IDF Spring 2002会場レポート Banias用チップセット

インテルがBanias用チップセットのOdemをデモ
~しかしBanias自体の話は無し

Banias用のチップセット「Odem」

会場:Moscone Center
会期:2月25日~28日(現地時間)



 3日目を迎えたIntel Developer Forum Spring 2002(IDF)では、クライアントPC関連の基調講演が行なわれた。その中で、Intelのアナンド・チャンドラシーカ副社長兼モバイルプラットフォームグループジェネラルマネージャが、2003年の前半にリリースを予定しているモバイル専用CPU「Banias」のチップセットである「Odem」(コードネーム)をデモした。

 しかし、IDFの期間中で、Baniasの話はこの件のみ。せっかくのアピールの機会なのに、どうしてこのようなことになってしまったのだろうか?


●なんとNorthwoodを利用してデモされていたBanias用のOdem

 今回チャンドラシーカ氏がデモしたのは、Baniasのチップセットとして伝えられるOdem(オーデム)、Montara(モンタラ)のうち、Odemと呼ばれる単体チップセットだ。Odemはリファレンスマザーボードに搭載されて動作していた。目に見える範囲で確認したところでは、AGP(どのバージョンかは不明)、DDR266のメモリモジュールが装入されていたSO-DIMMスロットを2つ搭載、サウスブリッジはICH4のモバイル版となるICH4-M(FW82801DBM)となっていた。

 注目すべきは、利用されていたCPUがNorthwoodコアであったことだ。実際には、マザーボード上に搭載されているネイティブのCPUソケットに、間にゲタをかます形でNorthwoodが搭載されていた。いくらゲタをかましても、電気信号が異なっていれば、ゲタをかましても変換しきれるものではない。したがって、少なくとも現段階のOdemはP4のシステムバスと互換であると考えることができる。この件について、Intelのドン・マクドナルド モバイルプラットフォームグループマーケティングディレクタは「Baniasの詳細については今回はお話できない」と非常に口が重い。

 実は、今回Baniasに関してはマクドナルド氏に限らず、チャンドラシーカ氏その他のIntelのモバイル関係者の口が非常に堅く、まるでかん口令がひかれているかのようだった。実際、Baniasに関する質問は、はぐらかされるばかりで、ほとんど答えてもらえなかった。BanisはIntelのモバイルプロセッサの将来を担うCPUのはずだ。それなのに、どうしてここまでBanisについて語りたがらないのだろうか。それにはわけがある。

Intelのアナンド・チャンドラシーカ氏副社長兼モバイルプラットフォームグループジェネラルマネージャ IntelがOdemのデモに利用したシステム。CPUにはNorthwoodが利用されている。Banias自体はデモされなかった


●その背景には間もなくリリースされるモバイルPentium 4-Mの存在が

サウスブリッジのICH4-M(FW82801DBM)。ICH4のモバイル版で、2003年に登場する予定

 今回、IntelがBaniasについて語りたがらない背景には、第1四半期中にリリースが予定されている「モバイルPentium 4-M」の存在がある。マクドナルド氏の言葉を借りれば、モバイルPentium 4-Mのリリースは「間もなく(Very soon)」だ。仮に、今回のIDFでBaniasの詳細をブチ上げて、ユーザーの興味がBaniasに集まったとしよう。それは、裏をかえせばモバイルPentium 4-Mに関する興味が薄れることを意味するのだ。

 既に述べたように、Intelは2003年の前半にBaniasをリリースする。それまでの1年間の主力製品は、モバイルPentium 4-Mとなる。つまり1年間、IntelはモバイルPentium 4を、さらにはOEMメーカーはモバイルPentium 4-Mを搭載したノートPCを売っていかなければならない。したがって、そのモバイルPentium 4-Mのプロモーションにとって逆効果となるようなBaniasを、IDFで大々的にブチ上げるわけにはいかない、おそらくそういうことだろう。

