イベントレポート

【WWDC 2013前日レポート】Appleの開発者会議「WWDC 2013」が11日に開幕

〜刷新が図られるiOS7と次期OS Xなどを発表の見通し

会期:6月10日〜6月14日

会場:Moscone Center West

2013年はMoscone Centerの向かいにある大規模商業施設Metreonにも初めてWWDCのバナーが登場した

 米Appleが次期OSに関連する技術情報などを開発者向けに開示するWWDC(Worldwide Developers Conference:世界開発者会議)が、サンフランシスコで6月10日から開催される。今年も会場は市内中心部にあるMoscone Center Westで、5月にはGoogleがGoogle I/O を開催し、そして6月26日からはMicrosoftがBuildを開催予定という、ここは世界の開発者にとっての中心地だ。特に2013年はBuildが6月になったこともあって、1カ月余の間に開発者向けのイベントが集中している。WDDC 2013の基調講演は、10日午前10時(日本時間11日午前2時)から開始される。

iOS 7、次期OS Xなどを公開する見通し

 毎年繰り返して書いてはいるが、WWDCはあくまで開発者を対象にしたイベントであり、必ずしもエンドユーザーに向けた製品発表と直接結びついているとは言うわけではない。もちろん過去には「iPhone 4」をはじめ、昨年の「MacBook Pro Retina Displayモデル」など注目すべき製品発表をともなったことはあるものの、これらはいずれも開発者にとっても転換点であり、フォーカスすべき方向性を同時に示唆したと言える製品だ。メッセージ性の低い製品更新であれば、サマライズのときにサラッと触れるか、極端なときには基調講演の中では一言も触れなかったものの、ニュースリリースのみが更新されたというケースも過去には存在する。

 先日掲載した記事のように、筆者個人の予測としては、今回のWWDCにおいて大規模なハードウェア製品のアナウンスがあるかどうかについて、かなり懐疑的な立場を取っている。あるとすれば、前述のようにサラッと触れる製品更新だろう。これには現在Ivy Bridgeを搭載して販売されているMac製品のHaswell化も含まれる。

 これに伴うとすれば無線LAN技術に関連する製品がある。Appleは最新の無線技術については積極的に採用する傾向があって、理論値なら最大1.3Gbpsに達する無線技術IEEE 802.11ac関連の製品を準備している可能性は高い。IEEE 802.11acは、アクセスポイント同士、あるいはデスクトップやポータブル機など環境や製品によって実装が異なるものの、2×2であっても最大で866Mbps(理論値)の転送が可能だ。本誌でも紹介しているようにBroadcomは関連チップの発表をすでに行なっており、現行製品にBroadcom製チップを採用するAppleはBroadcomの顧客の1つでもある。もちろん、クライアントになるMacの製品更新が前提になるが、「AirMac Extreme」や「Time Capsule」といった無線関連製品がIEEE 802.11ac対応となる日は、WWDCという機会ではないかも知れないが、いずれは訪れるだろう。

 iPhone関連に関しては言うまでもなく機会をあらためるはずで、今回披露される次期iOSの正式リリースにタイミングを合わせてくるのはほぼ間違いない。

 フォーカスされるのは初公開となる次期iOSおよび次期OS Xだ。iOSに関してはすでに会場内のバナーなどに「7」という数字が掲出されているので、「iOS 7」と言って差し支えないだろう。一方でOS Xに関しては不明な点が多い。2012年は現行のOS XであるMountain Lion(10.8)の一部機能は同年2月の時点で公開済みで、WWDC開幕前にはプレビューサイトも用意されていた。しかし2013年はこうした動きがなく、最近は製品名になっている開発コード名ともども秘匿されている。現在確認できる会場バナーにも、それらを特定できる要素がない。便宜上そのまま「次期OS X」と呼んでおこう。

日曜日から入場パスの受け渡しが始まった。受付の大型バナーにはWWDCの文字と、ギリシャ数字で2013を表す「MMXIII」の文字が書かれている。書体は非常に細い

 いずれにせよ今回のWWDCで、これらOSのβバージョンが披露され、開発者を対象にして提供が始まるのは確実で、WWDCの開催を発表したニュースリリースの中でも、ワールドワイドマーケティング担当上級副社長のフィリップ・シラー氏が「iOSおよびOS Xの開発者達の素晴らしいコミュニティーが集まるWWDC 2013で、皆さんにお会いできるのを楽しみにしています。この1年はAppleの開発者たちにとって最も実り多く、利益を生んだ年となりました。彼らに最新のソフトウェアテクノロジーと開発者ツールを紹介し、革新的な新しいアプリケーションを作るお手伝いをすることに心を躍らせています。WWDCで新しいバージョンのiOSとOS Xをお渡しするのが待ちきれない気持ちです」とコメントを寄せている。

