ソニーから液晶一体型PC「バイオW」登場!
~PCの家電化を目指す新コンセプトPC



 バイオシリーズが好調なソニーから、新たに液晶一体型PC「バイオW」(以下バイオW)が登場した。

 液晶一体型PCは、なにもバイオWが初めてというわけではない。NECや富士通、日立などの大手ベンダーは、数年前から液晶一体型PCを発売しているが、販売台数的には決して成功したとはいいがたい。A4オールインワンノートの低価格化が進んだことで、デスクトップPCのシェアは年々低下している。そうした背景の中で登場したバイオWは、「液晶一体型PCはあまり売れない」という定説を覆すことができるのだろうか?

 既報のとおり、残念ながら発売は2月中旬へと延期されてしまったが、早速、レビューしていきたい。



●必要にして十分な基本性能

 バイオWの特徴は、PCとしてのハードウェア面にあるのではなく、そのデザインとプリインストールされている独自アプリケーションにあるのだが、まずは、PCとしての基本性能から見ていくことにしたい。バイオWは、ソニーのバイオシリーズの市販モデルで初めて、ホワイトとブラックの2色のボディカラーが用意されているが、この2モデルはボディカラーが異なるだけで、スペックは全て同じである。なお、今回は、ホワイトモデルを試用した。

 バイオWでは、CPUとしてCeleron 1.2GHzを搭載している。Celeron 1.2GHzは、0.13μmプロセスルールで製造されるTualatin-256Kコアを採用しており、1.1GHzまでのCeleronに比べてL2キャッシュの容量が2倍の256KBに増えていることが特徴だ。システムバスは100MHzのままだが、L2キャッシュが増えたことで、パフォーマンスが向上しており、バリューPC向けCPUの中でも高い性能を誇る。

 チップセットには、VIA Technologiesの統合型チップセットProSavage PN133Tが採用されている。ProSavage PN133Tは、グラフィックコアとしてSavage4コアを統合したチップセットであり、本来はノートPC用としてリリースされている製品だ。Savage4は、ビデオチップとしては数世代前の製品であり、3D描画性能は高くはないが、2D描画中心のアプリケーションを使うのなら特に不満はない。

 メインメモリとしては、Virtual Channel SDRAM(以下VC SDRAM)を256MB標準実装している。VC SDRAMは、NECが開発したSDRAMの一種で、メモリチップの内部にチャネルと呼ばれるバッファを設けることで、高い平均データ転送速度を実現していることが売りだ。ただし、SDRAMとのプロトコルレベルでの互換性はないので、VC SDRAMを利用するには、チップセットやBIOSレベルでの対応が必須となる。VC SDRAMは'99年春頃に登場したが、Intelのチップセットが対応しなかったこともあって、主流となるには至らなかった(サードパーティ製チップセットを搭載した大手メーカー製マシンの中には、VC SDRAMを採用した製品もある)。

 DIMMスロットが1基空いており、最大512MBまで増設可能である。DIMMスロットへのアクセスは、本体の背面のフタを外して行なう。試しに、PC133 SDRAM DIMMを装着してみたが、正常に認識しなかったので(標準で装着されているVC SDRAM DIMMの代わりに挿した場合と、VC SDRAM DIMM+PC133 SDRAM DIMMの組み合わせを試したが、前者は起動せず、後者はVC SDRAM分256MBしか認識しなかった)、やはりVC SDRAM DIMMを使って増設する必要があるようだ。

本体背面のフタを外して、金属製のシールドを持ち上げると、DIMMスロットにアクセスすることができる メモリモジュールにはNEC(エルピーダ)製のVC SDRAMチップが採用されている

 HDDの容量は40GBで、TV録画機能を装備したPCとしてはやや少ないが、バイオWでは、録画時のビットレートを下げることにより(詳しくは後述)、最大で約18時間の録画を実現しているので、それほど不満はない。また、光学ドライブとしては、薄型のCD-RW/DVD-ROMコンボドライブが採用されている。

