【IDF 2009レポート】ダディ・パルムッター氏基調講演
~Nehalemアーキテクチャの新モバイルプロセッサ

ダディ・パルムッター氏

会期:9月22日~24日(現地時間)



 Intel Developer Forum(IDF)は、9月23日(現地時間)に2日目を迎え、初日に続きさまざまな講演が行なわれている。2日目の最大のイベントとなったのが、新しく設立されたIAG(Intel Architecture Group、Intelアーキテクチャ事業本部)の事業本部長に、ショーン・マローニ上級副社長と共に就任したダディ・パルムッター上級副社長による基調講演だ。

 この中でパルムッター氏は、Intelがこれまで「Clarksfield」(クラークスフィールド)の開発コードネームで開発を続けてきた、Nehalemアーキテクチャのモバイル向けクアッドコアプロセッサを正式に発表した。

●すでにファッションの域に到達したモバイルコンピューティング
基調講演の前に流されたビデオ。「格好良いってどういうこと?」

 講演の冒頭でパルムッター氏が盛んに使った言葉が「Cool」(日本語にすると、格好良い)だった。パルムッター氏は「最近では私の娘もモバイル機器に熱中しており、モバイル機器を持ち運ぶことは、格好良いことになっている」と、iPhoneなどのスマートフォンやネットブックのような可搬性のあるPCを持って歩くことが、ファッションの一部のようになっていると指摘した。

 その上でパルムッター氏は「では、何がCoolなのだろうか? その定義は人によって異なっていると思う」と、男性や女性、若者や熟年など性別や年齢、そのほかの属性によってモバイルに求めるものは異なると指摘した。「デザイナーならファッショナブルなデザインのPCが欲しいだろうし、できるだけ長時間のバッテリ駆動が欲しいだろう。あるいは若い女性なら小さくて持ち歩きが容易なのがいいだろうし、常にネットワークにつながり、かつ値段も安価なのがよいだろう。このように、モバイル機器に求めるニーズは異なっており、それに答えることが重要だ。もはや1つで全ての要求を満たせる時代ではない」と、個々人のニーズにあわせたモバイル機器を提供していくことの重要性をアピールした。

 そうしたさまざまなニーズに応える意味で、3つの要素が大事だと述べた。1つ目はデバイス(機器)だ。より格好の良いデバイスを実現するためには、消費電力が少なく長時間のバッテリ駆動ができることが大事だし、できるだけ薄く軽くつくることも大事だろう。だからといって性能が犠牲になっても困る。そうした矛盾する要素をどのように解決していくかが重要になってきている。

 2つ目は互換性だ。特にソフトウェアの互換性は重要になってきており、ユーザーは常にどのデバイスでも同じ使用感を実現することを求めている。例えば、自宅のPCでは、当たり前のようにFlashのコンテンツが楽しめるのに、外出先に持って行ったモバイル機器でそれが利用できないとなれば、がっかりするだろう。

 3つ目の要素として挙げたのが、接続性だ。すでに時代の趨勢は、ローカルで何らかのデータを処理するより、ソーシャルネットワーキングのようにWebサイト上でコミュニケーションしたり、アプリケーションそのもののWebサービスと一体になったクラウドコンピューティングが当たり前のものとなっている。そうした時に重要なのは、いつでもどこでもワイヤレスでインターネットに接続できることだ。

ユーザーがモバイルに求めることは、高性能で長いバッテリ駆動時間逆に不満に思っていることは遅いとか重い、熱いなどクールなモバイルコンピューティングを実現するためには、よい良い機器、ソフトウェアの互換性、ネットワークの接続性が重要に

●Turbo Boost Technologyが利用できるモバイル向けCore i7

 パルムッター氏はそうした3つの要素のうち、1番目のデバイスそのものの魅力に関して話を移した。「我々はこれまでモバイル向けに高いパフォーマンスを実現しつつ、より長いバッテリ駆動時間と、より薄いボディと、低消費電力という矛盾する命題を実現する技術を供給してきた。今後も新しい使い方、例えば言語の自動翻訳などを実現するためにはまだまだプロセッサの処理能力が必要になる。しかも、それが必要になるのは、PCだけでなく、ハンドヘルドのような機器も同様だ」と語り、処理能力を上げていくことと、消費電力を上げないという異なる2つの命題を実現するという方向でIntelのモバイルPC向けプロセッサを開発していくと説明した

