方ないので、ハンドニプラを用いて背面パネルを切り落とすことにした(写真7)。
この結果、なんとかケースに組み込むことに成功(写真8)。作業内容は自作PCとまったく変わらず、気になる点も特にない。ケース内のマザーボード近辺が少々手狭だが、実際の組み込み作業は電源と5インチベイ部分を取り外して作業したので、さほど困難ではなかった(写真9)。
【写真6】強度の関係か、コストの問題か、背面パネルが一体成型になっているので、このままではEPIA-E533を利用できない。しかもパネル部を丸ごと切り落とすと電源が片止めになってしまうので、コネクタ部分だけをくり抜くしかない | 【写真7】ハンドニプラを使って切り抜き作業を行なう。大穴を空けても通常のATXマザーボードの使用には問題ない、という思い切りが大事である |
【写真8】切り抜き作業を行なうこと約1時間。EPIA-E533を装着可能になった。確かに見栄えはちょっと……。でも使う分に問題はない | 【写真9】側面から。DVD-ROMドライブなどを組み込むと、マザーボードは見えなくなる。従って電源、ベイ部分は取り外してからでないと作業が出来ないが、この際マザーボード上の作業をすべて終わらせておけば、それほど困難ではない |
・メモリ:PC133 SDRAM(CL2) 128MB×2(Micronチップのノーブランド品)
・HDD:Seagate Barracuda ATA IV 80GB(ST380021A)
・DVD-ROM:MAGICO DVM-T16
といったところ。一応IDEのスマートケーブルなども準備したが、このクラスのケースだと別にフラットケーブルのままでも問題ない感じである。ちなみにインストールするOSにはWindows XPを考えていたのでFDD関係は何も用意しなかったが、もしFDDが必要であればUSB接続のFDD、あるいはIDE接続のSuperDriveを用意しておくべきだろう。
完成後、Windows XP Professionalのインストールしてみたところ、何のトラブルもなくあっさりとインストールできた。ちなみに起動時のBIOSのCPU判定では「VIA C3 533A MHz」と表示されており(写真10)、Windows XPのシステムのプロパティでは「VIA Samuel2 533MHz」と表示された(写真11)。
【写真10】起動時のCPU表示は「VIA C3 533A MHz」と表示される。Edenのデータシートとは異なる133×4.0駆動ということになる | 【写真11】システムのプロパティでは、VIA Samuel2と表示される。Samuel2とは0.15μm版C3の開発コード名で、このことからもC3をベースに設計されたCPUであることがうかがえる |
【写真12】最新版のVersion 3.0fではないのだが、Version 3.0dで確認。間違いなく533MHz駆動である | 【写真13】PC Health画面は電圧のみの監視で、温度に関する項目が一切ないが、Vcore 1.20VというのはまさしくEden ESP 5000である |
【写真14】CD-ROMからドライバをインストールしたあとのデバイスマネージャ画面。まさにVIAづくしといった感じである | 【写真15】内蔵VGA機能は3D機能こそ頼りないものの、2D画面の画質は悪くなく、1600×1200ピクセルまで表示できる |
夜間だったこともあり、室温は15度程度と低めではあったのが功を奏したのかもしれないが、DVD-Videoの再生という負荷の高い作業を行なったわりに安定動作したのは評価したい。まぁ真夏だと室温が30度以上になることをありえるわけで、その際には前面のケースファンも使った方が良さそうである。
●DVD-Video再生専用機を作る
さて、とりあえずWindows XPをインストールしたところ、あっさり動作が確認できてしまったので、ここでもう少しヒネって、今度はこのマザーボードを利用した特定用途PCを作ってみようと思う。
最初に想定したのは、静音を活かしたDVD-Video再生機である。オンボードでS/PDIF端子が付いているあたりが、いかにもDVD-Video再生に向いているからだ。しかし、DVD-Video再生専用機となると、先ほどのmicroATX用ケースではやや大きく感じられる。そこで、キューブ型ケースの走りともなった、エムシージェイの「CUBE-24」のケース「Cube-ZERO」を利用して、再度組み立てなおすことにした(写真16、17)。
【写真16】エムシージェイのCube-ZERO。総アルミ製のキューブ型ケースである。サイズは20×20×29.5cmと、それほど大きくはない。星野金属工業の「Pandra」とか、前回試した「M.J」などと比較すると奥行きが結構あるが、その分内部は多少ゆとりがある | 【写真17】ちなみにこのケース、暗いところでは電源の青色LEDの光がフロントパネル全体に反射して美しく光る。が、ここまで光るとDVD再生中に部屋を真っ暗にする人は目障りに感じると思うので、覆う物を用意しておくか、物陰に設置したほうが良さそうだ |
