【連載】子供とPC 第1回

スマートフォンは子供のコミュニケーション力を高めて……いない?

PCで育む、子供のテキストコミュニケーション能力

「情報機器を使う」ということの本当の意味とは?

筆者はライター業の傍ら、一般社団法人インターネットユーザー協会(MIAU)の代表理事を務めている。MIAUでは小中高校生やその保護者を対象とした、子供のインターネット利用に関する講演活動を行なっているが、例年10月から来年1月にかけて、多くの講演依頼をいただいている。

それというのも、夏休み中に子供達がインターネットのコミュニケーションでなんらかのトラブルを起こしたのをきっかけに、学校全体で検討、という流れが9月〜10月ぐらいから活性化されるからだ。夏休みの問題を10月にやっても遅いのではないかと思われるかもしれないが、実際にはそのあいだに当事者間での調整が行なわれ、公になっても問題ない状況にまでになっているわけだから、対処が遅いというわけではない。

現在スマートフォンの所持率は、ざっくり小学生24%、中学生46%、高校生94%という具合だ。さらに言えば、幼年期から保護者がスマートフォンでオンラインゲームで遊ばせたり、家族共用のタブレットでYouTubeを見たりといったことは珍しくない。

保護者に聞くと、もはやスマホの扱いは大人よりも心得ているという。そういう保護者も困った顔をしながらも、実は少し誇らしげだったりもするのだが、それで安心するべきではない。なぜならば、「機器が正しく扱えること」と、「情報が正しく扱えること」は、全く別のスキルだからだ。家に帰ればずっとスマホで遊んでいるのに、夏休みになるとLINEなどのコミュニケーションツールでトラブルを起こすのは、機器は扱えても情報が正しく扱えていないからである。

では「情報が正しく扱える」とは何か。それは、人が書いた事を正しく理解し、それに対して正しい対処ができる事である。もっと言えば、ネットに人が流し込む情報には、真実も嘘も噂も冗談もあり得る中で、それぞれに対して正しく判断して扱っていける能力、と言い換えることもできるだろう。

学識経験者・学校関係者・保護者等で作る「子供たちのインターネット利用について考える研究会」、通称「子供ネット研」では、子供達の成長に合わせたオンラインコミュニケーション能力の育成モデルを提案している。学齢とコミュニケーション能力は必ずしも一致しないが、初期、例えば小学生時代においては、もっぱらネットの情報を一方的に享受するだけに留めておき、中学・高校と進むにつれて次第に自分からも発信してく「コミュニケーション」への円滑な移行が示されている。

実際に筆者もこのモデルに基づいて、自分の娘のネット利用を促している。

情報処理のスタートはPCから

スマホではなく、PCでこそ磨かれる子供の能力とは?

現在娘は中学1年生だが、中学生になれば約半数がスマートフォンを持ち、スマートフォンを持てばほぼ例外なくLINEなどのコミュニケーションツールを利用しはじめることは以前からからわかっていた。なのでそれに備えて、小学校4年生頃から自分用のPCを与え、筆者との2人のあいだだけで、文章によるコミュニケーションの練習を行なってきた。

PCを使う理由は2つある。1つは、文章にしても美術や音楽にしても、何かを作るツールとしてPCを活用することが上達の近道だと考えるからだ。例えば文章を書くことは、考え方を可視化するという意味で重要である。さらにそれを人にわかりやすく伝えるということは、必然的に作成した文章を編集することになる。

日本の学校教育の中で軽視されているのが、この「編集」という概念であろう。編集とは、集めた素材を適切な順序で並べ、接続・配置し、一つの概念が成立するように調整する作業だ。同じことを文章で伝えるにしても、結論を先に述べてから各論に入るべきか、あるいは各論を箇条書きで整理すべきか、いろいろな方法があり得る。どれがいいのかは、それぞれを作ってみて、客観的に判断してみなければわからない。この「編集」という実験作業、試行錯誤のプロセスこそが、モノを作る基本である。

ところが多くの教育現場では、テーマの選定から作業の着手、完成までを一気通貫で行なうことが推奨される。途中で路線変更したり、方法論を変えたりすることは「迷い」であり、悪いことであるかのように扱われている。なぜならば、子供を迷わせていると、決められた授業数内に課題が終わらないからだ。

アウトプットが「紙」であれば、やり直しとは書き直し、作り直しを意味する。それでは子供自身もやりたくないだろう。一方でPCがもっとも得意とするのが、この編集作業だ。一度入力したものはそのままで、位置を変えたり調整したりできる。やってみたが良くなかった場合は、いつでも元に戻せる。

子供がちょっとした文章を作る際に、この編集のやりやすさ、やり直しの簡単さを体験させることで、文章を作る事がおっくうではなくなるわけである。娘が通った小学校では、卒業文集の原稿制作にPCを活用した。これにより、文章の添削から修正、入稿まで、従来の時間の半分で済んだという。本人もまっ白な原稿用紙に向かうより、PCを使うことで楽しみながら学習できたはずだ。

