IDF 2010は2日目を迎え、家電、タブレット、TV向けなど、Intelにとってこれから積極的に攻めていきたいソリューションを語る基調講演が2つ行なわれた。1つがそのソフトウェアソリューションを説明する上席副社長兼ソフトウェア&サービス事業本部 事業本部長のレネ・ジェームス氏の講演で、そちらに関しては別記事を参照していただきたい。
本レポートは、副社長兼組み込み&通信事業部 事業部長のダグラス・デイビス氏による基調講演の後半の模様をお伝えしていきたい。講演の中でデービス氏は、新しいAtomプロセッサとして、開発コードネーム“Groveland”(グローブランド)で呼ばれてきたスマートTV向けの製品をAtomプロセッサCE4200として、“Tunnel Creek”の開発コード名で知られてきた製品をAtom E600として発表した。
さらに、開発中の製品として、開発コードネーム“Oak Trail”で知られるプラットフォームを採用したタブレット端末や、タブレットとクラムシェル型ノートPCのコンバーチブルなDellのネットブックなどを公開して注目を集めた。
●1つのアーキテクチャで異なる分野の製品をサポートできるAtomプロセッサデイビス氏は「Atomはすでにさまざまな分野に利用されている。例えば時速200kmで駆け抜けるようなレース用のオートバイにも搭載され、エンジンの調子などをチェックするのに使われている。また、タクシーが今どこを走っているのかを調べるデジタルサイネージにもAtomが使われている」と述べ、IntelがAtomプロセッサを投入してから、さまざまな分野に利用されるようになったとアピールした。
さらにデイビス氏は「Atomプロセッサを利用することで、容易にインターネットにアクセスすることができ、MicrosoftやGoogleなどの複数のOSが選択できるデバイスを、従来よりも容易に開発することができるようになった」と述べた。その上で、「すでに我々はネットトップをサポートするDシリーズ、ネットブックをサポートするNシリーズ、スマートフォンやタブレットをカバーするZシリーズ、スマートTVなどの家電をサポートするCEシリーズをリリースした。そして今回Eシリーズが新たにこの仲間に加わる。これにより1つのアーキテクチャで、複数のセグメントの製品に対応することができるようになった」と述べ、家電や組み込み向け機器、タブレットなどを開発する関係者にとって、IAを選択するメリットは大きいとアピールした。
Intelの組み込み事業ではAtomだけでなく、Core iやXeonも提供している | 今回はAtomを中心に話を進めた。Atomは多数の組み込み製品に使われ始めている | こうしたオートバイやエクセサイズマシンにもAtomが利用されている |
インターネットに接続できるデバイスのプロセッサとしてのAtom | Windows、MeeGo、Android、Chrome、Mac OS……OSは何でも選択可能 |
現在のPCの経験を生かした製品開発ができるので、開発は容易に | Dシリーズ、Nシリーズ、Zシリーズ、CEシリーズ、Eシリーズを異なるセグメントの製品向けに投入 |
●スマートTVでは全方位外交、MicrosoftのEmbedded Windows Media Centerをデモ
そうした複数の製品群の中からデイビス氏が取り上げたのがスマートTVと呼ばれる、インターネットへのアクセス機能を備えたTV。
スマートTVと言えば、6月に行なわれたGoogle I/Oにおいて、ソニーがOSにGoogle TVを、プロセッサにAtom CE4100を採用することがアナウンスされ、IntelのスマートTV向けのデザインウインとしては最大のものとなった。そのデモは昨日行なわれたこともあり、デイビス氏の基調講演では、別のパートナーが紹介された。
デイビス氏が紹介したのは、Microsoft Windows Embedded 上席マーケティング部長のバラバ・エドソン氏で、現在同社が開発を続けている組み込み向けのWindows Media Centerを紹介した。Home Premium以上のWindows 7には、Windows Media Centerというリモコンで操作できるUIが含まれており、ユーザーはTVチューナを追加するだけで、HDDレコーダの機能と簡易的なインターネットアクセスの機能を利用することができる。この組み込み向けのWindows Media Centerでは、組み込みのWindows7であるWindows Embedded Standard 7をベースに、スマートTV向けのバージョンとしたものになる。
エドソン氏は「ユーザーはリモコンを利用して手軽にTVやコンテンツにアクセスすることができる。さらにTVチューナは外付けになっており、世界中の各国のTVに対応することができる」と述べて、その機能をアピールした。エドソン氏によれば、OEMメーカーとして、AcerとASUSをすでに獲得しており、それらの企業から発売される見通しだ。
デイビス氏はスマートTVのソリューションをさらに強化するために、Intelがさらに新しい製品を投入するとアナウンス。それは開発コードネーム“Groveland”(グローブランド)で呼ばれてきたAtom CE4200で、ソニーのGoogle TV製品に採用されたCE4100などに比べて、プロセッサや3Dなどの処理能力が向上したほか、新しい機能としてMPEG-4 AVCのエンコード機能が追加されることなどを明らかにした。
ソニーのGoogle TVでデザインウィンを獲得した | Microsoft Windows Embedded 上席マーケティング部長のバラバ・エドソン氏(左) |
●Oak Trailを搭載したタブレット端末とゲーミングデバイスをデモ