 省スペース性を重視したコンパクトなPCであるため、内部にHDDやPCIカードなどを増設することはできないが、製品コンセプトを考えれば納得できる。機能拡張や周辺機器の接続は、PCカードスロット(Type2×2)やUSBポート×2、IEEE 1394準拠のi.LINKポート×2(6ピン×1、4ピン×1)を利用することになる。

 ノートPCでは、PCカードスロットが2基ある場合、上下に重ねられているのが普通だが、バイオWではPCカードスロットを上下に重ねず、別々のスロットとして実装されている。ちょっと考えると、上下に重ねた方が実装スペースも節約でき、厚さが2倍のPCカードType 3も利用できていいように思えるが、わざわざスロットを2つに分けたのは、無線LANカードのようにアンテナなどの部分がスロットの外に飛び出すタイプのPCカード(PCカードType2 Extended)を装着した場合を考慮したためだ。

 スロットが上下に重なっていると、こうしたPCカードを装着した場合、はみ出し部分が干渉してその下のスロットが使いにくくなってしまうが、別々のスロットに分かれていれば問題はない。バイオWは、100BASE-TX対応のLAN機能と56kbps対応モデム機能を内蔵しているが、家庭で一人一人が所有するPCという製品コンセプトを考えると、無線LANカードを装着して使われることも多くなるだろう。そうした細かな配慮も、いかにも製品コンセプトとデザインにこだわるバイオシリーズらしい。

 DVD-ROM/CD-RWコンボドライブは、液晶パネル部分の右側面に用意されているので、メディアの交換などもしやすい。また、液晶パネル部分の左側面には、メモリースティックスロット(マジックゲート対応)と輝度調整つまみ、音量調整つまみが用意されている。

バイオWの右側面。DVD-ROM/CD-RWコンボドライブを装備。液晶の側面はメタリック仕上げになっている 右側面のインタフェース部分のアップ。PCカードスロットが別々のスロットとして実装されている バイオWの左側面。メモリースティックスロットと輝度調整つまみ、音量調整つまみが用意されている


●明るく見やすい15.3インチワイド液晶を採用

 バイオWのハードウェア面での目玉といえるのが、15.3インチワイド液晶パネルを採用したことである。液晶の解像度は1,280×768ドットで、XGAよりも横に256ドット分広くなっている。液晶パネルの表面は透明アクリル板で覆われた、フラッシュサーフェスデザインを採用しており、すっきりしていて美しい。ただし、パネル面の反射はやや大きいので実機で確認されたい。

 バイオWは、キーボードも本体と一体になっているのだが、このキーボードのデザインも秀逸である。キーボードは使わないときに液晶側に畳める構造になっており、場所をとらない。ノートPCとちょうど逆の発想である。こうしたデザインを採用したPCとしては、ソーテックのAFiNA Styleがあるが、AFiNA Styleの場合、キーボードを畳むと液晶パネルが全て塞がってしまうが、バイオWではキーボードを畳んでも、液晶パネルが一部、露出する設計になっていることが特徴だ。

 デフォルトの設定では、電源を入れた状態でキーボードを畳むと、自動的にオリジナル時計表示ソフト「Motion Clock」が起動する。また、Motion Clockからは、ワンクリックで音楽再生ファイル管理/再生ソフトの「SonicStage for VAIO」を起動できるようになっており、キーボードを畳んだ状態のまま、音楽を自由に再生して楽しむことができる。

 キーボードのタッチは、ノートPCのキーボードに似ているが、キーピッチ、ストロークともに余裕があるので、タイピングはしやすい。また、キーボードの左側には、6つのワンタッチ起動キーが用意されている。

