未来の組み込み機器をIntelプロセッサで試作
組み込み機器の開発技術に関する展示会「第13回組込みシステム開発技術展(ESEC)」が5月12日~14日の日程で始まった。入場料は5,000円となっているが、オンライン登録すると招待券引換証となる電子メールを受信できる。実質的には無料と言ってよいだろう。
インテル技術本部の本部長を務める及川芳雄氏 |
初日である12日の正午には、会場である東京ビッグサイト近くのホテルでインテルが記者説明会を開催し、組み込み市場に対する同社の取り組みを解説した。同社技術本部の本部長を務める及川芳雄氏が説明にあたった。
及川氏はまず、ネットワークに接続された電子機器の数が急速に増えていると述べ、2015年にはその数が150億台に達するとの予想を説明した。これまではノートPC、デスクトップPC、携帯電話機がネットワークにつながっていた。これらは氷山の一角であり、氷山の残りの大部分とも言えるさまざまな組み込み機器がネットワークにつながっていくという。
エレクトロニクスの発展を牽引してきた機器。メインフレーム、PC/サーバー、携帯電話に続き、現在は組み込み機器がけん引しているとする | ネットワーク接続される電子機器の増加。PCと携帯電話だけでなく、さまざまな組み込み機器がネットワークにつながっており、また、つながっていく |
インテルが組み込み向けに提供してきたソリューション |
その中でインテルは、Xeon、Core、Atomというハイエンドからローエンドまでのx86系マイクロプロセッサを組み込み向けに提供している。組み込み向けマイクロプロセッサはPC向けとは違い、7年間の長期供給を保証する。インテルは過去30年以上に渡って組み込む向けマイクロプロセッサを販売しており、30を超える製品分野で3,500社を超える顧客を獲得してきたとの実績を強調した。
そして今回のESECに関連し、x86系プロセッサの未来の組み込み応用を2つ提示した。1つはデジタル・サイネージ(電子看板)である。大画面の液晶ディスプレイを搭載した機器に、案内情報や広告情報などを動画と音声で表示するものだ。インテルはデジタル・サイネージの機能を備えた自動販売機を試作したことを発表。未来の自動販売機をイメージしたコンセプト・モデルで、タッチパネル液晶ディスプレイ、カメラ、無線データ通信(WiMAX)などが搭載されている。
デジタル・サイネージの出荷予測。2015年には800万台が出荷されるとする | デジタル・サイネージの進化 | 未来の自動販売機をイメージしたコンセプト・モデルの概要 |
もう1つは、車載情報システム(IVI:In-Vehicle Infotainment)である。インテルは「車載インフォテインメント」と呼んでいる。同社は2009年3月に車載情報システム向けのAtomを発表済みだ。
及川氏の説明スライドでは、車載情報システムに向けた現在の半導体ソリューションと次期の半導体ソリューションが示された。現在はAtom、チップセット、FPGAコンパニオンチップの3チップ構成である。これが次期ソリューションでは新Atom(グラフィックス回路とPCI Express送受信回路を内蔵、開発コード名「Tunnel Creek」)とコンパニオンチップの2チップ構成になる。コンパニオンチップはインテル以外の半導体ベンダーが開発することを想定している。システムごとの仕様の変化に対応し、半導体ベンダーが開発する。
車載情報システム(IVI:In-Vehicle Infotainment)の概要 | 車載情報システム向けの半導体ソリューション |
●未来の新しい応用分野に向けたコンセプト・モデル
ESECにおけるインテルの展示ブースでは、記者説明会で紹介された2つの応用を含む、6つの新しい応用分野に向けたコンセプト・モデルが「Future Concept Zone」と呼ばれるコーナーに展示されていた。それぞれ「デジタル・サイネージ(未来の自動販売機)」、「車載情報システム(IVI)」、「2足歩行ロボット」、「家庭用エネルギー管理システム(HEMS)」、「未来の会計カウンター(会計レジ)」、「次世代のシステム開発ボード」、である。
ESECにおけるインテルの展示ブース。手前が「Future Concept Zone」 | 「Future Concept Zone」の案内パネル |
