Core iシリーズを搭載してパフォーマンス大幅向上
アップルは13日にMacBook Proのラインナップを一新した。なかでも注目は、同社のポータブル向け製品としては初めてCPUにIntel Core iシリーズを搭載する15型、17型のモデルである。Proの名を冠してクリエイティブ職のユーザーやハイエンドユーザーに訴求する同製品が、従来モデルと比べていかなる進化を遂げているのか。アップルジャパンより15型製品の貸与を受けて、ニュースでは紹介しきれなかった部分と、プロセッサとグラフィックスのパフォーマンス向上を中心に詳しく見ていくことにしよう。
MacBook Proという製品名称は、初めてIntel製CPUを搭載して登場した2006年1月より一貫して変わらない。その世代を区別するために製品の更新時期に合わせた呼称を付加して通称されており、今回のモデルチェンジでは「Mid 2010」が付加されている。ちなみに2009年6月に発売された前モデルは「Mid 2009」だった。
製品のラインナップは既報のとおり、13型に2モデル、15型に3モデル、17型に1モデルが投入されて一新した。いずれも全国の量販店店頭やAppleStoreなどで購入できるほか、AppleStoreや小売店のなかでもCTOに対応する店舗ではメモリやHDD容量、ディスプレイの種類、キーボード、プリインストールされるソフトなどを任意にカスタマイズすることができる。
なお本稿の掲載と同じタイミングで量販店のECサイトを使ったアップル製品の通信販売が事実上不可能になっているが、記事の本筋とは離れるので同案件については別に触れる機会を設けるべきであろう。なおECサイトでの販売が行なわれなくなった量販店や小売店でも、実店舗における販売はこれまでどおり継続されている。
購入時のカスタマイズ要素として一番注意したいのが、15型モデルに用意された高解像度ディスプレイの存在だ。15型モデルは搭載するCPUの違いを主として3モデルとなっているが、いずれもディスプレイは1,440×900ドットの標準解像度だ。総ドット数が36%増えることになる1,680×1,050ドットの高解像度ディスプレイはCTOでしか選択することができない。また、標準解像度は光沢のあるクリアワイドスクリーンのみだが、高解像度ディスプレイの場合はクリア(光沢)とアンチグレア(非光沢)のいずれかを選択することができる。差額はそれぞれ10,080円と15,120円。標準解像度のアンチグレアタイプはCTOにも存在しないので、アンチグレアが必要な場合は必ず高解像度になる。
なお、職種の関係ということも大いにあるが、筆者の知人を中心にした購入者、購入予定者では高解像度のアンチグレアタイプが圧倒的な人気を誇る。そうした側面もあってか、AppleStoreの実店舗やCTOが可能な量販店ではこのカスタマイズモデルを実際に展示したり在庫として持っているケースも多いようだ。ただこうした店舗が数多くあるというわけではなく、全国的には標準解像度モデルのみの展示と販売になっていると思われるので、実際に見比べて選びたいというユーザーにはかなり悩ましい状況だ。残念ながら今回貸与されている製品も標準解像度のものとなり、せめて写真を使っての当レビュー内での比較もできない。これはいずれ筆者のオーダーした高解像度ディスプレイモデルの到着後に、買い物山脈の場を借りたりするなどして、なんらかの形で情報提供したいと考えている。
なお、13型についてはGPUスペックは向上しているがプラットフォームとしては従来同様のCore 2 Duo搭載機なので、本レビュー内容とは性格の異なる製品となる。
●びっくりするほど変わらない外観。パフォーマンス以外の向上ポイントも有製品の外観はびっくりするほど何も変わっていない。インターフェイス部分の比較写真は前々モデルに該当するユニボディ初代製品(2008年10月)との比較なので、各種ポートの配置やExpressCardスロット、SDカードスロットの有無が異なっているが、前モデルにあたるMacBook Pro(Mid 2009)とは全く同一だ。本体寸法は変わらず本体重量は50gほど増えているが、これは構成パーツの差と判断すべきだろう。
