【NANDフラッシュ編】微細化限界の突破へ、3次元構造に期待
「Flash Memory Summit」は毎年8月に米国カリフォルニア州サンタクララ(シリコンバレーを構成する街の1つ)で開催される、フラッシュメモリとその応用に関する世界最大のイベントだ。今年も現地時間8月9日~11日にFlash Memory Summit 2011が開催された。
Flash Memory Summitは講演会と展示会で構成されている。講演会にはテーマ別のセッションと全体講演であるキーノートセッションおよびプレナリセッションがある。テーマ別のセッションは5セッション~6セッションが同時に進行するので、すべてのセッションを聴講することは難しい。
さて、Flash Memory Summit 2011の最初のレポートである今回は、フラッシュメモリの話題をご紹介したい。キーノートセッションでは、NANDフラッシュメモリの大手ベンダーであるHynix SemiconductorとMicron Technology、それからNANDフラッシュメモリ応用製品の大手ベンダーであるSanDiskの経営幹部がそれぞれ講演したので、その概要をご報告する。
●2010年のNANDフラッシュメモリ市場は約2兆円Hynixの講演者は、フラッシュ製品プランニング・グループのバイス・プレジデントを務めるSeaung Suk Lee氏である。同氏はまず、NANDフラッシュメモリの市場を展望した。
NANDフラッシュメモリの世界市場は昨年(2010年)に前年比46%もの急成長を果たし、市場規模は200億ドルを超え、217億ドルに達した。2011年以降は市場の伸びが鈍るものの、それでも2014年には300億ドルに近い、291億ドルへと成長する見通しである。
NANDフラッシュメモリ市場の用途別割合では、モバイル(スマートフォンを含む携帯電話機)、タブレットPC、SSD(Solid State Drive)が今後は大きくなる。2011年での最大の応用分野はフラッシュメモリカードで、30%を占めていた。次がモバイルで23%となっている。これが2014年にはモバイルがトップで26%を占め、次いでSSDが24%になるとHynixは予測した。なお2011年のSSDの比率は11%である。
NANDフラッシュメモリ市場の規模(金額)と成長率の推移 | NANDフラッシュメモリ市場の用途別割合の予測 |
●微細化が限界に近付く
それからNANDフラッシュメモリの微細化トレンドに言及した。過去、NANDフラッシュメモリは製造技術の世代数で12世代以上、年数では18年以上に渡って微細化(スケーリング)を重ねてきた。しかし最近では、メモリセルの微細化を制限する要因が厳しさを増しており、これまでのような微細化トレンドを継続できるかどうかは不透明になってきた。
メモリセルをワード線方向(X方向)の断面構造とビット線方向(Y方向)の断面構造に分けると、以下のような微細化制限要因が存在する。X方向の断面構造では、ビット線の抵抗増大と隣接ビット線間の容量増大、中間絶縁膜(ワード線(制御ゲート)とフローティングゲートの絶縁膜)とワード線のギャップ埋め込み空間の確保、メモリセル電流の確保に必要なゲート幅、といった制限要因がある。Y方向の断面構造では、ワード線の抵抗増大と容量増大、リーク電流の増加、しきい電圧のばらつき増大、といった制限要因がある。
NANDフラッシュメモリの微細化(スケーリング)トレンド | メモリセルの断面構造(X方向)と微細化の制限要因 | メモリセルの断面構造(Y方向)と微細化の制限要因 |
こういった制限要因を緩和するため、ワード線とビット線を抵抗値の高い多結晶シリコン配線から抵抗値の低い金属配線に切り換えたり、ワード線間およびビット線間の絶縁材料を比誘電率の低いエアギャップに変更したり、しきい電圧のばらつきを吸収する読み出しアルゴリズムを導入したり、読み出しデータの誤り訂正機能を強化したりしてきた。
●3次元構造のメモリセルストリングそれでも今後の1Xnm世代、1Ynm世代(1Xnmの次の世代)を考えると、微細化が限界に達する恐れは残る。そこで期待がかかるのが、メモリセルの3次元化である。
