ダグラス・デイビス氏基調講演レポート
IDF 2010 Beijingは2日目を迎えて、組み込み向け機器にインターネットの機能を組み込むためのマイクロプロセッサを担当するIntel 副社長 兼 組込み/通信事業部長のダグラス・デイビス氏による基調講演が行なわれた。
この中でデイビス氏はTunnel Creek(トンネルクリーク、開発コードネーム)と呼ばれる、グラフィックスの機能をプロセッサに組み込んだSoC(System On a Chip)型のAtomプロセッサを、2010年の後半に出荷することを明らかにしたほか、Atomプロセッサを利用したIVI(車載情報システム)を搭載した中国の自動車メーカーHawTai Automobileの自動車「B11」を紹介し、同社の組み込み製品が中国市場でも受け入れられ始めていることを紹介した。
●中国は組み込み市場のリーディングマーケット、開発拠点としても重要デイビス氏は、「中国は組み込み市場のリーディングマーケットであるだけでなく、開発拠点としても非常に重要な場所である」と述べ、今後急速な成長が望めるインターネットに接続可能な組み込み機器の開発拠点として重視していることを強調。「Intelは中国の大学とも開発に関する協力をしている。以前は数校とぐらいだったが、現在は100近い大学と協力を行なっている」とし、産学共同で中国の組み込み市場に取り組んでいきたいと述べた。そうした例として、デイビス氏は通信機器での取り組みなどを紹介し、北京の清華大学と共同プロジェクトで、ソフトウェアによる無線制御の研究などを行なっているという。
また、中国の通信業界との協業についても、「中国ではすでに2億人のインターネットユーザーがおり、今後も急速な成長が見込まれており、帯域への要求は高まっていく可能性が高い」とし、ISPやキャリアなどが処理するデータ量が増えていき、それに迅速に対応することが必要になると指摘した。
「そうした時にはこれまでのような固定的なハードウェアではなく、IAを利用してソフトウェア的に処理する必要がある。帯域の増大はネットワークに大きな負荷をかけるため、迅速な対応が必要になるが、ハードウェアだとなかなか増設するのは難しい。しかし、ソフトウェアでそれができるようになれば、より柔軟に増設が行なえるようになる」とアピールした。そして、それにあわせてソフトウェア開発キットを提供し、ISPやキャリアなどが容易にそれらのソフトウェアを開発できるようにしていきたいと述べた。
壇上には中国最大の携帯電話キャリアであるチャイナモバイル 無線技術開発担当のクイ・チュンフェン博士が呼ばれ、キャリアの立場からそうした取り組みに対する期待を表明した。クイ氏は「インターネットの爆発的普及により、データ量は増えているのに、通信費はほとんど増えていない。このため、考え方を転換し、こうした新しい技術や基地局を統廃合を進めるなどのTCOを削減する取り組みを進めていかないといけない」と述べ、Intelの取り組みに期待感を表明した。
Intelとチャイナモバイルで協力して増大する通信コストに対応していく | チャイナモバイル 無線技術開発担当 クイ・チュンフェン博士 |
●立ち上がるデジタルサイネージ市場、組み込み向けのCore i/Atomで対応
次いでデイビス氏はデジタルサイネージ(デジタル機器を利用した看板事業)についてふれ、「デジタルサイネージは急速に成長している。2015年には800億ユニットのデジタルサイネージが世界中で設置される見通しで、そのうち半分が中国に設定されることになる」と、デジタルサイネージへのIntelの取り組みを語った。
そうしたデジタルサイネージのソリューションとしてIntelはCore iシリーズ(Core i7/i5)とAtomを用意していることを紹介し、Atomはエントリー向けに、Core iシリーズはHDビデオの再生や遠隔管理などのよりハイエンド向けに利用できると紹介した。
実際に中国でデジタルサイネージを展開しているアディダスの担当者をステージによび、Core i7を利用して作成したデジタルサイネージのデモを行なった。利用されたものは液晶ディスプレイとタッチパネルになった透過型のディスプレイを採用しており、遠隔管理機能のvProを利用して、遠隔操作を利用しての再起動のデモが行なわれたが、不幸にもこのデモは失敗してしまった。