 そして、モバイルPC向けのプロセッサとして、この日パルムッター氏が発表したのが、ノートPC向けのCore i7だ。これまで開発コードネームClarksfieldとして開発されてきた製品で、2GHz(ターボモード時3.2GHz)のCore i7 920XM、1.73GHz(同3.06GHz)のCore i7 820M、1.6GHz(同2.8GHz)のCore i7 720Mの3製品が発表された(なお、詳しいSKU構成は別記事をご参照いただきたい)。

Intelはこれまでもモバイル向けプロセッサで高性能、長時間駆動、薄さの背反する3つを実現してきた新しい使い方を実現するにはより高い処理能力が必要になる
Nehalemがついにモバイルに今回発表された3つのCore i7のSKU

 このCore i7の説明には、副社長兼PCクライアント事業部 事業部長のムーリー・イーデン氏が登壇し、そのメリットを説明した。イーデン氏がClarksfieldのメリットの中でも特にフォーカスしたのが、Intel Turbo Boost Technologyで知られる、発熱量に応じてクロック周波数を引き上げたり、引き下げたりする機能だ。例えば、Core i7 920XMは標準クロックは2GHzだが、発熱量が少ない場合にはクロックをさらに引き上げられる。その最高クロックが3.2GHzなのだ。

Intel副社長兼PCクライアント事業部 事業部長のムーリー・イーデン氏モバイル向けCore i7にも、デスクトップと同じようにIntel Turbo Boost Technology、HT Technology、統合型メモリコントローラが内蔵されている

 非常にラフな言い方をするのであれば、Intel Turbo Boost Technologyは自動オーバークロック機能のようなもので、CPU自身が自分の限界を知っていて、必要な時(つまりアプリケーションなどに何らかの処理をさせていて、より処理能力が必要な時)に、その範囲内であればクロック周波数を引き上げて処理能力を向上させる機能だ。どれだけ周波数が上がるかは、必要としているコア数によって異なっており、シングルスレッドのアプリケーションを実行している場合には残り3つのコアは休止し、1つのコアだけが最大で9段階上がることになる。省電力機能である、Intel SpeedStep Technologyが、CPUが仕事をしていない時にクロックを下げて消費電力を削減する機能を持っているのと、全く逆の考え方で作られた機能と言えるだろう。

Intel Turbo Boost Technologyの説明。コア数が少ないときには、よりクロックを上げることができる

Intel Turbo Boost Technologyが有効だと、負荷に応じて自動でクロックが上がったり下がったりする

 イーデン氏は「例えば、消費電力に10Wの余裕があるとすれば、その分をクロック周波数の段階を1つ上げるのに利用する。そうすれば、ユーザーは必要な時にだけ性能を手に入れることができる」と述べ、実際にIntel Turbo Boost Technologyを有効にして、クロック周波数が必要に応じて上下する様子をデモした。

●一瞬だけ見せてくれたSandy Bridge、やはりGPUも含め1つのダイに

 さらにパルムッター氏は、Clarksfieldの後にリリースされる将来の製品に関しても説明した。近い未来という意味では、2010年の前半にリリースが予定されている「Arrandale」(アレンデール)に関する説明を行なった。「Clarksfieldはハイエンドの製品となるが、NehalemをメインストリームのノートPCにもたらすのがArrandaleだ」と、メインストリームのノートPC向けの製品になることを説明した。

 Arrandaleは32nmプロセスルールのデュアルコアCPUと、Ironlakeの開発コードネームで開発されてきたメモリコントローラ、統合型GPU、PCI Expressブリッジなどから構成された従来ノースブリッジと呼ばれてきたチップをパッケージの中で1つにまとめたMCM(Multi Chip Module)タイプのプロセッサとなる。

 さらに、来年以降にIntelが投入を計画しているのが開発コードネーム「Sandy Bridge」(サンディーブリッジ)で知られる次世代アーキテクチャだ。Intelは、新しいプロセスルール(例えば第4四半期から量産に利用される32nm)で、まず前世代の技術を利用した縮小版を投入する。そして2年にわたり利用されるプロセスルールの後半で、新しいマイクロアーキテクチャ(ハードウェア上の仕様のこと)のプロセッサを投入する(IntelではこれをTICK-TOCKモデルと呼んでいる)。Sandy Bridgeはその新マイクロアーキテクチャに基づく製品になっており、省電力機能が向上し、新しい命令セットであるAVXに対応するなどの特徴を備えている。

