元麻布春男の週刊PCホットライン

これからの標準を形にした?
コンセプトプラットフォーム「Lecta」


●消滅したPCのガイドライン

 現在市販されているPCはどのようなハードウェア構成であるべきなのか。極論を言ってしまえば、動かしたいと思うOSがサポートしている構成、ということになってしまう。どんなハードウェアであろうと、ソフトウェア、中でもOSのサポートがなければほとんどのユーザーにとって、それは何の役にも立たない。

 だが、OSサポートさえあれば良いのかというと、それもちょっと違う。OSがある程度ハードウェアと独立して商品性を持つには、OSはある程度の幅を持ってハードウェアをサポートする必要がある。OSサポートのあるハードウェアといえども、望ましい構成もあれば、かろうじて動いている(?)構成だってあるハズだ。

 世の中で圧倒的に多数を占めるMicrosoftのWindowsについて、望ましい構成のガイドラインを示すものに、「PCxx System Design Guide」(xxには年度が入る。あるいは単にPC Design Guideとも総称する)というものがあった。

 正確には、現行のOSであるWindows XPに対応したPC2001 System Design Guideが存在することを考えれば、「ある」と現在形で語るべきなのかもしれないが、2000年に成立したこのPC2001 System Design Guideを最後に、このガイドブックの共同著作者であるMicrosoftとIntelは、PC Design Guideの更新を止めてしまったのである。要するにPC2002 System Design GuideやPC2003 System Design Guideがリリースされることはもうない。


●新しいガイドラインは生まれたばかり

 PC Design Guideの消滅により、PCの望ましい構成を定義したガイドラインが1つ消えてしまったわけだが、今回のIDFでそれに代わるガイドラインの提案がなされた。「Intel 2003 Desktop Platform Vision Guide」と題されたこのガイドブックは、タイトルからも分かる通り、Intelが単独で定義するガイドライン。とはいえIntelは、自社の独断で決定するのではなく、業界のフィードバックによりこのガイドラインを定義したいということを述べている。これを受けて中身も、PC Design Guideのような「要件」といった強い強制力を示唆するものではなく、もっと穏やかな表現になるようだ。

 なお、このガイドブックにモバイルPCが含まれていないのは(表題に「Desktop Platform」と書かれているのは)、とりあえずこうしたガイドブックを作ろうという動きが、IntelのDesktop Product Groupから生まれたもので、まだIntel Architecture Group全体でのコンセンサスができているわけではない現況を反映したものらしい。

 つまり、まだこのガイドラインは動き出したばかりの赤ん坊のような状態にある。Intel 2003 Desktop Platform Design Guideと題されたテクニカルセッションで配布された「Intel 2003 Desktop Platform Vision Guide」のRev 0.10は、目次だけのスケルトンといっても過言でないもの。具体的な項目の記述は一切ない。

 では、このVision Guideが紙上の空論かというと、それもちょっと違う。すでに「Lecta」と呼ばれるConcept Platformが存在する。


●新しいガイドラインを具現化した「Lecta」

 会場に展示されていたLectaは、MicroATXフォームファクタのマザーボードを用いた、小型のPC。マザーボードは今年のQ2に発表予定の、グラフィックスを統合したPentium 4対応のチップセット(Brookdale-G)を搭載したもの。South BridgeにはUSB 2.0をサポートしたICH4が組み合わせられ、オンボードのNEC製USB 2.0対応Hubチップと合わせ、計8ポートのUSB 2.0ポートを提供する。LectaのI/Oは大きくUSB 2.0に依存しており、キーボードやマウスはもちろん、フロッピードライブ代わりに内蔵しているフラッシュメモリカードリーダーも、USB 2.0を利用している。

 また、ハードディスクはSerial ATAに対応したもので、オンボードにSilicon Image製のSerial ATAコントローラを搭載する。できればSerial ATA一本で行きたいようだが、さすがにSerial ATA対応のCD-RW/DVD-ROMコンボドライブは存在しないらしく、こちらは通常のパラレルATA対応のものだった。

Lectaの外観。比較的小型のミニタワーケースに収められている Lectaの内蔵ストレージデバイス。USB接続によるフラッシュカードリーダー(銀色のケーブルが接続されている)と、シリアルATA対応のハードディスク(緑色のケーブルが接続されている)

