2010年暮れの電子書籍端末のリリースラッシュの中、比較的ひっそりと発売になったタブレットマシンがある。NECビックローブの「Smartia(スマーティア)」がそれだ。7型カラー液晶ディスプレイ搭載、Android 2.1を採用したタブレット端末である。
ご存じの方も多いと思うが、この製品、2010年夏頃からNECが「Interop 2010」などいくつかの展示会で参考展示していた「LifeTouch」というAndroid端末がベースになっている。LifeTouchは法人向けのリファレンスモデルという位置付けで、エンドユーザー向けに直接販売される製品ではなく、本製品がいわば「LifeTouch」ベースの端末としては初めてコンシューマルートで販売される製品ということになる。
本製品では「Android 2.1採用」などといったガジェット的な訴求はあまりなく、NECビックローブでは「andronavi搭載タブレット」というコピーを前面に出している。またホーム画面からしてBIGLOBE仕様にカスタマイズされており、プッシュ配信やフォトフレームとしての利用など、家庭内での用途提案を中心にした訴求は、素のAndroid端末とはかなり印象が異なる。
「Smartia(スマーティア)」。販売価格は42,800円とやや高額だが、3G回線は搭載しないため、とくに契約期間の拘束はない。また、プロバイダがBIGLOBEに限定されることもない | 製品パッケージ。コンシューマ向け製品ではあるが、現時点で販売ルートはWebのみ。ちなみに「Smartia」は端末そのものの名称ではなく、サービス全体を指すとしている |
●横向きが前提の筐体。抵抗膜タッチパネルで指のほかスタイラスでも操作可能
まずはざっと外観および仕様から。
筐体は横向きで使用することを前提としたデザイン。ワイド画面の左側にボタン類が付いていることから、かなり横長の筐体である。筐体は完全にフラットで、昨今のスマートフォンや電子書籍端末のように、薄く見せるためにエッジ部分をカットしようといった工夫はない。よく言えば無難な作り、悪く言えば地味。本体サイズは約220×120×14mm(幅×奥行き×高さ)で、厚みはそこそこある。色はホワイト1色で、重量は約370gだ。
画面サイズは7型ということで「GALAXY Tab」と同等だが、解像度は800×480ドットと、1,024×600ドットのGALAXY Tabに比べて劣る。ちなみにメーカーの製品カタログでは「ケータイより大きくて見やすい7インチタッチパネル」という表現があるなど、高解像度の端末とではなく、ケータイとの比較を中心に訴求している。
どことなくDVDのトールケースを思わせる本体。CPUはARM Cortex A8を搭載。画面両サイドにステレオスピーカを搭載する | 同じ7型カラー液晶を搭載するGALAXY Tab(下)との比較。ボタン類があるぶん、本体サイズはかなり横長。ベゼルの幅もそこそこある | iPad(下)との比較。本体の幅だけ見ると、あまり差がないことが分かる |
画面は抵抗膜タッチパネルを採用しており、指先のほか付属のスタイラスでも操作できる。表面はザラザラしており、グレアタイプの液晶のように反射しないのが特徴だ。グレア液晶のギラギラした質感が苦手な人にはメリットだが、画面全体がやや白く濁って見えることから、好き嫌いが分かれるところではある。なおマルチタッチには対応しないので、ピンチインアウトの操作は行なえない(拡大縮小が可能な場合は、画面下に「+/-」ボタンが表示される)。
Android端末の標準である戻る/メニュー/ホームボタンのほかに、上下左右/決定キーを搭載している。ちなみに昨年夏に展示会に出品されていた試作品と比べると、この部分の形状がかなり異なっている |
本体左側には、Androidではおなじみの「メニュー」「ホーム」「戻る」の3つのボタンに加え、電源ボタン、さらにケータイに似た上下左右/決定キーを搭載している。タッチパネル搭載機でありながら上下左右/決定キーをハードウェアとして搭載するのは珍しい。また電源ボタンが本体側面ではなく正面、しかも画面の横にあるというのも独特ではある。
本体の側面にはUSBポートやステレオミニジャック、底面にはSDカードスロットなどを備える。Bluetooth Ver2.1+EDRに対応するほか、通信機能は無線LAN(IEEE 802.11b/g)を搭載。3Gのモジュールを搭載しない点を除いては、ハードウェアとしてはそこそこ多機能であり、イー・モバイルの「D22HW」や「D26HW」など一部のUSBデータカードにも対応するなど拡張性にも富んでいる。