もちろんCore iシリーズを搭載するMacBook Proの登場は、Intelがモバイル向けの同プロセッサを発表した1月から予期されていたわけだが、実際の発表まで一番気がかりだったのはディスプレイのアスペクト比だった。筆者としては16:10のアスペクト比が継続したことは大いに歓迎すべき要素となっている。現在のディスプレイパネルの調達コストを考えれば、16:9のパネルを採用した方が低コスト化はたやすい。一方でアップル特有ともいえる事情もあって、筐体そのものの設計変更も迫られ、そこにコストがかかるものと推測される。
PCメーカーによっては同一筐体でディスプレイのベゼル幅のみを変更して対応しているところもある。もちろんMacBook Proでも現在のボディサイズのままで上下ベゼル枠のみを太くできないことはないのだろうが、それは何よりデザインを重視するアップルとしては決して譲ることができない要素であることは言うまでもない。天秤にかければ、現状維持がトータルコストでも有利だったのかも知れない。一方、iMacでは2009年10月発売モデルからディスプレイの16:9化がすでに行なわれている。いずれMacBookの製品ラインもそうなってしまう可能性は否めないが、その時は筐体の設計そのものが見直されるタイミングになるだろう。
インターフェイス部分の変更点としては、搭載するMini DisplayPortの機器的な仕様が変わってデジタル音声信号が載るようになっている。DisplayPortの標準規格では音声伝送はOptionalと定義されており、必ずしも必須要件ではないのだが、現状のディスプレイ事情を考えれば、DisplayPort to HDMI変換により音声まで1ケーブルで通せるのは薄型TVやHDMI対応のプロジェクターなどへの接続が容易になるので、非常に嬉しい改良点となる。従来モデルのMacBook Proで同じことをやろうとするには、USBポート(2ch)あるいはデジタルライン出力(5.1ch)から音声信号をとって、アダプタ側で映像信号とミックスしHDMIへと変換する手法がとられていたのでやや大きめなアダプタが必要だった。その構造は今モデルから単純化されることになる。現時点で音声伝送の対応製品は、今回発表になったMacBook Proの全モデルと、現行の27型iMacのみ。
なお、音声伝送にも対応したMini DisplayPort to HDMI変換アダプタはサードパーティの製品が何点か発表されており、近日中に出荷が予定されている。現在発売されている製品は映像信号のみ対応する製品がほとんどなので、このアダプタの購入時には必ず音声信号への対応を確認するようにしたい。正式アナウンスはないが、アップル純正品が発売される可能性はまずない。
現在、同社がMini DisplayPortの変換アダプタとして提供しているのは、to DVI、to DVI DualLink、to VGAの3タイプのみ。これらは既存かあるいは終息品となった同社製純正ディスプレイ(いずれもディスプレイから直接ケーブルが生えている製品)に接続することを前提としたラインナップだ。DisplayPort規格の1.1aでの標準化に先だってMiniタイプを提唱した同社が、純正のMini to 標準アダプタあるいはケーブルを用意していないことも理由は同じで、同社が標準タイプのDisplayPortを採用するディスプレイをこれまで発売したことがないからと推測できる。同じ根拠で、Mini DisplayPortからHDMIへの変換アダプタがアップル純正で発売されるという可能性は極めて低いだろう。
大きな変更点ということで、この機能も早速試したかったのはやまやまで、手元にはMini DisplayPort to 標準DisplayPortというケーブルはあり、かつDisplayPort対応ディスプレイも使っているのだが、残念ながらスピーカーは非搭載。もともとDisplayPort対応の製品でスピーカー搭載というディスプレイ自体がレアだ。そういう意味では音声信号伝送のレビューにはHDMI変換アダプタの存在が理想となる。しかし対応とされるサードパーティ製品はいずれも近日出荷という状況。これまた申し訳ないがサードパーティ製品の出荷と、筆者オーダーのMacBook Pro到着を待つことになる。
米国ではMac関連周辺機メーカーとしてお馴染みのGriffin Technology社から音声信号伝送対応アダプタが発売中で39.99ドル(写真)。日本国内でも米moshiブランドの対応製品が5月中旬頃に出荷予定。3,360円とのこと | 音声信号伝送に対応しない旧モデルでHDMIに音声出力を含めたい場合は、これまでこの程度のアダプタが必要になっていた(Macworld2010会場にて撮影) |
