【連載】子供とPC 第2回

PCを使ったプログラミングが子供の可能性を大きく広げる

小さな“Ninja”たちのためのMy PC

プログラミング教育によって培われる3つの力とは

最近は、スマートフォンやタブレットが普及したことで、子供や若者がPCに触れる機会が減っているという話が聞かれるようになった。スマートフォンやタブレットは確かに便利なデバイスだが、しかし、PCの役割をすべてカバーできるわけではない。大雑把にいうと、スマートフォンやタブレットは他人が作ったコンテンツを消費するためのデバイスであるのに対し、PCは自分で新たなコンテンツを創造するためのデバイスなのだ。もちろん、スマートフォンやタブレットでも、絵を描いたり、文章を書いたりすることはできるが、ある程度以上のボリュームがあるコンテンツの制作には、やはりPCが適している。

PCがあれば、さまざまなクリエイティブな作業を行なうことができるが、その中でも、「PCでしかできない」ものとして挙げられるのが、「プログラミング」である。プログラミングときくと、「難しそうだ」とか「小さい子供には無理なんじゃないか」、「子供をプログラマーにするつもりはない」などと思われる方もいるだろうが、プログラミングはなにもプログラマーやSEといった専門家のためだけにあるものではない。世の中にはいろんな趣味があるが、プログラミングほど自分の想像通りの世界を自由に創造できる趣味は他にはないだろう。頭の柔らかい子供は、大人には真似のできない自由な発想で、プログラミングの世界を飛び回れる。

また、プログラミングを学ぶことで、子供のこれからの人生で大きな助けとなる3つの力を身につけることができる。その3つの力とは、「論理的思考力」「問題解決能力」「情報収集能力」である。

プログラミングとは、コンピュータに問題を解く手順を順序立てて説明する手順書を作ることであり、何よりも論理的な思考力(ロジカルシンキング)が要求される。社会人になっても、他人にやってもらいたい仕事の手順を説明する必要があることは多いが、こうしたときにもプログラミングの経験が役に立つ。また、プログラミングは、試行錯誤を繰り返しながら、小さな目標を一つずつクリアしていき、最終目標を達成するものであり、目の前の問題に粘り強く対処する問題解決能力も身につく。さらに、インターネットには、プログラミングの参考資料やアーカイブが多数公開されているので、何か分からないことが出てきた場合は、自分でインターネット上の情報を検索して、自分に必要な情報を見つけ出す能力が要求される。インターネット上の情報は、決して全てが正しいわけではないので、あふれる情報の中から正しい情報を素早く見極める能力が鍛えられる。いわゆる検索リテラシーなどと呼ばれる能力であるが、どんな仕事に就くにしても重要な能力である。

2020年度から小学校でプログラミング教育が必修になる?

ここ数年、プログラミング教育への関心が高まっており、子供を対象としたプログラミング教室が急増しているほか、関連書籍も多数出版されるようになっている。その背景にあるのが、IT市場の成長に人材の数が追いついていないという問題だ。2016年6月に経済産業省が発表した「IT人材の最新動向と将来推計に関する調査結果」では、2020年には約25万人のIT人材が不足すると予測されている。国としての競争力を維持するためにも、子供へのプログラミング教育は急務といえる。こうした課題は海外でも同じであり、イギリスやフィンランド、エストニアなど、小学校からのプログラミング教育を必修化している国も増えてきている。

日本では、2012年度から新学習指導要領に基づき、中学校の技術家庭科で「プログラムによる計測・制御」が必修になり、2013年6月に発表された政府の成長戦略の中に、「来年度中に産学官連携による実践的IT人材を継続的に育成するための仕組みを構築し、義務教育段階からのプログラミング教育等のIT教育を推進する」という文言が盛り込まれた。そして、2016年4月には文部科学省が小学校でのプログラミング教育必修化を検討することを発表した。あわせて中学、高校でのプログラミング教育拡充を検討することも発表され、プログラミング教育への注目が一気に高まることになった。

