第142回:A4ノートPCの常識を変える
ノートPC向け水冷システム



 もうすぐ登場すると言われるモバイルPentium 4。フルサイズのノートPCを使いたい、ハイパフォーマンスを求めるユーザーには注目のプロセッサかもしれない。最初のモバイルPentium 4は1.7GHz版と言われており、ハイエンドのデスクトップPCと同程度のパワーをエンドユーザーは利用可能になる。

 しかし一方でモバイルPentium 4は、感覚的な面でノートPCを後退させてしまうかもしれない。どんどん大きくなる消費電力に対して、モバイルPentium 4はモバイルPentium IIIよりも大げさな冷却を行なう必要があるからだ。

●動作するしないの問題ではない

 この問題は今に始まったものではない。かつてモバイルPentium IIが登場した頃も、最近では初期のモバイルAthlonが登場した頃もそうだった。大きなパワーを生むためには、より大きな電力が必要となり、そこで発生するより大きな熱を逃がすために様々な工夫をしてきた。

 もちろん、消費電力が増えたからといって、それに対応した設計がされていれば全く問題なく動作する。しかしノートPCの場合、熱源であるプロセッサが組み込まれたモジュールそのものをユーザーインターフェイスとして利用するため、単に排熱できればいいという話ではない。

 冷却ファンはサイズが小さいほど、回転数が高いほど騒音が大きいから、筐体内のスペースに余裕がないPCはひどくウルサイものになってしまうだろう。冷却ファンの負担を軽くしようとすると、どうしてもシャシーへ逃がす熱が多くなるから、今度は筐体の底面が熱くなったり、パームレストの加熱といった問題を引き起こしてしまう。

 モバイルPentium 4のTDPは30W台と言われているが、モバイルPentium 4のクロック周波数は年内に2GHzを超えると言われる。特にA4薄型のノートPCに搭載する際には、動作はするが熱くウルサイ製品になってしまうかもしれない。モバイルPentium 4搭載のノートPCは、かなり筐体の大きい製品が中心だが、台湾メーカーなどは薄型筐体に無理矢理モバイルPentium 4を詰め込んだ製品も出してくるようだ。

 もちろん、動作する、しない、といった視点で見れば、ちゃんと安定して動作する。しかしながら、せっかく高性能でも熱や騒音で快適性が損なわれては魅力は半減してしまう。

 そんな中で日立が提案してきたのが、ノートPC用のコンパクトかつ高信頼性の水冷システムである。

●液晶パネル裏も利用して廃熱する水冷システム

 ノートPCのプロセッサが発する熱は、シャシーそのものに熱を分散させて底面で廃熱する分と、パームレストやキーボード上から自然に廃熱される分、そしてヒートパイプで冷却ファンが取り付けられたアクティブヒートシンクに伝えられ廃熱する分の、大まかに3つの経路で放出される。

 シャシーに分散させる熱量が大きくなりすぎると筐体底面が熱くなり、膝の上で使うときに不快な思いをすることになってしまう。一方、パームレストやキーボード上から発せられる熱が多くなれば、手元が熱くなって長時間の作業が辛い。かといって、アクティブヒートシンクを大きくすればサイズやレイアウトが厳しくなる上、小さなファンを使うと騒音の問題が出てくる。

 また冷却ファンはPCを構成するパーツの中でも比較的劣化速度が速い。ベアリングが故障して異音を発生させたり、ファンが停止してしまったり、ファンの羽根にホコリが付着して音がうるさくなってしまったりと、冷却ファンはトラブルの元だ。しかし、それでもパームレストや筐体底面の発熱を抑えようと思えば、アクティブヒートシンクの能率を上げ、どんどん廃熱しなければならないのが現代の高性能モバイルプロセッサだ。

内部がわかるスケルトンモデル。液晶パネル裏にラジエターを配置する。中央上にはリザーバタンクが見える
 水冷システムの良いところは強制空冷で冷やすのではなく、ユーザーの手から離れている部分、つまり液晶背面のパネルに熱を移動させることが可能な点である。液晶パネル裏ならば、少々温度が上がってもユーザーの使い勝手に影響することはない。