搭載されているMac OS XはSnow Leopardで、バージョンは10.6.3。既存のMacにソフトウェア・アップデートを通じて提供されているものとバージョンは同一だが、ビルドは10D2094となっていて、既存製品のビルド10D578とはやや異なるものになっている。標準で起動するカーネルは32bitモードで、プロセッサは変わったが標準起動モードはCore 2 Duoを搭載する従来モデルと変わらない。もちろん、64bit対応CPUを搭載しているので、6と4のキーを押しながら起動すれば64bitモードのカーネルが利用できる。
入力インターフェイスの1つとして加わったのが、トラックパッドを使ったモーメンタムスクロール機能だ。MacBook Proのマルチタッチトラックパッド上で2本指を使ったスクロール操作をすることで、慣性の効いたスクロール感を得ることができる。上下に長いWebページや大規模なフォトライブラリをブラウズするときには非常に便利な機能となる。モーメンタムスクロール機能自体は2009年10月に発売されたMagic Mouseですでに実装されており、デスクトップ製品や、あるいはポータブル製品でも実際に利用しているユーザーも多いだろう。またiPhoneやiPod touchを使っていて、そのスクロール感覚が想像できるユーザーもいるかも知れない。
システム環境設定でのモーメンタムスクロール機能設定の様子。2本指のスクロール機能を有効にしたうえで、慣性の有効/無効を選択する |
Magic Mouseを使う場合は、[システム環境設定]-[マウス]から慣性の有効/無効を設定するわけだが、MacBook Proでは[システム環境設定]-[トラックパッド]に設定項目がある。2本指を使った画面スクロールを有効にした上で、慣性の有効/無効が選択できる。機能名としてはモーメンタムスクロールと呼んでいるが、設定では「慣性」の有無を選ぶという点は少しわかりにくい。いっそ慣性スクロール機能と呼ぶか、システム設定側の慣性という部分に、括弧書きでもいいのでモーメンタムという表記を入れておいたほうがどこを設定すればいいかわかりやすいはずだ。トラックパッドでのスクロール設定が2本指なのは従来どおりだが、Magic Mouseを使ったスクロール操作は1本指で可能。マウスとトラックパッドの違いと言えばそれまでだが、操作感としてはMagic Mouse側のほうがわかりやすく軽快な操作が可能となっている。
先行した説明会のレポートにもあるように、このモーメンタムスクロール機能が、既存のマルチタッチトラックパッド搭載モデルで利用できるかは不明のままだ。新モデルにおけるシステム環境設定パネルでは、慣性の有無が選択できるが、ウインドウ右のインストラクションのムービーで慣性を実際に利用したインストラクションはまだ存在しない。上記説明会のレポートやMagic Mouseの例をみれば基本的にソフトウェアで実現している機能のようなので、今後のアップデートで既存モデルでも利用できるようになってくれればそれにこしたとこはない。
●Core i5とGeForce GT 330Mのパフォーマンスをベンチマークで実感
今回アップルジャパンから貸与されたMacBook Proは、Core i5を搭載する店頭販売の標準モデルでカスタマイズはされてない。15型製品の中ではもっとも下位の位置付けだ。クロックは2.4GHzで、アップルは公表はしていないがIntelのプロセッサナンバーとしては、「Core i5-520M」ということになる。ちなみに今回の15型のラインナップでは、下位から順にi5-520M、i5-540M、i7-620MのCPUが搭載されている。いずれも32nmのプロセスルール、TDP 35W、2コア4スレッドに対応して、i5は3MB、i7は4MBのL3キャッシュを備える。またアップルのニュースリリースでも、Hyper-ThreadingテクノロジおよびTurbo Boostテクノロジへの対応が明言されている。
レビューモデルのi5-520Mの場合、Turbo Boostが効いた状態では、シングルコアタスクなら最大2.93GHzで動作がプロセッサの仕様としては可能となっている。とはいえ、Macではそれを視覚的に数字として判断するのはちょっと難しい。PCの場合はIntelが「インテル ターボ・ブースト・テクノロジー・ディスプレイー」という純正のWinodows7/Vista向けガジェットを提供していて、ベンチマークなどで負荷をかければ現在のクロック数を示す棒グラフがギューンと上がるさまを見せてくれるのだが、残念ながらMac向けには提供されていない。