さらに、2016年5月に、日本政府が政策会議の配付資料として公開した「日本再興戦略2016」(素案)の具体的施策の一つとして、プログラミング教育に関する記述がある。それによると、プログラミング教育については、小学校における体験的な学習機会の確保、中学校におけるコンテンツに関するプログラミング学習、高校における情報化の共通必修科目化といった、発達の段階に即した必修化を図るとされている。また、こうした教育を全国的に実施するため、小学校においては2020年度から、中学校においては2021年度から、高校においては2022年度から開始される新しい学習指導要領の見直しに関する結論を本年度中にまとめ、必要な措置を講じることとされており、2020年度からの小学校でのプログラミング教育の必修化に向けて、着々と準備が進められている状況だ。

子供向けプログラミング言語の代表「Scratch」

こうした動きを受けて、小学校からのプログラミング教育必修化によって創出される新たな市場を狙った、プログラミング学習ツールや教材などが続々と登場してきている。その中でも広く使われているのが、MITメディアラボが開発したビジュアルプログラミング言語「Scratch」である。Scratchは、プログラミング学習のために作られた言語であり、プログラムコードをキーボードから入力する必要はなく、表示されているブロックをマウス操作で並べていくだけで、プログラミングが行なえることが特徴だ。キーボードからの入力に慣れていない子供でも、プログラミングの基礎を容易に学べることで人気があり、多くの学校や子供向けプログラミング教室などで採用されている。

MITメディアラボが開発した「Scratch」。子供向けビジュアルプログラミング言語の代表的な存在である

現在主流の「Scratch 2.0」は、Webアプリケーションとして開発されており、インストール作業が不要であり、Webブラウザーでサイトへアクセスするだけで利用できることもメリットだ。もちろん、一切料金はかからない。また、Scratchでは、作成したプログラムを世界中に公開できる仕組みがあり、他人が作成したプログラムを動かして遊んだり、そのプログラムをダウンロードして自分で改良したりすることもできる。Scratchは、あくまでプログラム学習用に作られた言語であり、職業プログラマーやSEが実務で利用するためのものではないが、プログラミングの基本的な考え方を学習するのに適しており、世界中に愛好者がいる。

また、日本のUEIが開発した「MOONBlock」もお勧めだ。MOONBlockもScratchと同様に、ブロックを並べてプログラミングを行なうが、その設計思想はかなり異なっており、プログラミングの面倒なところをできるだけ隠蔽し、手間をかけずに面白いプログラムを作れるようになっている。特にゲームに特化したブロックが多数用意されているので、とにかくゲームを作りたいという子供にはMOONBlockのほうが向いているだろう。

UEIが開発した「MOONBlock」。Scratchとは異なり、1つの画面でプログラムが見渡せるようになっている

アイルランドから世界に広がっているプログラミング道場「CoderDojo」

2,3年前から、子供向けのプログラミング教室が急増しているが、その背景にあるのは、自分の子供にプログラミングを学ばせたいが、自分で教える自信や時間の余裕はない親が多いという事情だろう。プログラミングは、最初のハードルさえ越えてしまえば、あとは自分で調べて上達していくことができるのだが、初心者はその最初の一歩がなかなか踏み出せない。プログラミング教室によって使う言語や進め方も違うため、子供が興味ありそうなら、体験会などに参加することをお勧めしたい。筆者には小学6年生の娘と小学4年生の息子がいるが、子供たちには是非プログラミングを学んで欲しいと考えており、子供向けプログラミング教室の短期講習やワークショップなどに何度か参加させてきた。そうしたプログラミング教室は、しっかりした教材とカリキュラムが用意されており、全くの初心者でも段階的にプログラミングを学べるようになっているのだが、毎月教室代が必要になる。塾やサッカー、水泳などの習い事に通わせているのに、さらに費用がかかるのは厳しいというご家庭も多いことだろう。

