特別企画:子供とPC

PCとプログラムでオモチャを操る「フィジカルコンピューティング」、実践的なSTEM教育で伸ばす子供の能力

前回の記事では、子供にプログラミングを学んで欲しいと考えている親のために、その方法を解説したが、プログラミングはPCの中だけで完結するものではない。例えば、PCでプログラムを組んで自分で作ったロボットを動かしたり、センサーとモーターを組み合わせて、動くオモチャを作ったりといったことも可能なのだ。

このように、現実にある物理的な物体をプログラムで操ることをフィジカルコンピューティングと呼ぶ。子供は動くオモチャが大好きであり、PCのプログラムによってLEDやモーター、センサーなどを制御できることを見せてあげると、目を輝かせる子が多い。

以前であれば、子供がフィジカルコンピューティングに取り組むにはハードルがやや高かったが、最近では子供向けの優れた教材がいくつか登場している。どちらも筆者の子供達にやらせてみたところ、「とても楽しい!」と喜んでいた。またこうした教材は、プログラミングだけでなく、ギヤやクランクなどのメカニズムや、テコや釣り合いなどの力学を学ぶ助けにもなる。最近は、サイエンス(科学)、テクノロジー(技術)、エンジニアリング(工学)、マセマティクス(数学)の頭文字を意味するSTEM教育に注目が集まっているが、フィジカルコンピューティングはSTEM教育の代表である。そして、STEM教育の実践には、PCは欠かせない存在だ。

ブロックを使ってロボットを組み立て、プログラムで操る「KOOV」

最初に紹介するのが、2017年2月に株式会社ソニー・グローバルエデュケーションから発売されたロボット・プログラミング学習キット「KOOV」(クーブ)である。KOOVは、ブロックと電子パーツを組み合わせてロボットを作り、専用アプリでそのロボットを動かすためのプログラムを作成することで、楽しみながらロボットのメカニズムやプログラミングを学べる学習キットである。

KOOVはブロックを組み合わせてロボットを作り、PCなどでプログラミングして動かす学習キット

KOOVには全部で7種類のブロックがあり、それぞれいくつかのカラーバリエーションがある。​ブロックの形状は立方体や直方体などシンプルだが、組み合わせの自由度が高く、自分の思い通りのロボットを作ることができる。また、電子パーツとしては、Arduinoベースのマイコンボードを搭載したコアをはじめ、サーボモーター/DCモーター/各色LED/ブザー/プッシュスイッチ/光センサー/赤外線フォトリフレクタ/加速度センサーなどが用意されている。

KOOVの対象年齢は8歳以上だが、専用アプリが非常によくできており、子供が自分一人で、ロボット作りやプログラミングを段階的に学習していけることが魅力だ。

専用アプリには、「がくしゅうコース」「ロボットレシピ」「じゆうせいさく」「コレクション」の4つのメニューが用意されている。中心となるのが、「がくしゅうコース」と「ロボットレシピ」だ。「がくしゅうコース」はプログラミング学習のためのメニューであり、ステージごとに与えられるミッションをクリアしていくことで、初心者でも1から学ぶことができる。KOOVは、Scratchに似た独自のビジュアルプログラミング言語を採用しており、ブロックをドラッグ&ドロップで並べていくだけでプログラミングを行なえることが特徴だ。キーボードに慣れていない子供でも、気軽に学習できる。

KOOVでは、Scratchに似たビジュアルプログラミング言語を採用している

ロボットレシピは、すぐにロボットを作りたいという人のためのメニューであり、レシピ通りにブロックを組み立てていくだけで、さまざまなロボットを作ることができる。レシピは、ワニやトランペット、船、消防車などさまざまなものが用意されており、組み立て説明図は自由に回転したり、拡大縮小したりできる。また、ブロックの組み合わせ方がCG動画で解説されるのでとても分かりやすい。ロボットの組み立てが終わったら、PCとロボットのコアをUSBケーブルで接続し、プログラムを転送すれば、ロボットに命が吹き込まれる。

8歳の息子にもKOOVをやらせてみたが、プラモデルの説明書と違って、組み立て説明図の角度を自由に変えることができるので、組み立てがわかりやすいと好評であった。ロボットレシピにしたがってロボットをいくつか組み立てたあとは、自由にオリジナル作品を作っていたようだ。