 特にiOS 7についてはルック&フィールの大幅な改良が図られる見通しだ。昨年(2012年)、WWDCのステージでiOS 6を披露したiOSソフトウェア担当のスコット・フォーストール上級副社長(役職は当時)は、不完全だったMaps(地図)の責任を取る形で事実上の更迭がなされ、2013年中の退任が決まっている。昨年8月に上級副社長に昇格したクレイグ・フェデリギ氏がOS Xに加えてiOSも担当する責任者となるが、インターネットソフトウェア&サービス担当上級副社長のエディ・キュー氏がSiriと問題の地図関連の責任者だ。さらにこれら全体のヒューマンインターフェースを統括するのが、インダストリアルデザイン担当上級副社長のジョナサン・アイブ氏という陣営である。

 元々、スコット・フォーストール氏はNeXT社時代から故スティーブ・ジョブズCEOと行動を共にし、AppleによるNeXT買収にともなってApple入り。Mac OS Xの起ち上げに関わった。これまでのOS XやiOSのユーザーインターフェイスやルック&フィールに持ち込まれた「スキュアモーフィズム(skeuomorphism)」は、同氏および故ジョブズCEOの意志と大きな支持で進められてきたとも言える。

 スキュアモーフィズムを簡単に説明すれば、例えばOS Xの「アドレス帳」に見られるような冊子的な表現、あるいはiOSの「友達を探す」にある革に縫い取りをしたようなステッチ、「Game Center」のゲームテーブルなどがある。メモ帳が黄色い用紙然としているのもまた然りで、電子書籍のページめくりで実際に紙をめくっているようなエフェクトや映り込みの描写など、現実製品のデザインにおける装飾的な特徴などを、新しいデジタルデザインにも持ち込んでいた。人によってはそれが暖かさや親しみやすさであるかも知れないし、あるいは不要な装飾と受け取るかも知れない。

 しかしiOS 7をはじめ、今後のヒューマンインターフェイスを統括するジョナサン・アイブ氏は必ずしもこうした傾向を支持していないと言われる。より機能的なデザインやインターフェイスには、こうした古い装飾性は不必要という考え方だ。これはAppleに限った話ではなく、Windowsにおいても、XPのLuna、Vista/7のAeroなど時代やプロセッサのパフォーマンスに応じてルック&フィールが変遷している。そしてWindows 8ではモダンUIと呼ばれるフラットなデザインが採用されている。何が正しくて何が間違っているということはなく、トレンドは移り変わるのである。

 こうしてジョナサン・アイブ氏の統括のもと、iOS 7はそのルック&フィールやユーザーインターフェイスにおいて、iPhone OS時代からこれまでのiOSまで以上の変化を一気に遂げる可能性がある。初代iMacのデザインをはじめ、故ジョブズCEO復帰以降のApple製品のデザインは、アイブ氏が責任者であるインダストリアルデザイングループから生まれている。同氏が優れた工業デザイナーであることに疑念の余地はないが、工業デザインとソフトウェアデザインではアプローチが必ずしも同じとは限らない。iOS 6とiPhone 5は結果として成功を収めた製品かも知れないが、地図問題という大きなミスも犯した。同じようなミスを二度と繰り返すわけにはいかないiOS 7において大胆な改良を盛り込むということは、Appleにとっての正念場でもあると言えよう。

 なお、ジョナサン・アイブ氏はWWDCなどのプレゼンテーションでは、故ジョブズCEOのチャット相手、電話相手などに登場したり、ビデオ映像などでは中心的な役割を果たすことが多いが、実際にステージ上でプレゼンテーションそのものを行なった例はほぼない。WWDCの基調講演としては、ティム・クックCEOを中心にして、前出のフィリップ・シラー氏、クレイグ・フェデリギ氏、エディ・キュー氏といった上級副社長陣がプレゼンテーションや実際のデモンストレーションを行なうものと想像される。

App Storeの価格改定のヒントもWWDCにあり

 先日、AppleはiPadおよびiPod製品の日本国内における価格調整を行なった。急激に進んだ為替レートの円安傾向に対応するためと言われている。しかしMac製品のように同時には調整が行なわれなかった製品もある。

 価格における最大の注目点は、iOSアプリケーションを販売するApp StoreとMac向けアプリケーションを販売するMac App Storeに、こうした為替の影響によるレート変更が入るかどうかだろう。現時点では、米0.99ドル=85円およびそれに準じた価格帯のレートで、これらのアプリケーションは販売されてる。過去、このレートに調整が入ったことは一度だけで、その時は0.99ドル=115円から、一気に前述の0.99ドル=85円まで大きく変わった。言うまでもなく当時は円高局面が長く続いていた時期である。

 では、こうした価格調整が突然行われたかと言うと必ずしもそうではない。注意深く見ていると実はサインがあった。2011年に行われたWWDCの基調講演をもとに、筆者は約1カ月後に行なわれたレート変更をほぼ正確に予測している。米国で発表されたLion(当時)の販売価格の29.99ドルと、同時に日本で発表された販売価格の2,600円という販売価格が当時の115円換算では折り合わなかったからだ。結果、Lionの発売を前にApp StoreとMac App Storeでレートの調整が実施された。報道機関の一部は『突然の変更』などと報道していたが、日付こそ明示はされていなかったものの、まったく予想外とは言えななかったのである。

