イベントレポート

AMDがモバイル向けのKaveriを発表、ハイエンドは「FX」ブランドに

Kaveriは2011年のLlano、2012年のTrinity(とそのリネーム版Richland)の後継となる製品
会期:6月3日~7日(現地時間)

会場:

Taipei World Trade Center Hall 1,3, NANGANG Exhibition Hall

Taipei International Convention Center

 米AMDは、COMPUTEX TAIPEIの期間中に記者向けの説明会を開催し、同社が1月のInternational CESで発表した最新APU“Kaveri”(カヴェリ)のモバイル版を発表した。

 Kaveriは、SteamrollerコアのCPU(クアッドコア)とGCN世代のGPUを1つに統合したAPUで、CPUとGPUを1つのプログラミング言語から簡単に扱って演算させるHSA(Heterogeneous System Architecture)を利用できる。デスクトップ版が1月に発表されて以来、自作PC市場で人気を博しており、今回発表されたのはそのモバイル版となる。

 Kaveriのモバイル版は、従来からAMDがノートPCのメインストリーム向け製品に利用してきた「A10」、「A8」、「A6」などのブランド名のほか、ハイエンド向けには「FX」という、従来はデスクトップPC向けのハイエンド製品だけに利用されてきたブランド名が付けられているほか、企業向けの「PRO」ブランドも付加され、「A10 PRO」のように表記されることになる。

 AMDによればIntelの同クラスのCPUと従来型のアプリケーションソフトウェアで同等の性能を実現し、3DやOpenCLを利用した処理ではIntel製CPUを大きく上回る性能を実現しているという。

HSAを利用することが初めてのノートブックPCのAPUとなるKaveri

 AMDのKaveriは、2011年にリリースされたLlano(ラノ)、2012年にリリースされたTrinity(トリニティ)、そして2013年にTrinityの改良版としてリリースされたRichland(リッチランド)の後継として、2014年の1月にデスクトップPC向け版がリリースされた。今年(2014年)の前半中にモバイル版のリリースが予定されていたが、その公約が果たされた形になる。

Kaveriの最大の特徴はHSAに対応していること

 AMDのKaveriは、CPUとGPUが1つのダイ上に統合されているという意味では、IntelのSandy Bridge以降のCPUと一緒なのだが、CPUとGPUの統合度がIntelよりも進んでいるのが特徴だ。

 Intelの場合は、ソフトウェアからGPUとCPUを1つの大きな演算装置として利用できず、それぞれ別の存在として利用しなければならない。それに対してKaveriは、ソフトウェアがHSAに対応することで、CPUとGPUを1つの大きな演算装置として扱え、半導体を効率よく利用できる。

 CPUとGPUを同一の演算装置として扱うためには、CPUとGPUが同じメモリ空間を共有する必要があり、また、命令をCPUとGPUのどちらかを利用して演算するのかを決める仕組みが入っている必要があるのだが、Kaveriには前者の機能をhUMA(ヒューマ)として、後者はhQとして実装することで実現した。

 ただし、こうした機能を利用するには、HSAの開発環境を利用してソフトウェアを開発する必要がある。HSAの開発環境なども昨年(2013年)の末にようやくそろった段階で、商用のアプリケーションなどに採用されるのはこれからだ。現状でもOpenCLのようなGPUを活用できる開発環境を利用して開発されたソフトウェアも存在しているので、そうしたソフトウェアを利用すれば効果は実感できるが、効果はHSAより低い。

 AMDが提唱したHSAは、現在は非営利の業界団体となるHSA Foundationに権利が移管されている。HSA Foundationには、ARM、Imagination Technology、MediaTek、Qualcomm、Samsung Electronics、Texas Instrumentsが幹事企業として名前を連ねており、主要な半導体メーカーで名前を連ねていないのはApple、Intel、NVIDIAぐらいという状況で、今後大化けする可能性を秘めていると言える。

