特集

あなたなら何に使う? マウスが放つ新ジャンル“スティックPC”

〜内部構造やベンチマークを公開

「m-Stick NH1」

 株式会社マウスコンピューターの「m-Stick MS-NH1」は、本体サイズが100×38×9.8mm(幅×奥行き×高さ)、重量が約44gという、スマートフォンよりも遙かに小さいデスクトップPCだ。ノートPCやタブレットではないということでデスクトップに分類されると思われるが、卓上ではなく、液晶ディスプレイのHDMIコネクタに差し込んで使うことから、同社では“スティックPC”という呼び方をしている。

 このサイズのAndroid端末はすでにいくつか発売されているが、x86 Windows PCでというのは日本においてはこの製品が初となるはずだ。

 また、キーボード、マウスが別売となるが、デスクトップPCという観点で見ると、19,800円という価格もインパクトは大きい。

 今までにないフォームファクタであるため、今後、この製品がどのような使われ方をしていくのかは未知の部分は大きく、また、マウスコンピューターがどのような訴求を行なっていくのかにも注目が集まる。

 今回、同社製品企画部部長の平井健裕氏に、開発の経緯や狙いを伺った。

マウスコンピューターの平井健裕氏

ODMと連携し、ハード・ソフトで独自の工夫を盛り込む

 超小型PCとしては、Intelの「NUC」、GIGABYTEの「BRIX」、ECSの「LIVA」、ZOTACの「ZBOX」などがある。m-Stickも、敢えて当てはめるなら、こういった流れを汲むものだが、そのサイズ感は前述の通り、既存の製品より遙かに小さく、スティック型Android端末に対抗するものとなる。

NUC
BRIX
LIVA
ZBOX

 平井氏によると、Windows搭載でこのサイズというところに、これまでにはない用途や利便性があるのではと、社内で企画を始めたのが6月。ちょうどその時、COMPUTEXで、まさにそういった製品の開発を始めたメーカーがあると聞き及び、協業による開発が始まった。このジャンルでマウスコンピューターが国内一番乗りを果たせたのは、素早く目星を付け、迅速に取り組みを行なったことが背景にあると言える。

 開発はODMに丸投げではなく、放熱板を広げたりといった細かな点で独自の改良を施している。ソフトウェア面でも独自の工夫を盛り込むことで差別化を図る。例えば、ストレージの少なさをカバーするため、OSのリカバリーイメージを3.5GB程度にまで切り詰めているほか、なるべく最新のWindows Updateを適用させた形で出荷する。というのも、利用開始後にWindows Updateを累積させていくと、ストレージの空き容量がかなり逼迫してしまうためだ。また、本製品は持ち去りが容易であるため、企業内の特定のアクセスポイントに繋いでいないと利用できないようにするセキュリティソフトなどのプリインストールも検討されている。

 m-Stickの主な仕様は、Atom Z3735F(1.33GHz、ビデオ機能内蔵)、メモリ2GB、ストレージ32GB、Windows 8.1 with Bingとなっており、近年人気の8型Windowsタブレットとほぼ同じだ。その点から、ハイエンドな3Dゲーム、動画編集などは厳しいが、カジュアルゲーム、動画再生、SNS、Office文書の編集など、8型タブレットがこなせる作業についてはそつなくこなせることは想像に難くないだろう。

 今回、大半がシールドに覆われている状態ではあるが、内部の基板を見せてもらった。HDMIコネクタがない基板だけなら、FRISKのケースに収まりそうなサイズの基板に、SoC、DRAM、NAND、Wi-Fi+Bluetoothモジュールが載っているというのはなかなか感慨深い。比較用に見せてもらった同社の8型タブレットの基板には、何も実装されていない空きスペースがあるので、それを詰めていったのがm-Stickの基板ということになるが、8型では主要部品が片面実装で4層基板なのに対し、m-Stickは両面実装で6層になっているのも小型化に寄与している。チップを積層することで、さらに基板面積を小さくしたり、メモリ/ストレージの容量を増やすことも技術的には可能だが、そうするとコストが嵩むため、この仕様に落ち着いたという。

カバーを開けたところ
上にあるのは8型タブレットの基板。この空きスペースを凝縮しつつ、両面実装などにより、極限まで小さくした
基板裏面。中央にある黒いのはボタン電池
上から、m-StickのODM初期サンプル、他のODMの別製品、初期サンプルに独自の改良を加えたマウスの量産品。同じODM同士では放熱板の形などが変わっている。真ん中の製品は、ケースにはLEDの穴があるが、基板上のLEDの位置とずれているので、実際には機能しない