ただ、Mac OS Xに含まれている「アクティビティモニタ」を見ればHyper-Threadingテクノロジによって、2コア4スレッドが使われていることは確認することができる。また、「iStat」などMac向けに配布されている各種のユーティリティを使うことで、使用中のコアとスレッドの状態はある程度把握することが可能だ。iMacに続いてMacBook ProへとCore iシリーズ搭載モデルが拡大したことで、こうしたユーティリティ類も今後充実してくる期待が高く、ちょっとレアかも知れないテクノロジー指向のMacユーザーもそれなりに楽しめるようになるはずである。
各種ベンチマークソフトを利用したベンチマーク結果は下記のとおり一覧に示した。比較対象は、初代ユニボディ採用のMacBook Proで、2008年10月発売の製品。Core 2 Duo 2.53GHzを搭載する当時のMacBook Pro 15型の最上位モデルにあたり、レビュー対象モデルと同じく5,400rpmの320GBハードディスクと1,066MHz DDR3メモリを4GB搭載している。HDD容量とディスクリートGPUの有無は異なるが、直前のラインナップだったMacBook Pro(Mid 2009)の下位モデルがCore 2 Duo 2.53GHz搭載機となっており、直近の下位モデル同士の比較としても参考になるはずだ。
□製品仕様の比較製品型番 | MC371J/A | MC118J/A | MB471J/A |
発売月 | 2010/04/01 | 2009/06/01 | 2008/10/01 |
価格(発売時) | 168,800円 | 188,900円 | 288,800円 |
CPU | Core i5 2.40GHz | Core2Duo 2.53GHz | Core2Duo 2.53GHz |
内蔵GPU | Intel HD Graphics | GeForce 9400M | GeForce 9400M |
ディスクリートGPU | Geforce GT 330M(256MB) | 非搭載 | GeForce 9600M GT(512MB) |
搭載メモリ | DDR3 1066Hz 4GB | DDR3 1066Hz 4GB | DDR3 1066Hz 4GB |
搭載HDD | 320GB(5400rpm) | 250GB(5400rpm) | 320GB(5400rpm) |
使用したベンチマークソフトは、Xbench1.3、GeekBench、CINEBench R11.5の3種類。レビューモデルの特徴の1つである「グラフィックスの自動切り替え」を有効にした場合と、ディスクリートGPU「GeForce GT 330M」に固定した場合の双方で、Snow Leopardを32bitカーネル、64bitカーネルのそれぞれで起動した数値を取った。比較機であるCore 2 Duo機のほうは自動切り替えではないので、GPUとして内蔵GPUのGeForce 9400MとディスクリートGPUのGeForce 9600M GTをそれぞれ指定した場合で数値を取っている。
なお、ベンチマークソフトという性格上、マシンは常に高負荷状態にあることから、このテストでは例え「グラフィックスの自動切り替え」を設定していても、ほぼディスクリートGPUである「GeForce GT 330M」の利用に張り付いていることは十分に想像できる。
□ベンチマーク結果32bitカーネル起動 | MacBook Pro(Mid 2010) | MacBook Pro(Mid 2010) | MacBook Pro(初代ユニボディ) | MacBook Pro(初代ユニボディ) |
Core i5 520M | Core i5 520M | Core 2Duo 2.53GHz | Core 2Duo 2.53GHz | |
グラフィックス自動切り替えON | グラフィックスディスクリート固定 | GeForce 9400M | GeForce 9600M GT | |
XBench1.3 | 157.97 | 158.06 | 125.01 | 135.4 |
GeekBench 32bit | 4771 | 4755 | 3567 | 3563 |
CINEBENCH OpenGL | 15.70fps | 15.71fps | 5.89fps | 13.04fps |