 液晶パネルの両側にステレオスピーカー(出力3W+3W)が配置されているので、横幅は約48.7cmとやや大きいが、奥行きは小さい(キーボードを畳んだ状態では約19.1cm、キーボードを開いた状態で約33.4cm)ので、設置場所をとらないこともありがたい。また、液晶パネル部分は、30度までの間で、角度を調整できるようになっている。

キーボードを開いたところ。液晶パネルの角度は30度までの間でチルトできる。OSとしては、Windows XP Home Editionが採用されている キーボードを液晶側に畳んだ状態。液晶パネルの露出部分には、自動的に時計が表示される キーボードを畳むと自動的に起動する、オリジナル時計表示ソフト「Motion Clock」

Motion Clockでは、表示色を反転することもできる キーボードの配置は標準的で、ゆったりしていて使いやすい


●TV録画やDVD再生を楽しめるマルチメディアPC

 バイオWは、バイオRXやバイオMXなどと同様にTVチューナーを内蔵しており、TV放送の視聴や録画が行なえることも特徴だ。ただし、他のTVチューナー内蔵のバイオシリーズでは、MPEG-2ハードウェアエンコーダも搭載しているのに対し、バイオWではコストダウンのために、ハードウェアエンコーダが省かれている。そのため、TV録画はソフトウェアエンコードによって行なう。

 TVチューナーとMPEG-2ハードウェアエンコーダを装備したバイオシリーズでは、ソニー独自のテレビ録画/管理/再生統合ソフト「Giga Pocket」がプリインストールされているが、バイオWにもGiga Pocketとほぼ同等の機能を持つ「Giga Pocket LE」がプリインストールされている。

 ハードウェアエンコーダを利用できるGiga Pocketでは、解像度やビットレートの異なる3種類の録画モード(高画質、標準、長時間)から選択できるが、バイオWのGiga Pocket LEでは、CPUによるソフトウェアエンコードで録画を行なうため、録画モードは標準(MPEG-2、352×240ドット、ビットレート3Mbps固定)のみとなっている。なお、Giga Pocketの標準モードは、MPEG-2、720×480ドット、ビットレート4Mbpsとなっているので、それよりもGiga Pocket LEの標準モードのほうが、画質的にはやや落ちる。ビットレートを3Mbpsに抑えているため、Dドライブ(25GB)に最大で約18時間の録画が可能だ。

 TVをリアルタイムで視聴しているときの画質は、PC用TVチューナーとしては水準以上であり、フル画面表示にしても少し離れて見れば十分満足できるのだが、録画した画像は、やはり解像度が低いので、フル画面表示にするとややアラが目立ってしまう。このあたりは、Celeron 1.2GHzによるソフトウェアエンコードの限界でもあるのだろう。高画質でTV番組を録画したいという用途には向かないが、それほど画質にこだわらないのなら十分使えるレベルだ。

 また、バイオWでは、ワイド液晶を搭載しているので、ワイドテレビと同じように、4:3の通常放送をフル画面表示する機能を新たに装備している。フル画面表示の仕方は、フル(画面一杯に表示するので、やや横長につぶれる)、ノーマル(アスペクト比を変えずに、縦方向を画面一杯に表示するので、液晶パネルの左右は使われない)、ズーム(アスペクト比を変えずに、画面一杯に拡大表示するので、元の画像の上下は切れる)の3種類から選択できる。

 なお、Giga Pocketでは、ビデオ入力端子からの画像取り込みも行なえるが、バイオWではビデオ入力端子が用意されていないので、外部信号の録画は行なえず、あくまでTV録画に特化しているという違いがある。

 TV録画予約は、電子番組表「iEPG」を利用して行なえるので、非常に簡単だ。また、再生時には、場面の大きな変わり目がサムネイル形式で画面下側に表示される「フィルムロール」機能を利用することで、素早く目的のシーンを呼び出すことができる。録画予約を行なったあとは、PCをスタンバイ状態にしておいても、時間がくれば、自動的にWindowsが起動して録画を行なってくれる。

