GeForce GTX 670ベンチマークレビュー


 NVIDIAは5月10日、28nmプロセス世代のハイエンドGPUの新モデル「GeForce GTX 670」を発表した。今回、NVIDIAより同GPU搭載のビデオカードを借用できたので、ベンチマークテストでその実力を探ってみた。

●GK104コアを備えるGeForce GTX 680の下位モデル

 GeForce GTX 670(以下、GTX 670)は、先に発売されたGeForce GTX 680(以下、GTX 680)と同じKeplerアーキテクチャのGPUコア「GK104」を採用したハイエンドGPUだ。GTX 670が備える各ユニット数は、CUDAコアが1,344基、テクスチャユニットが112基、ROPが32基となっており、GTX 680のGPUコアからSMXを1基無効にした形だ。GPUコアの動作クロックは915MHzだが、GTX 670は自動オーバークロック機能の「GPU Boost」をサポートしており、負荷状況に応じて最大980MHzまでクロックが上昇する。

 GPUコアのユニット数が削減され、動作クロックも引き下げられたが、メモリ周りについては、GTX 680同様、256bit幅のインターフェイスで1,502MHz動作(6,008MHz相当)のGDDR5メモリ(2GB)と接続されている。また、GPUコアがスペックダウンした分、TDPはGTX 680の195Wから170Wに引き下げられている。

 そのほか、単一GPUでの3画面立体視「3D Vision Surround」のサポートや、バスインターフェイスのPCI Express 3.0対応など、GTX 680がサポートした新機能と同等の機能を備えている。

【表1】GeForce GTX 670の主な仕様
 GeForce GTX 670GeForce GTX 680GeForce GTX 580
アーキテクチャKeplerKeplerFermi
プロセスルール28nm28nm40nm
GPUクロック915MHz1,006MHz772MHz
Boostクロック980MHz1,058MHz
シェーダクロック1,544MHz
CUDAコア1,344基1,536基512基
テクスチャユニット112基128基64基
メモリ容量2GB GDDR52GB GDDR51,536MB GDDR5
メモリクロック(データレート)1,502MHz(6,008MHz相当)1,502MHz(6,008MHz相当)1,002MHz(4,008MHz相当)
メモリインターフェイス256bit256bit384bit
ROPユニット32基32基48基
消費電力170W195W244W

●基板より大きなGPUクーラーを搭載するリファレンスボード

 今回NVIDIAより借用したのは、GTX 670のリファレンスボードだ。GTX 670のリファレンスボードは、基板上部に2基のSLI端子と補助電源供給用の6ピンコネクタを2系統備え、ブラケット部のディスプレイ出力には、DVI-I、DVI-D、HDMI、DisplayPortを各1系統ずつ備える。

 全長はブラケット部を除いて約242mmと、比較用に用意したGALAXYのGeForce GTX 560 Ti搭載カードより僅かに長く、約254mmのGTX 680のリファレンスボードより12mmほど短い。ただし、カードの裏面を見ると分かるように、基板自体はボード全長よりかなり短く、約174mmとなっており、ボード全長の3割弱を基板からはみ出したGPUクーラーが占めている。

GTX 670のリファレンスボード補助電源コネクタは6ピン2系統
ブラケット部のディスプレイ出力GALAXY GTX 560 Ti搭載カード(下)とのカード長比較

●テスト機材
「GF PGTX560TI-SPOC/1GD5 WHITE3」

 それではベンチマークテストの結果紹介に移りたい。今回は機材調達の関係上、GTX 680のベンチマークレビュー時に測定したGTX 680、GeForce GTX 580(以下、GTX 580)、Radeon HD 7970(以下、HD 7970)の結果を流用し、今回新たに用意したGTX 670とGeForce GTX 560 Tiのデータと比較している。GTX 560 TiはGALAXYの「GF PGTX560TI-SPOC/1GD5 WHITE3」。OCモデルだが、今回のテストではリファレンスモデル相当のクロックにダウンクロックしている。

 GTX 670はレビュアー向けに配布されたドライバ「GeForce 301.33 Driver」を利用している。このドライバでは、GTX 680のデータ取得時に利用した「GeForce 300.99 Driver」で無効化されていた、バスインターフェイスのPCI Express 3.0動作が有効化されている。同世代のGTX 680との比較については、ドライババージョンによる差がある点にご留意いただきたい。

【表2】テスト環境
GPUGTX 670GTX 680GTX 580
GTX 560 Ti
HD 7970
CPUIntel Core i7-3820
マザーボードASUS P9X79 PRO (BIOS:0906)
メモリDDR3-1600 4GB×4
(9-9-9-24、1.5V)
ストレージWestern Digital WD5000AAKX
電源Silver Stone SST-ST75F-P
グラフィックスドライバGeForce 301.33 DriverGeForce 300.99 DriverGeForce 296.10 DriverCatalyst 12.2
OSWindows 7 Ultimate 64bit SP1

●DirectX 11対応ベンチマークテスト

 まずはDirectX 11対応ベンチマークテストの結果から紹介する。実施したテストは「3DMark 11」(グラフ1、2、3)、「Unigine Heaven Benchmark 2.5」(グラフ4)、「Stone Giant DX11 Benchmark」(グラフ5、6)、「Lost Planet 2 Benchmark DX11」(グラフ7)、「Alien vs. Predator DX11 Benchmark」(グラフ8、9)、「Tom Clancy's H.A.W.X 2 Benchmark」(グラフ10)だ。