CENIBENCH CPU | 2.16pts | 2.22fps | 1.46pts | 1.43pts |
64bitカーネル起動 | MacBook Pro(Mid 2010) | MacBook Pro(Mid 2010) | MacBook Pro(初代ユニボディ) | MacBook Pro(初代ユニボディ) |
Core i5 520M | Core i5 520M | Core 2Duo 2.53GHz | Core 2Duo 2.53GHz | |
グラフィックス自動切り替えON | グラフィックスディスクリート固定 | GeForce 9400M | GeForce 9600M GT | |
XBench1.3 | 162.65 | 161.04 | 128.98 | 131.82 |
GeekBench 64bit | 5625 | 5581 | 3920 | 3933 |
CINEBENCH OpenGL | 15.72fps | 15.71fps | 5.91fps | 13.01fps |
CENIBENCH CPU | 2.19pts | 2.16fps | 1.49pts | 1.44pts |
表から一目瞭然ではあるが、新モデルは買って損なしの結果がでていると言っていいだろう。Xbench1.3は総合的なベンチマークで、GeekBenchはCPUにほぼ特化、CINEBENCH R11.5ではGPU、CPUそれぞれの差を確認することができる。GeekBenchは32bitカーネルと64bitカーネルでソフトウェアが異なるのでその差が顕著にでているが、Xbench、CINEBENCHにおいては32bit、64bitともに目立つ差は誤差程度しか生まれない。Mac OS Xでは32bitカーネルの上でも、64bitアプリが動作することが理由だ。CINEBENCHはいずれのカーネルでも64bitアプリケーションとして動作している。特にCINEBENCHにおけるCPUベンチでは、Core 2 Duoでは同時に2エリアだが、Core i5は同時に4エリアの描画を行なう様子が視覚的にも確認できるので、Hyper-Threadingテクノロジの効果が良くわかる結果となっている。
ちなみに上記ベンチのようにまったくの同一条件下で行なったわけではないので、一覧とはしていないが、最上位のCore i7モデルで32bitカーネル起動、自動グラフィックス切り替えをしたベンチ結果も参考データとして数値のみ紹介しておく。詳細は、同一条件下で改めてチェックした上で、今後グラフ化する予定だ。
XBench1.3 | 176.56 |
GeekBench 32bit | 5386 |
CINEBENCH OpenGL | 15.81fps |
CENIBENCH CPU | 2.49pts |
●アップル独自の技術によるグラフィックス自動切り替えに迫ってみる
前述のベンチマークからは計れないのが、グラフィックスの自動切り替え機能である。今回の15型と17型のMacBook Proは、Core i5/i7内蔵のIntel HD GraphicsとディスクリートGPUのGeForce GT 330Mを搭載。アプリケーションの用途に応じてシームレスかつ自動的に切り替えることができると説明されている。コアなPCユーザーにしてみれば、NVIDIAの「Optimus Technology」を思い浮かべるはずだが、アップルの説明では独自の技術によって実現しているとのことだ。
選択肢は、Intel HD GraphicsとGeForce GT 330Mの自動切り替えと、GeForce GT 330M固定の2種類。ソニーの新VAIO Zで言うところのスタミナモードのように、Intel HD Graphicsのみに設定することはできない。
また、ラジオボタンで内蔵GPUとディスクリートGPUを切り替えていた従来モデルとは異なり、選択はチェックボックス方式。従来モデルのようにログアウトとログインを行う必要もなく、チェックの付け外しだけで瞬時に両モードが切り替えられるのも特徴だ。