 DVD再生は、プリインストールされているオリジナルソフト「MediaBar DVDプレイヤー」によって行なう。MediaBar DVDプレイヤー自体は、DVDプレイヤーソフトとしては標準的だが、ワイド液晶を活かして、16:9でスクイーズ記録されている映画ソースも画面一杯に表示できる。

 DVD再生時の画質もなかなか良好で、音質もスピーカーのサイズの割にはいい。ただし、バーチャルサラウンドなどの機能はサポートしていないので、映画などサラウンド音声が収録されているタイトルは、サウンド面でやや物足りなさを感じてしまう。一人で楽しむにはこれでも十分なのだが、できればヘッドホンでサラウンド感を実現するドルビーヘッドホン機能をサポートしていて欲しかったところだ。

Giga Pocket LEの画面。下にフィルムロールが表示されている。画像は、最初からHDDに入っているデモ画面 iPEGに対応しているので、電子番組表を見ながら録画予約が行なえる 録画モードは標準のみとなっており、変更はできない


●バイオW専用にデザインされた音楽ファイル管理/再生ソフト「SonicStage for VAIO」

 バイオシリーズの魅力のひとつに、高機能かつデザイン的にも優れたソニーオリジナルソフトが多数プリインストールされていることが挙げられるが、その中でも、特に完成度が高いソフトウェアが、音楽ファイル管理/再生ソフトの「SonicStage for VAIO」(以下SonicStage)である。

 SonicStageでは、音楽CDの再生/録音(ATRAC3形式やWMA形式)やインターネット上の音楽配信サービスの利用、オリジナルCDの作成、対応ポータブルプレーヤーへの書き出しまで、さまざまな機能をサポートしており、音楽を統合環境で快適に楽しむことができる。また、音楽データをMDへ高速転送できる「Net MD」規格にも対応している。

 バイオWにプリインストールされているSonicStageには、バイオWのワイド液晶にあわせた専用スキンが搭載されており、キーボードを液晶側に畳んだ状態でも、自由に再生操作を行なうことができる。キーボードを開いて音楽の再生を開始し、そのままキーボードを畳むと、音楽の再生は止まらずそのままスキンが変わるようになっている。また、キーボードを液晶側に畳むと、マウスカーソルが液晶の隠れている部分には移動しなくなるなど、細かなところまで配慮が行き届いている。

高機能でデザインセンスに優れた音楽ファイル管理/再生ソフト「SonicStage for VAIO」 キーボードを液晶側に畳むと、自動的にスキンが変更される キーボードを畳んだ状態でも、プレイリストの選択など、再生操作が自由に行なえる


●PCの家電化を目指す、今後のバイオシリーズの戦略を具現化した製品

 バイオWは一見すると、従来からある液晶一体型PCのように思われるが、製品コンセプトはかなり異なる。

 バイオWは、単に省スペース性を重視したPCではなく、家庭で一人一台が使う、真の「パーソナル」コンピュータとはどうあるべきかという問いに対する、ソニーなりの回答なのである。バイオシリーズの今後の戦略は、ずばり「PCの家電化」だ。PCの家電化とは、PCをその用途に最適な形へと進化させていくことでもある。バイオWは、PCをベースとしたパーソナルAV機器への進化の1ステップであり、今後のバイオシリーズの戦略を占う上で、重要な役割を果たす製品だといえる。

 従来の液晶一体型PCがあまり普及しなかった大きな要因として、価格が高かったことが挙げられるが、その点においても、バイオWは実売16万円前後という非常に魅力的な価格を実現している。A4オールインワンノートを購入するユーザーの大部分が持ち歩かずに使っていることを考えれば、オールインワンノートの代わりにバイオWを購入するという選択肢も十分ありうるだろう。

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【1月10日】ソニー、液晶とキーボード一体型の新デスクトップPC「バイオW」
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2002/0110/sony1.htm

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(2002年2月1日)

[Reported by 石井英男@ユービック・コンピューティング]


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