特集

PFU「ProDeSセンター」見学記

~年間9万台のスキャナや、KIOSK端末などを開発製造

PFU ProDeSセンター(石川県かほく市)外観

 本誌読者にはドキュメントスキャナ「ScanSnap」シリーズや、上級者向けキーボード「Happy Hacking Keyboard」で馴染み深いであろうハードウェアメーカーPFU。

 同社の本社所在地である石川県かほく市は、県庁所在地である金沢市から、電車でおよそ30分ほどのところにある。今回、PFUの本社に加えて、開発製造の拠点である「ProDeSセンター」を取材する機会を得た。同センターの特徴とともに、製品が生産されている現場の様子をお届けする。

オフコンからイメージスキャナへ

 PFUは1960年に「ウノケ電子工業」として設立された。ちなみに「ウノケ」とは、同社創業の地であり、現在も本社社屋がある石川県河北郡宇ノ気(うのけ)町(現かほく市)から採ったものだ。

 その後1969年に社名を「ユーザック電子工業」に改めたのち、富士通および内田洋行との提携を経て、1987年には富士通と松下電器産業(現パナソニック)との合弁会社であるパナファコムと合併して社名を「PFU」に改め、現在に至っている。

 当時はオフコンやミニコンが主力製品であり、それらのブランド名である「PANAFACOM」「FACOM」「USAC」は高い知名度を誇った。余談だがPFUの「P」はパナソニック、「F」は富士通、「U」は内田洋行と、当時の主要株主会社の頭文字も示している。

 さて、現在の主力事業の1つであるイメージスキャナビジネスは、1982年に開発がスタートし、2001年には富士通のスキャナ事業が移管されて現在の形になっている。現在「fiシリーズ」をはじめとする業務用スキャナは世界で50%以上という高いシェアを誇る。そのイメージスキャナのコンシューマ向けラインナップが、本誌読者にもよく知られた「ScanSnap」シリーズだ。

 以下、同社本社ショウルームに展示されている、過去から現在までの製品の一部を紹介する。オフコン時代の製品の実機は、今となっては貴重な品といえよう。

同社の本社ショウルーム
「USAC1010」(1963年)。全国30以上の自治体に導入された超小型の電子計算機。製品名は当時の社名であるユーザック電子工業から。当時の価格は550万円から
「USAC720」(1971年)。後々のオフコン製品に近づいた最初の製品で、シリーズ化されロングセラーとなった。価格は同じく550万円から
「FACOM Kシリーズ」。1984年に登場し、オフコン分野で初めて分散処理形態を確立した製品。1996年までのおよそ10年間でシリーズ累計40万台以上を販売した。写真は「K-6500」
「PANAFACOM C-15」(1978年)。8bitが中心だった時代に発表された16bitの国産PC。科学技術計算、計測制御向けに用いられた。本体正面のカセットテープでデータの読み出しを行なう。CPUはMN1610(2MHz)、主記憶は64KB。写真は後継の「C-15E」
「PANAFACOM C-180A」(1980年)。5インチのFDD(両面倍密度)を初めて搭載したPC。CPUはMN1610A(4MHz)、主記憶は124KB
業務用スキャナfiシリーズは世界市場で高いシェアを誇る。これは毎分130枚/260面の読み取りに対応した「fi-6800」。ScanSnap iX500が毎分25枚/50面なのでまさにケタ違いだ
A3両面スキャナ「fi-6770」。左利きの人でも操作しやすいよう、オートシートフィーダ部を180度ターンできる機能を備える
ADFタイプの最新機種「fi-7180」。ScanSnapシリーズとよく似た外観だが、読み取り速度は毎分80枚/160面とやはり高速。法人利用で便利な集中管理機能を搭載する
これは免許証などのスキャンに適した超小型フラットベッドスキャナ「fi-65F」。窓口業務に用いられる
こちらは現在の同社コンシューマ向けスキャナの主力モデル、ScanSnap SV600(手前)とScanSnap iX500(奥)など
同社の創業50周年を記念して作られたScanSnap S1500の漆塗特別モデル
ScanSnapとともに高い知名度を誇る同社のキーボード「Happy Hacking Keyboard」。これは10周年記念限定モデルの「Happy Hacking Keyboard Professional HG JAPAN」