子供にプログラミングを学ばせたいけど、費用がネックになっているというご家庭に紹介したいのが、「CoderDojo」(コーダー道場)と呼ばれるムーブメントである。CoderDojoは、7~17歳の子供を対象にしたプログラミング道場であり、2011年にアイルランドで始まり、世界中に広がっていき、今では世界66カ国に1150もの道場があり、日本でも全国に64以上の道場がある。CoderDojoは、いわゆるプログラミング教室とは異なり、明確なカリキュラムがあるわけではない(プリントなどが配られるところはある)。CoderDojoに参加する子供達はNinja(忍者)と呼ばれるが、Ninjaが自分たちでやりたいプログラミングに取り組み、分からないことや困ったことがあったら、Mentor(メンター)と呼ばれる指導者に訊いて、一緒に考えていくというものだ。そのため、Ninjaは受け身ではなく、自発的に活動する必要がある。道場によって、学べる内容は異なるが、Scratchを採用している道場が多い。その他、HTMLやJavaScriptなどを活用したWebサイトの作成やArduinoなどを使った電子工作とプログラミングの組み合わせを学べる道場もある。

筆者や娘が参加しているCoderDojo守谷の様子。現在はScratch中心だが、いずれはハードウェアを絡めたプログラミングや電子工作もやりたいと考えている

CoderDojoは、企業が事業として運営するプログラミング教室とは異なり、ボランティアベースで運営されているため、基本的に無料である。親にとってはとてもありがたい存在だ。筆者も、地元の守谷市でCoderDojoが開始されたことを知り、娘をNinjaとして参加させているほか、筆者自身もMentorの一人として関わっている。CoderDojoに参加するNinjaにとって、最も大事なことは「自分が何をやりたいか」ということであり、自発的に学習する意欲が求められる。もちろん、初めてプログラミングに挑戦する子供にはScratchの基礎から教えてくれるので、全くの初心者でも大丈夫だ。日本のCoderDojoの場所は、こちらに載っているので、興味を持った方は、近くにCoderDojoがないか調べてみてはいかがだろうか。

CoderDojoでは、初めて参加する人にはScratchの基礎などを教えるが、基本的には自分でやりたいことを探してもらい、分からないことがあったらMentorが助言を与えるという流れになる

CoderDojoでは、参加者が自分の作った作品のプレゼンテーションを行なう時間が用意されていることが多い

家族共用のPCではなく、子供専用のPCを持つことの意義

最初に、子供や若者がPCに触れる機会が減っていると解説したが、筆者はこれは憂慮すべき事態だと考えている。スマートフォンやタブレットは他人が作ったコンテンツを消費・閲覧するためには非常に便利なデバイスであるが、コンテンツへの関わり方がどうしても受動的になりがちだ。それに対しPCは、自分で何かを作り出そうという意欲を育ててくれるデバイスである。例えば、子供たちに人気の「マインクラフト」は、確かにタブレットやゲーム機でも遊べるのだが、タブレットやゲーム機用のマインクラフトはPC版に比べると機能が限定されている。PC版なら、MODと呼ばれる拡張プログラムの導入によって、より高度なカスタマイズや本格的なプログラミングも可能になる。また、最近はメイカームーブメントなどと呼ばれる、個人でのものづくりへの関心が高まっているが、3DプリンタやCNCなどの加工機器は、基本的にPCで作成したデータに基づいて動くものであり、こうしたものづくりにも、PCは欠かせない。

筆者は、子供にはできるだけ自由にPCを使わせるべきだと考えており、娘には未就学児のときからPCを使わせていた(といっても、マウスで絵を描いたり、ゲームをしたりする程度であったが)。最初はリビングに設置した家族共用PCを使わせていたのだが、ある程度操作に慣れてきたことを確認したので、小学3年生のときに妻のお下がりのノートPCを娘専用PCとして自由に使わせることにした。もちろん、子供には不適切なサイトへのアクセスを防ぐフィルタリングソフトは入れてあるが、自分専用のPCを手にしたことで、時間がかかるプログラミングや3D CADでのモデリングなども、他の家族に気兼ねすることなくじっくりと取り組めるようになった。