 さらにアクティブヒートシンクで排熱していた分を、自然放熱できる場所にまで移動させるため、冷却ファンを取り付けなくともプロセッサの熱をハンドリングできるようになる。したがって風切り音が発生せず、冷却ファンの劣化の心配もない。水冷システムでは冷却ファンの代わりにポンプを動作させなければならないが、ポンプの信頼性は冷却ファンよりも遙かに高く劣化速度も遅い。

 また冷却水を複数デバイスに循環するように経路を設定すれば、今後、発熱が問題となってくるだろうチップセットやメモリなどの熱も、プロセッサの熱と同時に別の場所へ移動させることが可能になる。日立によると、A4サイズのノートPCで液晶パネル裏を利用すると、筐体全体で50Wまでの熱をハンドルできるという。

 将来、この枠をも超えてきたときには、さらにラジエターを強制空冷することもできるわけで(もちろん、その場合はファンレスではなくなってしまうが)、システムによって柔軟に冷却の設計が行なえる点は大きい。

●水冷システムの標準化を狙う

 このノートPC向けの水冷システムは、重電分野での日立のノウハウが非常に多く詰まっているという。たとえば水漏れしてしまうと、製品そのものがまるまるダメになってしまうかもしれない。水を通す金属パイプや曲げ部分に利用するフレキシブルパイプの信頼性は、絶対的な高さを誇らなければならない。

 そこで日立では、この部分の材料選定に発電機などの分野で培ったノウハウと技術を投入し「5年間、動かし続けても全く問題ない」というレベルにまで信頼性を引き上げた。はじめてのシステムであるため、かなり大きなマージンを取った設計にしているというが、それでも問題となる部分はないという。

 すでに日立はこの水冷システムを使った試作機を完成させており(現在開催中のIntel Developers Forumで展示)、Pentium 4を搭載した水冷ノートPCを今年第3四半期に発売する予定だ。この製品は「水冷であることをアピールしたかった」とのことで、巨大なリザーバタンクを液晶裏に搭載しているが、レイアウト次第ではさらに目立たなくすることもできる。

 試作機はモバイルPentium 4を搭載しているにも関わらず、冷却ファンの音がない静音PCに仕上がっており、パームレストやキーボードの熱も全く気にならないなど、非常に快適に利用できるユーザー本位のノートPCに仕上がっている。別途B5ファイルサイズのFLORA 220FXに水冷システムを搭載した試作モデルもあったが、こちらは技術デモ用の筐体で製品化の予定はない。

配管はヒンジ部分にフレキシブルチューブを利用することで行われていた。信頼性を確保するため、利用素材などに多くのノウハウがあるという 水冷を誇示するためかリザーバタンクは少々大げさに配置されていた B5ファイルサイズ機を水冷化したデモ用試作機。リザーバタンクはCD-ROMドライブのベイに装着されていた

 水冷システムの重量は、モバイルPentium 4用の空冷システムとほとんど変わりないが、消費電力は1〜2Wと少々大きめ。バッテリ駆動には不向きだが、ほとんど据え置いて利用する製品向けには十分だろう。

 コスト面では1.5倍になってしまうそうだが、開発した日立製作所は水冷技術を複数の部品メーカーに供与し、デファクトスタンダード化させることでコストダウンを狙う。今回の試作機に使われていたのは日立電線が製造を担当したものだが、他にも数社がノートPC向け水冷システムを製造・外販することになる。量産化が進めば、コスト面での空冷との差は「ほとんど無くなるはず」と日立の担当者は話す。

 日立はまずモバイルPentium 4搭載のノートPCに採用したが、量産化、コンポーネント化が進めば、将来的には様々な動向に影響を与えるかもしれない。

 たとえば安価なデスクトップ向けのCeleronプロセッサを用いてノートPCを作ることも可能になるはずだ。またインテル製プロセッサよりも平均消費電力が高く実利用時の発熱が大きいAMDのモバイルAthlonは、モバイルPentium 4以上に大きな恩恵を受ける。ノートPC向け水冷システムは、A4クラスの高性能が求められるノートPCの勢力図が変わる可能性を秘めていると言えるだろう。


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(2002年2月26日)

[Text by 本田雅一]


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