もう1つの事業の柱、ProDeSビジネス

 さて、イメージスキャナと並んで同社の事業の柱となるのが、同社が「ProDeS(プロデス)」と呼ぶ開発製造サービスだ。ProDeSは同社の造語で「Product Design Service」の略である。

 これは顧客の要望に応じて業務用機器の企画設計から製造、さらに保守まで、すべて自社で行なうサービスだ。身近な例では情報KIOSK端末がそれで、コンビニの情報端末や、量販店店頭のポイント発券端末、映画館のチケット発券端末、さらに病院の受付端末などが、このProDeSビジネスで産み出されている。

 また組み込み製品も手掛けており、半導体製造分野では試験装置や露光装置向けのコントローラ、工作機械分野では製造ライン向けPC、マウンター向けの制御ボード、通信放送機器分野ではデジタルシネマプロジェクタ向けコントローラや無線基地局設備、医療機器分野では超音波診断装置やモニタリングシステムなど、さまざまな組み込み機器が国内外の事業者に採用されている。まさに縁の下の力持ちだ。

 これらの開発から試作・製造までを一手に手掛けるのが、本稿で紹介する同社のProDeSセンターだ。本社から車で15分程度の場所にあるこのセンターは、およそ1万坪の敷地面積を持ち、開発製造棟と工作棟から成り立っている。

 このProDeSセンターが開発製造している製品は実に1,200モデル。それらは顧客のオーダーに合わせて1台から生産する必要があるため、すべて部品単位で在庫を保有しているというから驚く。典型的な多品種少量生産、かつ短納期だが、こうした厳しい要求に対応できるよう、2006年に新たに竣工した専門施設が、このProDeSセンターというわけだ。

 ちなみにこのProDeSセンターの工場では、前述の情報KIOSK端末や組み込み機器以外にも、業務用スキャナのfiシリーズ、そしてScanSnapシリーズの一部製品の生産も行なっており、総台数はスキャナだけでも年間9万台にも及ぶ。開発部門の取り組みは追って紹介するとして、まずはこれら生産工程を写真で紹介しよう。

荷受~検査

受入検査場。奥に荷受場がある。部品が到着すると抜き取り検査を行なって倉庫へと移動させる。荷受が工場の端ではなく中央で行なわれているのが特徴
入庫数と平均時間をカウントしてディスプレイに表示し、部品の到着から入庫されるまで半日を超えないよう心がけている。これは朝から195種類の部品を検査して平均0.92時間で入庫したことを示している。リミットは2時間とのこと
倉庫はフリーロケーションで、部品の空きが出ると後から入ってきた部品がそこに置かれることで、スペースを効率的に利用できる仕組み。棚上部の3ケタのアルファベットはロケーションを表しており、どの部品がどのロケーションに置かれているかはシステムで管理されている
部品を取りに行く際はシステムからの指示で一筆書きで取りにいけるようになっている
1,200種類のモデルをすぐ作れるよう、部品は常時在庫されている

加工

量産モデルは一般的に専用金型を作って金属板を抜くが、ここは少量多品種生産のため汎用金型とレーザーでカットしている
型で抜く場合は所要時間は30秒程度で済むのに対し、レーザーでのカットは2分ほどかかることもあるが、金型の場合1~2千万かかる初期投資がレーザーでは不要なので、多品種少量生産ではコストメリットが出る
金具を取り付けたのち、プレスして曲げられた状態
加工された組み込み用の筐体。塗装を行なう必要はなく、これが完成形になる。亜鉛メッキが施されており、切断面を亜鉛が覆うことによりサビ防止になる
19インチラック。高さはおよそ2mあるが、このような大型サイズも製作可能
パンチプレス・レーザー複合機。24時間自動運転で板金のレーザー加工を行なっている。右手前にあるのが加工前、その奥で台に乗せられているのが加工後の板金
板金のバリを除去している様子
板金が設計図通りに仕上がってきたかの検査。物差しやノギスを使った手動での検査ではなく、レーザーを照射して板金の寸法をトレースし正誤をチェックする
レーザー照射を行なっている様子
プレスブレーキを用いて鉄板を曲げる工程。鉄板の向きを揃えて順番通りにセットする工程をスタッフ(人)が、寸法に沿って曲げる工程をプレスブレーキ(機械)が受け持つ。少量多品種ということで全自動ではないのが特徴
3Dプリンタも5年以上前から導入して活用している。30cm程度の大型モデルも造型可能なタイプ
外観確認のために3Dプリンタで試作されたScanSnap S1300のパーツ
さきほどの工程で曲げた板がシャーシとなって組み上がった状態
こちらはKIOSK端末のシャーシ