 このため、Odemの公開で新しく判明したのは、OdemがICH4-Mをサポートするということだけだ。気になるのはOdemがPentium 4システムバスと互換であるかだが、既に述べたようにIntelはノーコメントで何も述べていない。ただ、IntelはOEMメーカーに対して、Banias用として用意されているMontaraが、Northwoodコアを搭載したモバイルCPU(モバイルPentium 4や第4四半期に投入される予定のNetBurstマイクロアーキテクチャベースのCeleron)用のグラフィックス統合型チップセットとして投入されることを明らかにしている。したがって、状況証拠としては限りなく“YES”に近いのだが、確かなことはまだ判っていない。


●Prescottのモバイル版は存在するのか?

 Baniasがリリースされた後、モバイルPentium 4はどうなっていくのだろうか? 基調講演の後の質疑応答で、チャンドラシーカ氏は「将来は、モバイル向けCPUは上から下までBaniasに置き換わる。だが、暫くはモバイルPentium 4とBaniasは共存していくことになる」と述べ、最終的にはすべてのモバイル向けセグメントがBaniasにより置き換えられると、これまでより踏みこんだ発言を行なった。

 これは、Baniasのパフォーマンスが相当高いことを意味しているのだろう。昨年の段階では、IntelはBaniasのポジションがPentium 4を置き換える、それとも共存するのかということに対して明確に答えていなかった。今回ここまで踏みこんだということはそれについては自信を持っているということだろう。ただ、Baniasが出ても、おそらく1、2年はモバイルPentium 4との共存になる。

 気になるのは、本日の基調講演で同社のルイス・バーンズ副社長兼デスクトッププラットフォームグループジェネラルマネージャが語った「Prescott」のモバイル版の存在だ。バーンズ氏は「Intelは2003年後半に次世代のPrescottを投入する。製造プロセスルールは0.09μmで、マイクロアーキテクチャはPentium 4で採用していたNetBurstマイクロアーキテクチャの改良版となる。また、Hyper-Threading Technologyも導入される」と述べている。

 製造プロセスルールがシュリンクすれば、ダイサイズも小さくなり、0.13μm世代で問題になっていたリーク電流も減るなど、そのメリットは決して小さくない。そうした意味では「Prescottを先にモバイルに投入」というストーリーだって有り得ないわけではないと筆者は考える。この点についてチャンドラシーカ氏に質問したところ「いい質問だ。だが、現時点では答えられることはない」と述べ、肯定はしなかったが否定もしなかった。

 筆者の個人的な意見だが、モバイル版のPrescottは存在すると思う。そう考えられる理由は2つある。1つは既に述べたように消費電力だ。製造プロセスルールが0.09μmにシュリンクする事は消費電力でメリットが高い。マクドナルド氏はモバイルPentium 4プロセッサの熱設計消費電力について「30Wをターゲットにしている」と述べている。Intelは「年末までにモバイルPentium 4/2GHz-Mをリリースする」と昨年の秋のIDFで表明しているが、その時には第1四半期にリリースされる30Wの最初の製品よりも熱設計消費電力が上がってしまう可能性が高い。

 OEMメーカーはそれを見越して35W程度を上限に設計しているが、2GHz以上のモバイルPentium 4-Mをリリースするには、駆動電圧を下げるか、ダイのシュリンクしか有り得ない(もちろん、熱設計の基準を再び見なおすという手を採ることもできるだろうが、それでも限界はあるだろう)。そうした意味では、2003年のどこかでPrescottのモバイル版を投入する必要がでてくるだろう。

 2つ目の理由は、昨年の秋のIDFでは、当時はデスクトップPC担当だったチャンドラシーカ氏の発言で、「将来、Hyper-Threading TechnologyはデスクトップPCにも、ノートPCにも降りてくる技術だ」と述べている。ノートPCでHyper-Threading TechnologyをサポートするCPUが、Prescottのモバイル版であってもなんら不思議ではないだろう。



