Embedded Technology 2012招待講演レポート
~Intel、ゼンリンとHTML5ベースの地図サービスの普及で協業

Intel セグメント&ブロード・マーケット事業本部長 ジム・ロビンソン氏

11月14日 発表



 半導体メーカーのIntelは、14日より横浜で開催中の組み込み機器向けの展示会である「Embedded Technology 2012」の招待講演を行なった。この中で同社のセグメント&ブロード・マーケット事業本部長 ジム・ロビンソン氏は、地図情報会社ゼンリンとの協業を発表し、HTML5ベースの地図アプリケーションを共同で開発していくことを明らかにした。Intelはx86ベースのIVI(In-Vehicle Infotainment、車載情報システム)の普及を目指して、自動車メーカーなどに働きかけを強めているが、今回のゼンリンとの協業はそれを後押しすることになる。

 この他、ロビンソン氏はIntelが推進する組み込み向けのx86ソリューションについて多数の説明を行なった。その中では、組み込み向けの第3世代Coreプロセッサを搭載した自動販売機や、工場でのオートメーションシステムなどが含まれており、またIntel自身のプロセッサ製造にもそれらのオートメーション機能を取り入れることで、製造上の問題を防ぐことができたことなどが説明された。

●15億台のインテリジェントな機器がネットに接続する時代の到来がすぐそこまで

 ロビンソン氏は講演の冒頭で、Intelの組み込み機器に向けたビジョンを語った。ロビンソン氏は「現在組み込み業界は大きな転換点を迎えている。組み込み機器はコンピューティングの機能を持つようになり、ネットに接続されることで、インテリジェントな機器へと変貌を遂げつつある。こうしたことは日本の組み込み業界にとってもグローバルに展開していく大きなチャンスでもある」と述べ、組み込み機器がより強力なプロセッサを搭載し、それを利用して自律的にさまざまな機能を実現したり、ネットワークで接続されて相互にデータのやりとりを行なうような新しい使われ方が想定されると説明した。

 ロビンソン氏は「例えば、スマートフォン、タブレットやUltrabookなどの登場により、コンシューマの生活は大きく変わりつつある。コンシューマはそうしたスマートデバイスでの体験を、他の機器にも応用して欲しいと思っている」と述べ、そこに新しいビジネスチャンスがあると指摘した。また、これまではスタンドアローンとして稼働してきた組み込み機器が、ネットワークに接続されることで、機器同士が通信してデータのやりとりをしたり(M2M=Machine To Machine)、機器からクラウドへ接続することで、さまざまな種類のデータが蓄積されていき、今後はそれを効率的に分析して活用することも重要になると述べた。

 ロビンソン氏は「Intelは常々2015年には150億台のインテリジェントなコネクテッドデバイスがネットワークに接続されるようになると説明してきた。さらに2020年にはそれらにより作られるデータの量が35EB(筆者注:エクサバイト、エクサはP(ペタ)の1,000倍)に達するだろう。また、IDCのアナリストの予測では2016年に組み込み向けの市場規模は1兆ドルから2兆ドルになると予測されている」と述べ、急速に業界の成長が望めることを強調し「業界にとっては大きなチャレンジだが、チャンスでもある」とそうした市場の波に乗り遅れないことが重要だと述べた。

 そうしたインテリジェントな組み込み機器を製造するために、Intelとしては「Intel Intelligent Systems Framework 1.0」というソリューションを提案していくと、ロビンソン氏は説明した。Intelligent Systems Framework 1.0は、9月にサンフランシスコで行なわれたIDF 2012で発表された取り組みで、Intelが組み込み機器の相互接続性などを実現するためのマナーなどを規定して機器ベンダーに提供していくという。

2015年には150億台のインテリジェントなネットに接続されたデバイス、そして2020年には35EBものデータが予想されている40億台はこれまで通り、PC、スマートフォン、タブレットを含むデバイス
10億台がインテリジェントな組み込み向けの市場になると予想されているIntelの提案はIntel Intelligent Systems Framework 1.0という総合的な取り組み

