イベントレポート
Intel、MWCで各種の携帯電話向け無線技術をデモ
~FDD LTEだけでなくTD-LTEのライブデモも公開
(2014/2/27 00:00)
Intelは2010年にInfineon Technologiesから携帯電話向けモデム部門を買収して以来、携帯電話向けの無線技術に力を入れており、ラインナップの充実を図っている。Infineonのモデム部門は、3G時代にはAppleの「iPhone 4」のモデムに採用されるなど大きなマーケットシェアを持っていたが、最新のLTEへの対応が遅れたこともあり、そのiPhoneのビジネスをQualcommに奪われ、シェアは縮小する一方だった。
Intelの通信部門は立て直しが急速に行なわれており、昨年(2013年)の第3四半期にはXMM7160で知られるマルチモードLTEモデムを投入し、このMWCではその後継となるXMM7260を発表。今年(2014年)の第2四半期からOEMメーカーへの出荷を開始することを明らかにした。XMM7260では、LTE-Advancedで規定されているCAT6/300Mbpsでの下りの伝送速度をサポートするなど、最新の規格に準拠されており、同じくMWCで発表した22nmプロセスルールで製造される新SoCとなるAtom Z3400シリーズ(Merrifield)と組み合わせ、ハイエンドなスマートフォンを設計することが可能になると期待されている。
Intelブースでは、「Advanced Cellular Technology Zone」というエリアが、OEMメーカーや報道関係者向けにだけ公開されており、同社が現在開発中の携帯電話関連の無線技術のデモなどが行なわれている。筆者もそこに入る機会を得たので、そこで展示されていた内容について紹介していきたい。
XMM7260を利用したTD-LTEモードでの通信デモを行なう
今回IntelがMWCの初日に発表したXMM7260は、LTE-AdvancedのCAT6/300Mbpsの下り伝送速度を実現している(上りは50Mbps)。このXMM7260はFDD(Frequency Division Duplex、周波数分割多重)、TDD(Time Division Duplex、時分割多重)という2つの周波数の活用方式があるのだが、一般的なLTEで利用されているのはFDD方式で、UQコミュニケーションズなどが提供しているWiMAX2+が採用しているのがTD-LTEと呼ばれるTDD方式になる(前者と区別するためTDD方式のLTEをTD-LTEと呼んでいて、FDDのLTEをFD-LTEとは言わない)。なお、TD-LTEについての詳細を知りたい方は僚誌ケータイWatchの記事をご参照頂きたい。
今回Intelブースのパブリックエリアにおいて、FDD方式のLTE-Advanced CAT6のデモを行ない、下りの速度300Mbpsが実現できている様子を公開した。それに加えてAdvanced Cellular Technology Zoneでは、XMM7260を利用したTD-LTEのデモが行なわれた。具体的には、Ericssonから提供されているインフラを利用して、TD-LTEモード、バンド40の周波数(2,300~2,400MHz)を利用して20MHz幅での通信が行なわれるデモだ。
日本ユーザーにとってこのデモが重要なのは、日本にはTD-LTEを利用しているキャリアが複数あるということだ。Intelと関係が深いキャリアという意味ではUQコミュニケーションズは、Intelの投資部門子会社であるIntel Capitalの出資を受けており、かつてのPC向けのWiMAXモジュールがIntelから供給されたようなことがXMM7260で繰り返されてもおかしくない。ただし、XMM7260は、WiMAX1との互換性は備えていないので、PCに内蔵してTD-LTEでデータ通信ということを実現するにはUQコミュニケーションのTD-LTE網が既存のWiMAX1と同じ程度に広がることが前提になる。
IntelのLTEモデムとAtomの組み合わせでVoLTEが動作する様子をデモ
VoLTE(Voice over LTE)は、簡単に言ってしまえばLTEのデータ回線の上で音声通信を流す仕組みだ。現在LTEサービスを提供している通信キャリアでも、音声通信する場合には、3G回線に切り替えてから回線交換方式(従来の音声通信の方式)で音声通話を行なう。回線交換方式の信頼性は高いが、電波の有効率用という観点で、今後それをどのようにLTEに切り替えていくかが通信キャリアにとって課題になっている。
日本でもソフトバンクモバイルがVoLTEの導入をすでに発表しており、今後LTEを導入している通信キャリアで徐々に導入が進むと考えられている(なお、こちらも詳しい説明は僚誌ケータイWatchの別記事を参照頂きたい)。
今回Intelは、IntelのSoCとLTEが搭載したスマートフォンで、VoLTEを実現するデモも行なった。モデム側にVDC(Voice Domain Controller)とIMSという機能を追加する必要だが、これらの機能に関してはモデムにすでに内蔵されており、アプリケーションプロセッサを変える必要もない。実際に音声を聞いてみたが、3Gにフォールバックした回線交換の音声よりも、VoLTEの方がクリアな音声であることが確認できた。
通信キャリアのWi-Fiへのオフロードをより便利にするためのツールをデモ
CAM(Connectivity Access Management)は、3GPPの仕様で策定されている携帯電話回線とWi-Fiとを自動で切り替える標準を活用するためのツール群のデモ。携帯電話回線に割り当てられいる電波で実現できる帯域幅は有限で、その範囲内でユーザー体験を制限すること無くどのようにして交通整理をするのかが世界中のキャリアで課題になっている。利用する通信方式を2G、3G、LTEとより効率のよいモノに変えていくのはもちろんなのだが、現在のペースでデータ通信回線への負荷が高まっていけば、早晩破綻することは目に見えている。
そこで、キャリアが今熱心に取り組んでいるのが、Wi-Fiなどの近距離の無線が使える時はユーザーに切り替えさせ、携帯電話回線の方を空けてもらうという「オフロード」だ。これを利用することで、携帯電話回線にパケットを流す必要が無くなるので、データ通信料を抑えられ、定額制でもその上限(日本で言えば7GBや3GB)までパケットを使うことが無くなるので、料金的にも、使い方の点でもメリットがある。日本でも、通信キャリアが、Wi-Fiスポットを駅やショッピングモール、レストラン、カフェなどに積極的に展開しているのはそうした背景があるのだ。
ただ、そうした時に問題になるのが、どのように認証をするかだ。これまでは、セキュリティキーを配布して、Webブラウザでログインする必要などがあり、ユーザーが気軽に使える状況にはなっていなかった。しかし、現在ではEAP-SIM認証という方式が徐々に普及しつつあり、ユーザーがWi-Fiをオンにしていれば、接続可能なアクセスポイントを端末が発見した場合に、SIMカードの情報を利用して自動でWi-Fiネットワークにログインして利用できるようになっている。最近のKDDIやソフトバンクモバイルの端末で自動でWi-Fiのアクセスポイントに繋がるようになっているのはこのためだ。
今回のIntelのデモはそれをさらに1歩進めるものとなる。具体的には携帯電話回線の先にネットワークの状況を管理するサーバーがあり、そこと端末が携帯電話回線を利用して位置情報などを交換する。すると、近くにWi-Fiのアクセスポイントがあることなどが認識されると端末は自動でWi-Fiを繋ぐようになる。こうなると、不必要に携帯電話回線にパケットが流れることが無くなり、携帯電話回線の帯域をより有効に利用できるようになるのだ。今回、Intelは同社の最新製品であるAtom Z3400(Merrifield)を搭載した端末を利用してデモを行なった。