基本的にはデスクトップ版と同じダイ

 モバイル版Kaveriは、基本的には1月に発表されたデスクトップPC版のKaveriとまったく同じダイだ。Kaveriには、Steamrollerと呼ばれるx86クアッドコアCPUと、GCNアーキテクチャの8コアのGPUが統合されている。CPUとGPUを同時に利用することで、最大で818GFLOPSの性能が実現可能だ。

 GPUの3D APIに関してはDirect3D 11.2だけでなく、AMD独自の高効率のローレベルAPIとなるMantleにも対応。このほか、デュアルチャネルのメモリコントローラ(最大DDR3-2133)、PCI Express Gen3、AMD TrueAudio、UVD 4.2、VCE 2.0などの機能もデスクトップPC版Kaveriと共通になる(SKUにより機能は異なる、後述)。

 Kaveriは、別途サウスブリッジが必要になるが、サウスブリッジはRichlandに用意されているA70Mシリーズ(開発コードネーム、Hudson-M3)がそのまま転用される。

 パッケージは、APUとチップセットが別々にBGAとして提供され、IntelのHaswellのようにパッケージ上で1つに統合されたSoCの形では提供されない。AMDはBeema/MullinsをSoCとして提供しており、SoCが必要なOEMメーカーにはそちらを薦めているからだ。なお、InstantGo(Connected Standby)には対応しない。

 KaveriにはTDPの枠として、35Wのモデルと19Wのモデルが用意される。これにさらに2.5W程度と想定されるチップセット分が上乗せされることになる。AMD クライアント事業部 モビリティソリューションズ 上級課長 ケビン・ランシング氏は「35WがIntelのM/Hプロセッサ、19WがIntelのUプロセッサに匹敵する製品となる。数字だけを見ればIntelのTDPよりも高いように見えるが、実際の熱設計では遜色ない」と述べ、IntelのUプロセッサ(TDP15W)と同じシャーシで、Kaveriの19W版を用いてノートブックPCを設計できると説明した。

Kaveriの技術的な概要
ダイレベルではクアッドコアCPUと8コアのGPUが搭載されている(実際にはSKUによっては無効にされている場合もある)
CPUは効率が改善されたSteamrollerコア
GPUコアはGCNベースで、最大8コア構成
Mantleにも対応しており、対応の3Dゲームによっては2倍の描画性能を実現
AMD クライアント事業部 モビリティソリューションズ 上級課長 ケビン・ランシング氏

Intelの第4世代Coreプロセッサに対して3DとOpenCLでアドバンテージがある

 今回AMDは、Kaveriのモバイル版において、新たにFX、PROという2つのブランド名を導入する。FXはこれまでデスクトップPC向けの製品で利用されてきたマニア向けのブランドだったが、KaveriもハイエンドのゲーミングPC向けのSKUでFXブランドを冠する。ビジネス向けの製品はPROと呼ばれ、大企業など継続して同じSKUが必要なビジネスユーザーに対して、最大24カ月同じCPUの供給を保証する。