AGPスロットに挿すDVIパドルカード。Brookdale-G対応マザーボードであれば汎用に使えるハズだという

 Brookdale-Gのグラフィックス機能が気になるところだが、残念ながら正式発表前ということで、その性能や機能に関する質問には答えてもらえなかった。が、興味深いのは、このマザーボードがAGPスロットを備えていることと、ここに実装するオプションとしてDVIのパドルカードを用意していることだ。これは、AGP対応のグラフィックスカードを利用してグラフィックス性能をアップグレードできるというだけでなく、ここに安価なパドルカードを付与することで、Brookdale-G対応マザーボードを簡単にDVI対応にできる、ということでもある。

 すでに発売されているIntelのグラフィックス統合型チップセットである815でも、こうしたパドルカードを加えることでDVI対応を図ることができた。が、パドルカードを追加するインターフェイスがマザーボードベンダごとにまちまちの独自コネクタであったため、実際にこうしたパドルカードが流通することは、ほとんどなかった。

 Brookdale-Gも815同様、独自コネクタによるDVI対応を図ることが可能だが、すべてのマザーボードに共通のAGPコネクタも利用可能になったことで、Brookdale-Gマシンを安価にDVI対応するオプションとして、AGP対応DVIパドルカードが流通に乗る可能性が出てきた(ただし、このパドルカードはBrookdale-Gについて共用できても、他の統合型グラフィックスカードでは、おそらく使用できない)。ちなみに、展示会場にはLecta以外にBrookdale-Gを用いた別のデモマシンがあり、DVD-Videoの映像をTV表示していたが、TVエンコーダは内蔵ではない、ということだった。

Lectaのリヤパネル。802.11aのアンテナが目立つ

 Lectaの大きな特徴の1つは、ネットワーク機能が充実していることで、オンボードにGigabit Ethernetポートを備えるほか、拡張スロットにIEEE 802.11a対応の無線LANカードが実装されていた。このIEEE 802.11aを用いて、Lectaで他のアプリケーションを利用しながら、Lectaに蓄積されたデジタル写真や音楽ファイルを他のマシンから利用する、といったデモが行われた。

 なお、今回展示されたLectaは、TVチューナーカードを実装していたり、6チャンネルのアナログオーディオおよびS/PDIFによるデジタルオーディオをサポートしていたり、という具合でコンシューマー色が強くなっているが、Desktop Plagtform Vision GuideはコンシューマーPCだけでなく、企業向けのコーポレートPCにも適用される。



●Vision Guideは定着するか

 以上のような特徴を持つLectaだが、忘れてはならないのは、これがIntel 2003 Desktop Platform Vision Guideのコンセプトを具現化したConcept Platformであり、Concept PCですらない、ということだ。Concept PCの場合、多くはIntelとサードパーティのPCベンダとの共同開発の形をとり、商品化を目指している(だからといって、必ずしも商品化されるとも限らないが)のに対し、Concept PlatformであるLectaはIntel 2003 Desktop Plagrom Vsion Guideが最終的に提示する予定のReference Platformのたたき台に過ぎない(Reference Platformがコンシューマーとコーポレートで2種類になるか、1つのプラットフォームで共通化できるかは、現時点では確定していない)。商品化を前提にする以上、Concept PCの場合は外観も重要な要素だがConcept PlatformであるLectaでは外観はフォームファクタを示す以上の意味はないものと思われる(パッケージより、中身のスペックを定めることに力点がおかれる)。

 そして2003年のプラットフォームには、まだ3GIOは間に合わないため(基調講演に2003年後半に最初の3GIO対応シリコンが登場する、という発言があったが、プラットフォームとして広く普及するのは2004年になるらしい)フォームファクタが劇的に変わることはおそらくない。逆に、2004年以降のVision Guideでは、フォームファクタに劇的な変化がある可能性も考えられる(同じDesktop Products Groupでは、3GIOをベースにした新しいフォームファクタの研究が進められている)。

 このIntelのVision Guideは、まだスタートしたばかりで、PC Design Guideのように定着するかどうかは分からない。またPC Design Guideのように、Windowsロゴを付与する条件にする、といった「強制力」も持たない。それでも、PC Design Guideの作業が放棄されて1年あまりで、新たなガイドラインの策定を目指す動きが出てきたということは、やはりこの種のガイドラインに一定の必要性がある、ということなのだろう。

 少なくともIntelの社内に、将来のプラットフォームがどのような方向性に進むか、ということを提示するために、ガイドラインを設けることが必要だという意見があることは間違いない。あとは、OEMがこうしたガイドラインを欲しているかどうか、ということだが、Intelはガイドラインを定めることがOEMの利益にもつながる、と確信しているようだ。

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(2002年3月1日)

[Text by 元麻布春男]


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