【IDF 2010レポート】
Atomベースの組み込み向けSoC「Tunnel Creek」の概要

Douglas Davis氏が基調講演で披露したTunnel Creek

会期:4月13日~14日
会場:中国国家会議センター(China National Convention Center)



 IDF 2010 Beijingの2日目に行なわれた基調講演の前半パートにおいて、Embedded & Communications GroupのGeneral ManagerであるDouglas Davis氏が発表した、Atomベースの組み込み向けSoC「Tunnel Creek」。IDFでは、2010年第4四半期の投入が予定されている本製品の概要を説明するテクニカルセッションが設けられた。

●Tunnel Creekのアーキテクチャや性能

 アーキテクチャの概要を説明したのは、Senior Principal EngineerのPranav Mehta氏だ。Mehta氏はTunnel Creekが組み込み向けに投入される重要性について、これまでのインターネット接続を4つのステージに分けて説明した。

 それによると、研究目的でのメインフレームでのインターネット接続が第1ステージ、多くのユーザーがPCなどを使って接続可能になった時期が第2ステージ、携帯電話がインターネット接続機能を持ってユビキタス環境が作られたのが第3ステージ。そして、組み込み機器がインターネット接続能力を持つこれからが第4ステージとして到来するという。

 第4ステージは、人間がアクションを起こしてインターネットに接続していた第3ステージまでと異なり、機器と機器が常にインターネットを介してコミュニケーションを行なっている状態になる点を特徴として挙げ、こうした状況がエンベデッドの開発者にとって、とてもエキサイティングな時間になるとしている。

 2008年に発表したAtomは、ローパワー、ローコストなIAベースプロセッサとして、組み込み機器の需要も高まった。ATMやハンドヘルスデバイス、ショッピングカートなど、さまざまな分野で採用されている。

 Tunnel Creekはこうした背景をもとに、ローコストであることはもちろん、特定用途に向けた製品も多い組み込み機器の事情を鑑みたカスタマイズ可能なフレキシビリティ、そしていかに小さなフォームファクタで高いパフォーマンスを発揮するかというパフォーマンス密度の3つを重要なポイントとして開発されたという。

Intel Senior Principal EngineerのPranav Mehta氏Tunnel Creekが実現する、プラットフォームのフレキシビリティ、BOMの削減、パフォーマンス密度の3つのポイント

 アーキテクチャ面では、MenlowプラットフォームではスタンドアロンのCPUコアと、FSBで接続されたチップセット(SCH:System Controller Hub)を持つ、トラディショナルな仕組みとなっていた。Tunnel Creekを採用するQueens Bayプラットフォームでは、プロセッサ側を高度に統合化。AtomベースのCPUコア、メモリコントローラやグラフィックコントローラ、オーディオ機能、LPCを統合したSoCとした。プロセスルールは45nm。

 CPUコアは600MHz、1.1GHz、1.3GHzの3種類のクロックが用意される。メモリコントローラは667MHzまたは800MHzのDDR2 SDRAMをサポートする。

 グラフィックスエンジンにはHD対応のビデオデコーダ、ビデオエンコーダが内蔵される。ディスプレイコントローラは2つの独立したパイプラインを持つ。LDVSやSVOを介して、異なる2つのディスプレイに1つのデバイスから出力できるようにしている。

 LPCを統合したのは、フラッシュメモリをここに接続することを想定したものだという。例えば、組み込み機器では小さなカーネルのOSを用いてブートにフラッシュメモリを使うケースが珍しくないが、Tunnel Creek側に統合されたLPCに接続して利用できる。

 そして、先に重要ポイントとして挙げられたフレキシビリティの観点では、PCI Expressインターフェイスを統合していることがポイントになる。MenlowプラットフォームではFSBを介してIntelが提供するSCHを接続していたのに対し、4レーン分の帯域幅を持つオープンスタンダードのPCI Expressを用意したことで、さまざまなチップを接続して利用することができる。

 例えば、ここにUSBやGigabit Ethernetコントローラを直結して利用したり、複数の機能を統合したASIC、FPGAを接続することもできる。Intelからも汎用的な機能を統合したIOHがリリースされる予定だが、エコシステムのパートナーがPCI Express接続に対応した独自のI/Oチップを提供することも可能だ。これにより、特定用途に向けたI/O周りの部分は変更せずに、SoCだけを次世代のものへ変更してアップグレードしていけるというメリットも強調している。

Tunnel CreekではAtomベースのCPUコアに加え、メモリコントローラ、グラフィックス機能、オーディオ機能、LPCを統合。さらにFSBではなくPCI ExpressインターフェイスでI/Oチップと接続するスタンダードなPCI Expressインターフェイスを採用したことで、IOH以外にさまざまなI/Oチップと接続が可能Intelからは汎用的なIOHが提供されるが、サードベンダーからも独自の用途に特化したIOHを提供することが可能になる

 次のテーマはBOMの削減に関するものだ。MenlowプラットフォームではIntelが提供する汎用的なICHに、特定用途に適応させるためのチップを接続する必要があった。Queens BayプラットフォームではPCI Expressを採用したことで、対象製品に特化した独自のI/Oチップを開発し、Tunnel Creekと専用のI/Oチップの2つにまとめることができることが、ハードウェアレベルでのBOM削減に寄与できるとする。

 またソフトウェアレベルでBOM削減につながるプロジェクトが進行している。それが「Trinity Lake」と呼ばれる、Boot Loader Development Kitである。これはオープンなキットとして提供されることで、BIOSを買わなくてもイニシャライズができるというものである。