デジタルサイネージは今後の成長市場として注目されている | デジタルサイネージに対応する組み込み向けCore i/Atom | デジタルサイネージのデモ。液晶ディスプレイでHDビデオを流しながら、透過型タッチパネルで商品などを表示したりが可能に |
このようにタッチ操作が可能 | vProの機能を利用してリモートからリセットしたりが可能だが、デモではなぜか動かなかった |
●中国の自動車メーカーHaw Tai AutomobileがAtom搭載の自動車を発表
続いてIVI(In-Vehicle Infotainment)と呼ばれる車載向け情報システムに関する説明を行なった。デイビス氏は「従来のIVIは垂直統合型で開発に多大なコストがかかっていた。しかし、Intelが提供するようなオープンプラットフォームを採用することで、開発コストを大幅に抑えることができる」と述べ、Intelが提供する車載向けソリューションで、より高度なIVIを低コストで自動車に実装することができるとアピールした。
その例として、部品メーカーのDelphi Electronics and Safety 主任技術者のダグ・ウェルケ氏を壇上に呼び、Delphiが開発しているIVIシステムのデモを行なった。
さらに、デイビス氏は中国の自動車メーカーであるHaw Tai Automobile副会長のワン・ディンミン氏を呼び、中国の部品メーカーであるBlue Starが開発したAtomプロセッサを採用したIVIシステムを採用したセダン車であるB11を発表した。B11に搭載されたIVIシステムは、OSとして中国のLinuxベンダであるRedflag Linuxを採用しており、Intelが推進しているLinux標準化の仕組みであるMeeGoに基づいたOSとなっている。
ワン氏は「ユーザーは自動車でインターネットを利用したがっている。我々はIntelと協力して自動車にインターネットを実装していきたい」とし、IntelのCPUにより、短期間のうちにインターネットの機能を自動車に実装することが可能になるとアピールした。
IVIシステムは垂直統合から新しいオープンモデルへの移行が進む | IVIに適した車載向けAtomプロセッサ | デイビス氏が手に持つのは車載用Atomのマザーボード |
Delphiが開発中のIVIシステムのデモ。センターコンソールとダッシュボードの2つの液晶画面がAtomにより実現されている | Haw Tai Automobile 副会長 ワン・ディンミン氏 | Haw Tai Automobileの新型セダンのB11 |
B11のIVIシステムの画面、Redflag Linuxベースで作られている | センターコンソールの液晶で、メンテナンスの要求を出すと、それがディーラーにオンラインで転送され、同時に車の状態のデータも転送される |
●組み込み向けSoCのTunnel Creekを今年の後半に投入へ
最後にデイビス氏はIntelが現在開発中の新しい組み込み向けプロセッサの概要を明らかにした。開発コードネームでTunnel Creekで呼ばれる製品は、組み込み向けのMenlowプラットフォームの後継となる製品で、従来はチップセット側にあったGPUをCPUに内蔵しており、I/O以外の機能(CPUコア、メモリコントローラ、PCI Expressコントローラ、オーディオ、LPCなど)がすべてCPUに統合されているSoC(System On a Chip)となっているのが大きな特徴だ。
同氏は、「Tunnel CreekはSoCとして実装面積削減に貢献するほか、PCI Expressにサードパーティが作成したI/Oコントローラを接続することもできる。これにより柔軟にさまざまな用途の組み込み機器に対応できる」とアピールした。なお、基調講演後に行なわれた技術トラックでは、Tunnel Creekのリリース時期に関しては2010年の第4四半期と明らかにされた。
「IAはスマートフォンからデータセンターまで利用できる地球上でもっともスケーラブルなアーキテクチャだ。今後もロードマップの提供や新しいエコシステムの構築などを通じてみなさんのビジネスのお役に立っていきたい」と述べ、詰めかけた聴衆にIntelの組み込み向け製品の採用を訴えて講演をまとめた。
AtomプロセッサをベースにしたSoCのTunnelCreek | TunnelCreekのブロックダイアグラム | デイビス氏が手に持つのがTunnelCreekのチップ |
(2010年 4月 15日)
[Reported by 笠原 一輝]