米AMDは26日、シンガポールにおいてAMD Asia Pacific Fusion Tech Dayと題されたイベントを開催し、同社が先だって発表した最新APUやGPUについて、その位置付けや狙いなどを改めて説明した。
基本的には発表済みの製品についての話しとなるが、未発表のデュアルチップGPUである「Radeon HD 6990」のサンプルが初めて披露されたほか、デモやインタビューを通じて、3D立体視に関する具体的な情報などが明らかになった。
ベン・ウイリアムズ氏 |
イベントの口火を切った同社アジアパシフィック担当コーポレート副社長兼ジェネラルマネージャのベン・ウイリアムズ氏によると、今回のイベントには日本、韓国、マレーシア、タイ、インドネシア、インドを含む7カ国のメディアが参加。
また、ウイリアムズ氏は、言葉よりも映像の方が瞬時により多くのことを伝えられるが、PCでよりリッチなビジュアルを提供するには、高性能なGPU機能を統合したAPUが必要不可欠であると述べるとともに、すでにPCでは35機種、マザーボードでは25製品がAMD APUの採用を決定していることを紹介。会場には、それらの実機も多数展示された。
続いて、調査会社IDCでクライアントデバイス担当のブライアン・マー氏が、2011年(とその直近)のPC市場について5つの予測結果を発表した。
1つ目は、PC半導体メーカーがプラットフォームというアプローチから垂直統合型ビジネスへの移行を加速すること。近年のPC業界は水平分業型で、半導体メーカーはプラットフォームとしてのソリューションを提供していたが、CPUへの機能統合が進んだことで、1社で多くをまかなう垂直統合型へと移行していくという。
2つ目は、PCにおいてHDグラフィックがメインストリームになるというもの。ゲーム機の性能が高まり、それが普及したことで、ユーザーにとってはHDクラスの画質が当然になり、PCにもそれを求めるようになる。これはBlu-ray Discムービーやストリーミング動画などに限った話ではなく、これまでは単体GPUを搭載したデスクトップでのみ実現できていたようなレベルの3D(ポリゴン)ゲームが、ノートPCなどにも求められるようになるということ。
AMD主催のイベントで紹介するのはややショッキングとも言えるが、PCへの単体GPU搭載率が低下するという。モバイルPCでは、2011年の単体GPU搭載率はやや上向きとなるが、2012年以降は全セグメントで単体GPUの搭載率は右肩下がりで減っていくという。これもやはり、APUによってGPU機能が統合された影響による。
3つ目は、タブレットが花開くが、その出荷台数は少数に留まるというもの。アジアパシフィック地域において、2010年は5,400万台のモバイルコンピューティング端末が出荷された。その内、82%が通常のノートPC、13%がネットブック、5%がタブレットだった。
これが2014年になると、出荷台数は1億5,500万台に伸び、その内、タブレットのシェアが16%と3倍近くになる。しかし、ノートPCは相変わらず80%のシェアを維持し、シェアを減らすはネットブック(4%)だ。つまり、メディア消費に向くタブレットは、同じような用途にあるネットブックのシェアを食うが、キーボードを使ったビジネス文書の作成などはタブレットには不向きで、ノートPCが依然として今の地位を保持すると同社では予測している。ちなみに、ここでいうアジアパシフィック地域には日本は含まれていない。
4つ目が新興市場の成長。特にインドネシアやインドでは30~40%超の成長が見込まれる。
そして5つ目はPC市場全体の回復で、成長を牽引するのはコンシューマ市場だが、不景気が底を打ったことで、法人市場も今後堅実な成長が見込まれるという。
IDCのブライアン・マー氏 | 2011年に対する5つの予測 |
2014年までの単体GPUのPC搭載率の変化予測 | 2014年にタブレットのシェアは拡大するが、ノートPCはシェアを維持する |
APUを搭載するVAIO Yシリーズを紹介するレスリー・ソボン氏 |
続いて、ワールドワイド製品および海外マーケティング担当コーポレート副社長のレスリー・ソボン氏が、APUについて概要を説明した。
初のAPUとなるAMD Eシリーズ(コードネームZacate)とAMD Cシリーズ(同Ontario)は、これまでのCPU機能とノースブリッジ機能に加え、1つのダイでフル機能のGPUまで統合しつつ、TDPがそれぞれ18W、9Wと低いのが特徴。
そのため、タブレットは言うまでもなく、デジタルサイネージやカジノのスロットなど組み込み向けも当初から想定して開発されている。だが、ソボン氏によると、同社がAPUの投入先として、もっとも注力するのはPC市場だ。
