大河原克行の「パソコン業界、東奔西走」

「バイオW対抗を今年秋にも投入」、NECの新たなパソコン事業方針を探る

 NECが、4月1日から、新たなパソコン事業体制で動き始めた。

 生産を担当するNECカスタムテクニカの片山徹社長が、兼務でNECソリューションズの執行役員常務に昇格し、コンシューマ向けパソコン事業を統括した。

 一方、企業向けパソコンに関しては、PCサーバーであるExpress5800シリーズを取り扱う部門へと統合、サーバー/クライアント戦略を一本化することになった。こちらは、スーパーコンピュータから、企業向け戦略を明確にしているポケットギア/モバイルギアといったPDAまでを、同じく新任の小林一彦NECソリューションズ副社長が統括する体制となる。

 この新体制への移行とともに、片山徹執行役員常務は、コンシューマパソコン事業における新年度の事業方針として、改めて「シェア」へのこだわりに言及した。

 昨年後半以降、シェアを捨ててでも、黒字転換を図る、としていた同社のコンシューマパソコン事業方針は、果たしてどう変化するのか。


●リピート率は向上したが……

 昨年10月、NECは、コンシューマパソコン事業を、子会社のNECカスタマックスへ完全移管するとともに、顧客満足度の向上を最重点課題として取り組んできた。それを表すひとつの指針としてあげたのがリピート率の向上だ。

 その時点でのNECのリピート率は32%。家庭へのパソコン普及率が50%を突破し、買い換え需要が増加しているなかでのこのリピート率の低さは、致命傷ともいえた。

 だが、これも現在では、52~53%程度まで引き上げられ、競合他社と比較しても遜色ない指数にまで到達しており、一応の目的は達成されたといえるだろう。

 一方、昨年10月に、これらの目標を掲げた際、同社では「トップシェアは、第一義ではない」として、シェア至上主義からの脱却を目指した。シェアにこだわった事業戦略からの脱皮を目指すことで、社内意識を変化、新たな戦略的製品の投入も視野に入れた施策だったが、「社内意識の変化」は、そう簡単にはいかない。残念ながら、結果としては、シェアを引き下げる結果となり、トップランナーとなったソニーとの差も大きく開いている。

 また、至上命題となっていた10月以降の黒字転換も達成されず、下期は赤字のまま。

 リピート率は上昇したものの、シェアが減少、赤字体質が改善されないという状況だったのだ。

 こうしたなか、NECは、4月以降の新たな事業戦略に臨むということになる。


●新体制で「トップシェア」にこだわり見せる

 NECソリューションズの片山徹執行役員常務は、まず最初に、昨年10月以降に掲げた「シェアは、第一義ではない」という方針からの脱却宣言ともいえる、「シェアナンバーワンをとることに力を注ぎたい」というコメントから切り出した。

 そして、「シェアは極めて大切なものであり、1ポイントでもシェアをあげることを念頭におき、事業に取り組みたい。まずは、コマーシャル(企業向け)と、コンシューマとを合わせてトップシェアを堅持する。そして、次のステップとして、コンシューマでもナンバーワンを取り返す」とトップシェアへのこだわりを明確にする。

 片山執行役員常務の語り口は、歴代のパソコン事業の責任者に比べて、極めておとなしい。しかし、それだからこそ、トップシェアへのこだわりがずっしりと伝わってくる。

 では、トップシェア獲得のために、NECはどんなことに取り組むのか。

 片山執行役員常務は、「リスクをとっても、新たな製品を出していく体質への転換」を掲げる。

 「もうNECは横綱ではない、ということを社内が認識しなくてはいけない。横綱相撲をとっている時は、相手を蹴散らせばよかった。製品戦略もすべて、蹴散らすことを念頭においたものばかりだった。つまり、新たな市場を創造していくという製品がなかったし、リスクテイキングする商品がなかった。これが横綱でなくなったにも関わらず続いていたのがよくなかった。シェアを拡大するためには、このあたりの意識から変えて行かなくてはならない」