底面には充電用と思われる金属端子があるが、現時点ではクレードルはラインナップされていない(「LifeTouch」製造元のNECでは用意されている模様)。隣はmicroUSBポートとSDカードスロット | 左側面。珍しいフルサイズのUSBポートと、microUSBポート、イヤフォン端子、ACジャック | 右側面は何もなく、すっきりしている |
背面。300万画素のカメラを搭載する。右下にはストラップホールもある | 左上部には音量大/小ボタンを備える |
右上部にはスタイラスを収納できる | microSDではなくフルサイズのSDカードスロットを搭載する。製品には2GBのSDカードが付属する |
●オリジナルのホーム画面を搭載もカスタマイズの自由度は高い
ロック状態の画面。この状態ではAndroid標準のオーソドックスな画面 |
本製品はAndroid端末ということで、アプリを自由にインストールして使うことが可能だが、ホーム画面については完全に「Smartia仕様」にカスタマイズされている。写真を交えながらみていこう。
起動すると表示されるホーム画面は、「ニュース」「アプリ」「お買い物」「お出かけ」「マイルーム」に切り替えることができ、それぞれの画面には内容ごとにタブメニューがプリセットされている。例えばニュースであれば「注目」「芸能」「スポーツ」「人気」という4つのタブがあり、そこに表示されているニュースの見出しをタップすると、ブラウザが起動してニュースの記事ページが表示される仕組みだ。ちなみにニュースはすべてプッシュ配信されており、オンラインの状態であれば、定期的に最新の内容に更新されている。
左右フリックか、もしくは下部のアイコンをタップすることで「ホーム」「ニュース」「アプリ」「お買い物」「お出かけ」「マイルーム」の6枚の画面が切り替わる。これがいわば大分類に相当する |
これらメインメニューは基本的にBIGLOBE提供のサービスと連携している。例えばニュースであればBIGLOBEニュース、お買い物であればBIGLOBEショッピング、アプリであれば同社が運営するandronavi(アンドロナビ)といった具合だ。ただ、andronaviが利用できるからといって一般的なAndroidマーケットに接続できないわけではない。ホームにはきちんとAndroidマーケットのアイコンが並んでいるし、EvernoteやnswPlayer Plusをはじめとするメジャーなアプリもプリインストールされている。追加アプリの導入も自由だ。
【動画】ロックを解除してホーム画面を表示し、ニュース、アプリなどひととおりの画面を表示したのち、ニュースをタップしてブラウザを起動、そのあと縦表示に切り替えている様子 |
さらに画面の右端には利用頻度の高いアプリとして、ブラウザ、メール、Twitterクライアントの「ついっぷる」、andronaviが並んでいるが、これらも固定ではなく、例えばついっぷるが合わない場合は別のアプリに入れ替えたり、空欄にすることもできる。総じてカスタマイズ性は高く、1週間ほど試用した中でも特に押しつけがましい挙動は感じなかった。サービス事業者が用意したハードウェアというのは、とかくその事業者の色が(悪い意味で)濃く出すぎることがあるが、本製品に限ってはあまりそれを感じない。
andronavi(アンドロナビ)はNECビックローブが運営するAndroidアプリのストアで、国内アプリの紹介文が充実していることが特徴 | 画面右端には4つのアプリ(ブラウザ、メール、ついっぷる、andronavi)のアイコンが並ぶ。これらはいわゆるランチャーで自由に入れ替えが可能。iPhoneのメニュー画面で言うところの最下段の列と同じ位置付けだ |
Android標準のアプリ一覧画面。ホーム画面の右端から引き出して表示できる | Android標準のブラウザを搭載。もちろん縦方向の表示にも対応 | 日本語入力システムとしてオムロンソフトウェアの「iWnn IME」を搭載 |
また本製品は動画や音楽の再生に対応するほか、付属のスタンドを用いることでデジタルフォトフレームとしても利用できる。SDカード内の写真データの再生のほか、「お届けフォト」というサービスを使うことでメールに添付して送った写真を再生することもできる(BIGLOBEのIDが必要)。デジタルフォトフレーム機能を搭載していることを謳う製品は多いが、本製品はサイズといい、スタンドに設置した際の外見といい、専用機と見比べてもなんら遜色ない。