 今回パルムッター氏は、ちょっとの間であるが、SandyBridgeのダイ写真を表示させたが、長方形になっており、MCMではなくGPUも含めて1つのダイになっていることが写真から見て取ることができた。

Arrandaleでは32nmのWestmereコアのデュアルコアCPUと、45nmプロセスルールで製造される従来のノースブリッジに相当するIronlakeが1チップになっているちらっとだけ表示されたSandy BridgeのダイSandy Bridgeでは、AVX命令セットなど新しい機能が追加される

●モバイル向けNehalemは、より高度な省電力の機能を搭載
モバイル版Core i7は、TDP 150WのXeonと同じか上回る性能ながら、45Wで動作する

 また、パルムッター氏はNehalemアーキテクチャのCore i7では、性能が大きく上がったものの、フォームファクタやバッテリ駆動時間は犠牲にしていないということを強調した。同氏は、TDP(熱設計消費電力、エンジニアが設計時に参照するピーク時の電力)が150Wある1世代前のサーバー向けXeonプロセッサと同じような性能を示しながら、モバイルCore i7では45Wと、ノートPCに納められる消費電力を実現していることを強調。Dellの新しい薄型ノートPCなどを紹介し、薄型で高性能なノートPCを製造できるようになるとアピールした。

 そうした省電力を実現した理由の1つとしてパルムッター氏は、Nehalem世代からCPUに統合されたパワーゲートをあげ、CPUコアそれぞれに異なる電力を供給できるようになっているため、より高度な電源管理が可能であることを挙げた。

 また、Arrandale以降の製品で搭載される、次世代の管理機能についても触れ、特にAnti-Theft Technologyと呼ばれるノートPCそのものが盗まれたとしても、HDDなどに入っているデータは取り出せないようにする機能を紹介し、そうした機能がモバイル環境では非常に重要だとした。

より薄く高性能なノートPCをつくることができる新しいデザインのアイディアとして、2つ目、3つ目のディスプレイが液晶とキーボードの間に埋め込まれたノートPCどこの市場でも、よりバッテリが持つノートPCにユーザーは投資して良いと思っているというデータが出ている
Nehalemが高性能ながら消費電力を抑えることができている理由の1つであるコアごとに電力を供給できるパワーゲートArrandale以降の世代で導入される予定の防犯技術Intel製SSDに関するデモも行なわれ、ノートPCを振動させながらブートさせると、振動に影響をうけないSSDは圧倒的に高速にOSを起動できた

●同じ消費電力でスマートフォンに比べて高い性能を示すMoorestown

 パルムッター氏の話はハンドヘルド、いわゆるMID向けのプロセッサの話へと移っていった。現在Atom Zシリーズとして提供されているMenlowプラットフォームの後継として、Intelが開発を続けているのが「Moorestown」(ムーアズタウン)だ。Moorestownは元々は2009年の末にリリースされる予定だった製品だが、予定よりも遅れており、初日に行なわれたポール・オッテリーニ社長兼CEOの基調講演の中で、2010年の半ばにスケジュールが変更されたことがさりげなく明らかにされた。

 今回パルムッター氏はMoorestownが実際に動作しているMIDを公開。HTC製のAndroid携帯と思われるスマートフォンと、どちらがHD動画をスムーズに再生できるかを競うデモを行ない、Android携帯に比べてよりスムーズに再生できる様子が披露された。パルムッター氏は「どちらも消費電力は同じなのに、Moorestownはより高性能だ」と、Moorestownの高い消費電力あたりの性能をアピールした。

Intelのハンドヘルド向けチップのロードマップ。Moorestownの導入は2010年の半ばとなるMoorestownでは必要のない部分の電力をオフにするパワーゲーティングの機能がより高機能になり、切れる部分が増えている
MoorestownはMenlowに比べて50倍も消費電力を削減できているAndroid携帯と思われるスマートフォンと動画再生を比較。Moorestownのほうがスムーズに再生できていた