【表】モバイル版KaveriのSKU
シリーズAMD Aシリーズ SV APU
モデルナンバーAMD FX-7600P with Radeon R7 GraphicsAMD A10-7400P with Radeon R6 GraphicsAMD A8-7200P with Radeon R5 Graphics
コンピュートコア12(4CPU+8GPU)10(4CPU+6GPU)8(4CPU+4GPU)
ターボ時最大/ベースクロック3.6GHz/2.7GHz3.4GHz/2.5GHz3.3GHz/2.4GHz
L2キャッシュ4MB4MB4MB
GPU周波数(最大)686MHz654MHz626MHz
最大DDR3クロックDDR3-2133DDR3-1866DDR3-1866
PCI Express レーン(世代)x16(Gen3)x16(Gen3)x16(Gen3)
TDP35W35W35W
シリーズAMD AシリーズULV APU
モデルナンバーAMD FX-7500 with Radeon R7 GraphicsAMD A10-7300 with Radeon R6 GraphicsAMD A8-7100 with Radeon R5 Graphics
コンピュートコア10(4CPU+6GPU)10(4CPU+6GPU)8(4CPU+4GPU)
ターボ時最大/ベースクロック3.3GHz/2.1GHz3.2GHz/1.9GHz3GHz/1.8GHz
L2キャッシュ4MB4MB4MB
GPU周波数(最大)533MHz533MHz514MHz
最大DDR3クロックDDR3-1600DDR3-1600DDR3-1600
PCI Express レーン(世代)x8(Gen2)x8(Gen2)x8(Gen2)
TDP19W19W19W
シリーズAMD Aシリーズ コマーシャルULV APU
モデルナンバーAMD A10 PRO-7350B with Radeon R6 GraphicsAMD A8 PRO-7150B with Radeon R5 GraphicsAMD A6 PRO-7050B with Radeon R4 Graphics
コンピュートコア10(4CPU+6GPU)10(4CPU+6GPU)8(4CPU+4GPU)
ターボ時最大/ベースクロック3.3GHz/2.1GHz3.2GHz/1.9GHz3GHz/2.2GHz
L2キャッシュ4MB4MB1MB
GPU周波数(最大)533MHz533MHz533MHz
最大DDR3クロックDDR3-1600DDR3-1600DDR3-1600
PCI Express レーン(世代)x8(Gen2)x8(Gen2)x8(Gen2)
TDP19W19W19W

 SKU構成は表の通りだが、35Wのモデルと19Wのモデルの大きな違いは、PCI Expressが前者はx16(Gen3)となっているのに対して、後者はx8(Gen2)となっている点だ。この点についてAMDのランシング氏は「PCI Expressコントローラは消費電力が大きい割に、モバイルノートではメリットが大きくない。このため、19Wのモデルではx8でGen2に制限した」と説明した。薄型のシャーシを採用するため、単体GPUを採用する可能性がほとんど無い19WのモデルではPCI Expressではx8でGen2に制限したということだろう。

 なお、AMDは性能に関してもデータを公開している。Kaveriの「A10-7300 with Radeon R6 Graphics」(CPU4+GPU6、最高3.2GHz/ベース1.9GHz、19W)が、IntelのCore i5-4200U(デュアルコア+GT2、最大2.6GHz/ベース1.6GHz、15W)と比較して、総合ベンチマークスイートのPCMark8でほぼ同等、3Dベンチマークの3DMarkでは50%優れており、OpenCLベンチマークであるBasemark CLでは1.2倍の性能を発揮するとしている。

 19Wのハイエンドとなる「FX-7500 with Radeon R7 Graphics」(4CPU+6GPU、最高3.3GHz/ベース2.1GHz、19W)とCore i7-4500U(デュアルコア+GT2、最高3GHz/ベース1.8GHz)と比較した場合、PCMark08でほぼ同等、3DMarkで50%優れており、OpenCLベンチマークであるBasemarkCLでは50%優れていると説明している。

AMDが公開したA10-7300 with Radeon R6 Graphics(CPU4+GPU6、最高3.2GHz/ベース1.9GHz、19W)とIntelのCore i5-4200U(デュアルコア+GT2、最大2.6GHz/ベース1.6GHz、15W)の比較
AMDが公開したFX-7500 with Radeon R7 Graphics(4CPU+6GPU、最高3.3GHz/ベース2.1GHz、19W)とIntel Core i7-4500U(デュアルコア+GT2、最高3GHz/ベース1.8GHz)の性能比較

 なお、原稿執筆時点ではAMDは各製品の価格や、搭載OEMメーカーなどを明らかにしていないが、現在Richlandを搭載したノートPCを採用している製品は徐々にKaveriに変更される可能性が高く、今年の後半に向けて製品が登場することになるだろう。

AMDが公開したAMD FX-7600P with Radeon R7 Graphicsを搭載したリファレンスデザインのノートブックPC。15.6型のフルHD液晶を搭載したノートPC
3DMarkのFireStrikeが1292、IceStormが46266というスコアだった

(笠原 一輝)