レビュー

自作PCのアップグレードにマッチするサウンドカード「Sound BlasterX AE-5」

Sound BlasterX AE-5

 Creativeが5年ぶりに“力作の”新しいサウンドカード「Sound BlasterX AE-5」(以下:AE-5)を発表した。価格はオープンプライスで、直販税別価格は15,800円だ。今回サンプルをお借りできたので、試用レポートをお届けしよう。

 同社は2013年にもPCI Express接続のSound Blaster Audigy Rx/Fxシリーズを投入しているが、いずれも7,000円以下のエントリー向けで、力を入れて設計した製品ではなかった。しかしAE-5は、これまでのサウンドカードの域を超えた設計が採用されている。

 その最大の特徴が、RGB LEDイルミネーション機能「Aurora Reactive Lightning System」だ。RGB LEDイルミネーションは、約2年前よりゲーミングマウスやキーボードから始まり、最近はマザーボードやビデオカード、メモリ、ついにはCPUクーラーなどにも搭載され、自作PC界隈を賑わせているギミック。それがついにサウンドカードにも波及したわけである。

 しかもAE-5のLEDイルミネーションは、カード自身のみならず、外付けのRGB LEDストライプをも制御できるようになっている。つまり、最近のマザーボードに搭載された機能を、サウンドカードでも実現したのだ。

 また、今回はESSのハイエンドDAC「ES9016K2M SABRE32 Ultra DAC」の搭載もトピックだ。ソフトウェア上「ダイレクト出力」を選ぶことで、内蔵DACの代わりにES9016K2Mが使われるようになり、ダイナミックレンジ122dBで(Windows 10では)32bit/384kHzの出力が可能になる。そういった意味では、音質面も期待できる。早速見ていこう。

AE-5のパッケージ

Sound Blasterの伝統的な流れを汲む基板

 まずはハードウェアを見ていこう。AE-5の本体サイズは約145×128×20mm(幅×奥行き×高さ)となっており、LowProfileのケースでなければ難なく収まる。カード背面にはシルク印刷によるデザインが入っているほか、カード表面は大部分が金属製のカバーに覆われている。

 LEDで光る部分は基板が透けているほか、カバーもプラスチック製でロゴが透けて見えるようになっている。LEDを光らせても光らせなくても、ケース内ではかなり目立った存在になるだろう。

 内部構成が気になったので、金属製のカバーを外してみた。サウンドプロセッサはPCI Express版のRecon3Dと同様、Core3Dこと「CA0132」とコンパニオンチップの「CA0113」の組み合わせであった。つまり、基本的な部分に関してはRecon3Dシリーズとなんらかわりがない。ソフトウェア上から見える機能の名前こそ異なっているが、機能そのものがやっていることは基本的に同じだと見ていいだろう。

 今回、新たに加わったのがES9016K2Mだ。先述のとおり、ソフトウェア上から「ダイレクト出力」を選ぶことで、Core3Dに内蔵されたDACの代わりにES9016K2Mが使われるようになる。もっと厳密に言えば、ダイレクト出力モードでは、Core3DのDSP機能そのものがオフになり、ES9016K2MのDAC機能しか使われない。というのも、ダイレクト出力モードではCore3D側で処理すると見られるイコライザーや、出力に関する各種サウンドエフェクトの機能が一切使えなくなるからだ。

 前作のハイエンドモデル「Sound Blaster ZxR」では、デフォルトでCore3DのDACを使わずにディスクリートDACで出力し、「ステレオダイレクトモード」でCore3DのDSP機能もオフにして、2ch限定で24bit/192kHzの出力をしていた。AE-5も同じ仕組みを踏襲していると考えて良いだろう。

 一方、旧製品のZxRが特徴としていた“スタジオグレード”の基板や、オーディオコンデンサを採用するといった部品レベルのこだわりは、AE-5には見られない。しかし、オペアンプには、新日本無線製オペアンプ「LM4562」(LME49720相当)が使われていたり、WIMA製のフィルムコンデンサが使われていたりと、オーディオへの“気遣い”もさり気なく見える。

 電子リレー「Takamisawa(富士通コンポーネント) A5W-K」を採用した点もトピックの1つ。この電子リレーでヘッドフォン出力とスピーカー出力を切り替えているようで、ソフトウェア上から切り替えを行なうと「カチッ」という機械音がする。このギミックはZxRでも見られるものだ。

 基本的には、「Sound Blaster X-Fi Titanium HD」やZxRといった、部品レベルにまでスペックにこだわった製品のような基板設計ではなく、部品のスペックに頼らない音作りを目指した、いわゆる“Creativeらしい”基板設計の流れを受け継いでいるものと見ていい。その実力については後で見ていくことにしよう。