 比較的GPU負荷の高いテストの多いDirectX 11対応ベンチマークテストにおいて、GTX 670はGTX 680より1割前後低いスコアを記録した。HD 7970との比較では、Radeonが優勢な「Alien vs. Predator」では引き離されているものの、それ以外の条件では概ねGTX 670がHD 7970を上回る結果となっており、DirectX 11対応ベンチマークテストにおいてはGTX 670の方が優勢だ。

 また、1世代前のGeForce製品に対しては、シングルGPU最上位モデルであったGTX 580を1.2~1.3倍程度上回り、ミドルハイGPUであるGTX 560 Tiに対しては1.6~2倍の差をつけ、格の違いを示した。

【グラフ1】3DMark 11 Build 1.0.3
【グラフ2】3DMark 11 Build 1.0.3(Graphics Score)
【グラフ3】3DMark 11 Build 1.0.3(Combined Score)
【グラフ4】Unigine Heaven Benchmark 2.5
【グラフ5】Stone Giant DX11 Benchmark(1280×720)
【グラフ6】Stone Giant DX11 Benchmark(1920×1080)
【グラフ7】Lost Planet 2 Benchmark(DX11・テストタイプB)
【グラフ8】Alien vs. Predator DX11 Benchmark(1280×720)
【グラフ9】Alien vs. Predator DX11 Benchmark(1920×1080)
【グラフ10】Tom Clancy's H.A.W.X 2 Benchmark

●DirectX 9/10対応ベンチマークテスト

 続いて、DirectX 9世代とDirectX 10世代のベンチマークテストの結果を紹介する。実施したテストは「3DMark Vantage」(グラフ11、12)、「3DMark06 Build 1.2.0」(グラフ13、14)、「ファイナルファンタジーXIV オフィシャルベンチマーク」(グラフ15)、「MHFベンチマーク 【大討伐】」(グラフ16)、「Lost Planet 2 Benchmark DX9」(グラフ17)、「Unigine Heaven Benchmark 2.5」(グラフ18)だ。

 DirectX 11では旧世代製品やHD 7970に対して優位なスコアを記録したGTX 670だが、DirectX 10、9対応のベンチマークテストではGTX 580とのスコア差が縮まったほか、HD 7970にスコアで及ばないテスト項目も多く劣勢に転じている。

 全体的な傾向として、DirectX 11対応のベンチマークテストに比べハイエンドGPU同士のスコア差が縮まっているのは、GPU負荷が軽いためCPUがボトルネックになっているものと考えられるが、比較的負荷の高いUnigine Heaven Benchmark 2.5やMHFベンチマークの高負荷設定でHD 7970に差をつけられているのは、単にCPUのボトルネックによる誤差というわけではないのだろう。

【グラフ11】3DMark Vantage Build 1.1.0
【グラフ12】3DMark Vantage Build 1.1.0(Graphics Score)
【グラフ13】3DMark06 Build 1.2.0
【グラフ14】3DMark06 Build 1.2.0 高負荷設定(1920×1080、8x AA、16x AF)
【グラフ15】ファイナルファンタジーXIV オフィシャルベンチマーク
【グラフ16】MHFベンチマーク【大討伐】
【グラフ17】Lost Planet 2 Benchmark(DX9・テストタイプB)
【グラフ18】Unigine Heaven Benchmark 2.5(DX9)

●消費電力の比較

 最後に消費電力の測定結果を紹介する。消費電力はサンワサプライのワットチェッカー(TAP-TST5)を利用して、各テスト実行中の最大消費電力を測定した。

【グラフ19】システム全体の消費電力

 GTX 670の消費電力は、GTX 560 Tiより11W高い値を記録したMHFベンチマーク実行中の消費電力を除き、比較製品中もっとも低い数値となっている。GTX 560 Tiのデータについては、OCモデルをリファレンス相当にダウンクロックしたもので記録した数値のため、リファレンスボードの数値とは多少異なると思われるが、前世代のミドルハイGPUより概ね低い消費電力で動作するGTX 670のワット性能の高さは特筆に値する。

 特に、GPUに高負荷を掛けるOCCTのGPUテスト実行時の消費電力では、上位モデルのGTX 680に60W、最も高い数値を記録したGTX 580に対しては151Wもの差をつける結果となった。GPUに非現実的なほどの高負荷を掛けるOCCTのGPUテストの実行はNVIDIAに推奨されておらず、GTX 580など従来のハイエンドGPUではリミッターによりGPUコアの動作クロックが低下していたが、GTX 670の場合はそのような動作は発生していなかった。それを考慮すれば、GTX 670が記録した233Wという数値は大変優秀なものであるといえるだろう。

●ワット性能の高さが光るハイエンドGPU

 以上の結果から、AMDのハイエンドGPUであるHD 7970に匹敵する3D性能を持ちながら、消費電力は前世代のミドルハイGPUであるGTX 560Ti並みに抑えた、性能と消費電力のバランスに優れたGPUであると言える。GTX 680譲りの高いワット性能を維持しながら、省電力方向にスライドさせたようなGPUだ。

 従来のハイエンドGPUは、消費電力を無視してでも性能向上を目指した製品も多く、性能を追求するユーザーでなければ手を出しにくい印象のある製品であったが、実消費電力を従来のミドルハイGPU並に抑え、待機時の消費電力も引き下げたGTX 670は、PCゲームを楽しむユーザーに広く受け入れられる素養を持っている。GTX 670が実際に人気を博すか否か、後は価格次第と言ったところだろう。HD 7970を下回る価格での登場となれば、なかなかインパクトのある製品となりそうだ。

(2012年 5月 10日)

[Reported by 三門 修太]