【AFDS 2012】AMD、他社のIPをAPUに取り入れる今後のロードマップ
~サーバー市場にもAPUを投入へ

AMD 上席副社長兼CTO マーク・ペーパーマスター氏

会期:6月12日~15日(現地時間)
会場:アメリカ合衆国ワシントン州ベルビュー市
   Meydenbauer Center
   Hyatt Regency Bellevue



 AMDは、ヘテロジニアスコンピューティングに関するソフトウェア開発者向けイベント「AMD Fusion Developer Summit 2012」(AFDS 12)を、米国ワシントン州ベルビューで開催した。最終日となる6月14日(現地時間)には、AMD 上席副社長兼CTOのマーク・ペーパーマスター氏が基調講演に登場し、同社のAPUのロードマップのアップデートを行なった。

 この中でペーパーマスター氏はクライアントPC向けのロードマップに関して、若干のアップデートを行なったほか、「APUはクライアントだけではない、サーバーにも投入する予定だ」と述べ、将来的にサーバー製品にもHSA(Heterogeneous System Architecture)のプログラミングモデルを拡大していく意向であることを明らかにした。

●HSAを利用することでハードウェアをもっと活用できるソフトウェアが作成できる

 昨年(2011年)の10月にAMDに加入したペーパーマスター氏は、AMDに加入する前はCISCOに、さらにその前にはApple、IBMで半導体の研究をしていたという、半導体の専門家だ。同氏は、「今週のAFDSで我々は非常に重要な発表を行なった。ARMとのパートナーシップがそれで、彼らのセキュリティ技術であるTurstZoneを我々が来年(2013年)投入するAPUに採用する予定だ」と説明した。

 そして、AFDSのテーマであるヘテロジニアスコンピューティングのプログラミングモデルであるHSAについて触れ「HSAを利用したアプリケーションでは、新しい使い方をエンドユーザーに提案することができる、そのいくつかのシナリオを紹介していきたい」とし、ナチュラルUI、生体認証、AR(仮想現実)、AVコンテンツ管理などHSAを利用して実現できる新しいユーザー体験について触れていった。

 基調講演の中で同社フェローのフィル・ロジャース氏は、AVコンテンツ管理のデモを行なった。Trinity搭載ノートPCに人間の手のジェスチャーを認識するカメラを取り付け、AVコンテンツの管理や再生などをすべてジェスチャーにより操作できる様子が示された。ジェスチャー操作のほか、フルHDの動画を複数同時にプレビューもみせた。ロジャース氏は「動画のデコードもTrinityのデコーダを利用して行なうことで実現している」と述べ、HSAと同社のAPUを利用することで、こうしたデモで公開したアプリケーションが、一般のプログラマーにも簡単に作ることができるとアピールした。

HSAに適したような新しいアプリケーション。ナチュラルUI、生体認証、AR、コンテンツ解析、フルHD以上のコンテンツ体験など例えば生体認証はHSAにむいている領域の1つ。CPUだけでなくGPUも組み合わせて演算することで従来よりも圧倒的に高性能に
AMD フェロー フィル・ロジャース氏のデモ。コンテンツをの選択、再生などをジェスチャーで行なっている

●AMDは自社だけでなく他社のIPも積極的に活用して優れたAPUを作るとアピール

 ペーパーマスター氏は話題を同社のプロセッサ戦略について移し、「我々は、CPUだけでなく、GPU、その他のマルチメディアエンジン、ハイスピードI/Oなど、さまざまな種類のIPを所有している。それらを組み合わせることで、HSAを築く上で欠かせないAPUを提供することができる」と語り、AMDの強みをアピールした。

 x86プロセッサのIPに関しては、ハイパフォーマンス向けと低消費電力向けの2つの流れで開発していく。ハイパフォーマンス向けは昨年発表したBulldozerコアに始まり、現行のPiledriver、そして来年の製品に搭載される予定のSteamrollerコア、さらに後継となるExcavatorについて触れた。これらの内容は2月のアナリスト向け会議で発表されたもので、特に新しい発表はなかった。

 一方、低消費電力(ULP、Ultra Low Power)向けx86プロセッサコアとしては、Brazosに採用されている第1世代のBobcatコア、そして来年に採用される予定の第2世代のJaguarコアについて紹介。第3世代に関しては3W以下、第4世代に関しては2W以下を目指すと表明した。

 GPUに関しては昨年の末に発表したSouthern Islandについて触れ「Southern Islandsで3.79TFLOPSを実現した。今日は新しい製品をさらに公開したい」と述べ、同社が現在開発中の「FirePro W9000」を公開した。「このFirePro W9000は6GBのGDDR5メモリを備えて、2億6,480万ピクセル/秒、単精度で4TFLOPS、倍精度で1TFLOPSの演算性能を備えている」と説明し、その搭載したカードを聴衆に公開した。