 この考え方を用いると、今回発表が確実視される次期OS Xの価格設定は、OS自体にとどまることなく興味深い。Mountain Lionは19.99ドル=1,700円だったので、次で米国価格を上げてくることは考えにくい。おそらく19.99ドルか、もしくはWindows 8からWindows 8.1への更新が、性格は異なるとは言え無償で提供されることから、9.99ドル程度に引き下げてくる可能性もある。いずれにせよ、もし次期OS Xの出荷時期や、その価格がWWDCで明言されるのであれば、同時にニュースリリースがでるであろう日本での販売価格にも注目すべきだ。もし、0.99ドル=85円とは異なる価格設定が行なわれていたら、それはApp StoreおよびMac App Storeにおけるレート変更の前兆でもある。

 ただ、100円を超えていた為替市場の対ドルレートも95円前後までは戻してしまった。100円台であれば、前回の調整額である30円のちょうど半分である15円だっただけに、ありうる価格調整と思ったが、仮に10円の幅で動かすかどうかは判断の難しいところだ。

 次期OS Xに関しては、仮にレートが変わったとしてもそれは変更後であるから、日本国内での価格は発表のとおりだ。ここに打つ手はない。しかし、もし前述のようなサインがWWDCのタイミングで出るようであれば、他のiOSアプリケーションやMac向けアプリケーションの国内価格には影響が及ぶので、必要なものは調整前に購入しておくなどの対応策を講じることができる。

チケット争奪戦はわずか2分で終了

 争奪戦のWWDCチケットは、2012年の約2時間を大幅に上回る約2分という時間で売り切れた。2012年は事前予告がなく、開催日の発表と同時にチケット販売が始まったが、2013年は販売開始まで約1日の周知期間があったため、争奪戦に参加する開発者側も準備を整えて臨んでいた結果だろう。今さら買えないチケットの値段を紹介するのもどうかと思うが、価格は1,599ドルだった。サンフランシスコ市内のホテル価格は高騰を続けており、WWDCのような大規模イベントをともなればさらに期間中の相場は上昇する。そんな中、日本はもちろんのこと世界中から5,000人余りもの開発者が集まるのがWWDCである。

 WWDCのセッションは、Appleと開発者契約を結んだ契約者に限定して順次映像公開される。昨年まではWWDC参加者のみが限定でApp Storeからダウンロード可能だった公式アプリケーションだが、今年は一般にダウンロードできる。契約者のアカウントでログインしなければ参照できない情報もあると思われるが、雰囲気の一端は掴めるかも知れない。

App StoreからダウンロードできるWWDC公式アプリケーション。セッションスケジュールや過去の基調講演のビデオ映像などを参照できる。一部機能は、契約者のアカウントでログインしたときのみ利用可能
参加記念品は昨年に続いてジャケット。もちろん背中には、2013年を示す13の文字が記されている。やはり書体は細く、統一が図られているようだ

 開幕を控えて、会場となるMoscone Center Westでは着々と準備が進んでいる。入場パスの配布は日曜日から始まっており、参加チケットの購入時に事前登録を終えている参加者が、断続的にパスの受け取りに訪れていた。パスポートなどの身分証明書の提示で、入場パスとWWDC限定グッズのジャケットなどを受け取ることができる。現時点で入場可能な1階のフロアには、特に黒い幕で覆い隠されたバナーは見あたらない。バナーは2つのみで、それぞれ、「7」、「X」が描かれている。そして、カウンター奥にある大型のバナーだが、2102年は数々のiOS向け人気appのアイコンが並んでいたが、今年はカラフルではあるものの、一切オブジェクトのないアイコンだけが並んでいる。例年2階以上のフロアにも何らかのバナーは用意されているのだが、日曜日時点ではまだ立ち入ることができない。

一階の様子。大型のバナーは2つだけで、それぞれ「7」と「X」の文字のみが記載されている
iOS 7と思われる「7」のバナー。意味深なドットのなかに浮かび上がる7の文字はカラフルに彩られている
OS Xを示すと思われる「X」のバナー。背景をよく見ると、大きな波になっている。使用されている書体は、Helvetica Neueのナロー体と言われている

 5日間にわたるWWDCの中心となる数々のセッションは、参加者と同社の間でNDA(Non Disclosure Agreement:機密保持契約)が結ばれている。セッションに参加する場合はメディア関係者であっても開発者として正規の参加申し込みを行なった上で参加しているため、個々のセッションの内容を記事として公開することができない。会期中は唯一、基調講演で話された内容と、WWDCで正式発表された製品情報のみを記事として紹介することになる。

 PC Watchでは基調講演のレポートを中心に、関連のニュースを随時お届けする予定である。

(矢作 晃)