 ただし、機器によっては、Trinity Lakeでは不十分な場合ももちろんあるわけで、より豊富な機能を必要とする場合にはサードパーティのBIOSを購入することになる。そうしたサードパーティBIOSのエコシステム充実にも取り組んでいくとしている。

特定用途の機器でもI/Oチップを1つに集約できるQueens BayプラットフォームはBOM削減にもつながるとするMenlow(上)とQueens Bay(下)の開発ボードのサイズ比較ソフトウェア面のBOM削減アプローチとして、オープンなブートローダ開発キットを提供する「Trinity Lake」というプロジェクトが進行している

 先に挙げた3つのポイントの1つであるパフォーマンス密度については、Tunnel CreekとAtom Z5xx世代の製品でパフォーマンスを比較。

 3Dグラフィックス性能においては50%の向上。そして、フットプリントでは、Tunnel Creek環境が1,013平方mm、Atom Z5xx環境が1,890平方mmであるので、2.7倍のパフォーマンス密度になることを紹介した。

 Spec2000のテスト結果も10%以上の向上が見られたほか、接続デバイスへのデータプッシュに重要な意味を持つPCI Expressの書き込み帯域幅が大幅に向上している点を紹介。

 そして、さらに重要なこととして、この結果が最初のA0シリコンによるもので、BIOSやソフトウェアのチューンを行なっている段階のものであることを忘れないで欲しいと強調。あくまでファーストナンバーであり、B0シリコン、BIOS・ソフトウェアのチューンによって、さらに性能差は開くとしている。

 最後にブートローダの性能についても紹介があった。IntelではOS起動前のビデオBIOSレベルでのグラフィックス機能の起動を高速化するドライバを提供しており、現状のAtom Z5xx環境の例では、CPUリセットから500msでディスプレイを映し出せるとしている。

Atom Z5xxと3DMark06のスコアを比較すると50%の性能向上。フットプリントは46%削減されており、パフォーマンスデンシティが2.7倍になることを示しているあくまでA0シリコンのものの強調して提示されたTunnel CreekとAtom Z5xxの性能差ブートローダ部分のグラフィックスドライバも高いパフォーマンスのものを提供することをアピールした

●Tunnel Creekの活用例

 ここからはIntel Fellow & DirectorのMatthew Adiletta氏が、Tunnel Creekを活用した組み込み機器の例を紹介。

 インダストリアルオートメーションの分野では、プログラマブルコントローラユニットへの活用を提案した。ここでは、プログラマブルコントローラユニットだけでなく、工場レベルでIAを採用することで、統一されたソフトウェアコードによるソフトウェア中心のオートメーションシステムが構築できることをアピールしている。

 IP Media Phoneの活用例では、さまざまな機能を小さなフットプリントでローコストに集約できるメリットを紹介。ビデオのデコード・エンコードをハードウェアアクセラレーションできる点や、ノイズキャンセルなどの機能を専用のI/Oチップに埋め込める点などが、その例となる。

 Smart Adabtable ECR(Electronic Cash Register)の例は主にエマージング市場に向けたもので、POSのような高コスト・高機能なものと、シンプルな電子キャッシュレジスタの中間を埋めるソリューションになるもの。ローコストながらタッチスクリーンによる操作やインターネット接続による商品データのダウンロードなどを行なえる。

 最後に紹介されたのは、In-Vehicle Infotainment(IVI)、つまり自動車に搭載して情報の参照や音楽・動画などのエンターテインメントを楽しむためのシステムである。ここではパフォーマンスはもちろん、稼働可能な温度の範囲が広いこと、PCの分野で構築されたエコシステムを利用できる点などをメリットとして挙げた。

 このIVIは、Douglas Davis氏の基調講演でも触れられた、Intelとしても力を入れている分野である。そうしたこともあって、ここでは、IVI向けに提供されるICM(In-Vehicle Infotainment Compute Module)の紹介も行なわれた。ICMは、モバイル向けGPUなどで使われるMXMのフォームファクタを活用したモジュールボードで、Queens Bayプラットフォームをこの上に搭載。MXMのコネクタを介してベースボードに取り付けることができる。

 ベースボード部のバリエーションによって製品の性格を変えることができるうえ、プロセッサ+I/Oチップの側は統一したモジュールを使えることになる。しかも、将来的にTunnel Creekの次の世代のプロセッサが登場した際にも、ベースボードはそのままにモジュールを載せ替えるだけでアップグレードしていける、といった点をメリットに挙げている。

Intel Fellow & DirectorのMatthew Adiletta氏。手にしているのは後述のIVI向けICMインダストリアルオートメーションにおけるプログラマブルコントローラユニット。工場単位でIAに統一することでソフトウェアコードの統一を図れるIP Media Phoneは、ノイズキャンセルなどを含め、さまざまな機能を統合したI/Oチップを使うことでコスト削減、小型化につながる
廉価なECRと高機能・高価なPOSの間を埋めるソリューションとなるSmart Adaptable ECR。エマージング市場に訴えている車載システムであるIVIではパフォーマンスや可動性、エコシステムといったさまざまなメリットをもたらすことを示したものIVI向けにMXMフォームファクターを使ったモジュール(ICM)を提供。ODM形式、ライセンス提供、スペックのみ提供という3段階の提供レベルが用意される
ICMのブロックダイヤグラム。Queens BayプラットフォームにDDR2メモリ、NANDフラッシュなどを搭載するベースボードによってICMを統一しつつ製品の性格を変えられる。また、ICMを差し替えることでアップグレードも可能
【動画】Tunnel Creekで動作させた3Dのデモ

(2010年 4月 15日)

[Reported by 多和田 新也]