付属のスタンドを用いることでデジタルフォトフレームとして利用できる。このスタンドは角度が無段階で可変する。充電機能はない | |
スライドショーでは左列にカレンダーおよび最新ニュース、右側に写真が表示される。まれに90度回転した状態で表示されるのが気になる | 「お届けフォト」サービスを利用することで、メールで送信した写真を取り込んで表示することが可能 |
未読メールがある場合は画面が消灯状態で上部のLEDが点滅する |
あと個人的に便利だと感じたのが、スリープ状態の際にメールが着信するとLEDが点滅状態になること。iPhoneは、ケータイと違って未読メールがある際にLEDが点滅するといったギミックはないが、本製品ではロックを解除してメールアプリを起動させるまで、LEDの点滅状態が維持されるので、メールの未読があることが一目で分かる。メールサービスの種類に依存する可能性もあるが、今回設定したGmailでは少なくとも点滅による通知があった。ケータイの利点を取り入れている格好で、便利だと感じる人も多いのではないだろうか。
以上、ざっと仕様およびプリインストールのアプリを通じて本製品を紹介したが、実際に使ってみた限りでは、操作性の面で多少クセがあると感じる。具体的に言うと、本製品が採用している抵抗膜タッチパネルに依存する部分だ。
この抵抗膜タッチパネル、指でもスタイラスでも操作できるのがメリットなのだが、どちらかというと指よりもスタイラスを念頭に置いてチューニングされているようで、指で操作すると誤操作が発生しがちだ。例えばスクロールの際、スタイラスだとスムーズに操作できるが指だとタップと認識されてしまったり、フリックをしたつもりで画面を指で軽くこすった際もタップと認識されてリンク先にジャンプしてしまう場合がある。
つまり、スクロールやフリック操作に割り当てられたアプリ側の挙動そのものはiPhoneや多くのAndroid端末と同じなのだが、指をどう動かせばスクロールやフリックとして認識されるかという点において、若干相違があるのだ。まるっきり違っていれば逆に対応しやすいのだが、微妙な差であるからこそ悩ましい。個人差もあるかもしれないが、普段iPhoneを常用している筆者からすると、同じように使おうとして「あれ? 」と首をひねることがけっこうあった。本製品にだけどっぷりと浸かるならよいが、iPhoneなどと併用するのであればストレスになるかもしれない。
指の腹でタッチするのではなく、スタイラスもしくは爪先のほうが確実 |
そうこうしつつ実際に使っているうちに分かってきたのは、指先よりも爪先で操作したほうが確実、ということだ。本製品は抵抗膜方式であるため、iPhoneなどと違って爪先などによるタップにも反応する。そのため細部の操作においては、指先よりも爪先のほうが向いている。そうした意味では女性など、爪を伸ばしている人にとって操作しやすい製品と言えるかもしれない。iPhoneなどのタッチ操作が苦手という人にとっては、むしろ使いやすいと感じるケースがあるかもしれない。
ところで、これはシャープのGALAPAGOSなどにも言えるのだが、ハードウェアの「戻る」ボタンが硬すぎて、文字通り触れるだけで反応するタッチ操作と交互に使おうとすると違和感がある。同様に、スタイラスを使っている場合は、ボタンは指、画面はスタイラスで操作することになるので、こちらもやはりシームレスな操作がしづらい。GALAXY Tabのように両方ともタッチ対応にするのが最善の策とは思わないが、スイッチの部品をもう少し軽いタイプに変えるか、戻るボタンをタッチスクリーン内に配置するなどの対応を望みたいところではある。
本製品は電子書籍専用の端末というわけではないが、画面サイズは単行本のそれに近く、電子書籍のビューアとしても期待が持てる。ただ実際に使った限りでは「使えなくはないが、やや微妙」というのが個人的な感想だ。
縦に持った状態は比率的にも少々アンバランス。本製品はセンサー搭載で画面は自動的に回転するが、ホーム画面は縦向き表示には非対応 |