 ちなみにライティング機能「Aurora Reactive Lightning System」を実現するにあたって特別に実装したチップは見当たらない。当然、Creativeはこの実装について非公開としている。

AE-5本体
後部は5.1ch出力+ヘッドフォン出力(排他)、およびマイク入力
本体背面。シルク印刷によるデザインが入っている
ロゴの部分はパーツの一部が半透明で、LEDが透けて見える
カバーを外したところ
AE-5の基板。部品数は明らかにRecon3Dより多く、Sound Blaster X-Fiの再来を彷彿とさせる
コンパニオンチップとなる「CA0113」。Windowsで専用ドライバが入っていない場合、ハイディフィニションオーディオとして動作する
「CA0132-4AN」はいわゆるCore3D。さまざまなDSP機能を備える
今回キモとなるESSのDAC「ES9016K2M」。パッケージサイズが小さいためあまり目立たない
オーディオ製品の出力部で採用実績の多いWIMA製のフィルムコンデンサを採用している
マイク出力と前面スピーカー出力は電子リレー「TAKAMISAWA(富士通)のA5W-K」を採用している
STMicroelectronicsのPNPトランジスタ「BD140」
そのほか電源部などのコンデンサはG-LUXON製
左がペリフェラル4ピン電源接続コネクタ、右がHDオーディオ前面パネル用のヘッダー。ちなみに電源を接続しないとRGB LEDが光らない

ソフトウェアが一新

 本製品で注目したいのが、本製品を制御/設定するソフトウェアが、従来の「SBX Pro Studio」--Recon3D世代では「THX TruStudio Pro」--から一新され、「Sound Blaster Connect 2」となったことだ。

 じつはCreativeは2016年に投入したサウンドバー「Sound BlasterX Katana」の世代で、その内蔵プロセッサの各種機能を設定するユーティリティとして「Sound Blaster Connect」を投入していた。つまり、AE-5に対応した“2”はその後継という位置付けだ。

 Sound Blaster Connect 2はSBX Pro StudioからUIが大幅に刷新されている。まず、ウィンドウが拡大縮小できるようになり、それにともなって表示項目が自動でリフローされるようになった。つまり、解像度やDPI設定に応じて最適な表示ができるようになったわけだ。

 これについては高く評価したいところだが、黒地に濃いグレーの文字でアンチエイリアスがかって表示される小さい日本語フォントは、お世辞にも視認性が良いとは言えない。英語の文字では問題ないが、画数の多い日本語ではかなりつらい。ここは改善の余地があるだろう。

 しかしUIそのものは単純明快で、複雑なことをする必要はない。「ダッシュボード」のページでは、中央ペインに表示された各サウンド設定のプロファイルを選び、右ペインでライティングやイコライザ、「Acoustic Engine」と名付けられた各種エフェクトを表示し、オン/オフできる。

 プロファイルは、同社が推奨する設定のものとなっており、プリセットされているものを変更したり追加したりはできず、変更されたものはすべて「パーソナル」扱いとなる。例えば1つプロファイルを選んで、そこからカスタマイズを加えるだけで、自動的に「パーソナル」となるわけだ。

 パーソナルでは、「サウンド」、「ボイス」、「ライティング」で詳細設定ができる。サウンドでは、イコライザーの設定やサラウンド感/低音強化などを設定する「Acoustic Engine」のパラメータ、そして効果音や足音をハイライトする「Scout Mode」が設定できる。

 注目なのは、今回から新たに加わった「Scout Radar」の機能。スマートフォンやタブレットに専用アプリをダウンロードし、それと同じWi-Fiネットワーク内にAE-5を搭載したPCを置くと、モバイルデバイス上に敵の足音や銃声といった効果音をレーダーで可視化できる。チート機能と言えばそれまでだが、モバイルデバイスの画面に表示することで、ゲーム画面を配信している時に、視聴者にチートをしているとバレにくくなったわけだ。

 ボイスのページでは、ノイズリダクションやエコーキャンセリング、音量の均一化を図るSmart Volumeが利用できるほか、声にエフェクトをかけることも可能だ。昨今ゲームプレイの配信が流行しているが、これらを使えばクオリティの高い動画配信が行なえるだろう。