いわゆる「調べ学習」も検索サイトを活用して行なったり、友達と一緒に行くイベント用に、Wordを使って注意事項や必要な持ち物を書いた「旅のしおり」を作成して配布したり、筆者は何も教えていないのだが、PCへの習熟度がどんどん向上している。娘が通っている公立小学校でも、PCの授業があるのだが、自分のPCを持っているので、タイピングはクラスで一番速いと自慢している(筆者に言わせれば全然遅いが)。先日は、修学旅行の思い出を班ごとに PowerPoint でまとめて発表するという課題が与えられたようだが、そちらもかなり完成度の高い作品になったらしい。娘は、古いノートPCでは性能的に不満が出てきたらしく、最新ゲームも快適に遊べるPCを自分で組みたいと言いだしたので、今年の夏休みに二人で秋葉原に行き、娘がケースなどを選んで、ミドルタワーマシンを一台組み立てた。そちらは娘の部屋に設置しており、フィルタリングソフトは入れているが、基本的に自由に使わせている。

娘は自作PCで、ゲームやプログラミング、3D CADでのモデリングなどを楽しんでいる

最初から子供に専用PCを与えるのは抵抗があるという親も多いだろうが、子供にとって自分専用のPCがあるというのは、親から一人前として認められた証でもあり、とても嬉しいことのようだ。最初は、家族共用のPCを使って、一緒にPCの手ほどきをしてあげるのがいいだろうが、ある程度PCに慣れてきたら、子供専用PCを用意してあげることを考えてみてはいかがだろうか。例えば、家族共用PCや親が使っているPCを新機種にリプレイスして、以前のマシンを子供専用にするというのも一つの手だ。先ほど紹介したCoderDojoも、ボランティアでの活動であり、貸し出し用PCの数が不足している道場も多いので、Ninjaに自分専用PCを持ってきてもらえれば、運営側としてはありがたいし、Ninjaも普段から使い慣れたPCを使う方が、より効率よく学ぶことできるだろう。

早い段階からPCに慣れておけば、近い将来やってくるプログラミング教育必修化の時代でも、子供たちは自信を持って授業に取り組めるであろうし、そうした目先の話だけでなく、プログラミングによって培われる3つの力は、子供の将来にきっと役立つはずだ。

子供に専用PCを持たせるということについては、新たなデジタルライフスタイルの提案を目指す業界団体であるWDLC(Windows Digital Lifestyle Consortium)が展開している、「My First PC」(はじめてのマイパソコン)というキャンペーンにも注目したい。My First PCのサイトには、子供専用PCを持つことの意義や子供とPCの上手なつきあい方など、子育て世代に役立つ情報が多数掲載されているので、そちらも是非ご覧頂きたい。

WDLC(Windows Digital Lifestyle Consortium)では、お子様へのパソコン訴求を強化するための長期的活動を行っています。詳しくは「My First PC」をご覧ください。WDLCが推奨する Windows 10 PCの一覧もページ末尾に紹介しています。

幅広いプログラミング環境が利用できる Windows 10 PCを子供の「My PC」に

パソコンで子どもたちの「学び」が変わる
My First PC 体験イベント開催!

親子そろってパソコンを楽しく学べる体験イベントが年末開催! 子供のPC利用にぴったりなアプリや機能を紹介するミニステージや、親子いっしょに楽しむレクリエーションなど盛りだくさん。当日は来場者プレゼントも!

イオンモール幕張新都心 1階「グランドコート」

開催期間:2016年12月27日(火)~30日(金)
開催時間:11:00~19:00

イベント内容

・楽しもう Office でつくろう!「2017年度 カレンダー」
・パソコンで学ぼう! 知育アプリでドリルやパズルに挑戦
・Minecraftでプログラミングに挑戦!
・子供の安全を守る「ファミリー機能」体験
など・・・