実際に利用してみると、これが前述のTurbo Boostテクノロジ以上にMac OS X上では把握しにくい。いや、これは褒めているのだが……。いくら目をこらそうが、画面が暗転したりフリッカーが発生したりすることはない。しかしMac OS Xに付属するシステムプロファイラを起動してみると、明らかにCoreAnimationやOpenGLなどのAPIを利用するGPUに負荷をかけそうなアプリケーションを起動する前と起動した後では、使用しているGPUが確かに異なっているのだ。ただシステムプロファイラではリアルタイムにそれが反映されるわけではないので、いつ切り替わっているのかがまったくわからない。
もちろんアップル的な視点に立てば、そんなことはユーザーが意識することではなく、むしろわからないことこそがスマートなのは理解しているのだが、時には松岡修造氏ばりに「はい、今変わった! 君の使っているGPU今変わったよ!!」と教えて欲しいときもある(実際、Optimusではそうしたユーティリティが用意されている)。もちろん、時にはというのが、こうしたレビューを書いているときぐらいというのもほぼ間違いない事実。日々、何らかのアプリケーションを起動するたびに励まされても確かに困ってしまうはずである。
技術情報がかなり公開されているOptimus Technologyとは異なり、アップルがこの機能を実現している技術は非公開なので、とあるテストとアップルから説明されているいくつかの情報から推測を立ててみることにする。
試したテストは、バッテリ消費の状況を調べるものだ。満充電状態からバッテリ駆動で残り10分の警告がでるまでの稼働時間を、自動切り替え、ディスクリートGPU固定の双方で計測してみた。本体はスリープしたりスクリーンセーバー等が起動しないように設定し、HDDも回転したままでスリープさせない。液晶の輝度は最大で、キーボードバックライトももっとも明るい状態にした。そのまま放置して、フォアグラウンドで目に見えるタスクは一切動かさない。GPU機能にはほとんど負荷がかからない代わりに、バッテリの負担は大きい。通常使用ではあり得ない使い方ながら、実際に操作はしていないのに稼働時間は短くなる。結果は、自動切り替え、ディスクリートGPU固定で、それぞれ5時間12分、5時間18分後に残り10分前の警告が出た。誤差を考えればほぼ同等と考えてもいいだろう。
アップルの説明によれば、同社の技術ではCore i5/7内蔵GPU(内蔵GPU)への電源供給を完全にカットできるという。一方OptimusではディスクリートGPUの使用時でも最小限ではあるが、内蔵GPU部分に電源は供給されている。それは技術情報にもあるように、内蔵GPU側がディスプレイコントローラとして機能しているためだ。上記のテスト結果と内蔵GPUへの電源供給を完全にカットするというアップルの説明を組み合わせると、アップルの技術はディスプレイコントローラとしては常にディスクリートGPU側を使い、こちらに最低限の電源を供給している可能性がある。一切内蔵GPUを使わないディスクリートGPU固定のモードと、双方のGPUとしての機能にはほとんど負荷がかからないはずの自動切り替えモードのアイドル状態でバッテリ消費にはほとんど差がなかったことからの推測だ。これはまたIntel HD Graphicsのみを使用するモードが存在しないことの理由のひとつにもなる。さらに後述するが、Bootcampを使ってWindowsを利用する際にはディスクリートGPUであるGeForce GT 330Mしか利用できないという点も推測の根拠に含まれる。
技術情報が公開されていない以上は推測にしかならないわけだが、ディスクリートGPU側のディスプレイコントローラを利用する何らかのメリットがMac OS Xにとってあるのかも知れない。内蔵GPUに比べてディスクリートGPUのほうがディスプレイコントローラとして使いやすいという評価も耳にする。GPU機能として見れば確かにディスクリートGPUのほうが高負荷を受け持つのは間違いないが、ディスプレイコントローラとしてだけなら、確かに内蔵GPUとディスクリートGPUで消費電力が大幅に変わるということはないのだろう。
ではユーザーとしてどう使うかのがいいか? という点だが、はっきり言って現状は素直に自動切り替えにしておけば何の問題もなさそうな感じであった。プリインストールされているアプリケーションを例にあげると、待機状態からiMovieやiPhotoを起動すると、自動切り替えモードではGPUは内蔵GPUからディスクリートGPUへとすぐに切り替わった。GarageBandでは、起動だけでは切り替わらないが、チュートリアルを使ったときには切り替わっていた。確かにAPIの状況をみて切り替えているようなので、例えそのアプリケーションを利用せずにバックグラウンドで待機状態にしてもディスクリートGPUモードになっているのは間違いない。しかしバッテリ消費に直結するのは主にGPU機能自体の高負荷であるというのは事実で、待機状態での差が少ないことは前述のテストから推測できる。前モデルのようなラジオボタンではなく、チェックボックス形式になっているのも、チェックしてあるのが通常という考え方によるものだろう。