インストール時にドライバとともにSound Blaster Connect 2がインストールされる
更新チェックのため、ファイアウォールで許可する
ちなみに何もしなくとも、インターネットに接続していればWindows Update経由でドライバが落ちてくる
Sound Blaster Connect 2起動直後の画面。ダッシュボードでプロファイルのロードや各種設定が一括して行なえる
サウンドのタブでは各種詳細設定が可能。イコライザーの設定では視覚的に設定できる
SCOUT 2.0では、ゲーム中の音源の発生源を、同じ無線ネットワークにあるタブレットやスマートフォンの画面に視覚化できる。残念ながら今回は社内でWi-Fi環境を構築できなかったため試していない
ボイスの設定
VOICE MORPHではボイスチェンジ機能を楽しめる

Aurora Reactive Lightning Systemの設定

 注目のRGB LEDイルミネーション機能「Aurora Reactive Lightning System」は、「ライティング」のページから設定を行なう。このページはダッシュボードと同様、8種類プロファイルが用意されており、それらをワンクリックでロードできる。いずれのプロファイルもカスタマイズを行おうとすると、自動的にパーソナルのプロファイルに移動し、カスタマイズできる。プロファイルを追加できず、パーソナルのプロファイルのみ変更できるのは一貫している。

 一般的なRGB LEDライティングは、テープ全体で発光色を変えるものだが、Aurora Reactive Lightning Systemは、LEDの1つ1つの発色がカスタマイズできる。技術的に言えば、LED 1つ1つにアドレスが割り振られており、個々にRGBの値を書き込めるようになっている。同様のシステムは、ASUSやGIGABYTEの最新のマザーボードでも導入されている。

 設定できるのは、本製品のロゴの部分およびLEDテープ。設定項目は、モーションはソロ/オーロラ/ウェーブ/パルス/ムード/サイクルの6種類、方向は4種類、色はロゴが5色/テープが7色、速度は10bpm~240bpmとなっている。なお、光らせるためにはペリフェラル4ピンコネクタを必ず接続しておく必要があり、非接続の場合は一切光らない。

 また、AE-5に付属するLEDテープは独自のピンアサインとなっているとのことで、市販されているものの動作保証はしていない。製品には1本付属しているが、さらに拡張したい場合は別売りのLEDテープを購入し、数珠つなぎにしていく。AE-5は最大10本(100個のLED)までの制御に対応している(LEDの数の設定はライティングのページから行なえる)。

 Aurora Reactive Lightning Systemで設定できる項目に限りがあるほか、色の再現性はさほど高くない。しかし、最新のマザーボードならさらに制御のバリエーションを増やせるし、LEDライティングに対応していないHaswell世代以前のマザーボードや、エントリー向けの低価格マザーボードでも、最新のRGB LEDイルミネーション技術を楽しめるようになるわけだ。

 ちなみに、付属のLEDテープは直視するとかなり眩しい。このためケースのフレームの裏に貼って反射光を楽しんだほうが良い塩梅となりそうだ。ライティングをどう“魅せる”かもPC自作ユーザーの腕の見せどころだ。

RGB LEDのテープには10個のRGB LEDがついている。なお、AE-5接続時は添付の変換ケーブルを使用する必要がある
ライティングの設定画面
【動画】Sound BlasterX AE-5のライティングエフェクト

音質評価

 最後にAE-5の音質を評価したい。今回、筆者が普段使っている「RightMark Audio Analyzer」でループバック再生/録音の結果をテストした。あらかじめ断っておくが、ループバック再生/録音のテストは、基本的にカード上のクロックが同期しているため良い結果を残す方向にある。一方で、AE-5自身は32bit/384kHzの再生に対応しているのだが、録音は32bit/96kHzどまりのため、Windows上の再生/録音のビットレート/サンプリング周波数、およびRMAAの設定を同じ32bit/96kHzに設定してある。

設定でライン入力に設定する
ヘッドフォンではインピーダンスを設定できる

 また、AE-5の音声入力はデフォルトでライン入力ではなくマイク入力となっており、セッティング→ミキサーでライン入力に切り替えておかないとおかしな結果となってしまった。AE-5を使って録音を行なうさいは注意されたい。

 気になる結果だが、以前テストしたSoubd Blaster Recon3Dと比較してかなり良くなったという印象だ。これは素直に出力部のDACおよびオペアンプ、コンデンサといった部品が見直された結果だと言えるだろう。左右チャンネルのズレが取り払われ、高域までフラットに出力している。また、ノイズレベルも下がり、明らかにワンランク上の結果だ。22kHz以降では相変わらずノイズレベルが上昇しているが、これは入力部の問題かもしれない。