プリント板製造

プリント板の組立ラインでは湿度が常に最適に保たれるよう純水を噴霧して加湿している。床も静電気を逃がすタイルを使用し、精密部品を扱う製造ラインには仕切りを設けホコリが入らないように配慮している
プリント基板の製造工程。樹脂の板に銅箔を貼り、配線する箇所をエッチングして溶かし、プリント板生板と呼ばれる状態を作る。ハンダ付けを行なう箇所に穴を開けたメタルマスクをその上から被せる
メタルマスクの上にクリームハンダを乗せて漉くとプリント板生板にハンダが乗る
プリント板製造のライン全景。手前のマウンター内でプリント板に部品が乗せられたのち、機械の中でハンダが溶けることで溶着されて基板が完成する。ここも少量多品種生産
まずはハンダを塗布
続いて、プリント基板に正しくハンダが付いているかを実装検査機で確認
部品は両面に実装するため、裏返しても部品が落ちないようにするためここで接着剤を塗布する
マウンター。ここにプリント基板を通して電子部品を実装する
この中をプリント基板が通過する際、内部でハンダが溶け、部品がハンダ付けされて基板が完成する。ハンダが酸化しないよう中は窒素で充填されている
出口に設置されている実装検査機。ハンダ付けがきちんと行なわれているかをCCDカメラ搭載のシステムが自動で確認する
目視でチェックを実施。部品が小さいため拡大鏡も使用する
その後、一部の製品はX線であらためてチェックを実施して完了
キーボードやマウスのコネクタなど、少量多品種ゆえ機械での実装では効率が悪い部品は手付けで実装を行なう。これでプリント板は完成
手付け実装のライン
完成したプリント板を台車に乗せ、通電検査の工程に輸送する。この写真では分かりにくいが、奥に向かって一定のスピードで台車が移動している。作業時間に合わせる必要があるため、台車の移動速度は1分に数センチという緩やかなペース
工程がどこまで進んだかを次の工程の担当者に知らせるため、終わった工程名が記された円盤を抜き取って隣の支柱に差し込む。アナログ的な工程と、ITを活用した工程が混在しているのが興味深い

組立

部品はラインの周囲に配置されており、注文を受けると部品を取りに行く。1周して戻ってくると必要な部品が過不足なく揃うようにレイアウトされている
ProDeS製品は製品の大きさに合わせて4つの組立ラインがある。いちばん大きいのはこの情報KIOSK端末で、ラインはUの字で折り返すようになっている
生産量が少ない時は1人の持ち分を増やして組立ラインを短くし、多い時は持ち分を減らして組立ラインを長くすることで、行き来する無駄を減らしている
ネットワーク機器を作っているライン。ラックマウントタイプの製品のようだ
ラインの繁忙度は色のついたフラグで表される。青だと残業なし、黄色だと残業1時間まで、赤だと残業2時間まで。管理者は聞き取りをしなくてもラインを巡回するだけで繁忙度が把握できる
組み込み型のPCを生産しているライン。PCのBTOなどと同じ仕組みで、装置ごとにメモリの容量やCPUのグレードを変更している
1つのラインは多ければ1日に50台、少なければ5台程度を組み立てる。1台の組立に必要な工数は予め把握されているので、稼働が空けば人員が不足しているラインの応援に行なったり、納品までに日数の余裕があるオーダーを前倒しで組み立て、人の稼働が常時100%になるよう平準化を図っている
棚に載せられた組立完了品
工場内の事務所。引き出しの中も文具の置く位置が決められているなど、整理整頓が徹底されている。工場内の生産ラインや組立ラインと同様、事務部門も同様に3S(整理・清掃・整頓)に取り組んでいる例
業務用スキャナfiシリーズ(fi-5950)の組立ライン。光学部品に影響を及ぼさないようクリーンルームで作業が行なわれている。クリーン度(1立方フィートの中にあるホコリの指数)は高く「花粉症の人が中に入ると治ります」とのこと
免許証サイズの業務用スキャナ( fi-65F)の組立ライン
部品をピックアップする際は目視で個数を数えるのではなく、重量を測って過剰分や不足がないかをチェックしている。個々の部品の重量はバーコードで読み込む仕組みで、集中力が切れても数を間違えないための仕組み。これは実際に使われているものではなく、工場見学者向けのデモコーナー
同社が採用している「組立アシストシステム」の工場見学者向けデモコーナー。組立に使用する順に電動ドライバーなど工具の置き場所が点灯する。また電動ドライバは持っただけでは動作せず、ネジを箱から取り出すことでセンサが感知し、はじめて動作する仕組み
ScanSnap iX500の組立ライン。実際に組立アシストシステムが導入されている。分業で行なわれる組立作業では、1人の作業が遅れると全体が遅れるため、特定のスタッフの作業が遅い場合は作業量を他のスタッフに割り当てて全体のペースを合わせるといった調整がなされる
ズラリと並ぶiX500の読み取り部
生産性がグラフで表示され、スタッフが見られるようになっている。1台あたりの生産時間が短縮されればグラフが下がっていく仕組み