【写真21】組み立て後、側面から見た写真。一見余裕があるように見えるが、実際は右下のシャドウベイ部分にもケーブルが引き回してやっと収めたという感じである。また、シャドウベイにHDDを取り付けるとメモリスロットの上を通過するが、高さのあるメモリモジュールだとHDDと接触してしまうので、ここは使わないほうが賢明だ |
実際に組み込んで稼動させたところ、驚くほど静かである。Cube-ZEROには背面に5cmファンが2基取り付けられているが、このファンを使用せずにPCを稼動させたところ、HDDとDVD-ROMドライブの駆動音以外はほとんど気にならない。つまり、ドライブが静止した状態であれば、無音に近いのだ。勿論電源にはファンが取り付けられているが、このファンがケース内で稼動しているのも理由の1つだろう。
ケース内の容積が少ないのでケース内の熱が心配かも知れないが、内部の温度は先ほどとほとんど変わらない程度で安定して稼動した。心配なら背面ファンの1つを稼動させてもいいが、それでも一般の自作PCに比べればはるかに静かである。逆にケースファンを1つぐらいは稼動させておいたほうが、電源が入っている実感があって安心できるほどである。
静音性は十分に満足いくレベルだったので、次にDVD-Videoの再生を試してみた。ここでは、サイバーリンクのPowerDVD XP Proをインストールし、S端子からテレビへ出力し、コンポジット端子をS/PDIF端子として利用し、ドルビーデジタルデコーダアンプへ接続した。
ここで初めてビデオ出力を試したが、残念ながらD-Sub15ピン&テレビ出力でのデュアルディスプレイは使用できないようで、完全に排他出力となる。ちなみに出力先の設定は、ビデオのプロパティから行なえる(写真22)。
【写真22】ビデオ出力とVGA出力を設定する画面。この2つは排他出力であり、チェックボックス形式になっているものの、片方にチェックを付けると、もう片方のチェックは外れてしまう。また、コンポジットとS端子も排他出力で、この画面から出力先を設定する | 【写真23】EPIA-E533のコンポジット端子をS/PDIF出力に設定し、DTS対応のDVD-VideoをPowerDVD XP Proで再生。出力先のデコーダアンプ(ヤマハ TSS-1に付属のアンプ)では、デジタルからの入力を示す「DIGITAL」ランプと、DTSで再生できていること示す「DTS」ランプが点灯し、S/PDIF端子から正しくデジタル信号が出力されていることを確認できた |
●静かなPCが欲しい人にはお勧め
今回、DVD-Video再生機としての実用度は低いという結論に至ってしまったが、静かなWindowsマシンとしての実用性はかなり高い。いちいちベンチマークは取らなかったが、メールやWebブラウジングなどの操作には体感上まったく問題なかった。
CPUからチップセットにいたるまで、すべてVIA製品ということで不安を覚える人もいるかもしれないが、Windows XP、ドライバのインストールを始め、そのほかの作業中にも特に問題となる事態は発生しなかった。
また、電源ファンを除けば、完全にファンレス動作が可能な点は大きい。これでHDDをグロウアップ・ジャパンのSmartDriveなどに入れて利用するとか、あるいはもっと静かなHDDを使うなどすれば、さらに静かさになる。背面パネルさえ取り替えできるなら、既存のATXケースなどでも利用可能であり、静かでWindows XPが実用的に動作するPCが欲しい人には、文句なくお勧めできる製品といえるだろう。
さて、今回はEPIA-E533本来の用途とはちょっと離れて、自作PCとしての用途に絞って組み立ての注意点などをご紹介したが、次回はWindows XPやLinuxをインストールし、ルーターやサーバーとしての利用を試してみたい。
□VIAのホームページ(英文)
http://www.via.com.tw/
□製品情報(英文)
http://www.viavpsd.com/products/epia_mini_itx_spec.jsp
□関連記事
【4月5日】Pentium 4用キューブ型組立キット「M.J」レポート
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2002/0405/mj01.htm
【2001年12月12日】VIA、組込用x86ソリューション「Eden」
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/20011212/via.htm
【4月13日】ファンレスのEden規格含むCPUオンボードMini-ITXマザーが登場(Akiba)
http://www.watch.impress.co.jp/akiba/hotline/20020413/mini-itx.html
(2002年5月2日)
[Reported by 槻ノ木隆]