 最近のNECのパソコンは、ロードマップが読めると、片山執行役員常務は反省する。つまり、NECには、新しい分野の製品がない、ということを言っているのだ。NECのような大手パソコンメーカーならば、メインストリームの製品ラインを強化するだけでも、ある一定のシェアを確保できるだろう。しかし、ブランドイメージは、消極路線に映る。それが、昨今のNECの評価につながっている。

 「NECには魅力的な製品がない、といわれるのは、市場を創造するようなパソコンがないからだ」と、片山執行役員常務が繰り返す言葉に、その意味が込めれている。

 では、市場を創造するような製品はいつ、どんな形で登場するのか。

 「残念ながら、今年5月の夏モデルでは、まだ回答を出せない」と、片山執行役員常務はいう。

 続けて「今年秋の発売に向けて、現在、3~4種類の新たな市場創造型の製品を計画中」だと話す。

デスクトップ市場のトップを走るバイオW 先進的なコンセプトだった“simplem”

 そのひとつが、ソニーのバイオWを意識したものだという。

 「当社には、かつてsimplemという製品があった。この製品は、ノートパソコンのパーツを多用したことで、価格が高くなってしまったという反省がある。だが、この基本的な考え方を進化させた製品を計画している」

 バイオWに比べて、キーボードの使い勝手や、持ち運びを容易にできるといったコンセプトを新たに取り入れる考えだという。そして、simplemという名前を復活させるかどうかについても検討中だというが、筆者の個人的な意見としては、ぜひ新たなブランド名での投入を期待したいところだ。

 さらに、重量で1kgを切るモバイルノートパソコンなども登場することになりそうだという。

 「相手を蹴散らす商品ではなく、新たな市場を創造していく商品を今年秋以降投入する」-これが片山執行役員常務が掲げる今年度のパソコン事業戦略だといえる。


●今年度下期の黒字転換目指す

 そして、もうひとつ、NECのパソコン事業には大きな課題がある。

 黒字転換である。

 当初の計画では、昨年10月からの黒字転換を見込んでいた同社だが、パソコン需要が大減速したことで、その計画は大きく狂ってしまった。この1~3月には、パーツ価格の上昇などにより、すでに発売したパソコンを「売っても儲からない」という状況で流通させなければならない事態となったことも黒字化を遅らせている。

 「現在の計画では、今年度上期までは赤字が続くだろう。これを下期には黒字に転換させ、年度ベースではトントンにもっていきたい」と見通しを示す。

 片山執行役員常務は、社内に向けて「今年下期に黒字化が達成できなければ、パソコン事業が無くなるという気持ちで取り組んでほしい」と檄を飛ばしている。

 そして、その上で、様々な施策を打ち始めている。

 デスクトップパソコンを製造していた群馬事業場を修理、検証拠点へと変えたのも、今年4月以降の大きな変化だ。

 「競合他社は、シェアを拡大するなかで陣容を強化してきたのに対して、NECはシェア50%の体質を引きずったまま事業に取り組んでいる。これでは、赤字となるのも当然。辛いこともしなくてはならないが、きちっと利益を出していく体制を作らなければならない」と片山執行役員常務は断言する。

 NECが掲げるV字回復の行方を担うのは、半導体事業の回復と、パソコン事業の黒字化といえる。

 新たな体制となって、トップシェア堅持と黒字回復を狙うNEC。今年秋までは長い助走期間といえるが、その回答は、やはり秋まで待たなくてはならないようだ。果たして、どんな形(=製品)となって、回答がでるのだろうか。

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【大河原】【2月4日】シェア追求を捨てた!? 冬商戦でNECが低迷
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2002/0204/gyokai22.htm
【大河原】【2001年9月4日】「トップシェアは必要条件ではない!」NECがシェア至上主義から脱却宣言
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/20010904/gyokai13.htm

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(2002年4月15日)

[Reported by 大河原 克行]


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