2011年出荷開始予定のLightPeakや10Gbpsを超えるシリアルバスなどを展示
巨大なIntelという企業の中で、研究開発を担当するのが、同社CTOのジャスティン・ラトナー氏が率いるIntel Labsだ。Intel Labsでは、Intelの基幹事業と言ってよい半導体ビジネスの基礎中の基礎といえるプロセスルールの開発といった重たい研究から、ユーザー体験の研究といったエンドユーザーに近いものまで多彩な研究が行なわれている。
そうしたさまざまなIntel Labsによる研究を持ち寄って、報道関係者やIntelのパートナー企業などに公開するイベントがResearch@Intelだ。例年6月末のこの時期に、Intel本社のあるカリフォルニア州サンタクララ市に近い、マウンテンビューのコンピュータ歴史博物館(Computer History Museum)において開催されている。本レポートではResearch@Intel 2010で発表された内容の中から、特にPCユーザーにとって興味深い内容をレポートしていきたい。
●新しいIXR研究所を設立し、ユーザー体験の進化を深めるResearch@Intel 2010は、冒頭で述べたとおり、Intelの研究開発機関であるIntel Labsによる研究成果を発表する場として利用されている。午前中は、記者、アナリストなどの報道関係者に対して、午後はIntelの社員およびパートナー企業に対して公開された。発表の方式は、ショーケースと呼ばれる展示会形式で、Intelが単独で開催している小さな展示会と考えればわかりやすいのだろう。展示内容は次の5つのゾーンに分かれていた。
(1)ユーザー体験ゾーン
(2)クラウド&インターネットゾーン
(3)乗り物ゾーン
(4)プラットフォーム革新ゾーン
(5)エナジーゾーン
今回この中で最も大きな面積が割かれていたのがユーザー体験ゾーンで、明らかに一番力が入っているのが良く分かった。展示会のオープンに先立って行なわれた講演で、ジャスティン・ラトナー氏は「Intelは、これまでユーザー体験を最大化するような取り組みを行なってきたが、今後もそれを続けていかなければならない。そのために、Interaction and Experience Research(IXR)研究所を設立し、そこでさらに研究を深めていきたい」と、この研究にさらに注力することを明らかにした。
Intel CTOのジャスティン・ラトナー氏 | イノベーションを実現するにはユーザー体験をより良くしていくことが重要 | そしてユーザーが何を求めているのかをさらに研究する必要があるので、IXR研究所を設立するのだという |
●ノートPCに統合されたLightPeak Technologyのデモ
LightPeak Technologyは光ファイバーの技術を利用した、新しい種類のコンピュータ間接続のアーキテクチャで、2009年9月にサンフランシスコで行なわれたIntel Developer Forumで公開された。現時点では、PC間を接続するケーブルとして利用される予定で、10Gbpsの帯域幅でデータのやりとりができる。
よくUSB 3.0と競合するのではないかという指摘があるが、ジャスティン・ラトナー氏は「LightPeakはプロトコルを規定しておらず、基本的にはどんなプロトコルでもその上でやりとりすることができる。このため、USBやEthernet、DisplayPortなど、どんなプロトコルであってもLightPeak上でやりとりすることができる」と、プロトコルを規定せずに、単に伝送路として設計されているLightPeakは、他の規格と競合しないことを説明した。
デモでは、LightPeakの基板をノートPCとデスクトップPCに組み込み、ノートPCの外部ディスプレイ出力をLightPeakの信号に変換してLightPeakに流し、それを一度デスクトップPCに入れた後、再度出力し、LightPeakからDisplayPortへと変換するドングルを利用して、DisplayPortのディスプレイへノートPCの画面を表示するという手の込んだことが行なわれた。
Intel関係者によれば、LightPeakは今年末までにOEMメーカーに出荷し、2011年にはOEMメーカー製品に搭載されて出荷されるスケジュールで開発が進んでいるということだ。
LightPeakのデモ。ノートPCからのケーブルがデスクトップPCに入り、デスクトップPCからのケーブルが変換基板(ドングル)を介してDisplayPort経由でつながっている | LightPeakのケーブル。USB 3.0のケーブルを応用している |
LightPeakからDisplayPortへと変換するケーブル | 開発中のLightPeakの基板 |
●PCI Expressの後継となるESSIは、47レーンで470Gbpsを実現
「Energy Efficient Scalable I/O」(ESSI)は、PCI Express Gen3のレーンあたり8Gbpsを超える10Gbpsの帯域幅を実現するシリアルバステクノロジーだ。従来のPCI Expressとの大きな違いは消費電力で、コントローラや配線などの見直しにより、従来のPCI Expressが1TB/secの帯域幅を実現しようとすると150Wの消費電力を必要としていたのに対して、わずか11Wですむのだという。現時点では1レーンあたり10Gbps、最大47レーンで470Gbpsの帯域幅を実現しており、今回そのデモが行なわれた。
IntelとしてはこのESSIを、PCI Expressの後継と考えているそうで、すでにPCI SIGへの提案が行なわれたPCI Express Gen4となるか、それとも別の仕様として規定されていくのかは分からないが、PC用として考えられていることは説明員も認めていた。
配線は、従来のPCI Expressと同じ銅配線を利用。PCの内部バスが銅配線のままになるのか、光ファイバーの延長線上の技術になるのかについて、ラトナー氏は「最大の問題はコストだ。現時点では光のコストは明らかに銅配線を大きく上回っており、PCの基板などに使えるレベルではない。しかし、シリコンフォトニクスが登場することで状況は大きく変わる可能性がある。シリコンフォトニクスになれば大量生産が進み、ムーアの法則の恩恵も得ることができる」と、シリコンフォトニクスが登場した後は、状況が変わる可能性があると指摘した。
ESSIのデモ。レーンあたりの帯域幅は10Gbps、47レーンで470Gbpsの速度を実現している | 47レーンの伝送ケーブル。リボンケーブルのようだが、ここに470Gbpsというすごい速度のデータが転送される | PCI Express Gen1、Gen2、Gen3とESSIの1レーンでの転送速度の比較 |
●WiMAXや3GなどのWWANの省電力管理をさらにインテリジェントに行なう展示など
このほかにも、WiMAXや3GなどのWWANの省電力管理をさらにインテリジェントに行なう方法や、48基のIAコアを1チップにしたクラウドコンピューティング用のコンセプトプロセッサ、自動車関連の展示などが注目を集めた。以下に写真で紹介する。
(2010年 7月 2日)
[Reported by 笠原 一輝]