ついでデイビス氏はモバイル機器に話を進めた。Intelは5月にかつて開発コードネームMoorestownで開発を続けてきた製品をAtom Z6xxシリーズとして発表しているが、今回はそれが搭載された携帯電話を一瞬見せただけで、すぐにタブレット端末へと話を進めた。
AppleのiPadが大きな注目を集めていることで、タブレット端末は熱いカテゴリの1つだが、それはここIDFでも変わっていない。展示会であるショーケースでは、タブレット端末が展示されているエリアは多くの来場者が群がっている。特に、ARMアーキテクチャのiPadが成功を収めたことで、この市場でIAが受け入れられるかどうかには大きな注目が集まっている。
デイビス氏はそのタブレット向けのソリューションとして、Intelが開発を続けているOak Trail(オークトレイル)について触れ、「Oak Trailの開発で、我々はMicrosoftと協力してWindows 7を使えるようにしているほか、それ以外のタブレット用のOSもすべてサポートする」と述べ、OSの選択がフルWindowsも含めてできることがメリットであると強調した。その上で、パートナーを紹介し、その中でOEMメーカー(つまりはOak Trailベースの製品をリリースするベンダー)がASUS、サムスン電子、Acer、Dell、Compal、東芝であることを明らかにした。
その上で実際に動作するOak Trailのタブレットと、フルWindowsが動作しているポータブルゲームデバイスを公開して注目を集めた。
●DellのデュアルコアAtomを搭載したタブレット/クラムシェルのコンバーチブルPCをデモ
ついでデイビス氏は、ネットブック向けのAtomであるAtom Nシリーズの話題に移っていった。Intelは先日、デュアルコアAtomを発表したばかりだが、今回はそのデュアルコアAtomを搭載した製品の紹介の場となった。紹介されたのはDellの新製品で、Dell ウルトラモバイル機器 上席製品マーケティングマネージャのデビット・ザベルソン氏が、今後投入する予定のタブレットとクラムシェル型のコンバーチブルノートブックPCのデモを行なった。
Inspironブランドのその製品は、CPUはデュアルコアAtom、10型の液晶を備えており、OSにはWindows 7 Home Premiumを搭載しているという。ユニークなのは、従来のコンバーチブル型が本体と接合するヒンジ部分を起点にして液晶ユニット全体を回転させていたのに対して、この製品では液晶パネル枠の中央を起点にして、パネルだけを回転させるという仕組みになっているのだ。これだと、液晶パネル周辺の縁部分はやや大きくする必要があるが、厚さを出さないでも済むので、やや薄型にできる。
ザベルソン氏によれば、この製品は年内に米国で投入する予定だということだ。なお、日本など他の地域でいつ投入されるかは特にアナウンスはなかった。
デュアルコアのAtom Nシリーズが先月発表された | Dell ウルトラモバイル機器 上席製品マーケティングマネージャのデビット・ザベルソン氏が手に持つのが新しいタブレット/クラムシェル コンバーチブルのノートPC |
一見するとタブレット端末だ | パネルだけを回転すると…… | クラムシェル型のノートPCに変身 |
【動画】タブレットからクラムシェルのノートPCに変身 |
●Tunnel CreekをAtom E600シリーズとして発表
最後にデイビス氏は、これまで開発コードネーム“Tunnel Creek”で開発を続けてきた製品をAtom E600シリーズとして発表した。「Atom E600シリーズでは、I/Oハブチップを顧客が自由に選ぶことができる。Intelだけでなく、OKIセミコンダク、Realtek、STMicroなどが提供するI/Oハブを選択して、柔軟な用途に対応できる」と述べ、システムの柔軟性が最大の特徴とだと強調した。
その上で、具体的な例として自動車向けのIVIシステムなどを提供するVisteonの担当者を壇上に呼び、同社のIVIシステムのデモを行なった。そのデモでは、センターコンソールのディスプレイにカーナビの画面を映しながら、後席用のディスプレイで動画を再生したり、タブレット端末を利用してIVIのシステムを操作する様子などがデモされた。
さらに、デイビス氏はE600シリーズの将来の姿として、1つのCPUチップ上にAtom E600とプログラマブルなゲートアレイを搭載したMCMチップを公開し、将来はこのプログラマブルチップを利用してさまざまな追加機能を実現することができる“Stellarton”(ステラトン)というチップを2011年の前半に投入することを明らかにした。
最後にデイビス氏は、Atomプロセッサファミリーの今後について触れ、現行の45nmプロセスルール“Bonnell”コアの後継として、32nmプロセスルールの“Saltwell”、さらに22nmプロセスルール世代でも新コアを投入することを明らかにし、今後も新しい市場に合わせたAtomプロセッサを投入すると述べ、基調講演を締めくくった。
さまざまな用途に使えるAtomがTunnel Creek | Tunnel CreekはAtom E600シリーズとして正式発表、I/Oハブは他社を含めて柔軟に選べる | VisteonのIVIシステムのデモ |
さまざまな用途に利用できるプログラマブルなゲートアレイをAtom E600上に搭載 | MCMで2つのシリコンが1チップに |
開発コードネーム“Stellarton”は2011年の前半に登場 | Atomの32nmコアのSaltwell、22nmは次世代コアが投入される |
(2010年 9月 15日)
[Reported by 笠原 一輝]