 このFirePro W9000はSouthern IslandsのIPに基づいており、ハイエンドのワークステーション向けのビデオカードとして、8月に米国カリフォルニア州ロサンゼルスで開催される予定のSIGGRAPHにおいて正式発表されるとした。

 また、AMDとARMの協業について触れ、「我々はサードパーティのIPも積極的に我々に取り組んでいく予定だ。昨日発表したとおりARMのTrustZoneを来年のAPUに搭載する。これにより、AMDのIPだけではカバーできなかった業界標準を我々のAPUに取り込み提供することができる」と述べ、今後はAMDが自社のIPだけにこだわるのではなく、よいモノがあるのであれば他社のIPでも積極的に自社の半導体に取り込んでいくのだという姿勢を明確にした。

 現在半導体産業では、こうした他社IPの利用がスタンダードになりつつあり、特にARMプロセッサを製造する多くの半導体メーカーは、他社からCPUとGPUのIPを買って、自社のARMプロセッサとして製造するなどの仕組みに転換している。AMDは今年(2012年)に入ってからこうした他社のIPを積極的に自社のAPUなどに取り入れることを明確にしており、ARMのTrustZoneの導入はそうした動きを象徴する出来事だと言えるだろう。

AMDが持つIPのリスト。プロセッサ、マルチメディア、省電力機能など多数を抱えているハイパフォーマンス向けx86プロセッサコアの開発ロードマップULP向けx86プロセッサコアの開発ロードマップ
Southern IslandベースのFirePro W9000今後は自社のIPだけでなく、良いモノがあれば他社のIPでも自社の半導体に取り込んでいく。ARMプロセッサなどではよく採用されている手法をx86プロセッサにも取り込む
ARMのTrustZoneを取り込むことで、ARMプロセッサでのセキュリティのノウハウがx86でも利用可能にAMDの柔軟なIP戦略により、より良いAPUを市場に提供していく

●APUはクライアントだけでなくサーバー市場にも広がっていく

 さらにペーパーマスター氏は具体的な製品の詳細について説明した。クライアントPC向けのAPUでは、2013年に予定されている3つの製品についての解説を行なった。

 Trinityの後継となるKaveriに関しては、クアッドコアのSteamrollerを採用しつつ、TDPは15Wから35Wのレンジに設定されることになるという。「Kaveriは超薄型のフォームファクターに最適化されているだけでなく、メインストリームのノートPCやデスクトップにも対応する。さらに、KaveriではCPUとGPUがメモリをシェアする機能も追加される。それは物理的なものだけでなく、仮想メモリも同様だ」と説明した。

 続いて説明されたのはKabiniで、COMPUTEXで発表されたBrazos 2.0の後継となる。9W~25WのTDPに設定され、プロセッサコアには電力効率重視のクアッドのJaguarコアが採用される。タブレット向けのTemashは最大でクアッドコアのJaguarコアが採用されTDPは3.5W~5.9W、タブレットでもx86プロセッサ向けのアプリケーションが動作するようになるとアピールされた。

 サーバーに関しては現在BulldozerコアのInterlagos(Opteron 6200/4200シリーズ)を出荷中だが、今年はプロセッサコアをPiledriverへと進化させた“Abu Dhabi”を出荷予定という。その先のロードマップについても触れ、「我々は将来的にAPUをサーバー市場にもたらす計画がある」と説明。なお、具体的にいつどのような形で投入するかは言及がなかった。また、スライドには「Future Server CPU」という文字で28nmプロセスルールのAbu Dhabi後継のサーバーCPUが書かれていたが、特に具体的にスペックなどに関するコメントはなかった。

 AMDが今年3月に入ってから買収したブレードサーバーメーカーであるSeeMicro Technologyの幹部をステージに呼び、同社のマイクロサーバーボードに、AMDのOpteronを組み込んだ製品を公開した。SeeMicro Technologyは買収されるまで、Intelのサーバープロセッサベースのマイクロサーバーボードを販売しており、プロセッサがOpteronになった製品が公開されたのは今回が初めてだという。

 講演の最後に同氏は、「AMDは自社の豊富なIPだけでなく、サードパーティーの優れたIPも積極的に取り込んでいき、モバイル機器からサーバーまでテーラーメードのようにそれぞれの市場にあった優れた半導体を提供することにフォーカスする。それを支えるのがHSAであり、そこには優れたソフトウェア開発者を必要としている。ぜひとも優れたソフトウェアを提供して欲しい」と述べ、詰めかけたソフトウェア開発者に呼びかけた。

AMDのクライアントPC向けAPUロードマップAMDのサーバー向けロードマップ
SeeMicro Technologyのマイクロサーバーボードを利用すると、ラックマウントの密度を上げることができるOpteron搭載のマイクロサーバーボード

(2012年 6月 15日)

[Reported by 笠原 一輝]