前述の「未来の自動販売機」のコンセプト・モデルは、「Future Concept Zone」で実際に稼働していた。販売商品の表示や広告画像、TV放送の画像などを切り換えながら、街を歩く消費者の目を引くといったデモンストレーションを実施していた。
「未来の自動販売機」コンセプト・モデルの外観 | 「未来の自動販売機」コンセプト・モデルの説明パネル |
車載情報システム(IVI)では、IVI用オープン・プラットフォームの策定団体「GENIVI」による開発ボード(スターターキット)が「Future Concept Zone」に展示された。「GENIVI」はインテルが主導して設立した団体で、日本企業では日産自動車やアルパイン、三菱電機、パイオニアなどが参画している。
車載情報システム(IVI)の開発ボード | 開発ボードの概要を説明したパネル |
2足歩行ロボットは、システム開発企業の富士ソフトが開発したもの。身長が40cm、体重が1.6kgの小型ロボットで、名前は「Palro」である。教育機関でのロボット制御プログラム学習用にされ、すでに市販されている。「Palro」は動的安定歩行や路面変化追従、障害物回避などの2足歩行ロボットとしての基本機能はもちろんのこと、CMOSイメージセンサーやマイク、スピーカーなどにより、顔認識や動体検知、音源方向認識、音声認識、音声合成などのコミュニケーション機能を備えている。
2足歩行ロボット「Palro」。身長は約39.8cm。体重は約1.6kg(バッテリ含む)とかなり軽い | 「Palro」の説明パネル |
家庭用エネルギー管理システム(HEMS:Home Energy Management System)は、家庭の電力管理パネルをどうすれば使ってもらえるかついても試作品を展示した。使用電力量の表示だけでは、消費者はすぐに飽きてしまう。そして使わなくなる。これを防ぐために、効率の良い電力使用方法を提示する機能や、時計機能、電子掲示板の機能、ビデオを共有する機能などを盛り込むことを考えた。
家庭用エネルギー管理システム(HEMS:Home Energy Management System)の外観。縦型の液晶ディスプレイそのものにみえる | HEMSの説明パネル |
未来の会計カウンターは、東芝テックと内田洋行が共同開発したもの。名称は「STYLISHOPS」。購入者側の壁面に液晶ディスプレイがあり、デジタル・サイネージとして機能する。カウンター上面にもディスプレイがあり、購入者向け情報を表示する。カウンター上面のレジ担当者側には、会計情報やお客様情報などを表示するディスプレイがある。
余談だが、「Future Concept Zone」で最も違和感なく溶け込んでいたのが「STYLISHOPS」だった。カウンター上面がインテルブースの説明員や来場者によって一時的なモノ置き場にされているくらいだったから、いかに違和感なく受け入れられたかがうかがえる。
未来の会計カウンター「STYLISHOPS」 | 「STYLISHOPS」の説明パネル |
次世代のシステム開発ボードは、オムロンが製作した。名称は「Frantio platform solution」。FPGAを搭載することで、ハードウェアとI/O(入出力)をカスタマイズしたシステムを開発可能にした。CPUボードを差し換えることで、インテルのさまざまなプロセッサを搭載する。プロセッサの交換とFPGAおよびソフトウェアの書き換えにより、アプリケーションの異なるシステムを1枚の開発ボードで開発できる。
次世代のシステム開発ボード「Frantio platform solution」。ボードの開発にはインテルと日本アルテラが技術協力している。日本アルテラのFPGAを搭載することで、ハードウェアとI/O(入出力)をカスタマイズ可能にした | 「Frantio platform solution」の説明パネル |
将来、あるいは未来の組み込み機器といっても、想像図や構想図の説明パネルだけでは抽象的で、分かりにくい。コンセプトモデルでも実際に動くシステムを作り、展示し、来場者に見てもらう。そうして初めて、具体的かつ有用なな感想やコメントなどをもらえる可能性が高まる。「Future Concept Zone」の展示物のいくつかは、外観デザインを含めて完成品と間違いそうな出来上がりになっている。ここまでコストをかけていることは、高く評価しておきたい。
(2010年 5月 13日)
[Reported by 福田 昭]