スティック型ならではの用途とは

 同社が想定する大枠の用途はどのようなものがあるのか? 大枠では、家庭のリビングのTVに繋いでの動画や音楽の再生、現在iPadで行なっているような中小企業による店頭でのデモやOffice用途、企業内での超省スペースPCとしての利用、サイネージなど組み込み向けの4つがある。

同社が考える本製品の用途

 もう少し詳しく説明しよう。家庭向けでは、本製品はリビングルームのTVとの組み合わせを明確に描いている。平井氏自身もそうだというが、リビングのTVの横に、例え小型であってもPCを置くのは奥さんの許可が下りないが、スティック型なら、HDMIコネクタの位置にも依るが、TVからはみ出さないため、設置の許諾が出る可能性が高まる。平井氏は、本製品の消費電力2〜3Wと極めて小さいので、スリープさせず常時オンにしておき、TVのチャンネルを変える要領で、入力切り替えをしたら即座にWindowsが使えるといった使い方を提案している。むしろ、本製品は電源ボタンが小さいこともあり、TVの裏側に取り付ける場合、電源をなるべくオンにする必要がない運用をした方が楽になる。

 入力インターフェイスをどのようなものにすべきか、若干悩ましい点もあるが、Windows 8.1のソフトキーボードを活用すれば、通常はマウスだけでも文字入力を含めた操作ができる。個人的にはWebサーフィン程度なら、「ドラゴンスピーチ」などの音声認識ソフトを入れて、声だけで操作するのもありではないかと思う。

 企業向けでは、省スペースPCとしてだけでなく、出張時にノートPC代わりにこれを持って行くことも考えられると平井氏は話す。最近のホテルには、HDMI付きのTVを部屋に備えていることが多いので、それをディスプレイとして、後はモバイルキーボードとマウスを持参する。液晶が不要な分、重量はノートPCよりも軽くなる。あるいは、会社で使っているお気に入りのキーボード・マウスを持って行って、普段と同等の環境で作業するというのもありだろう。すでにOffice 365などのアカウントを持っていて、データをOneDriveに保存している場合、作りかけの文書をホテルで完成させるということも容易にできる。

 さらに平井氏は、IoTやメイカームーブメントといった、個人系開発での利用も好適だとする。音声や映像などセンサーから入力されたデータを、高速に解析したり、複雑な制御をさせるといった場合は、組み込み専用SoCでは力不足という局面もあり、そこに小さいながらもWindowsを駆動できるシステムを入れ込むといったシナリオも、このサイズなら十分あり得るだろう。

 マウスコンピューターでは、本製品をなるべくオープンな形で提供したいとしており、例えば基板やケースのCADデータを公開して、ユーザーが3Dプリンタでオリジナルのケースを作れるようにしたり、現時点ではWindowsのみの対応となるBIOSをAndroidにも対応させ、Androidとのデュアルブートができるようにするといったことも検討している。また、デジタルサイネージ用途では、ハードウェア/ソフトウェアのカスタマイズが必要となることも多いので、その点については、発売後も引き続き検証を行ない、改善を加えた上で展開していくという。

 なお、本製品のケースはそれ自体が高い放熱性を持つものではないが、基板をケースで覆うことで、内部に対流を発生させ、排熱の効率が向上する。また、ディスプレイによっては、コネクタ周辺がかなり熱を持つものがあるため、そういった場合を考慮して、ディスプレイと本製品の距離を取らせるために、HDMI延長ケーブルを同梱し、利用を推奨している。

 ちなみに、本製品はバッテリを搭載しない。電力はMicro USBポート経由で供給し、駆動には5V/2Aが必要となる。そのためのUSB ACアダプタが付属しているが、保証外ながらも、本製品はモバイルバッテリでも動かせることを確認しているという。

 実は当初、マウスコンピューターでは、OSなしや、ケースなしの基板だけといった形で、開発者にターゲットを絞って本製品を販売することを検討していたという。だが、システム構成にもよるが、現在OEM向けWindows OSの価格は、ユーザー向けDSP版などより遙かに安価であるため、プリインストールして、一般販売するという結論に至ったのだという。

 なお同社では、このスティック型PCについて長期的に取り組んで行きたいとしており、すでに2015年に向けた次世代機の検討も始めている。次世代機はラインナップを2つに拡張し、1つは今回のm-Stickと同等の構成でSoCを次世代Atomにしたもの、もう1つはそれより上のクラスのSoC(Core Mか?)を搭載し、より性能を引き上げたものになる見込みだという。

すでに次世代機も検討されている

実機レビュー

 今回、短期間ながら、実機を試す機会も得られたので、簡単に紹介する。ただし、試用機と製品版とでは仕様が異なる可能性もあることをお断わりしておく。

 パッケージは4型程度のスマートフォンが入っていそうな雰囲気の小ぶりなもので、中にはm-Stick本体のほか、USB ACアダプタ、Micro USBケーブル、HDMI延長ケーブルが入っている。