バーチャルレビューや新技術の導入で開発のスピードアップを実現

 ProDeSセンターの開発製造棟は、ここまで写真を中心に紹介した工場が1階、そして開発部門が2階といった具合に、各部門がワンフロアを専有している。特に開発部門では、品質保証や製造技術を含めた全ての関連部署が1フロアに集約されるなど徹底している。同じフロアで横に移動するだけで部署間のコミュニケーションが取れる、というわけだ。

 品質に次いで、同社の開発部門が重点項目として掲げるのが「スピード」だ。といっても気合と根性で乗り切るとか、残業を増やして納期に間に合わせるといった話ではない。1つは、開発の手戻りをなくす手法を積極的に導入し、スピードアップにつなげることだ。

 具体例として同社が挙げるのが、3次元CADを用いたバーチャル製品による設計レビューだ。スクリーン上でレビューを行なうことで、試作品を作ってトライ&エラーを繰り返す工程を省き、スピーディーな開発を実現している。

 バーチャルレビューは、デザイン面だけにとどまらない。線形解析によって性能や剛性を維持しつつ小型軽量化を実現したり、衝突解析によって落下のシミュレーションを行なって設計を改善することで、評価期間を短縮するといった取り組みも行なわれている。

 これらレビューは、設計者同士の意見交換はもちろん、顧客を交えて行なわれることも多く、遠隔地の顧客とは、ネットで画面を共有してレビューを行なうことも可能だという。

 これらの積み重ねにより、組み込み製品については、現在ではほぼ完全な試作レス開発を実現しているそうだ。

 また、新しいテクノロジの導入によるスピードアップにも積極的だ。例えば数年前から導入している3Dプリンタがそれで、CADだけではサイズなどが実感しにくいという理由でモックを制作する際、3Dプリンタを用いることで、従来1~2週間かかっていた制作期間を一晩にまで短縮することに成功している。

 さらに、PCB(プリント基板)の設計プロセスでは、1つのプリント基板に対して複数人で並行して設計できる仕組みも導入し、開発期間の短縮に成功している。これらスピードアップによって生み出された時間を用いて、新しい技術へのチャレンジを行なうという、好循環を生んでいるわけだ。

社内でのレビュー時にはスタッフが専用のVDRルームに集い、大画面で合同レビューを行なうなど、意見交換および情報伝達が行ないやすい環境が構築されている(写真は同社提供)
3Dプリンタで制作されたScanSnap S1100のデザインモック。実際に触れて大きさや重量を確認するために作られる

 今回取材したのは組み込み製品を中心としたProDeSセンターだが、ScanSnapシリーズの品質基準もこれに等しいことは、業務用スキャナfiシリーズやScanSnapの一部製品が同センターの工場で生産されていることからも明らかだ。

 また写真では掲載できないが、取材当日は、ScanSnapシリーズの耐衝撃試験の結果が実際に設計にフィードバックされた事例など、興味深い内容も目にすることができた。

 こうした数々の取り組みが、市場における同社製品の高い評価につながっており、スキャナ市場におけるPFUの存在感を高めることにつながっているのだろう。

(山口 真弘)