【やじうまPC Watch】
ホリエモン直撃インタビュー、ロケット開発について聞く
〜目指すは小惑星、そしてその先へ

堀江貴文氏


 場所は北海道・大樹町。CAMUIロケットの打上げ実験が行なわれる予定だったこの地を、3月13日、ある人物が訪れていた。元ライブドア社長の“ホリエモン”こと、堀江貴文氏である。

北海道・大樹町にある多目的航空公園。この近くの原野でCAMUIロケットの打上げは行なわれる 全長1,000mの滑走路がある。将来はこれを延伸して、スペースポート(宇宙港)を構築する構想もある

 堀江氏はかねてより、雑誌のインタビュー等で、宇宙開発をやりたい、また実際にやっている、と公言してきたが、なかなかその実態については明らかにしてこなかった。

 事態が急転したのは3月9日。北海道宇宙科学技術創成センター(HASTIC)が出したプレスリリースに、「北海道に開発拠点をおいているSNS株式会社が、アルコールと液体酸素の組合せを推進剤とした小型液体ロケットを開発中であり、将来、打上げ実験を実施する段階に至った時には、HASTICが打上げサービス業務を受託する予定です」という一文が入っていたことだった。

 このSNSというのが、じつは堀江氏の会社なのだ。CAMUIロケットの打上げ後に、SNSによる会見の場が設けられるという。今まで、堀江氏のブログやトークライブで情報が出たことはあったが、公式な会見はこれが初となる。堀江氏本人も出席するとの情報を得て、記者は急遽北海道へ飛んだ。

 ところが、あいにくの強風のために、13日に予定されていたCAMUIロケットの打上げは翌日に延期となってしまった。その後に予定されていたSNSの会見もキャンセルされ、堀江氏は帰京するところだったのだが、短時間ながら、現場で直接インタビューすることができた。本記事では、その詳細をお伝えしたい。

●ホリエモンのロケットとは

 堀江氏はライブドアの社長だった頃より、宇宙に関わりを持ち続けてきた。宇宙航空研究開発機構(JAXA)のイベントで講演したこともあったし、2005年には、自身のポケットマネーで「ジャパン・スペース・ドリーム」を設立、旧ソ連が開発した宇宙船「Almaz」を使って宇宙ビジネスへ進出することも発表している。

 しかし2006年、証券取引法違反容疑によって起訴され、一審・二審で有罪判決を受けた(現在上告中)。結果としてライブドアを離れることになったが、実はこの後も、個人として、宇宙開発への取り組みは続けられていた。

 堀江氏の口から直接、詳しい情報が出てきたのは、2009年11月24日に開催された「ホリエモン・トークライブSESSION 6 堀江貴文&松浦晋也&笹本祐一&あさりよしとおの宇宙はそんなに遠くない!」においてだ。ここで初めて、SF作家の笹本祐一氏、漫画家のあさりよしとお氏、宇宙ジャーナリストの松浦晋也氏などとともに、すでにエンジンの燃焼実験まで行なっていることが明らかにされた。

 彼らが燃料として採用しているのはエタノール。酸化剤には液体酸素を使う。H-IIAロケットやスペースシャトルなどでは、燃料に液体水素を用いているが、これは高性能な反面、極低温のため取り扱いが難しく、また分子が小さいために燃料漏れが起こりやすい。それに確かに燃費は良いが、推力が弱いために、第1段で使うにはブースタが必須となる。エタノールという選択は、現実的なところだろう。

打上げるロケットのコンセプトデザイン エンジンの燃焼実験はこのような装置を使って行なわれる

 追加情報は、HASTICのプレスリリースに前後してオープンしたSNSの公式ブログにある。それによると、開発グループの名称は「なつのロケット団」(「なつのロケット」というのは、あさり氏の漫画のタイトル)。前述のメンバーのほか、協力企業として、CAMUIロケットの植松電機なども名を連ねている。

 そして注目すべきは、今後のロードマップだ。まず今年中に、推力100kgf級エンジンによる打上げ実験を実施。2011年までには、より大きな500kgf級も打上げ、さらに2012年にはクラスタ化したもので実験。2013年に軌道投入用ロケットの打上げ実験を行ない、翌2014年にそれを実用化、という、非常に早いペースの開発計画が提示された。

 一見、無謀に思えるかもしれないが、少なくともステップとして、これは手堅い。クラスタ化とは、複数のエンジンを束ねて、大きな推力を得る技術だ。大きなエンジンを新規開発するには、長い開発期間と巨額のコストが必要になるが、技術的に難しく、失敗の可能性もある。しかしクラスタ化であれば、今あるエンジンを使えるし、より早く、安く開発できる。これは、米SpaceXが「Falcon 9」ロケットでもやっていることで、民間が打上げロケットを開発する場合には、最も現実的な手法といえる。

 では、以下にインタビューの模様をお伝えする。(以下、敬称略)

 


 

--まず、Almazのプロジェクトが現在どうなっているか教えてください

【堀江】現在も進んでいます。ただ、今回のプロジェクトとはあまり関係ありません

--有人ロケットを目指すとなると、有人宇宙船も必要になります。Almazはそれを睨んだものですか

【堀江】僕らのロケットは、そんなに重いものを打上げられるようにはなりません。最初のロケットなんて、せいぜいペイロードは1kg〜数kgくらいなので、マイクロサットを搭載することになります。最終的に、人を打上げる段階になったら、最初はまずサブオービタル(弾道飛行)ということになるでしょう