●第3世代Coreプロセッサを採用した自動販売機のデモ

 ロビンソン氏はそうしたソリューションを利用した具体例として、今回の講演で初の具体例を示した。その1つ目はデジタルサイネージの分野で、Intelの第3世代Coreプロセッサー・ファミリーを利用した自動販売機の例を紹介した。

 ロビンソン氏は「日本には津々浦々に自動販売機があり、非常に利便性が優れている。今後はそうした自動販売機でインテリジェントな仕組みが採用されていくだろう」と述べ、リモート管理やSNSの機能などを追加した自動販売機が増えている例をいくつか紹介した。例えば、ペプシのブランドで知られるペプシコ社が作った自動販売機では、ユーザーがゲットしたクーポンを友人に送ったりできる機能や、すでにJR東日本の駅などで導入されているユーザーの年齢などをカメラで認識しおすすめを表示したりする自動販売機などが紹介された。

 また、実動デモでは、第3世代Coreプロセッサ(Ivy Bridge)を内蔵した自動販売機が公開された。この自動販売機は、カメラが内蔵されており、ユーザーがモーションセンサーを利用したゲームを行なうことで、勝つと景品としてチョコレートをもらえる仕組みになっているという。自動販売機のオーナーは、CoreプロセッサのvPro機能を利用してリモート管理できるほか、遊んだユーザーの情報(年齢やどのようにゲームをやったか)などの情報を蓄積しそれを分析することでマーケティングに役立てることができるという。

 こうした高度な機能を利用するには、従来の組み込み向けプロセッサではやや厳しく、Coreプロセッサのような処理能力が強力なプロセッサを利用することで可能になるという点が強調されるデモとなった。

日本には全国津々浦々に自動販売機がある自動販売機王国。余談だが、こんなに自動販売機がそこら中にあるのは世界でも日本だけで、多くの外国人が初めて日本に来るとみな一様にこのことに驚くインテリジェントな自動販売機のビジョンロビンソン氏が紹介したインテリジェントな自動販売機。左端のペプシコの自動販売機では友人にクーポンを送ったりできるし、右端のJR東日本の例ではカメラなどにより購入者の性別や年齢などを判別してお奨めを表示したりする
この自動販売機はゲーム機能がついており、購入者はゲームをして勝ったら景品をもらうことができる自動販売機の管理コンソール。購入者のプロフィール(年齢や性別など)を確認することができる。こうしたデータを元に、販売商品を決めたりなどマーケティングに役立てることができる

●Intelがゼンリンと協業し、HTML5の地図アプリケーションの普及を目指す

 次いでロビンソン氏は2つ目の例として、IVI(In-Vehicle Infotainment、車載情報システム)の例を紹介した。ロビンソン氏は「IVIは今後組み込みの中でも成長分野のトップ3の1つに数えられている。ガートナーによれば、今後自動車を購入する時にIVIの有無が大きな要素の1つになると予想されている」と述べ、組み込み市場における重要な市場であると説明した。

 実際、Intelは数年前よりIVIに向けた積極的な取り組みを行なっており、すでにドイツのBMWなどで採用されるなど、採用例も出始めている。特にドイツの自動車メーカーがIVIの採用に熱心であることもあり、ドイツにはIVI向けの研究所も構えるなどの取り組みを続けている。日本でも、日本の自動車メーカーに対してIntelベースのIVIの採用を積極的に呼びかけており、トヨタ、日産といった自動車メーカーや、デンソーといった部品サプライヤーとの協業がすでに発表されている。

 今回ロビンソン氏はそれに次ぐ新たな発表として、日本の地図情報会社ゼンリンとの協業を明らかにした。Intelとゼンリンは、HTML5ベースの地図アプリケーションを開発し、それをx86ベースのインテルプラットフォームに提供していくという。

 ここでポイントになるのは、x86ネイティブではなく、HTML5ベースになるということだ。HTML5とは、Webブラウザの標準を決めているW3Cで現在策定が進められている新しいHTMLの規格で、現在はAdobe Flashで実現しているようなより高機能なWebアプリケーションがWebブラウザだけで動かすことが可能になる。このため、x86などのプロセッサの命令セットからは独立しており、基本的にはどのプラットフォームでも動作することになる。