PCで文章を書かせるもう1つの理由は、自分で何度も文章を書くことで、他人が書いた文章も読み取れるようになるからである。例えば友だち2人と自分の間でのやりとりを報告する場合、3人の関係性の説明のほか、自分以外の2名の行為を書き分けなければならない。

こうした他者が2名以上いる状況というのは、学習時の問題文によく登場する。たかしくんが徒歩で家を出発し、お兄さんが10分後に自転車で出発したとき、お兄さんは何分後に追いつくか、といった類の文章である。これを読み解くには、複数の人間の動きを頭の中でイメージしなければならないが、小学生にとっては難文であろう。文章は読めても意味が理解できないのでは、問題に取り組むことも難しい。

だがこうした文章は、自分で同じような状況を説明しなければならなくなった経験があれば、読めるようになる。書き手が何を言いたいのかを理解するには、そういう状況になったときに、自分ならどう書くかを想像すればいいからだ。

親と子供のクローズドな環境に最適なクラウド

親と子供がPCを介してコミュニケーションするには、何が最適だろうか。インターネットには沢山のSNSサービスがあるが、意外に子供と保護者の間だけで安全に使えるものは少ない。多くのサービスは、13歳未満の利用を想定していないため、子供はアカウントすら作れないのである。

そんな中、保護者のアカウントに付随する子供用のサブアカウントが作れるのが、Microsoft アカウントである。子供用のPCを用意する場合は、いったん保護者がアドミニストレータとしてログインし、そのアカウント内で子供用のアカウントを作成するという流れだ。なおアカウント認証とログインのために、子供用のメールアドレスが必要となる。

子供用のアカウントがあれば子供とメールでやりとりができるようになるが、メールはアドレスさえわかれば誰とでもやりとりできてしまうし、そうした場合にいくら保護者とはいえ、子供のメールまでチェックするというのは、憲法に示された「通信の秘密」の原則に照らし合わせれば、議論があるところだ。

だから個人的にお勧めするのは、OneDrive のようなクラウド上で文章をやりとりする方法である。子供と親だけを共有メンバーとした一つの書類に、お互いが書き込んでいくわけだ。この方法なら、子供が第三者とやりとりをはじめるという問題は回避できるだろう。

実際の文章のやりとりの中では、子供の文章中で意味がわからないところは問いかけを行ない、文章を補足させる。保護者が書き方の見本を見せてもいいだろう。それによってまた次の話題に繋がったりもする。子供は一度の経験で劇的に成長しないので、長文をやりとりする必要はない。少しずつでもいいから、長い期間続ける事が大事である。

OneDrive など、クラウド上で文書のやりとりができるツールを用いる

この方法のメリットは、実際に保護者が隣に居なくても教育ができることである。忙しくて帰れない時でも、ちょこっと共有ファイルを覗くことぐらいできるはずだ。

そのやりとり中で、文章だけでは伝わらない事も出てくる。こちらは叱っているつもりはないのに、子供としては叱られたような気になる事も出てくるだろう。 そういうすれ違いが起こった時が、教育のチャンスである。子供と毎日顔を合わせて会話する中で、文章だけでやりとりした内容に触れ、あれはこう言う意味だった、と紐解くことで、文章の解釈には「誤解の余地」があることを理解していく。これは絶対的な信頼関係にある、親子だからできる教育だ。

自分の気持ちを伝えるには、スタンプやエモティコンを使うことも有効だと言われている。だが気持ちだけが伝われば、コミュニケーションがうまく行くわけでもない。正しいこと、正確なことだけを書き込むよう指導するという考え方もあるが、それではあまりにもネットが窮屈すぎる。

不確かなことであれば、噂は噂として書き込めばよい。読み手も、噂を噂として受け止める。そういう情報の処理ができてこそ、本当の意味で情報リテラシーが身についたと言えるのではないだろうか。

筆者の娘がこの実践により、どれぐらい情報リテラシーが身についたのか、測る術は少ない。なぜならば情報リテラシー教育のゴールは、「何も問題が起こらない」ことを目的としているからである。したがって何も起っていない現状では、効果測定もできないのである。なんにでも成果を求めるのが昨今ではあるが、こうした目に見えない効果のために時間を費やすのが、保護者の役割でもある。

これまで青少年にまつわる多くの問題は、事が起こってから慌てて対処するのが普通であった。しかしテキストコミュニケーション特有の、相互の誤解からケンカやいじめに繋がる問題は、確実に巻き込まれる事がわかっている。

従って、来るべきときに備えるために、子供のうちからどのような形で情報に触れさせるのか、どのような形でコミュニケーションをスタートさせるのか、保護者側は計画を立てるべきだし、そうすることができる。あとはそれをどのように実践するか、だけの問題なのである。

WDLC(Windows Digital Lifestyle Consortium)では、お子様へのパソコン訴求を強化するための長期的活動を行っています。詳しくは「My First PC」をご覧ください。WDLCが推奨する Windows 10 PCの一覧もページ末尾に紹介しています。

子供に使ってもらうPCを選ぶにあたっては、テキスト入力のしやすさにも留意しよう

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