●2011年には通信機能を完全に統合した次世代の通信モジュールをリリース

 パルムッター氏が2つ目、3つ目の要素としてあげたソフトウェアの互換性とネットワークの接続性だが、ソフトウェアに関してはIA(Intel Architecture)の優位性、ネットワークの接続性に関してはWiMAXに関する説明を行なった。

 ソフトウェアの互換性に関してはIAがもっとも普及している命令セットであり、かつ複数のOSの選択肢がある点をアピールした。例えば、1つのソースコードがあれば、ちょっとコードを書き換えるだけで、Windows用とMoblin用のソフトウェアを作ることが可能になる。このため、ソフトウェア開発者は簡単に複数のプラットフォームをサポートできるというメリットがあるだけでなく、ユーザーの側も異なるデバイスを使っていても同じアプリケーションが利用することができる。パルムッター氏は「IAを利用すれば異なるプラットフォームでも、よりよいインターネット体験ができる」と述べ、PCだけでなくハンドヘルドや将来はスマートフォンなどでもIAを利用するメリットがあるとアピールした。

 WiMAXに関する話題では、iPhoneのユーザーが増えてデータ通信のトラフィックが増えたたため、AT&T Wirelessのユーザーの間に通話に支障があるなどの不満がでていることを例に挙げ「WiMAXであればもともとデータ通信を前提に設計されており、そうしたことは起こらない」と、WiMAXの優位性を主張した。パルムッター氏は日本やロシアなどで先行してWiMAXの普及が進んでいることを説明し、米国でWiMAX事業を展開しているClearWireの関係者を壇上に呼んで、米国におけるWiMAXのサービス提供の計画について説明した。

 また、パルムッター氏は、Intelの通信モジュールの計画について触れ、2010年にWi-Fi/WiMAXの両方をサポートする「KilmerPeak」、Wi-Fi/WiMAXに加えてBluetoothとGPSをサポートする「EvansPeak」をリリースし、さらに2011年にはそれらの後継となり、複数の通信系のチップを完全に統合した製品をリリースすることを明らかにした。

IAの優位性、ソフトウェアの互換性にある携帯電話では、コンピュータ1台が15台のスマートフォンに相当し、音声通話えは450台相当になるなど、あまりデータ通信には適した仕組みではない。もともとデータ通信前提のWiMAXではそうした問題は発生しないIntelの通信モジュールロードマップ

●10Gbpsの帯域幅を実現し、コネクタを薄型化するLight Peak Technology

 講演の最後でパルムッター氏は、光ファイバーを利用した周辺機器接続のためのインターフェイス技術「Light Peak Technology」について説明を行なった。この技術は光通信を利用して、周辺機器などを接続するためのもので、10Gbpsからスタートし、最終的には100Gbpsまで帯域幅を向上させることができるという。それにより、複数のディスプレイ、LANなどさまざまな機器を、従来よりも薄型のコネクタで一度に、かつ長距離接続することができるのだという。

 こうした周辺機器技術と言えば、USB 3.0ことSuper Speed USBが思い浮かぶ。Super Speed USBは5Gbpsなので、ともすればこれとバッティングしそうな技術に思える。特に、もともとIntelがUSB 3.0の規格を提案したときには、規格の一部として光ファイバーの利用も提案されていた。結局USB 3.0の仕様を決める段階で光ファイバーの部分は仕様に盛り込まれなかったのだが、今回のLight Peak Technologyは、その夢よ再びにも見えなくはない。

 パルムッター氏は日本のOEMメーカーであるソニーのVAIO事業本部ノートPC事業部長である赤羽良介氏の賛同コメントを紹介していたが、おそらく日本のメーカーがこうした取り組みに賛同するのは1つには、コネクタの薄型化を実現したいという側面があるものと考えられる。現在ノートPCの薄さの限界は、コネクタとバッテリの厚みにより決まってきているからだ。

Light Peak Technologyでは光ファイバーを利用して10Gbpsの帯域幅を実現するソニー VAIO事業本部ノートPC事業部長 赤羽良介氏から賛同のコメント

 最後にパルムッター氏はまとめとして、「今後もNehalemのような高性能でかつ低消費電力なプロセッサを提供するなど、よりCoolなモバイルを実現できるように業界と協力してやっていきたい」と述べ、基調講演を終えた。

PCからケーブルをたどっていくと、かなり先にディスプレイが接続されていた

(2009年 9月 25日)

[Reported by 笠原 一輝]