 ロビンソン氏の講演ではこのあたりの詳しいことは触れられなかったものの、講演後に行なわれた記者懇談会で説明したIntel日本法人(インテル株式会社)の関係者によれば、Intelとゼンリンが協力してHTML5への地図アプリケーションの実装を進めることで、HTML5の普及を進め、さらにはそれを利用したIVIの普及を目指すことが狙いだという。その中で、Intelとしては、いち早くHTML5の実装をIntelベースのIVIに進めて行き性能などで差をつけることで、他社と差別化していきたいという意向のようだ。

 今回Intelはこの招待講演のほか、Embedded Technology 2012の展示ホールにおいて、このゼンリンとの協業で作られたデモを行なっており、スマートフォンとの組み合わせで、自動車側のIVIで見ていた地図からクーポンをスマートフォンに転送するなどのデモが行なわれていた。なお、今回開発されたシステムはHTML5が動く環境であれば、PCでも、スマートフォンでも、タブレットでも動作することになるため、近い将来には今回の協業で作成されたアプリケーションがそちらへ展開されるという可能性もありそうだ。

IVIは今成長中の分野、今後車を購入する時に重要なポイントになる可能性が高いIntelもIVIの開発に力を入れており、ドイツに開発センターを設置しているゼンリンとの協業を発表
ステージにはIntel日本法人とゼンリンの関係者が登壇し、両社と株式会社ニューフォリアが開発したIVIのコンセプトをデモ。HTML5を利用してUIや地図などが実現されており、さらにクーポンをスマートフォンに転送する様子などが公開された
デモに利用されたIVI用のリファレンスマザーボード。プロセッサはAtom E600シリーズ展示会場で行なわれていたデモ、内容は基調講演と同じだった
こちらはIVIを利用したDLNAのデモ。スマートフォン内に保存されたプレミアムコンテンツ(DRMで保護されたコンテンツ)にDLNAを利用してIVIからアクセスするデモ。これが実現すると、HDDレコーダーから携帯電話やタブレットにダビングした地デジのコンテンツを、車内でIVIの液晶ディスプレイを利用して再生できるこちらはTizen上でHTML5ベースでメータークラスター(自動車のメーター)を実現しているデモ。よりリッチなメータークラスターを自動車メーカーがより手軽にデザインできるようになる

●オートメーションの進化で製造時問題の原因追及がわずか2時間で

 最後にロビンソン氏は工場へのオートメーションの応用例に関して説明した。「言うまでもなくIntelは半導体を製造する世界最大のメーカーだ。弊社の製造もオートメーション化に積極的に取り組んでおり、より効率化することに役立てている。工場と本社を接続し、注文から製造、発注まですべての段階で監視できるような体制がすでにできあがっている」と述べた。

 ロビンソン氏はその具体的な例として、2000年のPentium 4の出荷時に起きた製造開始時に発生した製造上の問題と、2011年の第2世代Coreプロセッサ(Sandy Bridge)の製造開始時に発生した製造上の問題に関しての例を紹介した。それによれば、現在のような監視システムができあがっていなかった2000年当時には、問題の原因を特定し、それを顧客に通知するまでに1週間のタイムラグがあったのだという。しかし、Sandy Bridgeの時には、なんと2時間で問題を特定しすぐに顧客に対して問題の原因と対処にかかる時間などの通知を行なうことができたのだという。1週間でも決して遅い方だとは思えないのだが、それが今や2時間というのだから、確かに効率化という面でオートメーション化の効果は大きいと言えるだろう。

 ロビンソン氏はそうしたオートメーションのシステム例として、やはり第3世代Coreプロセッサを利用した、ロボットの自律チェック機能を紹介し、エラーが起こる前に機械自体が問題を認識し警告を発生するシステムをデモした。

ファクトリーオートメーションも注目される分野Intelでの製造施設ではすでに高度なオートメーションが行なわれており、遠隔地にある本社でも工場の様子がすぐに把握できるので、問題が発生してもすぐに原因の追及などができるようになっている。

(2012年 11月 14日)

[Reported by 笠原 一輝]