【FMS 2011レポート】
【ストレージ編】SSDのデータ復旧はHDDよりもはるかに難しい

展示会の会場風景

会期:8月9〜11日(現地時間)

会場:米国カリフォルニア州サンタクララ
   Santa Clara Convention Center



 フラッシュメモリとその応用に関する世界最大のイベント「Flash Memory Summit 2011(FMS 2011)」が2011年8月9日〜11日に米国カリフォルニア州サンタクララ(シリコンバレーを構成する街の1つ)で開催された。

 2日目の10日午前には、フラッシュメモリを使ったストレージ(フラッシュストレージ)のデータ復旧(Data Recovery)に関するセッションが設けられていた。

 最も普及しているストレージであるHDDでは、データ復旧サービス企業の存在はよく知られている。HDDは社会インフラとでも呼ぶべき段階にまで普及しており、火災や水没などの事故はもちろんのこと、地震や高潮、津波と言った自然災害によってHDD内部のデータが読み出せなくなることがある。HDDのデータ復旧サービスは情報社会にとって必須のサービスとも言える。

 HDDに比べると、フラッシュストレージのデータ復旧サービスはまだそれほど知られていない。フラッシュストレージはコンシューマ用途が多く、ビジネス用途ではまだあまり普及していない。HDDの信頼性とフラッシュストレージの信頼性には基本的な違いがあり、データ復旧には異なる技術が要求される。このような事柄が背景にあるとみられる。

 たとえばHDDの磁気メディアが読み書きに関して半永久的な寿命を備えるのに対し、フラッシュストレージのNANDフラッシュメモリは書き換え回数を一定回数までしか保証していない。さらにストレージによっては、書き換え可能回数がエンドユーザーにとって不明な製品もある。

 NANDフラッシュメモリのメーカーが保証するチップレベルの書き換え回数はそれほど多くない。クライアントPC向けや民生機器向けに普及しているSSD(Solid State Drive)やUSBフラッシュドライブ、フラッシュカード(SDカードなど)などは、2bit/セル方式のMLC(マルチレベルセル)型NANDフラッシュメモリを使うことが多い。この方式のNANDフラッシュメモリだと、保証されている書き換え回数は3,000回〜5,000回といったところである。実際のストレージ製品では誤り訂正(ECC)技術を組み込むことが多いので、その場合には書き換え寿命はもう少し伸びるものの、有限であることは間違いない。

 フラッシュストレージに特有の問題にはもう1つ、データの保存期間がある。NANDフラッシュメモリはチップレベルでは10年間のデータ保存期間を保証することが多い。ただし書き換えを繰り返すと、データ保存期間は低下する傾向がある。SDカードやUSBフラッシュドライブなどが家電量販店で販売され始めた時期を考えると、フラッシュストレージの不良が頻発しそうなのはむしろ、これからだろう。

●SSDの不良個所を見つける手順

 FMS 2011のデータ復旧セッションでは、米国のデータ復旧サービス企業がプレゼンテーションを実施した。講演したのは以下の企業である(括弧内は講演者)。いずれもHDDや磁気テープなどのほかに、フラッシュストレージのデータ復旧も手掛けている企業だ。

・DriveSavers Data Recovery(Chris Bross氏、シニアデータ復旧エンジニア)
・Kroll Ontrack(Troy Hegr氏、データ復旧担当技術マネージャー)
・Gillware(Scott Holewinski氏、プレジデント)

 講演内容のご紹介に移る前に、上記中の1社であるKroll Ontrackのエンジニアに、データ復旧のために持ち込まれたSSDをどのように解析するかの簡単な手順をレクチャーしてもらう機会を得たので、その手順をご説明しよう。

 まずSSDのデータが読み出せないことを確認する。それから、SSDのプリント基板(ボード)に搭載されているコントローラやNANDフラッシュメモリ、受動部品、コネクタなどのはんだ付け個所の接続をすべてチェックする。ここで接続不良が見つかれば、修復して正常な動作に復帰するかどうかをテストする。

 はんだ付け接続に異常がなかった場合は、コントローラとホストの入出力インターフェイスをチェックする。入出力インターフェイスが正常だった場合は、コントローラの動作とファームウェアを調べる。ここでも異常がみつからなかった場合にのみ、NANDフラッシュメモリのチェックに移行する。NANDフラッシュメモリをボードから取り外し、テスト・ツールで動作をチェックしていく。

 現在のところ、HDDの持ち込み件数に比べると、フラッシュストレージの持ち込み件数は少ないという。ただし、件数そのものは、急速に増えつつある。フラッシュストレージで最も多いのはUSBフラッシュドライブで、SSDはまだ少ないとコメントしてくれた。

●コントローラとファームウェアが弱い

 それではプレゼンテーションの概要をご報告しよう。始めはDriveSavers Data Recoveryの講演「SSDのデータ復旧(Data Recovery from SSD)」である。

