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風邪薬で膀胱癌の転移を防げることが判明

 国立大学法人 北海道大学は、風邪薬の成分の非ステロイド系抗炎症薬のフルフェナム酸が、膀胱癌でアルドケト還元酵素を阻害することで転移を抑え、抗癌剤に対する癌の抵抗力をおさえることを発見したと発表した。

 これは北海道大学 大学院 医学研究科腫瘍病理学分野の田中伸哉教授の研究によるもの。

 膀胱癌は日本では年間約2万人が罹患し、内8,000人が死亡している癌。再発を繰り返すのが特徴で、深さが浅い癌と膀胱の壁の筋層に到達する深い浸潤癌に分けられる。深い癌は肺などに転移しやすく、通常シスプラチンなどの抗癌剤で治療されるが、薬剤に耐性を持ち、かつ遠隔臓器に転移するため、予後不良となる。従って、薬剤耐性を解除し、さらに転移を抑えることが完治のために必要とされる。

 今回の研究では、ヒトの膀胱癌細胞をマウスの膀胱に移植し、膀胱癌モデルを作成。転移後の癌細胞を分析した結果、転移した癌細胞ではアルドケト還元酵素が増加していることが発見されたという。

 実際の膀胱癌患者の手術症例25症例の病理組織でも、同様に転移先でのアルドケト還元酵素の増加が確認されており、ヒトの体内でもマウスモデルと同じことが起こっていることが分かる。

 抗癌剤治療を行なうと癌細胞はほとんど死滅するが、同時に癌の周りに炎症が起こり、リンパ球などから「インターロイキン1」という炎症性物質が放出される。このインターロイキン1の働きによって、癌細胞の中でアルドケト還元酵素の量が増加し、解毒作用が増すことで、癌細胞が抗癌剤に対する抵抗性を獲得する。さらに、アルドケト還元酵素が癌細胞の動きを司ることが実験で判明したという。

 これにより、アルドケト還元酵素が、癌細胞の動きを高めること、抗癌に対する抵抗力を高めることの2つの働きで癌の悪性化を強めることが分かる。

 そこで、アルドケト酵素を阻害する働きを持つ「フルフェナム酸」が、癌の治療薬として有効であることが分かった。

 フェルナム酸は一般的な風邪薬に含まれる成分で、フルフェナム酸を抗癌剤と同時に使うことで、膀胱癌患者の予後を改善するための臨床研究が進むことが期待される。

 現在、分子標的治療薬は非常に高価なものが市場に出てきており、医療経済、ひいては国家経済の大きな負担となっているが、本研究によって、風邪薬などの安価な薬の成分でも思わぬ抗癌作用があることが分かったとして、将来的に癌治療の現場に定着することが期待されるとしている。