 駆動には5V/2Aが必要とされており、ACアダプタもそのスペックに準拠しているが、手持ちの一般的なUSB 3.0 Hubでも動作した。最近のTVは、録画HDD用にUSB 3.0ポートを持つものも増えており、動作保証外となるが、それらでも動く可能性は十分ある。ただし、TVをオフにしても、USB給電がされるものでないと、m-Stickの電源が切れてしまう点は注意が必要だ。

 m-Stickは非常に小型だが、HDMIコネクタに比べると幅がある。そのため、ほかのポートが隣接している場合は、付属のHDMI延長ケーブルを使った方がいい。ただし、そうすると本体がだらりと垂れてしまう。ディスプレイのHDMIポートが横に付いていると、だらーんとはみ出してしまうので、できれば、ケーブルの向きを曲げつつも角度を固定できるケーブルだと良かった。

 外観は光沢のある黒いプラスチックで、一方の短辺にHDMI、長辺の片方にmicroSDカードスロット、もう片方の長辺にMicro USB、USB、電源ボタンがある。本製品は、駆動部品もディスプレイもないため、電源がオンなのかどうかを見分けるためのLEDが本体表面のロゴの横にある。これが青く光っている時は、HDMIコネクタは抜いても良いが、Micro USBを抜くと不正な終了となってしまう。

パッケージ
内容物
本体表面
裏面
右側面
左側面
4.6型スマートフォンとのサイズ比較
実際に液晶ディスプレイに取り付けてみたところ

 内部写真から分かる通り、本製品にはファンどころかまともなヒートシンクすらなく、放熱板があるだけ。これでも本体が過熱状態になることはなく、ベンチマークを実行しても表面温度は42℃程度に収まっていた。むしろ、前述の通り、ディスプレイの方が高い熱を発することがあるので、それが本体に影響を与えないよう配慮した方が良い。

 起動後の画面は、特に変わった点はなく、普通のWindows 8.1だ。前述の通り、ストレージの空き容量を確保するため、プリインストールアプリは最低限になっており、OS標準のもの以外は、バックアップ&復元ソフトの「AOSBOX for mouse」くらいで、Cドライブの空きは、21GB以上が残されている。

 システム構成にも特に目立った点はなく、一般的なBayTrail機だ。デバイスマネージャーを見ると、ストレージはSamsung製BWBC3R、ネットワークアダプタはRealtek製RTL8723BSとなっていた。

 時間の都合で、ベンチマークはPCMark 8とCrystalDiskMarkのみを実施した。比較対象として、同じプロセッサを搭載する富士通の8型タブレット「ARROWS Tab QH33/S」の結果を載せてある。

 これを見ると、PCMark 8は、HomeとWorkにおいてm-Stickは1割ほど低い結果が出た。推測だが、m-Stickは放熱性の面で8型より不利なため、若干のスロットリングが発生しているようだ。と言っても、Creativeの結果はほとんど同じであるため、体感できるほど性能が落ち込むことはないものと思われる。

 一方、ストレージの性能は、特にシーケンシャルリードにおいて、ARROWS Tab QH33/Sより5割ほど速い。ランダムアクセスにおいても、全般的により高い結果となっており、体感性能においては、m-Stickの方が快適に感じられるはずだ。


m-Stick ARROWS Tab QH33/S
PCMark 8
Home conventional 920 1009
Creative conventional 754 770
Work conventional 1248 1485
CrystalDiskMark
シーケンシャルリード 167MB/sec 105.4MB/sec
シーケンシャルライト 46.48MB/sec 47.01MB/sec
512Kランダムリード 155.1MB/sec 101.1MB/sec
512Kランダムライト 41.86MB/sec 27.86MB/sec
4Kランダムリード 11.14MB/sec 10.41MB/sec
4Kランダムライト 13.42MB/sec 11.05MB/sec
4K QD32ランダムリード 26.85MB/sec 29.81MB/sec
4K QD32ランダムライト 19.37MB/sec 12.66MB/sec

 以上のように、性能も計測はしたが、本製品は性能で語るべきものではなく、極端なまでの小ささによってこれまでになかったスタイルや場所でWindowsが利用できる点が最大の特徴だ。価格も安価なので、とりあえず買ってみて、いじくり回してみることにおもしろさを見いだせるだろう。マウスコンピューターでも、さまざまな用途提案を行なっていくとのことなので、すでにPCを何台も所有しているような弊誌読者諸兄におかれても、本製品を買い足して遊んでみてはいかがだろう?

(若杉 紀彦)