あえてチェックボックスを外して、ディスクリートGPU固定モードにする理由があるとしたなら、明らかにGPU負荷がありそうなアプリケーションの起動時でもシステムプロファイラの表示がIntel HD Graphicsだった場合だ。その時はチェックボックスのチェックを外して実際に高速化するかどうか、もう一度試してみるのがいいだろう。再起動どころか前モデルのようにログアウト/ログインすら不要なので、試すのは実に簡単なことだ。
●BootcampでWindows 7を利用する最後に、MacでWindowsを起動するユーティリティ「BootCamp」における情報を紹介しておく。現在BootCampはWindows 7の利用にも対応し、32bit/64bitいずれのWindowsでもインストールが可能だ。Windowsのインストール後、このMacBook Proに付属するMac OS Xインストールディスクを挿入すると、キーボードやトラックパッド、内蔵iSightカメラ、Bluetoothなど各種ドライバの一括インストーラが起動できる。これらのドライバのインストールが終われば、Macの内蔵デバイスがWindows上でも有効になる。ただし、マルチタッチやモーメンタムスクロールなど、Mac OS Xで使えるすべての機能が必ずしもWindows上で使えるというわけではない。
利用できるグラフィックスドライバも同様で、このインストーラを使って自動的にGeForce GT 330Mのグラフィックスドライバがインストールされる。BootCampのWindowsからはIntel HD Graphicsは利用できない。このことはアップルがサポート情報として公開している。
インストールされるドライバのバージョンは196.21で、これは現在PC向けに公開されている197.16の1つ前のバージョンにあたる。ただし、現在NVIDIAのサイトからPC向けに提供されているインストーラをダウンロードしてもドライバの更新はできない。BootCampにおけるドライバのアップデートは、BootCampユーティリティ自体の更新に依存している。なお、米国時間の26日にNVIDIAから汎用ドライバに関する発表があったが、今後BootCamp環境下での適用が可能になるかどうかは現時点で不明。
Windows 7 Ultimate 64bit版をインストールして、PC向けレビューで利用されているいくつかのベンチマークを走らせてみた結果は下記のとおり。結果はCore i5-520MとGeFoce GT 330Mを搭載するポータブルPCとして、他社製品と比べても遜色がないのは数値を見てのとおりである。
□Windows環境下でのベンチマーク結果PCMark Vantage x64 Build 1.0.2 | |
PCMark Suite | 5859 |
3DMark Vantage Bulld 1.0.2 | |
3DMark Score | N/A ※解像度が1,440×900のため |
GPU Score | 1964 |
CPU Score | 7571 |
FINAL FANTASY XI Official Benchmark 3 | |
Low | 9609 |
High | 7701 |
Windows エクスペリエンスインデックス | |
プロセッサ | 6.8 |
メモリ | 5.9 |
グラフィックス | 6.4 |
ゲーム用グラフィックス | 6.4 |
プライマリハードディスク | 5.4 |
今回は登場したてということもあって、便利になったMini DisplayPortを活用するためのMini DisplayPort to HDMI変換アダプタがサードパーティからも間に合っていなかった。また高解像度ディスプレイとの目に見える比較ができなかったほか、ハイエンドとなるCore i7-620M搭載モデルの評価ができていない。最大3.33GHzとなるTurbo Boostの威力などは、買い物山脈にてリベンジを果たそう。
(2010年 4月 27日)
[Reported by 矢作 晃]