NANDフラッシュメモリは、隣接するメモリセルのソースとドレインを共有する形で接続した「メモリセルストリング」と呼ぶ独特の構造をしている(この回路の構造がNANDゲートになるので、NANDフラッシュメモリと呼ぶ)。このメモリセルストリングは現在のNANDフラッシュメモリでは平面状に連なっているのだが、これをシリコン表面に対して垂直に形成してしまおうというのが、メモリセルの3次元化であり「3D NAND Flash」と呼ばれる構造だ。
1本のメモリセルストリングには、およそ32個あるいは64個のセルトランジスタがつながっているので、3次元化によってメモリセル面積を32分の1、あるいはシリコン面積当たりのメモリセル密度を32倍にできることになる。
そこでこれまで、NANDフラッシュメモリ大手のSamsung Electronicsや東芝、Hynixなどが国際学会で、3D NAND Flashの構造をそれぞれ提案し、また、シリコンを試作してきた。
「3D NAND Flash」の概念図。メモリセルストリングをシリコン表面に対して垂直に形成することで記憶密度を飛躍的に高める | 国際学会で発表された「3D NAND Flash」の一覧 |
Micron TechnologyでNANDソリューショングループ担当バイス・プレジデントを務めるGlen Hawk氏も、平面的な微細化は限界にきており、将来は3D NAND Flashに期待するとして、3次元化したメモリセルストリングアレイの断面写真を基調講演で示した。Micronはこれまで3D NAND Flashの研究成果をほとんど学会などで発表しておらず、試作した3D NAND Flashのシリコンを示したのは今回が初めての可能性が高い。
現在のメモリセルストリングのシリコン断面。平面状にメモリセルが連なっている | 将来のメモリセルストリングのシリコン断面。垂直なストリングをならべることで記憶密度を飛躍的に高める |
●3次元NANDフラッシュの次は抵抗変化メモリに期待
SanDiskの最高技術責任者(CTO)をつとめるYoram Ceder氏は基調講演で、今後は微細化(スケーリング)の速度が鈍るとの予測を示した。微細化そのものは止まらないものの、そのペースはゆっくりとなる。ゆっくりにはなるものの、微細化は今後3年~5年は続く。
3年~5年後、すなわち2015年ころから以降は、HynixやMicronなどと同様に3D NAND Flashに期待する。既存のNANDフラッシュメモリ製造技術が流用できることと、微細加工に現在の液浸リソグラフィ技術が使えることが、3D NAND Flashの利点だとする。
さらに将来の候補には、抵抗変化メモリ(Resistive RAM)を挙げていた。独自の製造技術と次世代のリソグラフィ技術が必要となるものの、SanDiskとしては開発を検討中だとする。
NANDフラッシュメモリの微細化トレンド。今後は微細化の勢いが鈍るとする | 今後の微細化動向。3年~5年後までは微細化を維持する。その後は3次元構造に期待する | 左は東芝が考案した3D NAND Flashの構造。右はSanDiskが検討中のクロスポイント型抵抗変化メモリ(Resistive RAM)の構造 |
大容量化と微細化を急速に押し進めてきたNANDフラッシュメモリだが、ここにきて大容量化の勢いは急激に鈍っている。シリコンダイ当たりの記憶容量を64Gbitに留めたまま、加工技術を2Xnmから1Xnmへと縮めて製造コストを下げようとする動きが目立つ。値下げ圧力がきわめて強いために、シリコンダイ面積が大きくなってしまう大容量チップを手掛けにくい状況が生まれている。
すなわち3年後~5年後に微細化の進展が極めて難しくなったとしても、大容量チップをきわめて低いコストで製造できる見通しが立たないと3D NAND Flashの商品化は成立しない。2015年ころまでに3D NAND Flash技術をどこまで熟成できるかが、NANDフラッシュメモリ全体の行方を大きく左右することになるだろう。
(2011年 8月 16日)
[Reported by 福田 昭]