 講演ではまず、信頼性の実情を解説した。「壊れるのかどうか」という認識は誤っており、「いつ壊れるか」という認識に改めるべきだと始めに強調した。不良あるいはデータ消失は部品レベル、機械的衝撃、環境要因、そしてユーザーによって引き起こされる可能性があると述べていた。そしてデータ復旧が必要となる原因には、コントローラ(特にファームウェア)、はんだ付け、NANDフラッシュチップ、ユーザーによる誤操作などがあると説明した。

 データを復旧するときの課題には、暗号化されたデータが増えていること、コントローラのアルゴリズムが複雑化していることなどがある。そしてSSDの設計者に対しては、コントローラの信頼性を高めること、コントローラあるいはファームウェアを詳細に調べる手段を提供すること、不良発生の予兆が出るようにすること、破壊的な不良モードを減らすこと、といった要望を述べていた。

SSDの信頼性における実態 SSDのデータ復旧が必要となる原因 SSDのデータ復旧が必要となる原因(続き)
データ復旧の課題 SSDの設計者に望むこと

●HDDを含めたデータ消失をユーザーの99%が経験

 続いてKroll Ontrackの講演「SSDデータ復旧の課題と展望(Challenges and Advances in Data Recovery of SSDs)」の概要をご報告する。

 講演では、SSDのデータ消失の原因を分析した結果を示した。システムの不具合が最も多く、65%を占めた。次がファイルシステムの不具合で15%、物理的な損傷とユーザーの誤操作がそれぞれ10%となっている。

 続いて、ユーザーがフラッシュストレージのデータ復旧の難易度についてどのように考えているかを調査した結果を見せた。ほぼ半分のユーザーはかなり複雑であると考えており、簡単と考えるユーザーが25%、ほとんど不可能と考えるユーザーが21%だった。

 また、ユーザーがストレージ(HDDや光ディスクなどを含む)のデータ消失を経験した回数をたずねた。データ消失を経験したことのないユーザーは、わずか1%にとどまった。残りの99%のユーザーは、1回以上のデータ消失を経験したことがある。ストレージにおけるデータの消失が、とても身近な現象であることが良く分かる。またデータ消失の経験者の95%はHDDで遭遇しており、圧倒的にHDDが多い。

 そしてSSDのデータ復旧における課題として、ホストとの入出力インターフェイスが多岐にわたること、NANDフラッシュメモリのパッケージ形状がいくつもあること、NANDフラッシュメモリに保存するデータの暗号化や圧縮、スクランブル、誤り訂正、ウエアレベリングといった技術とその変化に対応していかなければならないこと、などを挙げていた。

SSDのデータ消失の原因 フラッシュストレージのデータ復旧の難易度
ストレージのデータ消失を経験した回数とストレージの種類 SSDデータ復旧の課題と展望

●HDDよりもコストのかかるSSDデータ復旧

 Gillwareの講演「SSDデータ復旧という商売(The Business of SSD Data Recovery)」は、SSDデータ復旧の事業性(利益が出る事業なのかどうか)を論じていた。

データ復旧にかかる時間とコスト、ユーザーの満足度の関係

 データ復旧というサービスは、時間との闘いだという。データの価値は時間が経過すればするほど減少し、復旧のコストは時間が経過すればするほど増大するからだ。いかに短い時間でデータを取り出せるかが、事業の収益性を決める。

 この観点からは、SSDのデータ復旧事業は現在のところ、HDDのデータ復旧事業に比べると不利な点が多い。HDDに比べると復旧に時間がかかり、しかも復旧の成功率が低い。SSDのデータ復旧が技術的に成熟しておらず、研究開発が必要なことも問題だとする。Gillwareの研究開発予算の75%は、SSDのデータ復旧技術の開発に投じられている。

 それからSSDのコントローラ技術が日々進化していること、コントローラ技術およびファームウェア技術が開示されないことが、データ復旧を難しくしていると指摘した。今後の円滑なデータ復旧のためには、SSDベンダーとコントローラベンダー、データ復旧サービス企業が連携していくことが極めて重要だとする。

 またセッションの質疑応答では、以下のような情報が補足された。

・SSDデータ復旧をサービス企業に依頼する顧客の法人と個人の比率では法人ユーザーが多く、約4分の3を占めている
・一方、個人ユーザーはフラッシュストレージを家電量販店に持ち込んでいる可能性がある
・HDDではデータ復旧を依頼する法人と個人の比率は6対4である
・個人ユーザーがフラッシュストレージのデータ復旧を要望する対象として圧倒的に多いのは、写真データである

 2006年〜2007年ころからフラッシュストレージのベンダーは急速に増加し、現在では200社近いベンダーが活動しているといわれる。コントローラ技術とNANDフラッシュメモリ技術の改良によって新しいフラッシュストレージが毎月のように誕生している。このような変化の激しい状況では、データ復旧はどんどん難しくなり、コストのかかるものとなってしまう。データ復旧を考慮したコントローラ設計が、早急に求められる。

(2011年 8月 22日)

[Reported by 福田 昭]