近年、AMD製品は、グラフィック機能/性能が不十分、発熱量が大きい、バッテリ駆動時間が短いという認識が少なからずなされていたが、新しいAPUはそういった懸念事項を払拭する性能を実現する。
また近年AMDは、廉価であり、かつもっとも成長が見込まれるネットブッククラスの製品に向けた好適なプロセッサを持ち合わせていなかったが、APUによりこの市場に切り込むことができるようになる。
ノートPCの価格帯毎の出荷量の変化。APUはまずこのスイートスポットを狙う |
AMDがAPUとして、まずEシリーズ、Cシリーズを投入するのもそこに理由がある。従来は、新アーキテクチャを投入するに当たり、最上位から製品化を行なっていたが、今回はまずボリュームゾーンである200~400ドルの価格帯に向けた製品から展開を図る。
そして、メインストリーム向けとなるAPU「Llano」は499~699ドルの価格帯向けに、AMD Aシリーズとして2011年後半に投入される。ソボン氏によると、GPU性能まで含めた場合、Ontarioの理論ピーク性能は約90GFLOPSと、すでにCore i7(50GFLOPS程度)を超えているが、Llanoのそれは500GFLOPSを超えるという。
ここで重要なのはこの性能が1つのCPUとして提供される点にある。たとえ、GPUの性能がどれほど高くても、それを利用するユーザーが少なければ、それを活用するソフトウェアも発展しない。
GPGPUの機能と性能がCPUに組み込まれ、普遍的になることで、これまでにはなかったようなユーザーインターフェイスなどが花開いていくという。
また、続いてプレゼンテーションを行なった、クライアント部門担当コーポレート副社長兼CTO(Chief Technology Officer)のジョー・マクリ氏も語ったもう1つのメッセージは、APUの登場後も単体GPUは重要な役割を持つと言うことだ。
APUにより、エントリークラスのGPUは不要となり、AMDも単体GPUについてはミドルレンジ以上を提供していくことになるが、これらの単体GPUは、APUの内蔵GPUとCrossFire構成を取ることが可能で、APUのGPU性能にそのまま付加する形でGPU性能を伸ばすことができる。
また、現時点でIntelのCPUはDirectX 10.1対応のGPU機能しか持ち合わせないため、IntelのCPUを使い、かつDirectX 11ゲームをプレイしたいユーザーにとっては、AMDの単体GPUが必須となるとした。
最後に登壇したグラフィックス部門担当コーポレート副社長兼ジェネラルマネージャのマット・スキナー氏は、Radeon HD 6000シリーズを紹介。これもすでに発表済みの製品だが、スキナー氏はプレゼンテーションの最後に、第1四半期中に投入予定のデュアルチップGPUである「Radeon HD 6990」の実機を初めて公の場で披露した。
まだ製品版ではないため、最終的には外観や仕様が変更になる可能性はあるが、ディスプレイインターフェイスには、Mini DisplayPort×4とDVI-Iを装備。ファンはボードの中央部に位置し、ブラケット部と、電源コネクタのあるその逆の端から排気される。ボード長は実測で約300mm。電源コネクタは8ピン+6ピン。
ジョー・マクリ氏 | Radeon HD 6990を初披露するマット・スキナー氏 | 2基のGPUを1枚のカードに搭載 |
ディスプレイインターフェイス | 電源コネクタ | ボード長は実測で約300mm |
このほか、インタビューを通じて、同社の3D立体視についていくつかのことが明らかになった。
対応するGPUは、Radeon HD 6000シリーズのデスクトップ用と、UVD3に対応するノートPC用のもの。現状では、ほとんどがHDMIあるいはDisplayPortを通じて、外部の3D立体視対応TV/液晶ディスプレイに接続し、3Dメガネはそれらのディスプレイに付属するものを利用する。
Blu-ray 3Dについては、メジャーな再生ソフトはこれらのGPUに対応済み。ゲームについては、AMD自身は立体視化するためのフレームワークを提供していないが、iZ3DおよびDDDといったサードパーティのミドルウェアを利用することで実現。実際に、会場ではDDDのTriDefを用い、Radeon HD 6950とSamsungの3D TVを組み合わせたシステム上でMedal of Honorを立体視化させてデモを行なっていた。
3D立体視については、まだオープンな業界標準が確立されていないが、AMDでは、用意され次第、それらに準拠していくとしている。また、今後は3D液晶を搭載したノートPCや液晶一体型PCも登場予定という。
(2011年 1月 27日)
[Reported by 若杉 紀彦]