スピーカー出力の周波数特性
スピーカー出力のノイズレベル
スピーカー出力のダイナミックレンジ
スピーカー出力のクロストーク

 ダイレクト出力を選んでもあまり値が変わっていないが、これは完全に入力部がボトルネックになっていると見たほうがいいだろう。実際はもっとよい結果を残せるはずだ。一方ダイレクトヘッドフォンについては、ライン出力と比較して若干高域の伸びが足りない気もするが、ややドンシャリ気味に鳴るヘッドフォンと組み合わせれば、ちょうどいいぐらいになりそうだ。

ダイレクト出力の周波数特性
ダイレクト出力のノイズレベル
ダイレクト出力のダイナミックレンジ
ダイレクト出力のクロストーク
ダイレクトヘッドフォン出力の周波数特性
ダイレクトヘッドフォン出力のノイズレベル
ダイレクトヘッドフォン出力のダイナミックレンジ
ダイレクトヘッドフォン出力のクロストーク

スピーカー出力のRMAAテスト結果(PDF)
ダイレクト出力のRMAAテスト結果(PDF)
ダイレクトヘッドフォン出力のRMAAテスト結果(PDF)

 ちなみに編集部には32bit/384kHzの録音が可能な機材がないため、これ以上正確な値をお伝えすることはできない。よって、ヘッドフォンを接続した上で試聴した結果の感想も加えておこう。

 ソフトウェア上での設定を「ダイレクトヘッドフォン」にした上で、ヘッドフォンを本機のヘッドフォン出力に繋げた。クリエイティブは最大600Ωのインピーダンスを持つヘッドフォンに対応すると謳っているのだが、AV Watch編集部の協力を得てしても100Ωを超えるヘッドフォンを見つけられなかった。

 AV Watch編集部のヘッドフォンは、基本的にポータブル機器に直接つなぐことを想定しているものが多くいため、“スタジオ向け”と謳っているものでもインピーダンスが低いものが多い。例えば“プロのオーディオエンジニアやミュージシャン用にデザインされており、正確なリスニングやプロのレコーディング用に最適化されています”と謳うShureの「SRH840」は44Ω。PreSonusの“バランス良くリッチな低音域とパンチを提供するプロフェッショナル・モニタリング・ヘッドフォン”「HD7」は32Ωしかない。

 一方で、“編集部でかなり鳴りにくいほう”というFostexのプロフェッショナルヘッドフォン「T40RP」は50Ω。スタジオユースを謳い、ロングセラーとなっているソニーの「MDR-CD900ST」ですら63Ωだ。AE-5の上限とされる600Ωには到底およばない。

 しかしそのなかでも、AE-5とセットで聞いて「うむ!」と頷かされたのは、音質に定評のあるMDR-CD900STだった。無音状態はきれいに澄んでいて、ダイナミックレンジがとにかく広く、低音から高音までまんべんなくフラット。長時間聴いていても疲れないし、それでいて解像度が高い。もちろんMDR-CD900STの素性の良さも手伝っているのだが、それの素性を活かせるAE-5のポテンシャルも高いと言えるだろう。

 一方で、低インピーダンスのヘッドフォンとはあまり相性が良くない。例えば16Ωしかないソニーの「MDR-EX650」だと、ホワイトノイズがやや気になる上に、ボリュームを抑えてもややうるさい印象を受けた。これはSound Blaster歴代の製品でも同じ傾向だ。とは言え、先代の「Sound Blaster Recon 3D」シリーズからは大幅にホワイトノイズが抑えられている印象で、回路の改良が見られる。

PreSonusのプロ向けヘッドフォン「HD7」は32Ω
Shureのレコーディング向けヘッドフォン「SRH840」は44Ω
Fostexのプロ向けヘッドフォン「T40RP」は50Ω
ソニーのスタジオユースヘッドフォン「MDR-CD900ST」は63Ω

現行のエントリー向けや旧世代マザーのアップグレードに最適

 近年のマザーボードは、基本的にオーディオ回路がほかの回路と分離した機構となっており、音質にそれほど重視して選ばなくてもそこそこのクオリティを確保できる。一方で高音質を謳う製品はUSB DACとなっていることが多く、拡張カードの製品はめっきり少なくなってしまった。

 そのなかでも、Sound BlasterX AE-5はPCI Expressを採用した貴重な1枚であり、さらに手軽にケース内にLEDライティング機能を付加できる製品でもある。現在手持ちのマザーボードのサウンド機能に不満があるユーザーのみならず、一昔のHaswell世代のRGB LEDライティング機能がないマザーボードのアップグレード/デコレーションにも最適な製品と言えるだろう。