 しかし、次はオービタル(地球周回軌道)も狙います。機体のアイデアはいろいろと練っていて、例えばFRP(繊維強化プラスチック)でボディを軽く作って、再突入のときには、バリュート(袋状の大気制動装置)で減速するとか。いろんなアイデアを考えています

--SNSの公式ブログには、2014年に軌道投入用の小型ロケットを実用化するとありますが

【堀江】あれはあくまで目標であって、もっと早まるかもしれないし、遅くなるかもしれない。エンジン次第で、まだどうなるかは分かりません

--年内に最初の打上げを実施するとのことですが、推力はどのくらいですか

【堀江】推力90kgf級エンジンの燃焼実験はすでに行なっています。現在はその改良と、新たに推力500kgf級エンジンの開発を並行してやっています。どちらになるかまだ分かりませんが、多分、最初の打上げは500kgf級になると思いますよ

--軌道投入ロケットは何段になりますか

【堀江】500kgf級エンジンを4〜5本クラスタ化して第1段にすれば、マイクロサットを打上げられるようになります。計算上は、ですが。ロケットは3段式で、第1段は500kgf級エンジンが4〜5本、第2段は1本、第3段は推力100kgf級くらいの小さなものになります。同じエンジンをたくさん使うので、コスト面での量産効果も期待できます

--現在の燃焼試験くらいならポケットマネーでも何とかなりそうですが、今後大型化していくと、投資が必要になってくるのでは

【堀江】もう売り先は見つけてあります。スポンサーも見つけてますので大丈夫です

--もう見つけてあるんですか

【堀江】軌道投入ロケットの1号機はもうスポンサーが見つかりました。これは確約を取りました。打上げが決まってから発表できると思います。今後も興味がありそうな人には声をかけていきます

 開発資金についてですが、このくらいの規模なら、実はそんなにかからないですよ。だって僕らは3桁、つまり1,000万円以下で衛星を打上げようとしているんです。製作費も安くないと駄目なんです

--超小型衛星のコミュニティでは、単独で安く使えるロケットを望む声が多いです。需要の見通しは

【堀江】大学等で、割と出しやすいお金が1,000万円以下なんです。それを下回れば、年間で何十本という需要が見込める。このくらいなら、みんな面白いアイデア衛星みたいなものを打上げるようになると思います

 今の“相乗り”方式だと使い勝手が非常に悪い。単独で打上げられるようになるとニーズが出てきます。ニーズを狙わないと、金額が大きいので、事業が続けられなくなります。継続性が一番大事。事業が回るようになってきて、打上げノウハウも付いてきて、衛星をどんどん上げられるようにならないと、有人なんてとてもじゃないけどできません

--植松電機との関係は

【堀江】設計や組み立ては、我々が自分でやります。植松さんには、機械加工をお願いしています。燃焼実験のときも、植松さんが横にいるからすごくいい(燃焼実験は植松電機の敷地内で行なわれている)。不具合が起こったときに、対応がすごく早いんです。一晩で新しい部品を作ってくれて、翌日にまた燃焼実験を続けられたこともあります

--ところでSNSというのは何の略でしょうか

【堀江】『指紋認証システムズ』の略です。あの事件のあとに、譲ってもらった休眠会社だったんですが、いつも名前で不思議がられるので、略称の『SNS』に商号変更しました。これなら、『スペース・ネットワーク・システムズ』とか、適当に何でも言えそうです

--事業内容は宇宙開発が専門になりますか

【堀江】いいえ、僕の仕事全部になります。宇宙機の開発もそうですし、本の執筆や、ソーシャルアプリの開発もやってます。それもこれも、全部将来の宇宙開発のための資金稼ぎですね。そこに資金を回すシステムになってます

--最終的な目標はどこになりますか

【堀江】まずは、地球周回軌道で小惑星を観測する衛星を上げたいですね。例えば、これでウランが豊富な小惑星が見つかるかもしれない。僕らがやりたいのは、もっと遠くに行くこと。それを実現するには、資源のある小惑星を見つけて、そこで燃料を確保して、さらに遠くに行くのがいいんじゃないかと

 ウランがあるのなら、原子力エンジンの宇宙船を造って、燃料はそこで調達できる。最初は無人でも、いずれは有人。何十年かかるか分かりませんが、生きている内には絶対に行きますよ。でないと、やっている意味がない

--ありがとうございました


●まずは今年の初打上げに注目

 民間主導による宇宙開発は、米国が断然進んでいる。すでに、米Scaled Compositesの宇宙船「SpaceShipOne」は民間初の有人宇宙飛行を実現しており、米SpaceXの「Falcon 1」ロケットは衛星の軌道投入に成功している。残されている「世界初」は民間開発による有人のオービタル飛行くらいなものだが、これもSpaceXの「Dragon」あたりが狙っている。

 日本はこの分野で、大きく後れを取っていたが、ここに来ての堀江氏の参戦である。民間での宇宙開発には、国のそれとは全く異なるスピード感とコスト感覚が要求される。IT業界出身の堀江氏の手腕には大きく期待できる部分だ。

 堀江氏が自ら認めるように、実際にこのロードマップ通りに計画が進むとは限らないが、まずは今年の初打上げを待ちたい。関係者の話によると、早ければ夏にも実施される予定とのこと。読者諸氏がどう判断するかは、それを見てからでも遅くはないだろう。

(2010年 3月 16日)

[Reported by 大塚 実]