専用アプリの組み立て説明図は、自由に回転や拡大縮小が可能なので、わかりやすい

用意されているロボットレシピ「オウム」を組み立てたところ

ソニー、小学生以上向けロボット・プログラミング学習キット「KOOV」(PC Watch)
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/news/1041893.html

イギリスで無料配布されている教育用マイコンボードの互換機「Chibi:bit」

次に紹介するのが、株式会社スイッチサイエンスが2016年12月に発売を開始した「Chibi:bit」である。Chibi:bitは、イギリスの「BBC(英国放送協会)」が開発した教育用マイコンボード「BBC micro:bit」の互換機だ。イギリスでは11歳と12歳の子供に無償でBBC micro:bitが配布されているのだが、日本では技適を取得していないため利用できない。そこでChibi:bitは、技適取得済みのBluetooth Low Energy(BLE)モジュールを搭載することで、日本国内での利用を可能にしている。

スイッチサイエンスの教育用マイコンボード「Chibi:bit」。CoderDojo守谷の道場主の高松氏が作成したバッテリーボックスを装着した状態である

サイズは52×42×10mm(幅×奥行き×高さ)とコンパクトだが、ARM Cortex-M0プロセッサと25個のLED、2個のボタンスイッチ、磁気センサー(電子コンパス)、3軸の加速度センサー、BLEモジュールを搭載した、高性能なマイコンボードだ。LEDは5×5のマトリクス状に実装されており、文字やアイコンなどを表示できるほか、明るさセンサーとしても利用できる。また、スピーカーを接続すれば、音を再生することも可能だ。

Chibi:bitの最大の魅力は、プログラムの開発が非常に簡単に行えることだ。Chibi:bitの開発環境はWebブラウザー上で動作するため、インストール作業が不要で、すぐにプログラミングを始めることができる。Scratchに似たビジュアルプログラミング言語でプログラミングを行うが、画面左上はChibi:bitのエミュレーターになっているので、Chibi:bitの実機がなくてもプログラムの作成や検証が可能だ。

プログラムが完成したら、USB経由でChibi:bitとPCを接続して、プログラムをChibi:bitに転送すれば完了だ。Chibi:bitは教育用として設計されているため、アイデア次第でいろいろなことに使える。例えば加速度センサーを利用すれば、Chibi:bitを腕に取り付けてパンチの速度を計測するパンチ力計測アプリや、Chibi:bitを傾けて操作を行なうゲームなども簡単に作ることができる。また、BLE経由でChibi:bit同士の通信も行なうこともできるので、Chibi:bit2台を使った通信対戦ゲームなども作ることができる。

Webブラウザーで開発が可能で、左上はChibi:bitのエミュレーターになっている。毎回実機にプログラムを転送せずに、完成してから転送すればいいので効率良くプログラムを作ることができる

ブロックをJavaScriptに変換することも可能であり、JavaScriptで直接プログラムを書くこともできる

筆者の11歳の娘にChibi:bitのワークショップに参加させてみたが、Scratchを使ったことがある娘は、Chibi:bitのプログラミングにもすぐに慣れ、左右のボタンを押すことで数字の増減が可能なカウンターアプリなどを作っていた。プログラムでLEDを制御したり、センサーの値を読み込んで動作に反映させたりするのは、PCだけで完結するプログラミングとはまた違う魅力があるようで、Chibi:bitがとても気に入ったとのことだ。Chibi:bitは、価格も3,000円台と手頃であり、夏休み工作の材料として使うのも面白そうだ。

Chibi:bitの子供向けワークショップに参加中の娘の様子

IoT的な教材に触れることは子供の将来に役立つ

今後は、身のまわりのあらゆるものがインターネットに接続されるIoT時代がやってくると予想されている。今回紹介したKOOVやChibi:bitは直接インターネットに繋がるわけではないが、BLEに対応しており、PCやスマートフォンとの連携も可能なので、広い意味でのIoT的な機能を持った教材である。

IoT時代においては、従来の常識に縛られない、自由で柔軟な発想が求められる。小さいうちからこうした教材に触れることは、子供の将来にきっと役立つだろう。もちろん、こうした教材を十二分に活用するためには、子供が自由に使えるPCを用意してあげることが重要であろう。

WDLC(Windows Digital Lifestyle Consortium)では、お子様へのパソコン訴求を強化するための長期的活動を行っています。詳しくは「My First PC」をご覧ください。