●“パフォーマンス”に対する概念を1年間でどう変えるのかが課題

 ノートPC向けCPUの今後だが、チャンドラシーカ氏は「2003年の前半にBaniasが登場し、そのあとで“Future Banias Family Processor”が登場する」と述べ、Baniasが2003年に登場する最初のバージョン以外にも、バリエーションが存在することを明らかにした。

 いくつかの可能性が考えられるが、1つには、モバイルPentium IIIの時代にそうであったように、低電圧版/超低電圧版といった駆動電圧が低く、消費電力が低いバージョンがあるということだろう。これについてはいくつかのソースが、Intelがそうした説明をしていると伝えている。

 もう1つはグラフィックス統合型CPUの可能性だ。Banias、Odemというコードネームがイスラエルの地名であることからもわかるように、Baniasはイスラエルで開発されている(ちなみにMontaraは米国のカリフォルニア州の地名で、そのことからもMontaraは米国で開発されている可能性が高いことがわかる)。このイスラエルのチームは、かつてグラフィックス、メモリコントローラ統合型の「Timna」を開発したチームであることが知られており、もう一度夢よ再びで、そうした統合型CPUがファミリーに加わる可能性も考えられるだろう。

 既に述べたように、今回はBaniasに関してIntel関係者の口は一様に堅く、実際のクロックやパフォーマンスについてはまったく情報は出てこなかった。だが、あるソースは「BaniasのパフォーマンスはモバイルPentium 4を上回るものである、とIntelは説明している」ということを伝えている。また、今回チャンドラシーカ氏が「BaniasはPentium 4に置き換わる」と語ったことから考えても、モバイルPentium 4以上のパフォーマンスを実現している可能性が高いだろう。

 だが、おそらく、Baniasは消費電力を抑えるために、クロックよりも効率を重視した設計になっているのだろう。クロックはモバイルPentium 4よりも低いことは容易に想像できる。だとすると「モバイルPentium 4よりもクロックが低いけど、パフォーマンスが高く消費電力が低いBaniasを、ユーザーやOEMメーカーが受け入れるか?」というのが次の議論の対象だ。つまり、AMDがAthlon XPで抱えた問題と、似た問題を抱えることになる。まさかIntelがモデルナンバーを導入するわけにはいかないだろうから、これに対してIntelも何らかの解答を用意しなければならない。

 今回チャンドラシーカ氏は「Intelは“Mobility Enabling Program”を立ち上げる。高性能を実現し、セキュリティが確保されたワイヤレス通信、さらには長時間のバッテリー駆動を実現するためのイニチアシブだ」と述べ、Intelがより持ち運び易いようにノートPCを改善していくためのガイドラインを、業界各社と協力して作っていくことを明らかにした。このガイドラインは秋のIDFまでに策定、秋のIDFで発表され、2003年の前半に対応した製品が登場するという予定になっているという。つまり、Baniasがリリースされる時期だ。これが、Intelの先程の問題に関する解答の1つだと考えていいだろう。Intelも“Baniasの課題”を理解しているのだ。

 このプログラムだけですべてが解決できるかどうかは、実際に見てみなければなんとも言えない。ただ、ユーザーが「クロックがすべてではない」ということ理解してくれなければ、Baniasの成功は期待できないことは間違いない。そうした意味では、次のIDFでIntelがどのような解答を持ってくるのか、あるいは別のなんらかの解答を用意できるのか、それがBaniasの成功の鍵となる。

プレス向けのセッションではタブレットPCに薄型のキーボードをつけたコンセプトモデルや、折り曲げ可能なパームレストの部分にPDAが内蔵されているユニークなデザインのコンセプトモデルが公開された。こうした新しいフォームファクタのデザインもBanias成功への鍵となる

□Intel Developer Forum Spring 2002のホームページ(英文)
http://www.intel.com/idf/us/spr2002/index.htm

(2002年2月28日)

[Reported by 笠原一輝@ユービック・コンピューティング]


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