理由は2つある。1つは本体形状と操作性だ。本製品はワイド画面の長辺にさらにボタンが付いたレイアウトになっているので、90度回転させるとかなり縦長になってしまい、手の中での収まりが悪くなる。さらに前述のように指よりもスタイラスを重視したインターフェイスなので、ページめくりなどの操作において他の電子書籍ビューアに比べると少々使いづらさを感じる。決して致命的というわけではないが、電子書籍ビューアとしての利用頻度が高いのであれば、ほかの選択肢のほうがよいと思う。
また、Android端末であることから、GALAXY Tabでもレビューしたアプリ「Adobe Reader」や「ezPDFReader」を使えばPDFコンテンツや自炊データを読むことができるのだが、解像度が低めであることから細かいフォントが読みづらい。ピンチインアウトによる拡大縮小に対応しないため、同じ「Adobe Reader」や「ezPDFReader」でも、使い勝手は同じ7型のAndroid端末であるGALAXY Tabなどに比べると劣るというのが率直な感想だ。アプリによっては上下左右/決定キーが反応しない場合もあり、アプリとインターフェイスの整合性が課題と言えそうだ。
もっとも、筆者が見つけられていないだけで、本製品で快適に使えるビューアが存在する可能性があることはお断りしておきたい。今後は電子書籍アプリのプリインストールにも期待したいところだ。
ACジャックが本体の左側面にあるため、接続したままでは非常に持ちにくい |
あと、本製品のバッテリ駆動時間は公称8時間とされているが、プッシュ配信サービスが多いせいか、実際にはかなり早く消耗する印象だ。そのため宅内ではACアダプタを接続したまま使うことになりがちなのだが、ACジャックが本体左側面にあるため、左手で持つとぶつかって使いづらい。量販店店頭で展示サンプルのマウスを握ろうとした時に防犯センサが貼り付けられていて握った感覚が確かめられない、あれと同じ状態になっている。次期製品では改良を期待したい部分ではある。
筆者が本製品のベースになった「LifeTouch」を初めて展示会で目にしたのは昨年夏だったが、当時は試作品、かつリファレンスモデルということで、アプリがほとんどインストールされておらず、試用していても用途がピンと来なかった。しかし今回NECビックローブから「Smartia」として発売された本製品は、多数のアプリが組み込まれており、明確な目的を持った製品に仕上がっている。
今回、本製品を実際に使っていて思ったのは、1990年代前半に一世を風靡した、NECの「98MULTi CanBe」にどことなくコンセプトが似ているということだ。ランチャーを搭載し、買ってすぐに使えるように多数のアプリをプリインストールしたインターフェイスは、まさにCanBeのそれに近い。かといって決して押しつけがまさは感じさせず、BIGLOBE会員のみのコンテンツも(なくはないが)ごくわずかなのも、非会員の側からすると好感が持てる。なにより、上級者向けのカスタマイズの余地もきちんと残しているのは、企画サイドのバランス感覚の良さを感じさせる。
そうした意味で、ターゲットとして挙げられるのは、まずはタブレットに興味を持つ初心者ユーザーだろう。OSの存在をそれほど意識せず、BIGLOBEの各種サービスと連携することで買ってすぐに使えるハードルの低さは、まさしくタブレット初心者向けの製品という位置づけだ。従来のAndroid端末があまり訴求していないデジタルフォトフレームとしての用途を前面に押し出していることからも、作り手の側にそうした意図があることが伺える。ただバッテリの持続時間の問題もあり、どちらかというと外出先よりはホームユースになりがちな点は留意しておいたほうがよい。
また、同等サイズのタブレット端末、例えばGALAXY Tabなどに興味があるものの、回線契約はちょっと遠慮したいというユーザーにとっても、選択肢に入ってくるであろう存在だ。ただしハード的には画面解像度の低さや操作性のクセの部分、バッテリの短さ、あと(好みの問題ではあるが)無骨な筐体デザインなどで、昨今登場しているさまざまなAndroidベースの端末と比較した際、ネックになることもあると思われる。
ともあれ、同社では今後も「Smartia」ブランドでサービスを展開していくとのことで、本製品についてもファームアップによる機能追加が予定されていると聞く。シリーズ全体の動きも含めて、これまでのAndroid端末にはない訴求が行なわれることを楽しみにしたいところだ。
(2011年 1月 18日)
[Reported by 山口 真弘]